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Google、AI教育利用を本格化 3大都市が語るChromebook移行のリアル

―「EDIX東京2025」レポート④

Googleブース

グーグル合同会社(Google)は、4月23日から25日に東京ビッグサイトで開催された「第16回 EDIX(教育総合展)東京」に出展し、「Google for Education」を展示した。

ブースでは、Google Workspace for EducationやChromebookに加え、生成AIの展示コーナーも大きく展開。さらにプレゼンテーションシアターでは、GIGAスクール第2期でChromebookへの移行を進めた自治体の登壇セッションや、Google for Educationの活用事例を紹介するセミナーが行われた。

関心を集めた「Geminiアプリ」と「NotebookLM」

ブースの通路に面した目立つコーナーでは、Googleの生成AIチャット「Gemini アプリ」とAIノートツール「NotebookLM」が展示されていた。

Googleの生成AIチャット「Gemini アプリ」とAIノートツール「NotebookLM」の展示
Geminiアプリの展示

Gemini アプリは、Google for Educationのコアサービスに追加され、13歳以上の生徒も利用可能となった。展示スペースでは、有料版チャットツール「Gemini Advanced」でデモが実施され、Googleドライブ上のWord形式のメモを元に、大学推薦状の下書きを作成する指示を出すと、問題なく推薦状の文案が生成された。また、PDF形式の報告書から内容を要約し、要点を整理する使い方も紹介された。

メモから大学推薦状の下書きを作成してもらう
元になったメモ

学校現場向けの例としては、試験問題のWord文書を元に「この生物の試験問題と同じ学習目標と難易度で、別バージョンの問題を作成してください」と指示し、新たな問題が出力される様子も紹介された。さらに、授業案を作成し、それをもとにしたグループワークの案も生成される例を見ることができた。

授業案とそのグループワークの案を作ってもらう

NotebookLMは、自分がアップロードした文書やWebリンクの内容をもとに、AIが回答や要約、質問への対応を行うツールである。たとえば、組織の規則やマニュアルといった独自の資料をもとに情報を引き出したり、信頼できる限定的な情報ソースだけを参照して回答を生成させたりできる点が特徴だ。

NotebookLMの展示

例としては、PDF文書や、YouTubeのリンク、過去の授業で作った成果物を入れておき、そこから授業内容を作ってもらうといった使い方が紹介されていた。

NotebookLMに文書を入れる

また、生成された文書の内容を2人の人物による会話形式の音声で解説する「音声概要」機能もデモされていた。なお、音声概要の機能は展示時点では日本語に対応していなかったが、後日4月30日に日本語対応が発表されている。

文書の内容について会話形式の音声で解説する音声概要機能も

そのほか、マインドマップを作成や、組織のマニュアルを入れてチャットボットを作り組織内で共有する例も紹介されていた。

マインドマップを作成
チャットボットを組織で共有

Google Workspace for Educationの最上位エディションの機能を紹介

Google Workspace for Educationのコーナーでは、最上位エディションの「Google Workspace for Education Plus」の機能を中心にデモ展示していた。

その中でも、人気があるという「演習セット」は、教材に関連した演習問題(ドリル)を簡単に作成できる機能だ。ヒントや関連情報を設定することも可能で、回答はキーボードのほか手書きも使用でき、数式を入力する機能もある。児童生徒の回答状況や正解不正解の情報はGoogle Classroomで確認でき、自動採点機能もあるなど、教員の労力を削減できるという。

Google Workspace for Educationのコーナー
演習セットのデモ。手書きで回答でき、ヒントも表示される
数式を入力する機能

その隣には、Google ClassroomやGoogle Workspace for Educationと連携可能なデジタル教材のコーナーが設けられていた。

たとえば、東京書籍が提供するデジタル教科書とデジタルコンテンツ集「NIMOT」の場合、デジタル教科書では、教科書自体に加え、Google Classroomとの連携が可能となっている。教員が教科書のページから「Googleコンテンツ」を選ぶと、東京書籍が教師用指導書を元に作成した、そのページに関連したまとめのフォームや確認テストが表示される。また、これを児童生徒に直接配信することもできる。

ほかにも、小学校1年生から中学校3年生までの全教科のコンテンツが入っている教材「NIMOT」では、デジタル教科書と同様に、Google Classroomと連携し、コンテンツから教員が課題を作成して児童生徒に配信する機能を紹介していた。

デジタル教材のコーナー。取材時には東京書籍のコンテンツを展示
東京書籍のデジタル教科書
ページに関連したまとめのフォームや確認テスト
デジタルコンテンツ集「NIMOT」
コンテンツから教員が課題を作成

