レポート

教育実践・事例

「小学校情報科」2年目の挑戦!宮城教育大学附属小学校が最前線の授業を公開

1人1台のタブレットPCで学ぶことが当たり前になりつつある今の子供たち。情報活用能力を着実に育んでいくには、どのような教育実践に可能性があるだろうか。

その貴重な実践例となるのが、宮城教育大学附属小学校だ。同校では2023年度に文部科学省の研究開発学校の指定を受け、「小学校情報科」を設置して小学校に合った情報の学びを体系的に実施しようと取り組んでいる。2年次を迎えた2024年11月15日、公開研究会が開かれ授業が公開された。

小学校らしい「情報科」の学びの実証研究

宮城教育大学附属小学校

同校では、小学校段階でもコンピューターやデジタル情報を扱う基本的な知識やスキルを身につけるための学びが必要と考え、2020年に特定非営利法人みんなのコードとの共同研究でコンピュータサイエンス科の授業に取り組んだ。その後2023年度に、文部科学省の研究開発学校の指定を受けて「小学校情報科」の研究を始めた。現在1~4年生で年間20時間、5、6年生で35時間を既存の教科等の時間から確保し、「小学校情報科」の授業を実施している(詳しい背景は、2023年度の公開研究会レポートを参考)。

2024年度は研究開発学校として2年目にあたる

研究開発学校として、2年目で大きく見直したのは内容領域の枠組だ。1年目はコンピューターサイエンス科の時の内容をベースに9つにわたっていたが、これを3つの領域に再構成した。研究開発学校担当の上杉泰貴教諭は、「要素の数が多く単元構成が内容中心になってしまったこと、また、学習者や授業者にとって学びをイメージしやすい言葉ではなかったこと」から再編したと説明する。今の学校に馴染むコンパクトな枠組にしたことは、内容を肥大化させないためにも重要で妥当な判断だっただろう。

1年目は多岐にわたっていた分野を3つに再編した
3つの分野に3〜4つの内容区分を設定。現在の年間指導計画を基に、単元ごとに扱う区分を整理すると、利⽤⽅法については低・中学年が中⼼となり、情報社会とのかかわりは⾼学年に多く分布した

この⽇の公開研究会では、「⼩学校情報科」の授業が3つの学年、また、情報の学びを⽣かした教科の授業が3つの学年で、それぞれ公開された。

ロボコン風の課題にプログラミングで挑む:「小学校情報科」4年生

上杉泰貴教諭

上杉泰貴教諭による4年生の「小学校情報科」は、「データを集めてよりよく動かそう~ロボット・ミッション~」。プログラムで動く小さなキューブ型ロボットtoioを使って、制限時間内により多くのボールをゴールに集めるミッションに挑戦した。どうすれば効率よくボールを集められるかを考えて、ロボットの動きをプログラムしたり、部品作って取り付けたりする。子供たちはすっかり乗り気で授業開始前からグループで試行錯誤を始めていた。

小さな白いキューブ型のtoioはプログラムで動きを指定する。丸いふわふわのボールをゴールに入れるのがミッション

プログラミングに取り組んでいたある児童は、「ぞうきんがけをするみたいに行ったり来たりさせたい」と何度もプログラムをいじっては実行してtoioを動かしていた。頭の中のイメージ通りに動かしたいという意欲が自然な試行錯誤につながっている。

プログラミング中。イメージ通り動く繰り返しのパターンを見つけようとしている様子だった。ビジュアルプログラミングScratchを元にしたtoioのプログラミングアプリ

toioに取り付ける部品の形状も、グループによって発想はさまざま。紙などでプロトタイプを作って試した上で、3Dのモデリングデータを作って3Dプリンターで出力していた。いい形状だと思っても、動かしてみると予想外のことに気付いたりするものなので、プロトタイプで繰り返し試すことは重要だ。

ボールを集めやすくする部品は、紙でプロトタイプを作っていろいろな形状を試している。3Dプリンタで出力したパーツと他の素材を組み合わせているグループも
3DモデリングにはAUTODESKのTinkercadを使用。直感的な操作で作れるのでハードルは低く、ウェブブラウザーから利用できるので児童のChromebookから問題なく使えていた
パーツをテープなどで貼り付けるグループが多い中、toioを取り付けられる形状の部品を作ったグループも。toioのサイズをメーカーサイトで調べたという
3Dプリンターで出力中。出力状態をときどき児童がチェックしに来る

この授業では、試行錯誤の過程でデータを記録することもテーマのひとつ。同じプログラムで部品を変えるなど条件をそろえて集められたボールの数を記録することで、改善につなげるのが目的だ。

部品の形と集められたボールの数をワークシートに記録

データを集めるよりも、まだ自由に試行錯誤している段階のグループが多い様子だったが、プログラムを繰り返し修正して曲がる時のスピードを調節したり、動かしたい角度を分度器で測ってプログラムに反映したり、いくつかの動きを切り替えられるようなプログラムにしたり、部品の形状を変えたりとさまざまな工夫が見られた。動きをつかさどるプログラムとボールをとらえる部品の形状両方を考える必要があるので、ロボットのソフト面とハード面両方で課題解決に挑戦する機会になっていた。

