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ChatGPTを英語の授業で活用、教師と高校生による事例を紹介

――シリーズ「生成AI実践ガイド」入門編セミナーレポート

ChatGPTに間違った部分を質問

生成AIはどんな風に授業で使えるの? そんな疑問を持っている先生は多いだろう。世の中で生成AIが普及し始めている今、教育でどのように使えるのか、教育関係者の関心も高まっている。

そこで、コトバンク株式会社と株式会社アルクが2024年4月27日に開催したオンラインセミナー「シリーズ『生成AI実践ガイド』入門編」を紹介しよう。同セミナーには、ChatGPTを授業に生かす学校法人石川高等学校・石川義塾中学校の岩瀬俊介先生が登壇。生成AIを活用した授業づくりをテーマに、英語科での活用実践やプロンプトの書き方、生成AIを使用するときの注意点について語った。

生成AIの教育利用、知っておくべきことは?

学校法人石川高等学校・石川義塾中学校 岩瀬俊介先生

岩瀬先生は最初に、生成AIのスライド作成ツール「Gamma」を使って、どれくらい速く、また、どんなクオリティのスライドができるのか、実際にやってみせた。

キーワードを入力するスペースに、プレゼンテーションで自分が話したい内容のキーワードを入力。すると、Gammaが話の構成を書き出し、スライドを一瞬で生成していく。その様子を見せながら、「スライドは作り出しの第一歩が大変だが、この作業をAIが助けてくれる」と生成AIを使うメリットを説明した。「これをたたき台として、AIと対話をしながら修正していく発想が大切だ」という。

岩瀬先生による「Gamma」のデモ画面。「ひと+テクノロジー+ことば」「シームレスな英語教育」などのキーワードを入力すると、Gammaから「ICTを活用したシームレスな英語教育の概念」などの項目が箇条書きで回答された。さらにスライドのデザインや配色を選び、[続ける]をクリックするだけで、Gammaが提示した項目の見出しと本文がスライドに生成された

また岩瀬先生は、基礎的な知識として代表的な生成AIサービスの年齢制限や有料版など特徴についても説明。さらに、「Gemini」と「Microsoft Copilot」は情報の要約に利用し、ChatGPTはアイデア出しの時に利用していると、同じ生成AIでも目的によって使い分けていることを語った。

代表的な生成AIサービスの特徴や留意点を紹介

同時に、生成AIは事実に基づかない誤った情報を生成する「ハルシネーション」を起こす懸念があると注意を喚起した。活用する前提として「AIは大規模言語モデルに基づき、統計的にそれらしい応答を生成するもの」という仕組みを知っておくことが重要だと強調する。それが、プロンプトを修正する際のやり方にも関わってくるというのだ。

さらに、文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を踏まえ、生成AIを使いこなして精度の高い回答を得るためにはプロンプトの書き方を身に付けることが必要で、生徒の前で使う際には教育的な観点を忘れないことが必須であるとした。

知っておきたい、明確な回答が得られるプロンプトの書き方

岩瀬先生は初心者にもわかりやすいプロンプトの書き方として、note株式会社のCXO 深津貴之氏が開発した「深津式プロンプト・システム」を紹介した。生成AIは、ただ質問を書くだけではぼんやりとした回答しか得られないため、深津式のような書き方を知っておくと役立つ。

なかでも岩瀬先生は、明確な回答を得るためには、前提条件や決まり事にあたる「制約条件」を設定することが大切だと説明した。英文法の「関係代名詞」の役割に似ており、制約条件を示すことで回答内容を絞ることができるというのだ。

深津式プロンプト・システム。ChatGPTは自然言語を解釈するので、「##」でテキストを囲む「マークダウン言語」の形式にする必要はないと岩瀬先生がアドバイス

また、『ChatGPT時代の文系AI人材になる』(出版:東洋経済新報社)の著者である株式会社ELYZA 取締役CMO 野口竜司氏が唱えるプロンプト入力の7つのポイントを紹介。その中でも「ステップ・バイ・ステップ指示」が重要で、回答の精度が格段に上がると述べた。「ひとつの質問ですべてを聞こうとせず、ステップ・バイ・ステップで生成AIに聞いていく。深津式のようにマークダウンの書き方を用いる方法もあるが、自分はそれには合わず、ステップ・バイ・ステップの対話型で生成AIを活用している」と語った。

プロンプトを入力する際に意識すること

一例として、「カレーライスとラーメンの最後の2文字を結合してください」と指示をすると「カレメン」という回答になるが、「カレーライスとラーメンの最後の2文字をステップ・バイ・ステップで結合してください」と指示をすると、正しく「イスメン」と回答されると実際にやってみせた。

