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特別支援教育の課題解決につながるICTソリューション、EDIX東京の展示を紹介
教育支援計画の補助と教材提供、多言語の児童生徒・保護者に向けたサポートも
2023年5月26日 06:30
5月10日〜12日に開催された、教育分野の大規模な展示会「第14回EDIX(教育総合展)東京」では、特別支援教育の分野で活用できるICTソリューションも多く展示された。
学校現場では特別な支援を必要とする児童生徒が増えている一方で、支援体制が十分でないといった課題もある。本稿では、そんな特別支援教育の分野において課題解決につながるような注目ツールを紹介しよう。
特別支援に携わる教員をサポートする強力なデジタルツール
LITALICO(りたりこ)は、特別支援教育に携わる教員をサポートする「LITALICO教育ソフト」を展開した。教育支援計画・指導計画の作成ができる「まなびプラン」と、特別支援に特化した教材を提供する「まなび教材」、特別支援教育に関する知識をつけられる動画を提供する「まなび動画」で構成される。
発達の特性や認知機能の凸凹(でこぼこ)をサポートする特別支援教育のニーズが増える中、専門知識を持つ教員は決して多いとはいえない。公立の小中学校に設置される特別支援学級や通級指導の担当教員は、特別支援学校教諭免許は必須ではなく、通常の幼・小・中・高等学校の教員免許で受け持つことができる。よって、十分な知識や経験のない教員が配置されることも多い。
一方、特別な支援を必要とする児童生徒の特性は実に様々で、一人一人違う。そのため特別支援教育は、各個人の特性を把握した上で、それぞれにあった個別の教育支援計画、指導計画を立てて実施することになっている。教員は、指導する児童生徒の特性を把握して、専門知識をもとに特性に合った指導をすることが求められるのだ。
「LITALICO教育ソフト」は、こうした背景を熟知した企業ならではの視点で作られた教員向けのソリューションだ。特に注目したいのは、教育支援計画・指導計画の作成をサポートする「まなびプラン」。まず、児童生徒のアセスメントを行い、それをもとに計画書を作りやすくしているのが特徴だ。
アセスメントは、教員が担当する児童生徒の感覚・運動面、学習面、行動面、スキルの定着度をアンケート形式で評価して行う。専門的な観点で項目立てされた設問に答える過程で、経験の少ない教員でも、児童生徒のどこを見るべきかという視点を自然と学ぶことができる。
このアセスメント情報をもとに、個別の教育支援計画書や指導計画書を作成する。書類のテンプレートには文例が豊富に収録されていて、アセスメントの結果を参照しながら、ふさわしい目標や指導内容を決められる。文例は、まだ経験の浅い教員が、特性に応じた目標や指導方法を知るガイドとしても役立つ。また、アプリケーション内にデータが保存されるので、年度代わりや進学の際の引き継ぎにも便利だ。
さらに、計画書で立てた目標に紐づいたおすすめ教材を示してくれる。「まなび教材」として、特別支援に特化した教材がおよそ7000点も用意されているのだ。この豊富な教材は、同社が運営している「LITALICOジュニア」という発達障害・学習障害の児童生徒向けの教室での蓄積も生かされている。
なお、教材と教員向けの動画はそれぞれ専用ウェブサイトでの提供だが、計画書作成に使うアプリケーション「まなびプラン」は、ダウンロード型のデスクトップアプリケーション(Windows用)として提供されている。2022年4月にリリースされて昨年度のEDIXですでに展開していたが、この1年でトライアルを含め、全国でおよそ100自治体での導入が進んでいるということだ。
現状の環境で、教員が少しでも専門知識をつけて児童生徒と向き合えるようにサポートすることは、間接的に、特別なサポートが必要な児童生徒の学びの環境を保障することになる。便利なツールはぜひ活用して児童生徒の特性と向き合える教員の裾野を広げて欲しい。
タブレットで認知機能をトレーニングする「コグトレ」
