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英会話・漢字練習・数学、生成AIの活用で変わる学習用教材や教育サービス

「EDIX東京2024」レポート

「第15回EDIX(教育総合展)東京」(2024年5月8日〜10日に東京ビッグサイトで開催)

2024年5月8日から開催された「第15回EDIX(教育総合展)東京」では、生成AIにまつわる多くの教育ソリューションが展示された。その様子は、すでにこちらのレポート「AIの教育利用が加速!EDIX東京で見た生成AIを活用した教育サービス」で紹介した通りだ。

本稿では、それに加えて、生成AIを活用した学習用教材に焦点をあてて紹介する。子供たちにも身近な教材や教育サービスに生成AIが入ることで、どのような学びに変わっていくのだろうか。

第15回 EDIX(教育 総合展)東京レポート 目次

  • 【GIGA2.0端末】
  • NEXT GIGA対応、最新 Windows 11 PC 展示レポート![Sponsored]
  • 5年間使い放題のLTEモデルも選択可能、「HP Pro x360 Fortis G11 Notebook PC」[Sponsored]
  • 堅牢性と耐久性をより高めた、デルのコンバーチブルタイプ「Latitude 3140」[Sponsored]
  • 落下に強くて滑りにくい、約590gの軽量タブレットにもなる2in1 PC「dynabook K70」[Sponsored]
  • マイクロソフト、学習から校務DXまで一気通貫で整備できるパッケージを提供[Sponsored]
  • EDIX東京、GIGA第2期を見据えた注目のChromebookをまとめて紹介!
  • ドイツのヴォーテマン、GIGA向けWindows PCをEDIXで初公開
  • 【ICT利活用支援】
  • 小学生がEDIXを取材!生成AIのレポート改善アドバイスに子供たちの反応は…?[Sponsored]
  • マイクロソフト、AI活用で変わる新しい学びをEDIXで展示
  • 教育版マインクラフト、授業で行う最初の1時間の内容を体験
  • 不登校対策に!GIGA端末で動く「レノボ・メタバース・スクール」 オンライン支援員も常駐
  • 英会話・漢字練習・数学、生成AIの活用で変わる学習用教材や教育サービス
  • AIの教育利用が加速!EDIX東京で見た生成AIを活用した教育サービス
  • 保護者も共感!発達特性のある子の「やりかた」を支援するアプリ、ソフトバンクがEDIX東京で展示
  • SMBC、教育版マイクラの金融教育教材「クエスト・オブ・ファイナンス」をEDIX東京で展示
  • Google、AIの取り組みとGIGA第2期に向けての支援パッケージを説明
  • Google、EDIX東京で「Geminiアカデミー」を展示 自治体セミナーも多数実施
  • バッファロー、補助金対象のネットワークアセスメントサービスをEDIXで紹介
  • 【その他】
  • 米Apple教育マーケ責任者が語る、子供たちが将来を生き抜くために必要な学びとは?
  • 「情報Ⅰ」共通テスト試験対策を情報教育YouTuberが紹介
  • 生成AIによる自由な英会話

    AIによってここ数年で大きく変わったのが英語教材の世界だ。発音や流暢さのチェック、翻訳機能などはすでに当たり前となってきたところへ生成AIが登場し、さらに進化を見せている。

    イーオンの展示ブース

    例えば英会話のAEONが展示していたのは「AI Speak Tutor 2」(株式会社イーオン)というアプリ。シナリオ通りの会話練習から生成AIによる自由な会話までステップアップしながら学べるようになっていて、AIによるレベル診断もできる。AIとの会話や診断はChatGPTの技術がベースになっている。

    「AI Speak Tutor 2」の画面。シーンに合う定型文の練習
    シチュエーションに応じたフリートークもできる。会話をもとにレベル診断

    ユーザーの表情もチェック! 英会話能力を測定

    LANGX Speakingの展示ブース

    「LANGX Speaking」(株式会社エキュメノポリス)は、CGで登場するAIと自然な対話をしながらスピーキングの学習や能力判定ができるシステム。ユーザーの話す音声だけでなく、表情に表れる戸惑いなども読み取って、AIがリラックスさせる言葉かけなども行う。また、学習者の会話内容に応じて話題のレベルなどを逐次変える。CGとはいえAI側の表情や身振りがあることで、より臨場感のある会話ができそうだ。

    短いやりとりではなく、20〜30分のインタビューを通じて、CFERのレベルに基づいて6分野7段階の能力判定をする。初歩の学習者よりは少し慣れてきたころに英語の各種能力試験を視野に入れて力試しに使うと、非常に効果的なのではないだろうか。

    LANGX SpeakingのAIエージェント。話しやすい雰囲気
    CEFRに基づく判定のイメージ

    なお、このシステムは、早稲田大学 知覚情報システム研究所を中心とした研究チームによって開発された会話AIエージェントInteLLA(Intelligent Language Learning Assistant)を使用していて、株式会社エキュメノポリスは大学発のスタートアップ。独自の開発力を生かした特徴あるソリューションが際立つ。

