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英会話・漢字練習・数学、生成AIの活用で変わる学習用教材や教育サービス
「EDIX東京2024」レポート
2024年5月31日 06:30
2024年5月8日から開催された「第15回EDIX(教育総合展)東京」では、生成AIにまつわる多くの教育ソリューションが展示された。その様子は、すでにこちらのレポート「AIの教育利用が加速!EDIX東京で見た生成AIを活用した教育サービス」で紹介した通りだ。
本稿では、それに加えて、生成AIを活用した学習用教材に焦点をあてて紹介する。子供たちにも身近な教材や教育サービスに生成AIが入ることで、どのような学びに変わっていくのだろうか。
第15回 EDIX(教育 総合展)東京レポート 目次
生成AIによる自由な英会話
AIによってここ数年で大きく変わったのが英語教材の世界だ。発音や流暢さのチェック、翻訳機能などはすでに当たり前となってきたところへ生成AIが登場し、さらに進化を見せている。
例えば英会話のAEONが展示していたのは「AI Speak Tutor 2」(株式会社イーオン)というアプリ。シナリオ通りの会話練習から生成AIによる自由な会話までステップアップしながら学べるようになっていて、AIによるレベル診断もできる。AIとの会話や診断はChatGPTの技術がベースになっている。
ユーザーの表情もチェック! 英会話能力を測定
「LANGX Speaking」(株式会社エキュメノポリス)は、CGで登場するAIと自然な対話をしながらスピーキングの学習や能力判定ができるシステム。ユーザーの話す音声だけでなく、表情に表れる戸惑いなども読み取って、AIがリラックスさせる言葉かけなども行う。また、学習者の会話内容に応じて話題のレベルなどを逐次変える。CGとはいえAI側の表情や身振りがあることで、より臨場感のある会話ができそうだ。
短いやりとりではなく、20〜30分のインタビューを通じて、CFERのレベルに基づいて6分野7段階の能力判定をする。初歩の学習者よりは少し慣れてきたころに英語の各種能力試験を視野に入れて力試しに使うと、非常に効果的なのではないだろうか。
なお、このシステムは、早稲田大学 知覚情報システム研究所を中心とした研究チームによって開発された会話AIエージェントInteLLA(Intelligent Language Learning Assistant)を使用していて、株式会社エキュメノポリスは大学発のスタートアップ。独自の開発力を生かした特徴あるソリューションが際立つ。
教科書準拠や試験対策、問題生成機能などで勝負
今回出展していない企業からも、自由な会話や判定を含む英会話練習用のアプリがリリースされていて、ユーザーの選択肢は増えてきた。また、すでにChatGPTが音声でのフリートークにも対応しているので、ただ自由な会話ができるというだけでは早々に目新しさがなくなってしまいそうだ。英語学習教材としての強みや独自性をいかに打ち出して行くかということが勝負になるだろう。
例えば「レシピー for School」(株式会社ポリグロッツ)は、さまざまな英語のリアルな記事をもとに、生成AIによって読解の設問を自動生成することができる。AIによる発音判定やライティングの添削にも対応する。
また、「ELST」(株式会社サインウェーブ)は、AIによる発音、発話判定機能を生かして、教科書に準じた設問で学んだり、英検の面接試験練習をしたりできるのが強み。小学生向けの「ELST Elementary」もあり、年齢に応じたUIで小学生の英語学習をサポートする。
レシピーとELSTは生成AIによるフリートークに対応しているわけではないが、英語教材としての特色にAI技術が自然に組み込まれている。
日本の英語教育はスピーキングが育たないとずっと言われてきたが、ここまで紹介したようなAI、生成AIを使った教材で、個々の発話の機会をとにかく増やすだけでも革新的に変わるはずだ。もはや使うか使わないかで相当な学習機会の格差になるのではないだろうか。
手本が見えたり消えたり、漢字練習にもAI活用
英語以外にも、AIで学び方の質が変化している。記憶定着のための学習アプリ「Monoxer」(モノグサ株式会社)はAIで各種機能を増強した。例えば漢字の練習では、手本がいったん消え、使う人の手の止まり方や、間違いなどに応じて、再び手本が見えるようになったりする。確かに見えている手本をなぞるだけでは意外と覚えられないので便利だ。
また数学では、問題を解くステップを分解して、考え方や適用する公式、実際の計算に分けて出題し、どこでつまずいているのか自覚できるようになっている。英語では、3段階の穴埋め手法によってスピーキングで使える表現を反復練習できる。
数学の問題画像を送るだけで生成AIが解答や解説を表示
「QANDA」(株式会社Mathpresso Japan)は数学に特化した学習アプリ。独自開発の数学に特化したAI「MathGPT」により、ユーザーが設問を写真に撮って送信するだけでAIが解答を返す。最終的な計算結果だけでなく、ユーザーの求めに応じて解法のステップを丁寧に解説する。
Mathpressoは韓国のスタートアップ企業で、アジア圏を中心に各国にユーザーを抱える。例えば生成AIブームのきっかけになったChatGPTは算数や数学に弱いことで知られているが、MathGPTは算数、数学分野で精度の高さを誇り、ベンチマークで世界1位の評価を得ているということだ。
なお、アプリは日本国内ですでに個人向けに展開されているが、日本で教育版を展開するにあたって株式会社みんがくが、学校などでの利用に特化した管理機能を開発している。
技術が学びの姿を変える
AIに加えて生成AIが組み込まれた学習教材のインパクトはかなり大きい。英語のスピーキングのように、今までならば人を相手にしなければできなかったような学び方が、簡単に手に入る。また、難解な数学の問題の解説を瞬時に手に入れられるなど、これまでの常識が覆されつつある。
教育現場はこうした技術動向を踏まえ、子供たちに効果的でプラスの機会を提供できると判断したら取り入れてみるという軽やかさが求められそうだ。また、学び方はAIに任せて、どのような学びをリアルの教育現場で大切にするのか、より大きな視点で教育を考えることが必要になってくるだろう。
ChatGPTが未加工の生成AI技術をそのまま使っているイメージだとするならば、これからは、さまざまなツールに機能として加工されて自然な姿で組み込まれた生成AI技術に私たちは囲まれ、気付かないうちに使っているという状況になるだろう。議論すべき点は多々あるにせよ、そうした転換点にいることが、教育関連製品を見るだけでも感じられるEDIXだった。