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AWS、教育領域における生成AI活用に向けて支援を強化

教育領域におけるBedrockの説明会を実施

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社は4月24日、アマゾンジャパンのオフィスにおいて、教育領域におけるAWS(アマゾン ウェブ サービス)および生成AIの活用に関する記者向け説明会を開催した。

AWSと生成AIの活用についての記者向け説明会を開催

 同説明会では、AWSが教育領域ですでに取り組んでいることや、4月23日にアップデートされたAWSが提供する生成AIサービス「Amazon Bedrock」を紹介。AWSと生成AIを活用している企業の事例として、ライフイズテック株式会社と株式会社学研メソッドの担当者が自社の活用法を紹介した。

左から、ライフイズテック株式会社 取締役 最高AI教育責任者(CEAIO)讃井康智氏、同社 執行役員 最高技術責任者(CTO)奥苑佑治氏、株式会社学研メソッド 取締役 中村寿志氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 パブリックセクター技術統括本部長 瀧澤与一氏

最新AIを「Amazon Bedrock」で利用しやすく

 AWSとはアマゾンによるクラウドコンピューティングサービスで、世界中で利用されている。日本においても多くの教育関連企業がAWSを活用しており、公教育での活用も広がっている。

AWSを利用している教育サービス
AWSが支える公教育の教育DX

 今回の説明会では、Amazon Bedrockのアップデートに関する説明が行われた。Amazon Bedrockは、さまざまなAIの基盤モデルを用途に合わせて選択して単一のAPIから利用し、生成AIアプリケーションを構築できるサービス。AIの基盤モデルは、最近注目を集めているClaude 3のほか、Amazon Bedrockには含まれないがChatGPTが利用するGPT-4のことである。基盤モデルはリアルタイムで進化しているため、最適な基盤モデルはその時々で異なるのが実情だ。

Amazon Bedrockで使える各基盤モデルの特徴
新たに対応した各基盤モデル

 また、基盤モデルによって機能や性能、レスポンス、コストなどは異なるが、Amazon Bedrockを使うことで生成AI構築時に最適な基盤モデルの選択や変更が容易になる。同時に、カスタマイズした独自モデルを組み合わせ可能なため、情報のセキュリティ対策や生成AIが不適切な情報を出力した場合の制限がしやすくなる。

Amazon Bedrockは、必要に応じて最適なモデルを選択できる

 4月23日のアップデートでは、新たに利用できる基盤モデルを選択できるようになっただけでなく、発売済みのModel evaluation in Amazon Bedrockの一般利用が開始され、基盤モデルを評価してユースケースごとに最適な基盤モデルを選択できるようになった。

最適なモデルを選択できるModel evaluation in Amazon Bedrock

 また、Custom Model for Amazon Bedrockとして発表した新機能は、カスタマイズしたモデルをAmazon Bedrockに組み込むことが可能になり、Amazon Bedrockの既存モデルと同じようにフルマネージド型の方法で利用できるようになる。

カスタムモデルの組み込みが可能なCustom Model for Amazon Bedrock

 具体的には、オープンソースとして提供されているLlamaやMistralなど、自らのデータ活用で作った基盤モデルをAmazon Bedrockに組み込むことで、外部データに依存しない生成AIの活用がより簡単になる。

AWSの考える「責任あるAI」

 教育領域での利用に際し、Amazon Bedrockの重要な機能として「Guardrails for Amazon Bedrock」の一般提供も開始された。生成AIのアプリケーションからの出力で、子供たちに見せたくない、聞いてほしくない言葉、機密性の高い情報などが出力されないよう「ガードレール」としてルールを設定し、出力を抑制する機能となる。

AWSの考える「責任あるAI」
Amazon Bedrockのアップデートには、Guardrails for Amazon Bedrockの一般提供も含まれている
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 パブリックセクター技術統括本部長 瀧澤与一氏

 今回、登壇したアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 パブリックセクター技術統括本部超の瀧澤与一氏は、AWSの考える「責任あるAI」として、公平性と説明可能性が必要とし「責任あるAIというキーワードが教育業界で重視され、公平性・説明可能性・プライバシーのセキュリティの考慮・堅牢性・ガバナンスや透明性といったものが非常に重要になってくる」とコメントした。

 AIについて「いかに課題を解決できるかが重要になると考えていて『責任あるAI』について重点的に対応する」と述べた。

AWSが支援・実現したい教育DX

ライフイズテック、生成AIパイロット校での活動を支援

 続いて、プログラミング教育や情報科の支援に携わるライフイズテックから、生成AIを教育で利用する最新状況と変化、今後の課題などが発表された。

ライフイズテック株式会社 取締役 最高AI教育責任者(CEAIO)讃井康智氏

 ライフイズテック 取締役CEAIO(最高AI教育責任者)の讃井康智氏は、子供たちが生成AIを活用する状況として東京都教育委員会のデータを提示、2023年度で生成AIを自宅学習に使った中高生は約20%に達していること、文部科学省のガイドラインはAIを学びに活用することに前向きであるものの、AIリテラシーをどの時間にどう学ぶか言及がないことを指摘した。

自宅学習で生成AIを使う中高生

 その一方で、AIが当たり前になった今の時代はEdTech業界も変革期にあるとし、「個別最適」な学びを実現するためのAI活用は変わっていくと讃井氏。具体的には、これまでの「個別最適」は個人の進捗や理解度をAIが分析して既存の問題の中から適した問題を提示する活用が多かったが、これからは個人の興味や関心をAIが分析して個別最適な問題を即時生成していくような出題になっていくと語った。

