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Adobe Fireflyで「10年後の自分」を生成、アドビが立命館で模擬授業を実施

〜立命館とアドビの連携協定に合わせて

⽴命館⼤学⼤阪いばらきキャンパスで行われた模擬授業

アドビの初心者でも簡単に使えるクリエイティブツール「Adobe Express」に、この9月から同社の生成AI技術「Adobe Firefly」による画像生成などの機能が追加された。Adobe FireflyはAIの学習データの著作権に問題がなく、ビジネスや教育でも安心して利用できるのがメリット。さらにAdobe Expressは小中高の教育機関向けに無料で提供されているので、生成AIの活用が今後さらに広がりそうな学校においては、非常に導入しやすいツールだといえる。

そんなAdobe Expressを活用して、アドビ株式会社は立命館大学において模擬授業を開催した。Adobe Fireflyで参加した生徒・学生たちはどのような体験をしたのか、紹介する。

生成AIは、アイデアを短時間で形にできる

⽴命館⼤学⼤阪いばらきキャンパスで行われた模擬授業に参加したのは、立命館守山高校の3年生と立命館大学の学部生全19名。講師は境祐司氏が務めた。

境氏は「生成AIを活用した創造的問題解決手法の体験」と題して、まずデザインの力で問題解決をすることについて解説した。例として、ある高校で行われた防災アプリの改善提案のプロジェクト学習の流れを紹介。既存の防災アプリの問題点をリサーチして見つけ、改善アイデアを出して、プロトタイプとして形にし、それを発表してフィードバックを得て改良を行うというのがその手順だ。

創造的問題解決の手順には、アイデアをプロトタイプなどの形にして試すことが重要(講師スライドより)

特に、アイデアをプロトタイプとして形にした上で、その使いやすさをテストして検証し、さらに修正を加えるというサイクルが重要だと境氏は解説。そのステップを繰り返すには短時間で形にできることが大切で、それに便利なデザインツールとして「Adobe Express」を紹介した。

Adobe Expressは、豊富なテンプレートをもとに手軽に完成度の高いデザインができるツールで、ウェブブラウザで利用できる。これに生成AIの機能が搭載された。生成AIというとChatGPTのように会話形式で答える文章生成AIを思い浮かべる人も多いかもしれないが、アドビが開発した「Adobe Firefly」は画像を生成するAIだ。ChatGPTなどと同様にプロンプトと呼ばれる指示文を書いて、イラストや写真などの画像を生成させられるのだ。

「10年後の自分」の姿を生成AIで作成し、未来を考える

この日の模擬授業では、バックキャスティングという手法で創造的な問題解決を体験した。バックキャスティングというのは、目指す未来像を先に設定し、そこからさかのぼってやるべきことを計画する思考方法。「10年後の自分」をテーマに、自分の未来の姿を生成AIで作成し、今の自分からそこに至るまでのステップを図示するという課題が示された。

生成AI「Adobe Firefly」使ってテキストから画像生成

Adobe Expressの使い方は直感的で使用方法は簡単なのだが、生成AIはプロンプトの文章が的確かどうかで出力される画像の出来が大きく変わるので、参考としてプロンプトの例文が示された。ただし、Adobe Expressの生成AIは、写真、グラフィック、アートといった「コンテンツタイプ」や、仕上がりの雰囲気を決める「スタイル」などを選択肢から選んで指示に加えられるのが特徴で、プロンプトの文章だけに頼らずとも画像を生成させられる安心感がある。参加した学生たちは戸惑うことなく早速画像生成を試し始めた。

生成AIを使って画像作成にチャレンジ

それぞれの10年後の姿がイラストになった!