    教科書準拠や試験対策、問題生成機能などで勝負

    今回出展していない企業からも、自由な会話や判定を含む英会話練習用のアプリがリリースされていて、ユーザーの選択肢は増えてきた。また、すでにChatGPTが音声でのフリートークにも対応しているので、ただ自由な会話ができるというだけでは早々に目新しさがなくなってしまいそうだ。英語学習教材としての強みや独自性をいかに打ち出して行くかということが勝負になるだろう。

    例えば「レシピー for School」(株式会社ポリグロッツ)は、さまざまな英語のリアルな記事をもとに、生成AIによって読解の設問を自動生成することができる。AIによる発音判定やライティングの添削にも対応する。

    レシピー for Schoolで生成AIが作成した問題
    採点は発音判定やライティングのチェックにも対応

    また、「ELST」(株式会社サインウェーブ)は、AIによる発音、発話判定機能を生かして、教科書に準じた設問で学んだり、英検の面接試験練習をしたりできるのが強み。小学生向けの「ELST Elementary」もあり、年齢に応じたUIで小学生の英語学習をサポートする。

    ELSTの英検面接対策。話した音声が即時採点される
    ELST Elementaryの会話練習。発音の判定が色で示されている。小学生でも使いやすいデザイン

    レシピーとELSTは生成AIによるフリートークに対応しているわけではないが、英語教材としての特色にAI技術が自然に組み込まれている。

    日本の英語教育はスピーキングが育たないとずっと言われてきたが、ここまで紹介したようなAI、生成AIを使った教材で、個々の発話の機会をとにかく増やすだけでも革新的に変わるはずだ。もはや使うか使わないかで相当な学習機会の格差になるのではないだろうか。

    手本が見えたり消えたり、漢字練習にもAI活用

    モノグサの展示ブース

    英語以外にも、AIで学び方の質が変化している。記憶定着のための学習アプリ「Monoxer」(モノグサ株式会社)はAIで各種機能を増強した。例えば漢字の練習では、手本がいったん消え、使う人の手の止まり方や、間違いなどに応じて、再び手本が見えるようになったりする。確かに見えている手本をなぞるだけでは意外と覚えられないので便利だ。

    また数学では、問題を解くステップを分解して、考え方や適用する公式、実際の計算に分けて出題し、どこでつまずいているのか自覚できるようになっている。英語では、3段階の穴埋め手法によってスピーキングで使える表現を反復練習できる。

    Monoxerの漢字練習画面。手本が見えている状態と消えている状態をユーザーの状態に応じて適宜切り替える
    数学の出題パターン。アプローチの違う方法で出題できるようになった

    数学の問題画像を送るだけで生成AIが解答や解説を表示

    QANDAの展示ブース

    「QANDA」(株式会社Mathpresso Japan)は数学に特化した学習アプリ。独自開発の数学に特化したAI「MathGPT」により、ユーザーが設問を写真に撮って送信するだけでAIが解答を返す。最終的な計算結果だけでなく、ユーザーの求めに応じて解法のステップを丁寧に解説する。

    Mathpressoは韓国のスタートアップ企業で、アジア圏を中心に各国にユーザーを抱える。例えば生成AIブームのきっかけになったChatGPTは算数や数学に弱いことで知られているが、MathGPTは算数、数学分野で精度の高さを誇り、ベンチマークで世界1位の評価を得ているということだ。

    数学の問題をスマートフォンで撮って送信する
    段階的な解説を求めると、解答のステップを細かく分けて示した。さらに深い解説を求めることもできる

    なお、アプリは日本国内ですでに個人向けに展開されているが、日本で教育版を展開するにあたって株式会社みんがくが、学校などでの利用に特化した管理機能を開発している。

    日本の教育版向け管理機能の画面

    技術が学びの姿を変える

    AIに加えて生成AIが組み込まれた学習教材のインパクトはかなり大きい。英語のスピーキングのように、今までならば人を相手にしなければできなかったような学び方が、簡単に手に入る。また、難解な数学の問題の解説を瞬時に手に入れられるなど、これまでの常識が覆されつつある。

    教育現場はこうした技術動向を踏まえ、子供たちに効果的でプラスの機会を提供できると判断したら取り入れてみるという軽やかさが求められそうだ。また、学び方はAIに任せて、どのような学びをリアルの教育現場で大切にするのか、より大きな視点で教育を考えることが必要になってくるだろう。

    ChatGPTが未加工の生成AI技術をそのまま使っているイメージだとするならば、これからは、さまざまなツールに機能として加工されて自然な姿で組み込まれた生成AI技術に私たちは囲まれ、気付かないうちに使っているという状況になるだろう。議論すべき点は多々あるにせよ、そうした転換点にいることが、教育関連製品を見るだけでも感じられるEDIXだった。

    狩野さやか

    株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。