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生成AIで開発速度と発想力が大幅アップ〜Life is Tech ! の中高生向けハッカソン
2024年6月28日 06:30
プログラミングを学んでいる中高生は、生成AIを使ってどのようなサービスを生み出すだろうか。大人は業務効率化の手段として使うことが多い生成AIだが、中高生のアイデアや開発手法に生成AIが力を与えたら何が起きるのか。
そんな関心から、生成AIを開発に使ってWebサービスやゲームの開発をする中高生向けのハッカソン「AI Hack for Teens」を訪れた。同イベントは、2024年5月、ゴールデンウィークの4日間をかけてLife is Tech ! 白金高輪本校で開催されたものだ。
ライフイズテック株式会社は、中高生向けのIT教育サービスを通年のスクールや長期休みのキャンプなどで行っており、このハッカソンはスクールで学んでいる生徒から対象希望者を募って実施された。5月6日の発表会の様子をレポートする。
チームを組んでアイデア出しから
5月3日から6日にかけて行われた同ハッカソンに集まったのは10名のスクール生。全4チームに分かれて、企画のアイデア出しから開発、成果の発表まで行った。最初の3日間は朝10時から夜20時まで、最終日は17時までという合宿さながらのスケジュールで、短い期間ながらも機能を実装してデモンストレーションできるところまで開発を進めた。
カラフルなTシャツ姿で4日間を共にしたメンバーはすっかり打ち解けた様子で、スペシャルゲストのIT企業のエバンジェリストと保護者が見守る中、成果を発表した。早速4チームの作品を紹介しよう。
遊びのプランをAIが提案する「あそぷら」
Webサービスプログラミングコース(言語はRuby)の2名とWebデザインコースの1名全3名のチーム「セブンティーンず」の作品は、友達同士で遊ぶ日程が決まっているのに、なかなかプランが決まらないという日常の悩みを解決するWebサービスの「あそぷら」。自分に合ったキャラクターや好みなどの条件を選ぶと、AIがそれにあった遊びのプランを提案してくれるというものだ。
はじめの画面で選択したキャラクターに設定された性格と、次の画面で設定したアクティブ度合いなどの好みや遊びのジャンルをもとに、ChatGPTのAPIを利用して、おすすめのコースを提案させ、画像の出力も行う。GPT4を利用しているのでプロンプトで画像生成もできる。
なお、画面のUI制作にも生成AIを活用していて、はじめの画面に登場するキャラクターは、アドビ株式会社の画像生成AI、Fireflyを使用して出力している。思うように配置できず、HTMLとCSSのコードに悩んだときもChatGPTに質問してコードを修正して解決したということだ。
エバンジェリストは、UIデザインの改善ポイントを中心に各チームにコメントした。「あそぷら」については、より直感的に操作できるように、スライダーのところにアイコンを追加すると、より使いやすくなるのではないかとアドバイスした。
AIと何気ない会話の練習ができる「PRA.COM」
Webサービスプログラミングコース(言語はRuby)3名のチーム「tobi」は、普段LINEやDiscordなどテキストチャットの会話で返信に悩んでうまく会話がつなげないという悩みから、AIと会話練習ができるWebサービス「PRA.COM」を開発した。
最初に会話する相手の設定を自由に書き込んで決めると、会話がスタート。相手から会話を始めてくれて、チャットで会話を練習できる。ひと通りやりとりすると会話の内容が採点され、点数と具体的な改善点が示される。結果はランキングにも残り、ゲーム感覚で取り組める。
会話の相手の設定や会話のやりとりにはChatGPTのAPIを利用している。会話が終わって採点をするときには、会話の履歴テキストをあらためてChatGPTに送り、点数化と具体的な改善アドバイスを取得している。
エバンジェリストは、「ユーザーのことを考えると自由度を減らすと良いのではないか」とアドバイス。例えば、会話相手の設定を自由にテキストで入力するのはハードルが高いので、選択肢で選べるようすると、よりスムーズにゲームを始められるようになると提案した。
カレンダーをAIが自動判定して遊ぶ日程を提案!「CATECHO」
Webサービスプログラミングコース(言語はRuby)2名のチーム「ゆるぎるちゃ」は、勝手に予定を調整してくるサービス「CATECHO」を開発した。遊びに行く予定をチャットなどで調子するのは手間がかかるし、予定の空き具合を知られるのも嫌だという悩みを解決する。
ユーザーのGoogleカレンダーから必要なデータを取得して、スケジュールを合わせたいユーザー同士のデータをChatGPTに分析させて、候補日程を10パターン出力させるという仕組みだ。カレンダーからは既存の予定の時間とタイトルを取得していて、前後の予定も考慮した上で候補日程が示される。
開発にはGoogleカレンダーのAPIとChatGPTのAPIを使用し、ログインの機能も実装した。開発メンバーは、「AIを使って初めて制作をしましたが、思ったよりもAIでできることが多くてびっくりしました」と話す。例えば、Googleカレンダーから取得した数値のデータをChatGPTに分析させるような使い方ができるとは思っていなかったという。