なお、ブース展示とは別会場で開催されたGoogleの特別講演によると、Google Workspace for Education Plusでは、年内にも授業支援システムのような新機能をリリース予定だという。この機能では、児童生徒の画面をリアルタイムで共有したり、画面をコントロールできる操作、夜間の利用制限などが実装されるようだ。

年内リリース予定の新機能「クラスツール」

Chromebookコーナーでは、児童生徒向け端末と教職員向け端末に分けて、各社のChromebook端末が展示されていた。

児童生徒向けChromebookコーナー。各社のChromebook端末を展示
教職員用端末はChromebookの高性能モデル「Chromebook Plus」を展示

そのほか「学びのサポート」のコーナーでは、顔や頭の動きによりChromebookを操作する「フェイスナビ」を体験デモしていた。

フェイスナビで顔や頭の動きによりChromebookを操作

大阪市・北九州市・松山市がChromebookに移行する理由

プレゼンテーションシアターでの講演の中でも、大阪市、北九州市、松山市という3つの大都市の教育委員会の担当者が、GIGAスクール第2期にあたってChromebookに移行することを決めた経緯について語るパネルディスカッション「30万台規模!大阪市・北九州市・松山市の三大都市が語るChromebook移行のリアルと目指す持続可能な運用とは」が興味深かった。

パネリストは、大阪市総合教育センター 総括指導主事 倉木直也氏、北九州市教育委員会 指導主事 西政昭氏、松山市教育委員会 教育研修センター 指導主事 小田浩範氏。モデレーターは、Google for Education 営業本部 第二営業部長 新田拓也氏。

右から、大阪市総合教育センター 倉木直也氏、松山市教育委員会 小田浩範氏、北九州市教育委員会 西政昭氏、Google for Education 新田拓也氏

まずは現在の取り組みの紹介だ。

北九州市は2年前に端末更新の検討を開始し、検討会議や小・中学校での実証授業を経て、2024年にChromebookの導入を決定した。現場ではようやくWindows端末に慣れてきたタイミングだったため、「今からChromebookに切り替えると現場が混乱する」という懸念があり、西氏も当初は否定的な立場を取っていた。しかし、実際に先生や子供たちが端末に触れてみると、意外にも反対意見は少なかったという。

検討会議や実証授業を実施

松山市は、使用していたWindows端末で、起動や動作の遅さ、OSやアプリのアップデートにかかる時間の問題などが課題となっていた。そこでGoogleからChromebookを借り受け、実証授業を実施。授業の中で子供たちが「手書きが書きやすい」「起動が速い」と喜ぶ様子を動画で記録し、それを教育委員会などで共有したところ、採用が決まったという。

子供たちが感じたよさ
OS変更を検討した理由

大阪市は自治体が大きいため、4つの教育ブロックに分かれている。GIGAスクール第1期では、このうち第1ブロックだけがChromebookを、ほかのブロックはWindowsを採用していた。これにより、WindowsとGoogleの両方のアカウントが配られたことから、アプリや機能が多すぎてどれを使ったらいいかわからない、研修も大変、教員がブロック間を異動すると学びなおし、といった課題があった。そこで、GIGAスクール第2期からChromebookに統一したという。

4つの教育ブロックに分かれている
教員の声による課題とChromebook導入

今回の端末更新にあたり、「Chromebookに変更した一番の理由は何か」という問いでは、起動や動作の速さが口々に挙げられた。さらに大都市になるほど管理が大変になることから、機種ごとの設定の違いもなく、シンプルに構成や設定を管理できるという声も挙げられた。

また、Chromebookへの移行を進める過程では混乱も生じるが、それでも導入を進められた一番のポイントは何か、という問いに対しては、各自治体から次のような回答があった。

北九州市の西氏は、研修機会の充実を挙げ、希望制で参加者を募集したところ、多数の応募があったことを紹介。松山市の小田氏は、当初否定的だった教員も、実際にクラスで試してみると子供たちと同様に快適さを感じ、子供たちが喜ぶ様子を見ることで肯定的に変わったと語った。大阪市の倉木氏は、更新への不安をいかに最小限にするかがポイントだと語り、教育センター向けの研修会が非常に盛況だったことを報告。今後さらに、教員向けの研修会も予定されていることを紹介した。

北九州市:研修機会の充実
松山市:否定的な意見も実際に触ると変化
大阪市:更新への不安を最小限に

今後については、Chromebookの活用を通じて授業をさらに発展させていきたいという思いを、それぞれの担当者が語り、セッションを締めくくった。

高橋正和