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米Apple教育マーケ責任者が語る、子供たちが将来を生き抜くために必要な学びとは?
「EDIX東京2024」レポート
2024年6月19日 06:30
「GIGAスクール第2期」や「NEXT GIGA」など、GIGA端末の更新が大きな関心事となった今年のEDIX東京。いよいよ次のICT環境整備に向けて本格始動というフェーズに入り、会場には多くの教育関係者が詰めかけた。コロナ禍で進められたGIGA第1期のときには見られなかった光景だ。
そんなEDIX東京において、Appleは米国本社のワールドワイド教育マーケティング部門ディレクター Liz Anderson氏が来日し、講演を行った。全国から集まった日本の教育関係者に対して、Appleがめざす教育やGIGAスクールにおけるiPadの成果を語った同氏。講演の内容をレポートする。
第15回 EDIX(教育 総合展)東京レポート 目次
子供たちの将来のために、教師ができる後押しは何か?
Anderson氏は会場にいる教育関係者に向かって、「子供たちが将来に備えるために、私たちは今、どのような後押しをするべきでしょうか」と投げかけた。変化のスピードが早く、予測困難な今の時代。テクノロジーの進化によって、20年前は想像もできなかった職業や仕事が生まれ、これから先も同じような変化が続く。そんな未来の社会で「子供たちがたくましく生きていくためにはどのような資質が必要なのか」。この問いを改めて考えることが重要だというのだ。
ひとつの答えとしてAnderson氏は、世界経済フォーラムの報告書「Future of Jobs Report 2023(仕事の未来に関する調査)」を挙げた。同報告書では、調査対象となった企業が考える将来重要なスキルをランキングで列挙しており、Anderson氏はそのうちトップ8のスキルを紹介した。
<企業が考える将来重要なスキル、トップ8>
1. 創造的思考
2. 分析的思考
3. テクノロジーを活用する力
4. 好奇心と学び続ける力
5. 適応力、柔軟性、機敏性
6. システム思考
7. AIとビッグデータ
8. モチベーションと自己認識
これらのスキルを俯瞰し、企業は社員に対して成功だけを求めているのではないと同氏は語る。「創造的に課題解決できる力や、失敗から学び、気概を持って前進できる力が求められており、それを伸ばす教育が必要だ」という。
具体的な授業として、同氏は見学で訪れた世田谷区立深沢中学校の実践を紹介した。生徒たちが校内の下駄箱の改善点としてベンチの設置を考え、iPadのARアプリを使ってそのアイデアを3Dのカタチにして解決策を発表した、というものだ。いわゆる、生徒主体で進められるアクティブ・ラーニングであるが、同氏はこのような学習体験が将来に必要な力の育成につながると強調する。
「誰もが情報にアクセスできる今、子供たちの学びはメモを取ることではない」とAnderson氏。「子供たちが身近な課題を解決したり、批判的思考で物事を考える学習プロセスに身を置くことが重要であり、そうした学習を支えるのがテクノロジーの役割である。文部科学省も主体的・対話的で深い学びにおいて、テクノロジーの利用を奨励している」と述べ、知識伝達型の学びこそ、テクノロジーで変えていくべきだと語った。
iPadが持つ魅力は、万能さ・互換性・持ち運び安さ・長く使える設計
Appleは以前から、グローバルで教育分野に力を入れており、教師・児童生徒・学生・学校に対して、テクノロジーの教育利用を40年以上支援している。Anderson氏は、iPadは魅力的な学習体験を強化できるツールだと言い、「日本のGIGAスクールにおいても証明されている」と述べた。
それを裏付けるものとして、「89%の教育委員会が生徒用デバイスとしてiPadは十分な機能を備えていると回答した」という調査結果や、1人1台端末の活用率が高い新潟市や熊本市がiPad採用自治体であることを強調。iPadが教師・児童生徒のニーズを満たし、魅力的な学習がしやすいデバイスであるからだと述べた。
なかでもAnderson氏は、iPadが持つ魅力として、「万能さ」「互換性」「持ち運びやすさ」「長く使える設計」という4つを挙げ、教育現場での活用推進につながっているという。
iPadの「万能さ」とは、多機能カメラ、スケッチブック、Podcastなど、児童生徒が学習で表現したいことをすべて可能にしていることだ。ローマ字入力や日本語入力、手書きもスムーズで、使った瞬間に操作を理解できるのもiPadが万能なところだといえる。また、iPadの標準アプリに加えて、GoogleやMicrosoftのツール、さらには、教師が必要なサードパーティ製のアプリと「互換性」があるのも、iPadの優れている部分だ。
