【連載】5分で読める 親子のためのネットの常識

技術は進化しても大切なのは人の判断力

スマホは使うけどネットやデジタルの知識には自信がない。でも、今の子供たちはネットやパソコンを使うのが当たり前だから、もう少し分かるようになりたい。そんな保護者の方に向けて、AI時代に知っておきたいネットの常識や役立つ情報を紹介します。

生成AIの登場で、私たちが発信できる情報の質も、受け取る情報の質も大きく変わろうとしています。これまではそれなりに手間をかけなければつくれなかった画像や文章が一瞬でつくれるようになったことで、私たちの判断力が試される場面が増え、社会的なルールの議論が必要な段階に来ています。

生成AIで架空のニュースも簡単につくれる

これまでの記事で会話形式で文章を生成するAIと、画像を生成するAIを紹介しましたが、こうした生成AIを利用すると、例えば架空のニュースをつくることも簡単にできます。

<写真の池に泳ぐカバを生成>
まずは画像です。前回記事で紹介したAdobe ExpressのAIで画像を生成する機能には、既存の画像に何かを追加で生成する「オブジェクトを挿入」というモードがあります。

Adobe Expressの最初のページで[AIで生成]から入り(左)、[作成開始]の画面で[オブジェクトを挿入]を選ぶ(右)

これを使って、以前自分で撮った池の写真を開き、エリアを指定して、「泳いでいるカバ」という指示(プロンプト)を入力して生成を実行します。

エリアを指定してプロンプトを入力

カバが泳いでいる姿が、元の写真になじんで自然な雰囲気で追加されました。

左側に複数の生成候補が表示されるので好みのものを選択

このように、写真と短い指示を与えるだけで簡単に変更を加えられるのが今の生成AIの技術です。なお、既存の画像を変化させる生成AIを使う際は、自分が撮影した写真を使用するなど、画像の権利に注意が必要です。

<ニュース風の文章を生成>
次に、ChatGPTでこの写真に合わせる架空のニュース記事をつくってみます。次の図の通りプロンプトを入力してみると……。

ChatGPTで生成したい文章について細かく指示をする

一瞬で、次の図の通り、ニュースのような文章が生成されました。

指定した文字数と内容でニュース風の文章が生成された

生成した画像と文章を組み合わせれば、次の図の通り架空のニュースの完成です。

簡単に架空のニュース記事が完成(※解説用に生成AIで作成した事実とは異なる文章と画像です

技術を知った上でどう使うかを考えよう

こうして簡単に架空の情報をつくることができることについて、皆さんはどのような感想を持ったでしょうか?

人をだます目的でウソのニュースをつくるのは問題ですが、例えば家族など私的な内輪でのジョークとして架空のニュースをつくったり、想像上のイベントや施設などのパンフレットをつくったりして見せ合うのは、面白い楽しみ方でしょう。

一方で、「これは当然ジョークとして受け止められるはず」という感覚で、SNSなど公共の場に公開してしまうと、思わぬ社会的な混乱を招いたり迷惑をかけたりする可能性があります。初めて生成AIを触ると、そのすごさに驚いてつくったものを人に見せたくなるものなので注意が必要です。

なお、どのような目的であっても、本人の了承もなく顔や姿を改変するような画像生成や誰かを傷つけるような内容の文章生成は、そもそもするべきではありません。ここは厳格に意識する必要があります。

新しい技術を手にした以上、これをどのような用途に使うかということは、使い手の私たちにかかっています。自分で生成AIを使って何かをつくってみると、すごさも危うさも感覚的にわかるので、一度ぜひ試してみてください。そして、どのように使うのが便利で、どのような用途にブレーキをかけなければいけないか、自分でも考え子供と話す機会にするのがおすすめです。

情報に接するときは常に点検する気持ちで

情報の受け手としても、新しい技術を知っておくことは大切です。生成AIの登場で、このように根拠のない情報を“きれいなもっともらしい姿”でつくることがとても簡単になっています。

情報の見た目や流暢さだけでは信頼性を判断できないため、これまで以上にインターネット上で接する情報に対して慎重に点検する目を持つことが大切です。ここまでの記事でお伝えしてきた通り、情報の発信者を確認して信頼性を判断することをぜひ習慣にしてみてください。

全13回にわたってお届けした連載は今回が最終回となります。情報に関する技術は、私たちが日々接する情報の質や流れ方に大きく影響します。ちょっと面倒でも、「どのようなものなのか?」と技術の仕組みに興味をもって調べて使ってみると、「どう使ったらいいか?」という自分なりの判断がしやすくなります。技術の主体的な使い手になっていきましょう。

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狩野さやか

教育ICTライターとして、学校や家庭のICT活用について各種媒体で多くの記事を執筆している。プログラミング教育を含む情報教育や特別支援の領域に詳しく、デジタルリテラシーに関する講座等も行う。株式会社Studio947の「知りたい!プログラミングツール図鑑」、「ICT toolbox」の運営責任者。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)他。