1回目では「カレメン」という回答となったが、「ステップ・バイ・ステップで」というテキストを追加すると、正しく「イスメン」の回答が提示された

教材研究やワークシートの作成にChatGPTを活用

ここからは、岩瀬先生が実際にChatGPTをどのように授業で活用しているのかを紹介しよう。

岩瀬先生がリストアップした「ChatGPTを使ってできること」

まずは、壁打ち相手として活用するのが良いと岩瀬先生。例えば、授業で物語を扱うときに「このセリフには筆者のどのような思いが込められているのか、その解釈から学べることはなにか」と問いかけて、自分とは異なる視点をChatGPTから得る。「同じ教科書を使っていると自分の視点も凝り固まって同じ質問をしてしまいがち。ChatGPTに聞くことで忘れていた視点に気付き、面白いアイデアが生まれる」と述べた。ただし、教科書の本文を入力するときは、ChatGPTの学習機能をオフにしておくことを忘れてはいけない。

また、英作文でより適切な用語を選んだり、用語を置き換えても文法上問題がないかを確認する方法も紹介。指導案の作成時に単元の扱い方や指導法を聞いたり、英語の「パフォーマンス評価」に適したアクティビティについて相談したりと、自分の指導方法を見直すきっかけにもなっているようだ。

適切な英語表現や用語の置き換えをChatGPTに相談(画像:都留文科大学 中村隆氏より提供)

ほかにも、岩瀬先生は問題作成やワークシートの作成にもChatGPTを活用。「理解度を確認するための問題の案を10個提案してほしい」と指示をしたり、前置詞を抜いた穴埋め問題のワークシートや英文から間違いを探す問題などを作成している。問題作成のときは、「小学生にもわかるように」と制約条件を設けることで、生徒のレベルに合わせた問題を作れるのがメリットだと述べた。

生徒がChatGPTを使うときの注意点と活用法

岩瀬先生の学校では、生徒も生成AIを活用して学んでいる。ChatGPTは、未成年者の使用には保護者の承諾が必要なため、文書で保護者の同意を得ているという。

岩瀬先生の授業で実践している生徒による生成AI活用法

生徒による活用として、ChatGPTを使った英作文の添削を挙げた。大前提として、英作文については「まずは自分の力で書くこと」を重視していると岩瀬先生。「宿題に英作文を出すとChatGPTを利用したかどうかの見分けがつかないため、英作文は教室で書かせるようにしている」と話す。

そして、教室で書いた英作文をChatGPTに入力し直して添削してもらう。生徒は使い慣れてくると、自分が使いやすいようにプロンプトをアレンジし始め、「私の家庭教師になったつもりで、誤りを説明するのではなく問い直してください」「私が誤りを修正できるように導いてください」と対話するように調整していくという。

「私の家庭教師になったつもりで…」とChatGPTに指示を出して添削してもらう

「大切なのは、生徒自身が自らの英語力を向上させるためにChatGPTを活用するという観点」と岩瀬先生。生徒が生成AIを活用するとき、答えを聞いてしまうのではないかと危惧する声もあるが、生成AIは情報を誤って生成してしまう恐れがあることや、「答えだけ聞いても意味がない」と生徒に繰り返し声をかけていると語った。

ちなみに、ChatGPTを使用した高校2年生の感想としても、「すぐに答えを求めるのではなく、自分でも考えられるように工夫して使用したい」という声や、「行き詰ったときにどう発展させれば良いかを対話しながら見つけていく」という声が上がっており、生徒も意味のある使い方をしようとしているのがわかる。

ChatGPTを授業で使用した高校2年生の感想

生成AIの活用が進んでも、教員の役割はなくならない

岩瀬先生は最後に、「生成AIを使う大原則は、教育効果が高まること。生成AIを使って時間短縮できた分だけ、生徒に向き合う時間が増える」と語った。

また生成AIの活用が進んでも、教員の役割がなくならないと強調する。「英語の技能を身に付ける学習は生成AIによって個別最適化していくが、学びはそれだけでは終わらない」と岩瀬先生。「授業の意義は協働的な学びにあり、これからはさまざまな価値観や物の見方、他者の意見を受容し、引き出す力が大切だ」と述べた。英語の知識だけでなく、英語の授業を通してどのような力を身に付けるのか、それが大事だというのだ。

英語だけでなく、生成AIの教育活用においてはまだまだ賛否両論あるが、学習目的や教員の業務に合わせて有効に生かせることもセミナーを通して見えた。生成AIでどのように教育効果が高まるのか、今後も見届けていきたい。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやアプリを中心としたゲーム雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは幼稚園児&小学生の母。親目線&ゲーマー視点でインクルーシブ教育やエデュテインメントを中心に教育ICTの分野に取り組んでいく。