ほかにも、「持ち運びやすさ」もiPadの魅力のひとつ。iPadは本体の重さが500g以下であり、小学生も持ち運びやすく、持ち帰りや校外学習で使ったりと自由度も高い。おまけに「長く使える設計」になっており、壊れにくい。Anderson氏は「教師はデバイスを安心して使えることが大事であるが、iPadは壊れにくく、GIGAスクールにおいて最も耐久性のあるデバイスだ」と語った。
教師のスキル向上を継続的に支援していく
Anderson氏はここで、iPadの活用が最も進んでいる新潟市の動画を紹介した。繰り返しになるが、新潟市は1人1台端末の活用率が政令指定都市の中でトップクラスとなっており、非常にICT活用が進んでいる自治体である。
新潟市のような自治体を増やすためにはどうすればいいか。Anderson氏は「大切なのは教師がデバイスをどのように使うのかではなく、子供たちがいつ使うのか、なぜ使うのかを考えることだ」と語った。新潟市ではiPadが学びの基盤になっているが、iPadはツールでしかなく、教師たちが有意義な教育を実践するために、”使う場面”を考えている。それが活用の広がりにつながっているようだ。
一方で、教師の中には、iPadの活用について不安もある。長年培ったスキルが軽視されたり、iPadの使い方がマンネリ化したりと悩みも出てくる。Anderson氏はこうした課題に対して、Appleは適切にサポートを提供していくと語った。具体的には、iPadを最大限に使えるよう日本のカリキュラムに対応した活用アイデアをGIGAスクールのサイトを通して公開していくという。さらに、iPad採用自治体の教師には、Appleのエキスパートによるサポートを優先的に得られる環境も提供し、活用をさらに後押ししていくと述べた。
最後にAnderson氏は、会場に向けてエールを送った。「テクノロジーは今日、強力なツールとなり、未来のスキルとしても、学びのツールとしても欠かせない。子供たちがそれを活用することで、自分の限界を超えて、新しいことに挑戦していける。失敗をしても、そこから学び、進むことをあきらめない。そんな学びを作れるようサポートしていきたい」と締めくくった。
iPadをワクワクしながら使ってもらいたい
この講演後、Anderson氏に個別インタビューをすることができた。
――日本の教育現場でiPad活用を広げていくにあたり、ハードルだと感じているのはどのような部分でしょうか。
ハードルに感じていることはありません。日本はまだまだ始まったばかりなので課題が多いですが、これから対応していけると考えています。GIGAスクール構想は世界的に見ても先見の明のある取り組みで、他の多くの国はまだここまで到達していません。日本はすでに変化が始まっていて進もうとしている中で課題に直面しているのですから、大変なことがいっぱいあるのは当然のことだと思います。
――世界各国のK-12の中で、日本のiPad導入校がお手本にすべき国、学校があれば教えてください。
スコットランドの教育委員会のひとつ、Scottish Borders Council(スコティッシュ・ボーダーズ評議会)が非常に日本と状況が似ているので参考になるかと思います。同評議会も、日本と同じようにコロナ前に小中学校68校の児童生徒に1人1台端末を配布し、行政のトップダウンで施策を進めてきました。コロナ禍の休校中もiPadを使った学習でICT活用を進めたり、創造的な学習や個別学習、上級生が下級生をサポートするといった協働的な学びも取り入れています。iPadがあることで子供たちの学校での体験が変わり、どの子供たちでも多様な学びを受けられるようになっています。
――日本の教育関係者に期待していることを教えてください。
教育委員会の方も、先生も、もっとワクワク感を持ってiPadを使っていただきたいですね。デジタルを使うことで何ができるのか、どんな学習ができて、どんな価値が生まれるのか。もっとワクワクしながら使ってもらいたいです。みなさんにも経験があるかと思いますが、自分の考えたことを表現したり、学んだことを自分で新たな形にしたりするのは楽しいですよね。テクノロジーを使って、そんな学びを体験してほしいです。
以上が、EDIX東京におけるAnderson氏の講演および個別インタビューの要点となる。NEXT GIGAにおいては、来年にかけて更新時期を迎える自治体が多く、これからさらに動きも活発になっていく。子供たちの学びがテクノロジーによってどのように変わっていくのか。将来をしっかり描いてICT環境整備を進めてほしい。