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鈴木教諭の生成AIガイドライン解説(前編)――教師はどのように受け止めるべきか?

文部科学省の「生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.2.0」が公開され、学校現場でも生成AIの活用が広がりつつあります。先生方はどのようなポイントを押さえるべきでしょうか。本ガイドラインの制定を検討した委員の一人であり、生成AI活用の実践にも熱心に取り組まれている東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹教諭に、ご寄稿いただきました。
【目次】鈴木教諭の生成AIガイドライン解説

・前編 教師はどのように受け止めるべき?
・中編 教科学習と「組み合わせ」てAIを活用し、AIを学ぶ
・後編 「不適切」な活用場面は本当にそうなのか?

「生成AIガイドラインVer2.0」はできたものの……

2024年12月26日に 文部科学省が「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver. 2.0)」を発表しました。2023年7月に発表されたVer.1.0にはついていた「暫定的な」「機動的な改訂を想定」といった文言が取れたところからも「前回は大慌てで作りましたが、今回は本格的に作りましたよ」という意図が伝わってきます。

「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」【概要】(出典:文部科学省)

このガイドライン改訂を担ったのが「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議」です。2024年7月25日に第1回が開催され、半年弱の間に全7回の会議が開催されたわけですが、私も委員の一人として関わらせていただきました。

他の委員の方は皆さん、工学、心理学、教育学の第一人者であったり、自治体の教育長であったりするわけです。そうした錚々たる先生方の中に自分が混じっていていいのかといささか疑問には思いましたが、これは恐らく「実際の教育現場で生成AIを活用した授業を行っている人の声も入れたい」ということだろうと思ったこと。また、納得のいかないこともあるかもしれないけれど、遠くから石を投げるようなことを呟くより、中に入って発言できるチャンスならやるしかないだろうと覚悟を決めて務めさせていただきました。

この7回の会議を経て完成したガイドラインですが、それなりに充実したものにはなったものの、かなりのボリュームです。全33ページ。巻末資料やBoxとしてまとめられた備考を除いても楽に14ページ分はあります。そして、まあ、これは仕方ないのですが、いかにも文部科学省の資料的な文体でお世辞にも読みやすいものとは言えません。

このままでは、せっかく作ったガイドラインが読まれずに終わってしまうのではないか。そんな危機感から、今回、先生方に知っていただきたいポイントについて寄稿することになりました。勤務校のYouTubeチャンネルでも「 生成AIガイドラインの読み方 」という全5回シリーズの動画を公開していますので、こちらもあわせてご覧ください。

一番気になる、児童生徒の学習活動における利活用

このガイドラインの目次を整理すると次のようなことになります。

まずは、学校の先生が一番気になるであろうところから見ていきたいと思います。そう、「 3-2.児童生徒が学習活動で利活用する場面 」についてです。

このガイドラインを読んだ方から、「『生成AIの利活用に関する』となっている割に、活用に後ろ向きですよね」というような声を聞いたことがあります。それは恐らく次のような文言からそう思われるのではないでしょうか。

小学校段階の児童が直接利活用することについては、発達の段階等を踏まえたより慎重な見極めが必要である。

『【本体】初等中等教育段階における 生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver2.0)』の17ページ

ここを読むと「『慎重な見極め』を必要とするのか。何だか大変そうだな、やめておこう」となるのかもしれません。しかし、そうは捉えていただきたくないですね。では、どう捉えればいいのか。

「発達の段階等を踏まえたより慎重な見極め」をすれば、「小学校段階の児童が直接利活用すること」は問題ない。

そう捉えていただければと思います。しかし、それにしても「発達の段階等を踏まえたより慎重な見極め」とは何だかよくわからないですよね。こういうよくわからない文言を前にすると「手を出すのはやめておこう」という気持ちになってしまうのもわからないではありません。

ですが、大丈夫です。文部科学省だって、別に「発達の段階等を踏まえたより慎重な見極め」がどのようなものであるか、明確にわかっているわけではないのです。いや、文部科学省だけではありません。誰もわかっていないのです。

それはそうでしょう。生成AIは登場したばかりのテクノロジーです。それを児童が直接利活用するにあたってどのような見極めをすればいいか、明確な答えは出ていないのです。ですから、ここは「発達の段階等を踏まえたより慎重な見極め」とはどのようなものであるかを探るチャンスである、くらいに考えていただきたいところです。

