レポート

トピック

教員の「はたらく幸せ実感」とは?ウェルビーイングの調査から働き方改革の鍵を見いだす

パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より

教員の働き方改革が課題になっている中、負の側面に注目が集まりがちだが、教員自身は仕事に対してどのような価値を感じているのだろうか。

パーソル総合研究所が実施した「教員の職業生活に関する定量調査」の結果を紹介しよう。同調査は教員の満足度や幸福度、いわゆる「Well-Being(ウェルビーイング)」に注目した調査で、教員の仕事の魅力や現実の課題を定量的に捉え、働き方改革に生かすことが目的だ。調査結果から見えた傾向や実態をレポートする。


    【調査概要】
    ・調査名:パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」
    ・調査時期:2023年10月6日~10日
    ・調査方法:調査モニターを用いたインターネット定量調査
    ・調査対象:全国3800名の教員
    (内訳)小学校・中学校・高等学校の教員(非常勤の教員、講師を含む)各1000名、幼稚園の教員(保育教諭を含む)、保育園の保育士各300名、特別支援学校の教員200名
    ・監修・調査協力:東京大学公共政策大学院 鈴木寛教授など

教員の「はたらく幸せ実感」は正社員平均よりやや高い

今回の調査で掲げられたWell-beingとは、満足度や幸福度など、経済的指標で測れない「良い状態」のことを指す。理想の状態に対して自分がどのくらいの位置にいるかという主観的な評価だ。

まず、教員の仕事における「はたらく幸せ実感」は0~10の11段階で平均4.3ポイントだった。参考値として示された一般の正社員平均(※)は4.19なので、教員に限った今回の調査はその平均値を少し上回る。また、「はたらく不幸せ実感」は3.4ポイントで、参考値の正社員平均3.52を少し下回った。特に教員だからといって仕事のWell-beingが低いことはなく、むしろややプラスの数値になっている。

※参考値は「はたらく人の幸せに関する調査」(パーソル総合研究所・慶応大学前野隆司研究室/2020)より

調査結果「教員のはたらく幸せ実感・不幸せ実感」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

では、どのような要素が「はたらく幸せ実感」を支えていて、「はたらく不幸せ実感」のもとになっているのだろうか。同調査では「はたらく幸せ因子/不幸せ因子」をそれぞれ7種ずつ設定し、各因子を決定づける設問への回答を分析している。いずれの要素も程度の違いはあるが、「はたらく幸せ実感/不幸せ実感」との相関が確認できている。

補足資料「はたらく幸せ因子・不幸せ因子」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

各因子の設問への回答から、教員と一般の正社員平均の違いを見てみよう。「はたらく幸せ因子」では、「自己成長(新たな学び)」、「チームワーク(ともに歩む)」、「他者貢献(誰かのため)」の要素が正社員平均よりも高く出た。一方で、「リフレッシュ(ほっと一息)」、「役割認識(自分ゴト)」、「自己裁量(新たな学び)」は低い。

調査結果「教員のはたらく幸せ因子」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

「はたらく不幸せ因子」では、「オーバーワーク(ヘトヘト)」の要素が高く出たが、他は正社員平均より低いか同水準となった。「オーバーワーク」因子の質問項目は「私は、仕事で時間に追い立てられていると感じる」「私は、仕事のために私的な時間を断念することが多い」「私は、他者から追い立てられていると感じる」というもので、絶対的な業務時間よりも精神的な余裕のなさを示している。

調査結果「教員のはたらく不幸せ因子」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

教員のタイプを4類型に分類、バーンアウト教員は20代に多い

本調査では、質問への回答を元に、ワーク・エンゲイジメント(仕事から活力を得て熱意をもって没頭できている状態のこと。やりがい)と、心理的ストレス反応の高さを数値化して、教員の仕事におけるタイプを4つに類型化した。

やりがいもストレスも高い「ワーカホリック教員」、やりがいは高いがストレスは低い「ワーク・エンゲイジメント教員」、やりがいが低くストレスが高い「バーンアウト教員」、やりがいもストレスも低い「不活性教員」の4種類だ。

補足資料「教員の4類型」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

4つの類型の構成割合を職位別に見ると、教諭では「バーンアウト教員」の率が高く、教頭・副校長の場合は「不活性教員」率が高い特徴が見えた。

調査結果「教員の4類型:職位別」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

また、年代別に見ると、20代の「バーンアウト教員」の率が他の年代と比べて非常に高いことがわかった。

調査結果「教員の4類型:年代別」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

実は、最初に紹介した「はたらく幸せ実感/不幸せ実感」を年代別に見ると、20代は他の年代と比べて「はたらく幸せ実感」が最も低く、「はたらく不幸せ実感」が最も高い結果が出ている。早々に、バーンアウト状態になり、幸せ実感も低いのは残念なことであり、若手教員のケアの必要性が見えてくる。

どのような業務がやりがい、負担になっているのか?

