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AI活用から感情分析するセンシング技術まで、教育DXソリューションが集結したEDIX東京
理解度に合わせた出題や英語の発音、課題の生成、実技の判定などAI活用が広がる
2023年5月19日 06:30
教育分野の大規模な展示会「第14回EDIX(教育総合展)東京」が2023年5月10日~12日、東京ビッグサイトで開催された。
GIGAスクール構想での1人1台端末の整備とコロナ禍で、学校のICT環境が様変わりしたこの数年。次のフェーズはどうなるのか、新しい動きを探して出展ブースをまわった。AIやセンシング、教育のデータ活用、次世代教材などに関わる展示をレポートする。
教育分野のAI活用、基本はアダプティブ出題と音声認識
デジタル教材におけるAIの活用はすでに定着しつつあり、主に、学習者のつまずきに応じて出題を最適化する仕組みと、英語のスピーキングを音声認識して発音や流暢さを判定する仕組みに使われているケースが多い。
例えば、暗記をサポートするアプリ「monoxer(モノグサ)」や、5教科の学習教材「すらら」は、出題の最適化にAIが活用されているほか、英語の4技能を伸ばすサインウェーブの学習アプリ「ELST」、「ELST Elementary」は発音の判定にAIが使われている。いずれもデジタル教材の中では広いスペースのブースを構えていた。
小さな子供向けの英語教材でもAIが活用されている。AAS Pressの「The Gamerise Dictionary」は、ゲーム性を持たせた楽しく学べる英語の単語練習アプリで、AIによる発音の判定機能が組み込まれている。
現在、英語の音声認識は実装していること自体が価値になっているが、今後はもっと当たり前になり、AIの認識の質や使いやすさで差がつくようになるだろう。一方で、出題の最適化は、機能として実装しているだけではそろそろ価値にならず、学習効果が上がることの実証や、ユーザー体験の質をいかに高めるかが勝負になっていきそうだ。
AIの教育利用、次の動きは「課題の生成」
ChatGPTなど生成AIに世の中の注目が集まり、すでにさまざまなデジタルツールに機能として組み込む動きがある中、教育関連でも少ないながら、生成AIといえる機能実装が見られた。デジタル課題の自動生成機能だ。
ポリグロッツの英語学習アプリ「レシピー for School」は、日々アップデートされるリアルなニュース記事やTEDなどの動画コンテンツをリーディングやリスニングに活用できるのが特徴だ。AIによる発音チェックやライティングの添削、生徒向けのカリキュラムの自動生成機能などを備える。
注目は、先生向けのスマートアサインメント機能だ。教員が学習に使いたい記事を選ぶだけで、AIが読解などの課題を自動生成してくれる。時事に即した話題で学習課題を手軽に作れるのは、教員にとって大きな助けになるだろう。
ほかにも、CBTのソリューションを展開する凸版印刷とプロメトリックの共同ブースでは、AIで試験問題を生成するプロメトリックの「Finetune Generate」が紹介されていた。
最新技術が教育業界で取り入れられるのには時間がかかり、周回遅れになるような印象があったが、今回のEDIXでは早々にその芽を確認できた。
AIを活用して、スポーツの実技をチェック
AIでもうひとつ注目したいのが、ソフトバンクの「AIスマートコーチ」。各種スポーツやダンスなどのお手本動画と生徒の実技を、AIによる骨格判定を用いて比較し、マッチ度を判定してくれる。
教員や児童生徒の動きをAI解析して授業診断
AIによる画像解析は教室の中でも使われ始めている。
コニカミノルタでは、教室に設置したカメラで授業の映像をAI分析し、先生や児童生徒の様子を定量的に示すことに取り組んでいる。例えば、先生の教室内での板書や机間指導の動きなどを可視化し、授業方法の改善に役立てるのだ。令和4年度の文部科学省の実証事業では、大阪府箕面市教育委員会の実践が報告されている。今後は先生の授業診断だけでなく、グループワークなどの映像を協働学習の分析に生かすという展望もあり、データの利活用の新たなフィールドとなりそうだ。