あかりの空間演出をプログラミングで:「小学校情報科」5年生

新田佳忠教諭
インタラクティブアート鑑賞会のポスター

5年生の「小学校情報科」は新田佳忠教諭による「インタラクティブアートにチャレンジ!」。シングルボードコンピューターmicro:bit を使って、テープタイプのLEDライトを制御して光による空間演出をする。最終的には校内で鑑賞会をするのが目標だ。

micro:bitは音や温度、光、傾き、方位などのセンサーが内蔵されているので、プログラム次第で声や動きに反応して光るような演出も実現できる。見る人のアクションに反応するインタラクティブな演出をするのがポイントだ。

この日はグループで装置の制作を進め、プログラムや光の見せ方の工夫を重ねた。子供たちは、光を増幅するために緩衝材や紙、水の入ったペットボトル、アルミホイルなどを使ったり、暗くするために大きな箱や黒い紙などを使用したり、いろいろな方法を試している。実現したい世界観は、クリスマスツリーや、星空、お祭り、剣と盾、光るクラゲなど、グループによってさまざまだ。

工作の材料がそろう。プログラミングと工作が自然と融合
光による演出効果が上がるようにさまざまな工夫をしている
暗い部屋で光の効果を確認

インタラクティブな仕掛けにはプログラムが欠かせない。動きに反応して光るとか、大きな音に反応して光の色が変わるとか、傾きや衝撃で色が変わるとか、いろいろなアイデアに挑戦していた。やりたいことははっきりしているものの、それを実現するプログラムには苦労していて、まだうまくいっていない段階だったり、プログラミングが得意な児童に教えてもらったりしている様子があった。

緩衝材でLEDをくるんで光るクラゲに仕立てた。micro:bitの傾きや衝撃で違う色に光るプログラムに挑戦している
音の大きさに応じて光の色が変わる。手をたたいたり大きな声を出したりして試していた

プログラミング学習は、必然性のある状況設定がモチベーションを上げる

4年生でも5年生でも、とにかく子供たちが熱心に楽しそうに取り組んでいたのが印象的だ。ボールを集めるというロボコンのようなミッションや、光の演出で人を楽しませるという目標があるので、試行錯誤の頻度や熱量が上がる。やりたいことや頭の中でイメージしていることを実現するためにプログラミングをするという状況設定ができていて、自然とモチベーションが上がる仕掛けになっていた。

現行の学習指導要領では、「小学校情報科」という教科に該当する教科が存在しないため、プログラミングは既存の教科の中で実施するのがひとつの選択肢になっている。例えば、算数の正多角形の学習の際に、プログラムで正多角形を描く活動をするという例が示されているのだが、今回の授業で見たような子供たちの生き生きとしたモチベーションを、多角形を描くという状況設定で生み出すのは非常に難しいことだと感じる。

算数など既存の教科でプログラミングを行う際は、その教科の学習目的を達成する活動をすることになっているため、どこか状況設定に無理があると感じることが多い。その点、今回の「小学校情報科」の枠組では、プログラミングの必然性が高い状況の授業設計ができた。そのおかげか、子供たちの実現したい思いやワクワク感がプログラミングにうまく直結し、試行錯誤の質が上がっているのを実感した。

紙に描く絵とデジタルで描く絵はどう違う?:「小学校情報科」1年生

金洋太教諭

1年生の「小学校情報科」は金洋太教諭による「コンピューターでえをかこう」の単元。学級のマークを作るというテーマで、手描きで絵を描いた上で、コンピューターで絵を描くことに挑戦した。その過程で、デジタルで描くことと紙に描くことの違いに気付くのがねらいだ。

同校では中・高学年はChromebookを使用しているが、低学年はiPadを使用している。絵を描く際は描画アプリ「Sketches School」を使用した。

手描きで描いたりデジタルで描いたり
対称的な図形を描ける機能で花のような模様をいくつも描いている
手描きとデジタルで同じような星を描いている
手描きで左の絵を描いた児童はデジタルでは右の絵を描いた。同じコンセプトで描いた様子

また、金教諭は色のイメージを膨らませる参考として、言葉からカラーパレットを生成する生成AIツール「ColorMagic」を紹介。子供たちは自由に言葉を入力して色を生成してみていた。生成した色にはRGB値が表示されるので、描画アプリのカラー指定で同じ数値を入れれば同じ色を再現できる。

ColorMagicでキーワードをもとに生成された色のパレット(左)。RGB値を書き留めて描画アプリで同じ色を指定しようとしている(右)

1年生はまだ学校でiPadを使い始めて1年も経っていないので全体的に操作はゆっくりだが、ワークシートや情報共有アプリPadletへの書き込みなども行って、コンピューターで絵を描くことの特徴を共有していた。

文字パレットで入力して、Googleドキュメントで配布された学習カードに記入(左)、Padletに投稿された子供たちの作品と、コンピューターで絵を描く特徴についての気づき(右)