では、具体的にどのような業務がワーク・エンゲイジメントを高めていて、どのような業務が負担となっているのだろうか。小学校、中学校、高等学校の教員の回答を見てみよう。

まず、やりがいになる業務は、「主担当として行う授業・活動」や「授業の準備」などを挙げる率が高い。教員の本来の仕事としてイメージされる業務はやりがいにつながっているのだ。

調査結果「ワーク・エンゲイジメントな業務」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

一方で、負担になる業務を見てみると、「保護者や地域住民からのクレーム対応」、「国や教育委員会・自治体等からの調査・統計への回答」を挙げる率が高い。クレーム対応が上位に来るのは想像がつくが、調査・統計への回答がこれほど負担の元になっているのは意外だ。おそらく各種の教育効果や施策のエビデンスを求める目的だろうが、各方面から現場に膨大な調査が降りかかって負担を高めているのでは本末転倒だ。

調査結果「負担に感じる業務」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

なお、これらの結果のうち、中学校と高等学校では、「部活動・クラブ活動」がワーク・エンゲイジメントと負担感のどちらの集計でも高い数値になっており、主観的な評価が大きく分かれる業務だと言える。

中学校と高等学校に限定して掘り下げた分析では、顧問を担当している教員が、「その部活動の顧問をやりたくてやっている」場合は、「はたらく幸せ実感」の「リフレッシュ因子(ほっと一息)」が上がり、「はたらく不幸せ実感(ヘトヘト)」の「オーバーワーク因子」が下がるという相関関係があった。顧問を望んで担当している場合は、プラスの作用があることがわかる。

苦情対応は個人で抱えるとより負担になる

負担の上位に挙がったクレーム対応について掘り下げた分析を見てみると、ある程度組織的なクレーム対応を行っている割合はどの校種でも5割を越えたが、個人に任されていたり組織的な対応はしていない学校もあることがわかる。

調査結果「苦情への組織的対応」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

クレーム対応を個人で担うか組織的に行っているかに分けて分析を行うと、組織で対応をしている場合の方が、「はたらく幸せ因子」が高く「はたらく不幸せ因子」が低い傾向が出た。クレーム自体は減らせないとしても、組織的な対応をすることで教員の負担感が変わる可能性が高いのだ。

実際、教員の4類型を教諭に限定して、クレーム対応の状況別に見ると、組織で対応している場合の方が、「ワーク・エンゲイジメント教員」(やりがいが高くストレスが低い)の率が上がり、「バーンアウト教員」(やりがいが低くストレスが高い)の率が下がる。特に20代ではこの傾向が顕著で、クレーム対応を個人に任せないことが、若手ケアのひとつの手段になりそうだ。

調査結果「苦情への組織的対応と教員タイプ」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

教頭・副校長の負担に注目

調査を職位別に見ると「教頭・副校長」に特徴的な傾向がある。すでに教員の4類型で紹介した通り、教頭・副校長は「不活性教員」(やりがいが低くストレスが低い)の割合が他の職位よりも高い。しかし、これは決して楽をしているというわけではなく、1ヶ月あたりの業務時間では、教頭・副校長が最も長いことがわかっている。

調査結果「教員の1ヶ月あたりの業務時間 簡易推計」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

業務内容について尋ねた設問では、教頭・副校長は、他の職位と比べて「仕事の明確さ」が低く、「仕事範囲の無限定さ」が高い結果になった。長い勤務時間の背景には、業務の範囲が定まらず何でも引き受けている状況がありそうだ。

教員の仕事に誇りを持つ一方でジレンマも

教員の働き方改革の視点で、教員の仕事に対する負のエピソードやイメージばかりが強調される傾向もある。実際に働く教員はどう捉えているのだろうか。

教員のイメージについて聞いた設問では、「教員のイメージは実態と比べて悪すぎると思う」、「教員の悪い実態が取り上げられすぎていると思う」を肯定する割合は、小学校、中学校、高等学校ではいずれもから50〜60%台で、明確に否定する割合は10%台となった。

調査結果「教員のイメージに対する意識」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

見過ごされてきた負の構造を変えようとする動きは重要だが、それと同時に教員の仕事のプラスの側面にも改めて目を向けることが、今教育現場で子供たちと向き合う教員やこれから教員になろうとする人のモチベーション維持に大切なことかもしれない。

なお、教員という仕事に対してプラスとマイナスの思いが混ざり合っている様子が見える回答もある。例えば、教員の仕事に誇りを感じている割合は6割近いが、一方で、「教員の職業を友人・知人、家族に勧めたいと思う」は低く、2割弱しかいないという結果が明らかになっている。

もうひとつの例が収入に関する設問で、小学校、中学校、高等学校の場合、「現在の収入は安定している」と考える割合は6割以上なのだが、「収入が仕事に見合っている」、「現在の収入に満足している」と考える割合はどちらも2割未満となった。収入の安定は「教員になろうと思った理由」の2位になるほど重視されているのだが、仕事内容に対して収入が少ないジレンマがあることがわかる。

調査結果「教員の収入への意識」(パーソル総合研究所「教員の職業生活に関する定量調査」より)

教員の働き方改革は、教員が本来の仕事である子供の学びを豊かなものにすることに集中して、創意工夫をこらせるような環境づくりをするためのものだ。何が過剰で余計な負担になっていて、どこに改善の余地があるのかを明らかにする際には、教員のあり方を全否定するような極端なイメージに走ることなく、本来の業務の魅力にも注目し、そのために必要な改革であることを確認していきたい。

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。