模擬授業のため限られた時間ではあったが、学生たちはそれぞれの10年後の自分の姿を作り上げた。境氏が次々に前方のスクリーンで共有して見せ、数名が発表を行った。

10年後からさかのぼってプレゼンテーションの形にまとめ、自身のプランを説明する受講者。短時間ながら4つの画像を生成して完成させた

発表者から「最初は2単語くらいで生成しようと思ったのですが、それでは思ったとおりの絵がでなかったので、かなり多くの単語を入れて細かく指定してきれいにつくることが大事だと思いました」という感想が上がると、境氏は「それがまさにプロンプトエンジニアリングですね」とコメント。生成AIから思った通りの結果を得るには指示の仕方が重要で、その技術やコツをプロンプトエンジニアリングということを説明した。

別の発表者からは「AIに作ってもらうイラストに自分のあまり気に入らないところもあって、気に入ったイラストを作ってもらうのが難しかったです」という感想もあり、作りたいイラストのイメージがはっきりしている人ほど、そこに近づけるのに苦労するという実情も見えた。ただなんとなく生成AIで絵を出力してみるというのではなく、明確な目的と作りたい絵のイメージを持って絵を出力するという挑戦をした学生たちは、その特徴をそれぞれ実感したようだ。

受講生の作品より

学生たちの生成AIに対する思いは肯定的で、「これまで、ChatGPTに触れた事はありましたが、画像生成AIを使ったのは初めてで、アドビのソフトも初めてでしたが直感的に使えました。こういうツールが使えると、将来を考える上でも選択肢が広がると感じています」という声も。生成AIが当たり前の世代が社会に出ていくときに、社会の側は生成AIとどうつきあっているのか、日々変わる状況に柔軟に対応する必要がありそうだ。

境氏は、「Adobe Expressはプロ向けではありませんが、プロと同じような作業ができます。絵のトレーニングやデザインの勉強をしなくてもこのツールが代替してくれるので、自分の“実現したい”という思いが一番重要です。しっかりそこを考えて、創造的に問題を解決することにどんどん活用してください。ぜひ、防災アプリの改善をするようなアクションにつなげていってください」と結んだ。

小中高の学校でも安心して使えそう

授業を見学していた立命館守山中学校・高等学校 情報科 伊藤 久泰教諭は、「生徒がものすごく作品制作づくりに集中している様子がとても印象的でした。Adobe Expressは生成する時間もPCのスペックにあまり左右されないので、情報の授業でも取り入れてみたいと思いました」と振り返る。他の画像生成AIに比べて、出力される画像の傾向が小中高の学校でも安心して使えそうだと感じているということだ。

また、2Dゲームの制作などの際にも利用価値が高いと指摘。「キャラクターや背景、ブロックやアイテムなどの素材をWebから探すのではなく、生成AIで自分のイメージにより近いものを作ることができれば、絵やイラストに時間を割く代わりにゲームの内容に時間を割けるようになります。絵やイラストが苦手な生徒でもより高いレベルの作品作りができるようになりそうです」と期待を寄せる。

AIを活用し共存する力、クリエイティブスキルは必要不可欠

この授業は、学校法人立命館とアドビがSociety5.0時代における新たな価値創出を担う人材育成のための連携協定を結んだことに合わせて実施された。学校法人立命館は、2030年に向けた中期計画の中で、「新たな価値を創造する次世代研究大学」や「イノベーション・創発性人材を生み出す大学」を目標に掲げている。

アドビ社との締結式に際し、学校法人立命館 総長 仲谷義雄氏は「不連続な変化を伴う予測困難な時代において、AIを活用し共存する力、クリエイティブスキルは必要不可欠だと考えています」と話し、先端企業との連携により未来を担う人材育成に取り組む考えだ。また、アドビ株式会社社長のクレア・ダーレイ氏は「デジタルツールはAI によりさらに進化して、人間の想像力をはばたかせ、創造性を高めるためのベストフレンドになりつつあります」と話し、我々の社会生活にAIがすでに入り込み、想像力や創造性と共存するものであることを印象付けた。

学校法人立命館 総長 仲谷義雄氏(左)とアドビ株式会社 社長 クレア・ダーレイ氏(右)

AIを含むデジタルクリエイティブスキルの敷居は技術の発展とともにかなり下がってきている。デザインのプロを目指すというわけではない層にも、伝えたいことを伝わりやすくするための基本スキルとして、クリエイティブスキルは必須である。学校でのデジタルツールを活用したアウトプットも、クリエイティブという視点を忘れずに、AI時代にふさわしい学びをさらに広げてほしい。

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。