まずは「生成AIに対する冷静な態度を養う」ことから

それを考える上でのヒントになりそうな私の経験を紹介しましょう。

まずは、児童の中に 「生成AIに対する冷静な態度を養う」というプロセスが必要 です。しかし、これは何も「生成AIとは何か」「生成AIとはどのような理屈で動いているのか」といった、小学生にわかるわけもない説明を長々と話せと言っているわけではありません。と言うか、我々だってそんなこと説明するの大変ですよね。

私が行ったのは 「教師が生成AIを操作し、その結果を児童に共有する」形式の授業を様々なパターンで行うこと です。「生成AIはどういったプロンプトに対してどう反応するのか」ということをたくさん見ることで、その体験から冷静な態度を養おうというわけです。

鈴木教諭による先生AIを活用した授業風景

しかし、先生方の中には「どんな答えが返ってくるか、そのときになってみないとわからない生成AIを授業で使うのはためらわれる」という方もいらっしゃるでしょう。そういう方には、以下の実践が参考になるのではないかと思います。この授業では、「授業前に教師がAIに生成させておいたものを授業で児童に提示する」という形を取っていますので、いくらかハードルが下がるのではないかと思います。

こうした授業を何回か経たあと、授業の中でライブで生成AIの動きを見せると、児童の反応もよりダイレクトなものになり、「生成AIに対する冷静な態度」が養われているかどうかを把握しやすくなるでしょう。この形式の授業としては、以下の実践があります。

児童の中に「生成AIに対する冷静な態度」が養われてきたら、いよいよ児童に直接、生成AIを操作させる実践も考えていいのではないでしょうか。ただし、その場合にも生成AIの出力結果を児童が冷静に受け止めやすいものから取り組む方が無難でしょう。例えば、次のようなものです。

意見文の特長について学び、実際に書いてみる授業の例です。まずは教科書で意見文の特長(「はじめに」と「おわりに」で主張が繰り返される等々)を学びます。その後、次のプロンプトで教師が意見文の例を作ります。

#意見を主張する文章を書いてください
#私の意見は、「小学校に朝礼は必要ない」です。
#文章の構成は以下のようにしてください。ただし、箇条書きや小見出しはいりません。一まとまりの文章にしてください。
##主張
##根拠
##予想される反論
##反論に対する考え
##まとめ

これを児童に共有し、意見文としておかしなところはないかを議論させると色々と出てくるわけです。意見文の完成度を高めるためにはプロンプトを改良するという方法もありますが、ここでは国語の授業としての学びを重視して、このプロンプトのまま、以下の流れで児童に取り組ませます。

【児童の活動内容】
1. 同じプロンプトでAIに意見文を作らせる
2. 生成された意見文を読む
3. 生成された意見文をWordに貼り、[校閲]-[変更履歴の記録]をOn
4. 「ここは違うよな」「これが入っていない」というところを書き直す
5. 修正が終わったものをTeamsの課題機能で提出

児童の中に「生成AIに対する冷静な態度」が養われていて、なおかつこの課題に納得していれば、すなわち 「自分の意見文としてきちんと作りたい」という意識を持っていれば 生成AIが出してきた意見文に、児童はかなり赤入れするはずです。

ガイドラインのわかりにくさは自由度の裏返し

いかがでしょうか。今回のガイドライン、確かにわかりにくくとっつきにくい部分はあろうかと思いますが、それは「ここはまだハッキリしていないところもあるから考えていきましょうよ」ということでもあります。つまり、変にうがった見方をしなければ、このガイドライン、実は かなり自由度の高いもの なのです( 中編につづく )。

鈴木秀樹(東京学芸大学附属小金井小学校教諭)

東京学芸大学附属小金井小学校教諭。慶應義塾大学非常勤講師。私立小勤務を経て2016年より現職。ICT×インクルーシブ教育、生成AI活用等が主要な研究テーマ。2024年文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議」委員。近著に「Unlock Learning: 特定分野の特異な才能への支援は、すべての子どもの学びにつながる」(金子書房)、「『非常識』な授業づくり 悩んだ時に立ち返りたい40の疑問」(明治図書、3月31日発売)。