アメリカの企業が似たようなコンセプトのアプリを開発して高い評価を受けていることをエバンジェリストが紹介し、チームの発想と短期間での開発を評価。より多くのデータを元に深い提案ができると、さらに発展するのではないかとアドバイスした。
この画像はどうやってできた? 生成AIのプロンプトを予測するゲーム「ピッタグラム」
Unityゲームプログラミングコース3名のチーム「ゆったりヒュッゲ」は、生成AIが出力した画像について元のプロンプトが何かを当てるゲーム「ピッタグラム」をUnityで作成した。画像生成AIを使ってピクトグラムを作っているうちに、逆に、生成したピクトグラムからプロンプトを推理するゲームを作ったら面白いのではないかと考えたのだ。
生成AIが出力した絵が問題として提示されたら、「いつ」「どこで」「誰が」「何をする」を推測して答えを入力する。どのくらい元のプロンプトとマッチしていたかが採点され、70%以上のマッチ率でゲームクリアとなる。
開発には、DALL-EとChatGPTのAPIを使用した。最初に提示する出題用の画像はDALL-Eで出力し、出題に使ったプロンプトと回答のマッチング率をChatGPTに採点させている。開発したメンバーは、「AI技術が自分が思っていたよりも進化していることを知りました」と話した。
エバンジェリストは、「AIに適切なプロンプトを書くトレーニングになりそうなゲームですね」とコメント。さらに面白くするために、採点時にはマッチング率だけでなく、回答したプロンプトだとどのような絵が生成されるのかを表示するといいのではないかとアドバイスした。
共同開発の貴重な経験をした参加者たち
参加者の感想には共通して、チームで開発することの難しさと、チーム開発だからこそ一人ではできないようなものを作れたという声があった。普段スクールでは個別に学んでいるので、今回の共同開発は非常に貴重な経験となったようだ。
いずれのチームのサービスも発表会時点ではリリースに至っていなかったが、引き続き開発を続けて完成させたいという意志表示をしたチームが多く、このハッカソンで初めてつながったメンバー同士が仲間となり、場所が離れても共に開発を進めるきっかけになったようだ。どの参加者も、「楽しかった」と振り返り、充実した4日間を過ごせたことが伝わってきた。なお、その後「ピッタグラム」は完成まで至り、リリースしたということだ。
開発にAIを組み込むというフェーズへ
ライフイズテックでは、2023年の5月にも生成AIを使った中高生向けの1dayキャンプを行っているが、その際にもすでに生成AIを、作品の素材となる画像や音楽の生成や、プログラムのコードを書くサポートに使っていた。
今回は、ChatGPTのAPIを利用することで、これまでは4日間で作ることは不可能と思われたプロダクトを完成させるまでに至っていた。今までならば良い企画が思いついても、アルゴリズムから考えて、プログラムに落とし込む開発力がなければできなかったような高度な実装を、AIに任せ、短い期間の中でもサービスを作りあげることができていたのが印象的だ。
ライフイズテック株式会社 取締役 最高AI教育責任者の讃井康智氏は次のように振り返った。「どんなサービスを作りたいかというアイデアと、基本的なシステムの構成を考えられれば、ChatGPTがアルゴリズムもプログラムも考えなければいけない部分をかなり解決してくれるので、開発を非常にスピーディーにできました。新しいAIネイティブ世代の開発のあり方や、今できることの実態を私たちに見せてくれた貴重な4日間だったと思います」。
実際に中高生の開発に伴走したメンターの実感値としては、今回の開発スピードはこれまでの2倍以上だという。プログラムのコードのエラーへの対応もChatGPTに聞いて対処していくので解決が早かったということだ。
今回のハッカソンでの中高生と生成AIの関係について、讃井氏は次のように分析する。
「何かを“作る”とか“探究する”と決めて動き出すと、その先で課題にぶつかることがあり、それを解決するためにAIに対して聞きたいことが出てくるという、とてもいいAIとの協働サイクルが回っていると思いました。つまり、AIとうまい付き合い方をしていくためには、「自分が何をやりたいか」を持つことが起点になるということです。そうすれば、いろいろなプロセスにおいてAIを使いたくなる課題が生まれ、AIを有意義に使うことができるのではないかということを改めて感じました」。
参加者に感想を聞くと、「生成AIは可能性が広くて、企画するときのアイデアの幅が広がってそれがよかったです。ほかのチームの企画を見てもすごく刺激を受けたし、生成AIの可能性を知ることができました」と話してくれた。技術の使い手として、生成AIを自分が何かを作るためのツールの1つとして捉えていることがわかる。
讃井氏が言うように、作りたいものや探究したいものがあると自然と自身の力を拡張するツールとして生成AIを使う姿勢が生まれるのだろう。生成AIと共に生きることになる若い世代は、自分が主体となって生成AIを使う視点と距離感を身に付けることが大切だ。このハッカソンは、中高生が生成AIに対する自分の立ち位置を実践的につかむ貴重な機会になったのではないだろうか。