ライフイズテックが定義したEdTechの世代3.0で個別最適のレベルが飛躍的に上がるという

 その結果、「学習の速さや生産量、クオリティが飛躍的に改善され、学習者が自分で自分の能力をブーストできるようになる」と述べた。また、AIの力を借りることで「多様性が高まり、AIと対話することによって実は深い学びが起きている」とライフイズテックのAI体験会のデータをもとに紹介した。

AI体験会でも、参加者の自己効力感が20ポイント以上アップ
AI体験会で見えたこと

 さらに讃井氏は「AIを使うと学ばなくなるのではないかという考え方もあるが、決してそうではない。基礎的なリテラシーを身に付けることで、AIと対話をして、今までよりも主体的・対話的で深い学びがAIとの間で起こっている」と述べた。

東京都の八丈島の中学校では、AWSのサービスを組み合わてWebサイトのAIチャットボット実装まで行った
ライフイズテック株式会社 執行役員 最高技術責任者(CTO)奥苑佑治氏

 AWSの活用事例としてはライフイズテック 執行役員CTOの奥苑佑治氏が、文部科学省 リーディングDXスクール 生成AIパイロット校の実証事業として東京都の八丈島の中学校で行った事例を紹介した。

 八丈島の課題解決や魅力を伝えるにはどうしたらいいか、ということをテーマに、ライフイズテックが開発中の学校向け生成AIサービスで企画の骨子を固め、AIを利用してキャラクターの画像を生成し、オリジナルWebサイトのAIチャットボットを実装した。開発環境としてCloud9を使うなど、AWSのサービスを活用した。

 奥苑氏は、画像の生成に関する信頼性や安全性の問題について「画像を出力してよいか、そうでないか、もしくは教員に確認してもらうなどの制御をして学校で安全に使える仕組みが作れる」と述べ、画像分析サービスとしてAmazon Rekognitionの活用を紹介した。

画像分析のAmazon Rekognitionを使って不適切画像をチェック

教職員のAI活用は始まったばかり

 一方で、教職員の働き方改革への活用はまだ始まったばかりだという。2023年12月に発表された文部科学省のデータでは、全国の公立小中学校において生成AIの活用は、「全く活用していない」が76.8%にものぼる。

 そのうえで半分以上の教職員が活用しているのは約1%だとして、ライフイズテックの讃井氏は「慣れていない先生でも使いやすいように、不適切な出力を制限をしたり、個人情報を検出したりするといったアシスト機能を付けることで、教職員が使いやすいサービスを提供する」と述べた。

 ライフイズテックは、校務に関する実証事業として神奈川県鎌倉市で生成AI活用の研修を複数実施したが、小テスト問題作成や授業案の作成で業務時間が減少し「思考のパートナーになること」で効果があるとした。

小テスト問題の作成での効果
授業案の作成での効果

 さらに、今後は「AIディバイド」という格差が出てくるとし「義務教育段階でのAIリテラシーの学習時間確保」や「教職員向けAIリテラシー研修の必修化」など、教育利用に必要な施策を提言した。

教育利用のために必要な政策

学研のデジタル教材システム「GDLS」

株式会社学研メソッド 取締役 中村寿志氏

 続いて、学研メソッドは、取締役の中村寿志氏が学習塾向けのデジタル教材システム「GDLS(Gakken Digital Learning System)」の紹介や取り組み、今後のAWSの生成AI活用について説明した。

 最近の教育サービスの状況として、集団で授業を受ける塾から、個別指導塾・自立学習型・オンライン型といったバリエーションが増えている。少子化でマーケットは小さくなっているが、ニーズは逆に広がっているというのだ。特に地方では、指導者不足の課題が深刻化しており、GDLSでは柔軟なカスタマイズ性や学研グループの学習コンテンツの利用などでサポートしていくという。

GDLSの取り組み

 GDLSの生成AIは、2023年夏にベータ版として提供を開始しGDLSに学習アドバイス機能を組み込んだ。塾でログインを実行するとロボットのキャラクターが登場し、生徒一人ひとりに声をかけるという。

生成AI活用の方向性

 ここでの声かけは、生徒一人ひとりの学習履歴や理解度の推移などのデータをAIが受け取り、データに基づいて生徒に適切なアドバイスをする。生成AIはアドバイスの最後にメッセージを追加することを担当しており、まだアドバイスすべてを生成AIに頼ってはいない。

 中村氏はハルシネーションや回答が著作権に抵触する恐れがあるとし、この課題を解決しない限り教育業界で生成AIが普及することは難しいとした。しかし、学研メソッドが考える生成AIの方向性として、子供たちのやる気を引き出す役割や、一人ひとりの理解度に合わせた個別最適な学習を推進する「エンジン」の役割があるとした。

 また、学研グループでAIを活用する場合に、教材データ・生徒データ・指導データの3つのデータをバランスよく持っていることが利点だとし、これらのデータがあることで「非常に良質な効果の高い教育サービスを実現できる」と述べた。

 Amazon bedrockについては「AWSという同一環境の延長線上でスムーズに生成AIの開発ができるという利点を感じている」として、環境移行が容易なことや、データのセキュリティ、RAGなどのハルシネーション対策、フレキシビリティ、コスト競争力などAWSの強力な支援があることを説明した。

生成AI実現へ、AWSの強力な支援がある
正田拓也