コニカミノルタには「FORXAI」という画像IoTのプラットフォームがあり、AI画像分析技術の蓄積がある。同社の技術的な強みが教育分野でも生かされているわけだ。なお、同社の提供する学習eポータル「tomoLinks」では学習データのAI分析も行っており、授業診断のAI画像解析と共に、教育データの利活用に総合的に取り組んでいる。
生徒端末のカメラでセンシングし感情分析、子供たちの困りごとを捉える
同じくデータ活用の新しい動きとして、カメラから得られるデータでセンシングし、定量的に子供たちの感情分析をするサービスがエルモのブースで紹介されていた。生徒端末のウェブカメラをセンサーとして利用し、脈波というデータを測定。脈波の値と体動の値から、心理状態を4つに分類して子供の状況を把握するのだ。
感情分析の結果と、授業を撮影した動画を時間軸で合わせて見ると、どのシーンで多くの子供の集中が得られたかを定量的なデータで検証でき、授業改善につなげられる。また、毎日決まった時間に子供たちの感情分析を行い、その長期的な変化を見守ることで、いじめや不登校の兆候の早期発見にもつなげるねらいもある。
実際に、データから変化が見えた子供に関して、先生がすでに状況を把握していたケースもあれば、データがきっかけで変化に気づき早期の声掛けにつながったケースもあったという。
こちらはAIを活用しているわけではないが、数値化しづらいことをセンシングの技術で定量化し、授業づくりや子供たちの状況把握に補助的に使おうという新しい動きだ。なお、このセンシングによる感情分析も、令和4年度の文部科学省の実証事業に参加している。
学習データ活用やVRなど、教育DXの動きを見据えた教科書会社も
教科書会社のイメージが強い東京書籍は、自社のデジタル教科書の展示ではなく、新たなソリューション提案をブースで展開した。
メインは、「マイアセス」という新たな学びのプラットフォーム。デジタル教材やCBT等を総合的に連携し、学習データの蓄積と利活用につなげる。また、「NewE」というメタバースを含む次世代の学びを提案する共創プラットフォームを発表し、VRによる学習コンテンツなどの体験を提供した。
マルチアングルに進化する学習用映像教材
VRに限らず、学習用映像教材も進化している。たくさんのスマートフォンをぐるりと三脚で並べた撮影風景を再現して目を引いたのはAMATELUSによる「SwipeVideo」。自由に視点を切り替えたりアングルを変えたりしながら見ることができる映像の制作、Web配信技術で、エンターテインメント分野ではライブ配信などに使われている。
教育分野では、特に実技の学びに非常に有効で、例えば獣医学部で、指導者の手技をさまざまなアングルから繰り返し再生できる映像教材を開発した例などがある。
子供たちも好みの周辺機器を選ぶ時代!?
GIGAスクール構想で小中学生に1人1台端末が行き渡り、子供たちがタブレット用のペンやイヤホンなどを利用するシーンも増えてきた。そんな時代らしい製品がエレコムで展示。子供用のキーボード「KEY PALETTO」は、指使いが把握しやすい配色と、キーのひらがな表記を排してアルファベットの大文字小文字を併記しているのが特徴的だ。
他にも、低学年でも握りやすい太めの鉛筆型タッチペンや、子ども用のカラフルなヘッドセットなど、使いやすくワクワクするようなデザインの製品が並んだ。子供も文房具感覚で好みの周辺機器を自分で選ぶようなフェーズになりそうだ。
AIやセンシング、VRなどの先端技術の活用や、教育データの利活用など、新しい動向が展示の中に見えてきて、GIGA端末の活用を長期的に深めるフェーズに向かおうとしていることが感じられた。一方で学校現場での1人1台端末の活用は、自治体や学校による差が開きつつある。基本的な日常的な端末活用がもっと定着するよう、改めて意識する機会にしたいところだ。