児童生徒の教材として気軽に導入できそうなのが、東京書籍がデジタル教材の1つとして展開していた「コグトレ オンライン」だ。
コグトレというのは、認知機能を総合的にトレーニングする考え方で、この教材では、「記憶力」「聞く力」「見る力」「集中力」「想像力」など基本的な認知機能をトレーニングできる。教科を問わず学習や日常で必要な基礎力であり、特別支援教育の分野では、個々の認知の特性を把握したり、苦手な部分をトレーニングするために、紙のドリルの形でよく使われている。
「コグトレ オンライン」では、例えば、見た図形や聞いた内容を短時間覚えておいて答える、ランダムに並んだ記号から特定の記号だけを数える、見本と同じ図形を見つけるなど、認知のトレーニング問題をタブレット上のアプリで行う。
これらの課題は、認知に特性のない児童生徒にとっては特に苦労せずに取り組めるものばかりだろうが、認知に特性のある児童生徒の場合、著しく苦手な分野がある。特別支援教育の場面では、苦手な分野をスモールステップでトレーニングするので、手軽にタブレットでできるデジタル教材は重宝しそうだ。また、紙と鉛筆で手書きに苦労している児童生徒の場合は、タブレットでできることがモチベーションにつながるかもしれない。
なお、ブラウザから利用できるWebアプリで、GIGAスクール端末からの利用を想定して提供されている。教員用に、学習履歴などを確認できる管理機能も備えている。
コニカミノルタ、「KOTOBAL」は多言語対応の強い味方
サポートが必要という点では、多言語対応も大きな課題だ。コニカミノルタの「KOTOBAL」は、AIによる機械翻訳と人による遠隔通訳などを提供するサービス。現在は自治体の窓口業務を中心に活用されているが、日本語指導が必要な児童生徒が増加している公立学校でのポテンシャルが高い。
外国にルーツを持つなど、なんらかの理由で日本語が第二言語の児童生徒は増えている。分離して日本語の学習を行うだけでなく、それと並行して翻訳ツールを利用して、日本語を話す児童生徒や教員とコミュニケーションをとりながら学習や学校生活を進められたら、日本語の習得にもプラスの効果がありそうだ。
「KOTOBAL」はブラウザで利用できるウェブアプリで、文字や音声で入力するだけで、指定した言語間での翻訳が行われ、文字と音声読み上げの両方で示される。児童生徒によって第一言語はさまざまだが、「KOTOBAL」のAI機械翻訳は30種の外国語に対応する。校内の日常的なコミュニケーションや授業内容の説明に使えばとても便利だろう。
また、一部の言語は人によるリアルタイムの遠隔通訳にも対応している。保護者との面談など、いざというときに遠隔通訳は複雑な話にも対応できて心強い。
もうひとつ注目したいのは最近教育現場でも課題となっている「やさしい日本語」の機能だ。「やさしい日本語」というのは、日本語が第二言語の人でも理解しやすいように、時候の挨拶や固い表現などを排して平易な文章表現にする取り組みだ。保護者へのお便りなどで実践している学校もあれば、市民向けの告知などで実践している自治体もある。
「KOTOBAL」の「やさしい日本語」機能は、まだ自治体で使うような単語が中心だが、入力した言葉をより平易な表現に変換してふりがなをつけて示してくれる。変換できる内容を教育現場に最適化していけば、学校でも便利に使えるようになるだろう。なお、外国語だけでなく日本語の音声筆談機能や手話通訳のサービスもある。
翻訳については、世の中で既に使われている各種翻訳アプリの存在やChatGPTなどの生成AIの登場によってさまざまな手段が増えてきたが、日々めまぐるしく動いている現場では、専用ツールの存在は心強いのではないだろうか。
特別な支援を必要とする児童生徒の数は年々増えている。せっかく1人1台のタブレットPCを持てるようになった今、自分を助けてくれるツールを積極的に使って学習や学校生活を楽しめるようになって欲しい。それを支える教員も自らの仕事をサポートしてくれるツールをフル活用して、児童生徒の環境向上や困りごとの補助に役立て欲しいと思う。