情報科の学びを既存の教科でどう生かすか

公開研究会では、情報科の学びを生かした理科、社会科、算数科の授業もそれぞれ公開された。3年生の社会科(鹿内隆世教諭)では「売り方にひみつはあるの?」をテーマに、実際にスーパーに行って調査したことや家族へのアンケート、ウェブで調べたことなどを元に、販売の工夫について考えた。

スーパーでの販売方法について気付いたことと、その理由を書き込んでいる。
振り返りなどの際には、手書きとPCどちらを使う児童もいた

5年生の理科(相馬大輔教諭)では「人のたんじょう」の単元で「母親の子宮の中でどのように大きくなるのか」について教科書やウェブで調べたことなどを元にスライドにまとめた。自分で何に焦点をあてて調べるのかという学習計画を立てて進めているのが特徴だ。作りたいスライドのイメージが先行してしまう児童には、「まずはデータを集めて」「教科書に描いてあることをまずよく読んで」などの声かけがされていた。

個別に学習計画を立てて進める
それぞれ自分なりの方法で情報を調べてスライドを作成した

また、6年生の算数(芳賀雄大教諭)では「データの特ちょうから判断しよう」のテーマで、ボーリングゲームの得点データの分布から、全員が楽しむには何点でゲームをクリアできる条件にするかを考えた。個人でスライドに自分の考えをまとめる作業が中心だが、スライドはクラスで共有しているので他の人の意見を随時参照したり、全体でも意見交換を行ったりして授業が進められた。

この日扱ったのは、2つの山がある得点分布。それまでは、代表値(平均値、最頻値、中央値)のいずれかをゲームクリアの条件にするのが適当な分布パターンを扱ってきたが、2つの山があるデータを見て、子供たちは代表値がクリア条件に向かないことに気付いていった。さらに、どうしたら全員が楽しめるルールを導き出せるかについて考えを深めた。

検討するデータと背景、先生が用意した「問い」を手がかりに個別に考えを深める
個別に思考する時間には、それぞれがいろいろな方向からデータの裏にある背景を考えていた

授業の後半で別のデータを扱った際には、与えられた数値データをさっと分析用のスプレッドシートのデータ列にコピー&ペーストしてヒストグラム化する児童の姿があり、PCがデータを可視化して考える手段として定着しているのを感じた。

いずれの授業も「小学校情報科」との関連を打ち出していたが、日々PCを使っていればこれらの授業に限らず関連性は常にあるだろう。逆に、「小学校情報科」で学んだからといってすぐに身につくスキルばかりではないので、例えばウェブ検索で適切な情報源を見つける力などは、どの教科でも声かけをして長い目で育むことが大切だと感じた。

小学校段階での情報活用能力の育成は急務

東京学芸大学教職大学院・教授/学長特別補佐 堀田龍也氏

授業公開のあとは、複数の分科会に続いて最後に東京学芸大学教職大学院 教授/学長特別補佐 堀田龍也氏が講演を行い、この日の授業の講評に加えて、小学校段階での情報活用能力の位置づけや捉え方、今後の学習指導要領改訂へ向けてのフェーズなどについて丁寧に解説した。

時代は大きく変化し、間もなく実施される2025年1月の大学入学共通テストでは情報Ⅰが初めて実施され、2027年度には小中学校の全国学力・学習状況調査がCBTに移行する予定となっている。ICTの整備や活用実態は自治体や学校によって差があるが、「かなり緊張感を持って準備した方が良いのでは無いか」と堀田氏はコメントした。

とがった実践よりも、年齢に適した内容と到達点の整理に期待

小学校における情報に関する学びが、次の学習指導要領でどのような位置づけになるかはまだ決まっていないが、何らかの形で小学校段階からのていねいな傾斜をつけた学びを組み込むことが必要だろう。同校にはぜひ、とがった珍しい授業実践よりも、引き続き年齢に適した内容と到達点が整理された学びの研究を期待したい。

上杉教諭によると、「『小学校情報科』で取り扱う内容を具体化したことで、削減出来そうな教科の内容が明らかになってきた」ということなので、教育課程全体で子供の負担を増やすことなく内容や時数をどう調整するのかというモデルも見えてきそうだ。

「小学校情報科」で扱う学習内容に関しては、来年度さらに修正が加えられる見込みなので、各単元で想定している学習内容が年齢に対して適正なのか、情報学の視点で見た時に解釈にずれが無いかなどの点検や、内容によって汎用的なスキルとして育てるのか、技術の体験的な理解として位置づけるのかなどの整理もできるだろう。引き続き子供たちの学びが豊かになることを期待したい。

狩野さやか

教育ICTライターとして、学校や家庭のICT活用について各種媒体で多くの記事を執筆している。プログラミング教育を含む情報教育や特別支援の領域に詳しく、デジタルリテラシーに関する講座等も行う。株式会社Studio947の「知りたい!プログラミングツール図鑑」、「ICT toolbox」の運営責任者。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)他。