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AIの教育利用が加速!EDIX東京で見た生成AIを活用した教育サービス
2024年5月27日 06:30
毎年多くの教育関係者が集まる「第15回EDIX(教育総合展)東京」が2024年5月8日〜10日に東京ビッグサイトで開かれた。
各社のブースをめぐってみると、前年に比べて生成AI関連のソリューションが一気に増えた印象だ。このレポートでは、生成AIをメインにAI技術が関わる製品を紹介する。なお、英語など教科の学習教材については生成AI×教材編で別途紹介する。
第15回 EDIX(教育 総合展)東京レポート 目次
子供も教員も安心して使える教育現場向け生成AIツール「スタディポケット」
まず目立ったのは、ChatGPTのような対話型の生成AIによるチャットボットを教育現場向けに最適化したツールだ。例えば「スタディポケット」(スタディポケット株式会社)は、児童生徒用の「for STUDENT」と教員用の「for TEACHER」を提供し、小学生でも安心して使える機能を備えた。
児童生徒用には「探究学習モード」があり、子供の問いに直接答えを示すのではなく、ヒントとなるような回答をして、子供が自分で答えを見つけられるよう促す。また、教員用には「逆引きモード」を用意。適切なプロンプトを考える手間を省き、やりたいことを選ぶだけで適切な回答が得られるようにした。
学習eポータル「tomoLinks」との連携で学習支援をする生成AI
同じく、小学校から使える生成AIツールを展開しているのが、学習eポータルシステム「tomoLinks」(コニカミノルタジャパン株式会社)の「生成AI学習支援機能」だ。児童生徒が使用できるチャット形式の生成AIで、学習支援を行う。各種学力調査などの分析結果と連動して学習進度に合った回答も可能だ。
教員側でAIの回答を調整できるので、すぐに答えを言わないように設定しておけば子供が自分で考えることを促せる。有害なキーワードを除外するフィルタリング機能をはじめ、教員が子供のチャット履歴を確認する機能もある。また、AIのキャラクターや口調など、地域や学校のマスコットキャラクターを設定できるのも特徴だ。
教員向けのAI機能「先生×AIアシスト」では、児童生徒の各種学力調査データや日々の学習状況などの分析を可視化するダッシュボードを提供する。AIによって、子供たちの学習到達度や個別に指導をするべきポイントなどが分析され、教員の業務負担を減らすことができる。また、教員自身が文書作成などの校務に使うための生成AIも提供される。
東京書籍が一般利用者向けに教育用生成AIを展示
教科書会社のイメージがある東京書籍だが、「NewE」を掲げて新しい学びの創出にも取り組んでいる。その枠組みで新たに展示されたのがAIによる学習支援だ。AI先生が、教科書の内容に応じた適切な問題を出して対話型で学習を誘導してくれる。教科書を使って自分で学習を進めるのが難しい児童生徒でも、問いかけに応じながら学びを進められる。
いわば教科書準拠の学びを先導する会話型生成AIと言えそうだ。先生は好みのキャラクターを選択できるので、子供のモチベーションが維持される。学校向けではなく一般ユーザー向けに開発しているということだ。
教育現場向けの生成AIが登場する背景
ほかにも、組織や用途に応じた「カスタマイズ可能な生成AI」について複数のブースで展示が行われていた。今回EDIXに出展していない企業や団体からも教育現場向けの生成AIはいくつかリリースされていて、学校で利用されている例もある。学校向けに安心安全を掲げた生成AIが、ひとつのトレンドだ。
こうした教育現場向けに特化した生成AIツールが登場する背景には、生成AIブームの火付け役となったOpenAIのChatGPTや、マイクロソフトのCopilot、GoogleのGeminiなどの存在が挙げられる。それらは、年齢制限によって13歳未満は利用できないケースもあり、セキュリティの高い状態で利用するには、条件や設定の難易度が高い。そのため、教員や子供が直接利用する際に必要な安全性や利便性、教育目的に合った最適化を行って各社がツール化しているのだ。
ロボホンで生成AIのプログラミング
生成AIはプログラミング学習にも登場した。コミュニケーションロボット「ロボホン」(シャープ株式会社)には、ロブリックというプログラミング用アプリがあり、プログラミング学習でも使用できる。そのロブリックで生成AIを使ったプログラムを作れるようになった。
プログラムできるのは生成AIに対するプロンプトの内容。プロンプトへの応答をロボホンのセリフに指定できる。生成AIの機能をプログラムに組み込む発想だ。以前から、ロボホンのカメラ機能でAIによる画像の機械学習と画像認識のプログラムの作成は可能になっていたが、さらに生成AIを使ったプログラムも追加された。
なお、コミュニケーションロボットとしてのロボホン自体には、すでにChatGPTを利用した自由会話機能が搭載されている。人のパートナーとしてのロボットの存在も、生成AIで一気に質が変わりつつあるのを感じさせられる。
画像認識AI系ソリューションもさまざま
生成AIではないが、AI系のソリューションで画像認識系のものを3つ紹介しよう。まずはAver(アバー・インフォメーション株式会社)のAIで人を認識して追尾するカメラ。オンライン授業やセミナーなどで、講師が動き回ってもカメラが追尾して向きを変え、ズームも自動調節される。撮影対象が画角から外れても、また画角に入ってくれば人を認識して追尾を再開する。特にリアルとオンラインのハイブリッド授業において、講師の制約が減り質の高い配信が実現しそうだ。
次は同じ画像認識でも、人の動きを認識してスポーツの練習に役立てるアプリ「AIスマートコーチ」(ソフトバンク株式会社)。見本動画と同じ動作をする人物を撮影し、AIによる骨格推定で比較を行って見本とのマッチ度を判定することが可能。iPhone、iPad用アプリに加え、Web版も用意されている。
3つ目は、児童生徒の姿勢や動きを認識して授業改善につなげる「tomoLinks」の画像分析AIサービス(コニカミノルタジャパン株式会社)だ。教室に設置したカメラで子供の動きや教員の動きを解析し、教員の授業の振り返りに生かす。
退学の可能性をAIで予測して事前に対応
AIで学生の退学可能性を予測するシステム「AI Progress Monitor for Education」(株式会社エム・アイ・エス、日本アイ・ビー・エム株式会社)は、学生のさまざまなデータを元に退学に至るリスクの早期発見を行う。早い段階でリスクを把握してサポートにつなげ、退学を未然に防ぐのが目的だ。
学生の基本情報から入学前、入学後の情報までさまざまなデータをもとにAIで判定をするシステムで、自由記述のアンケートの文面はLLMで解析し、ポジティブな表現とネガティブな表現を抽出し、感情分析も行う。
生成AIのサービス開発にはOpenAIの系統のAIモデルが使われているケースが多いが、同サービスはIBM watsonx.aiを活用して構築されているのが特徴的だ。
昨年は教育関連では生成AIを使ったサービスはそれほど多く出展されていなかったのだが、今年はここで紹介したように一気に増えた印象だ。マイクロソフトやGoogleなどのブースでも生成AIを押し出した展示が行われ、フェーズの変わり目を来場者に意識させた。
本記事では触れられなかったが、もうひとつ、生成AIによる英語などの学習教材の変革も起きている。生成AI×教材編として別の記事でまとめるので、併せてチェックしてほしい。