レポート

教育実践・事例

中高生が生成AIを活用して作品づくり。自分では思いつかない発想が創造を広げる!

――「ライフイズテック AI x クリエイティブ 1Day キャンプ」レポート

ChatGPTにコードを質問してゲームづくり

ChatGPTをはじめとする生成AIを学校現場でどう活用するのか。大人たちが議論や試行錯誤をしている間に、中高生たちはすでに興味を持ち、体験し始めている。

ライフイズテック株式会社が運営する中高生向けのプログラミングキャンプでは、生成AIを活用する講座が大人気だ。同社は今年5月から生成AIを活用した短期キャンプを実施しているが、生徒や保護者に大好評だったことから、今年10月より、プログラミングスクールにおいても「AIクリエイティブコース」を正規コースとして新設している。

中高生たちは生成AIをどのように活用して、どんな体験をしているのか。同社が提供する「AI×クリエイティブ1DAYイベント」の様子をレポートしよう。

AIの持つ可能性やポジティブな使い方を知ることが目的

今回のイベントは、中高生がゲームや動画制作を通して、AIの持つ可能性やポジティブな使い方を知ることが目的。参加した中高生は、「AIは聞いたことがあるけど使ったことはない」と話す生徒がほとんどで、今まで未知の存在だったAIをより身近なものとして感じ、何ができるのかを知ることに重きが置かれている。

用意されたコースは「AI x 映像制作」と「AI x Unityゲームプログラミング」の2つ。参加者はどちらか好きな方を選んで、丸1日かけて制作に取り組む。

イベントの最初は、参加者全員で生成AIの概要や利用に関するレクチャー動画を視聴。今回のイベントのキービジュアルもライフイズテックのスタッフが生成AIで作成したことが明かされ、身近なところで使用されていることを知った。

参加者全員で生成AIに関する動画を視聴

その後は、チームに分かれて活動。アイスブレイクとして、各チームの大学生メンターが中心となり、チームで協力しながら画像生成AI「Stable Diffusion」を使った画像生成に挑戦した。場が温まったら、いよいよ個人の開発時間へ。ここからは映像制作とゲーム制作に分かれて、各自がテキストを見ながら作業を進め、わからない部分があればメンターに質問をする、という流れで進められた。

制作に打ち込む参加者

キャッチコピー、画像、動画、音楽、すべてを生成AIで制作してCMづくり

「AI×映像制作」コースで取り組んだのは、ChatGPTと動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro」を使った、清涼飲料水のオリジナルCMだ。

最初はChatGPTに慣れるために会話をするところからスタート。試しにCMのキャッチコピーを提案してもらうプロンプトを打ち込んでいく。

「清涼飲料水のCMを作成します。テーマは青春。ターゲットは部活を頑張る中高生です。このときのインパクトのあるキャッチコピーを10個考えてください」と入力。提案されたものに対して、「青春感をもっと強くしたいです」、「10文字ぐらいに削ってください」など、やりとりを重ね、より自分のイメージに近いキャッチコピーが出るように指示を加える。

当日用意されたテキストの一部。ステップごとに進められるテキストを用いて、ChatGPTの理解を深めていく

キャッチコピーを決めたら、画像生成AI「Stable Diffusion」や、テキストから動画を生成するAI「Runway」を使って映像制作に挑戦。音楽はテキストから音楽を生成するAI「Mubert」を使って作成した。ちなみに、Mubertはアカウント作成に年齢制限があるため、実際の操作はメンターが担当。参加者は自分が作りたい音楽のイメージワードを選び、生成される過程をメンターと相談しながら音楽を完成させた。

Runwayで動画を生成しCMに編集する

出来上がったキャッチコピー、画像、動画、音楽は、Adobe Premiere Proで組み合わせてひとつの作品に。さらに、もう一度、キャッチコピーを考え直すために、ChatGPTに聞き直したり、なかにはCMの構成自体をChatGPTに考えさせる参加者もいた。ChatGPTの回答からは、「太陽の光が差し込むシーンから始まる」、「女性が飲み物を飲んで元気になる様子を明るい色調で表現する」など、具体的なアイデアや構成が提示され、それを参考にCMをブラッシュアップさせていた。

出来上がったものを組み合わせて、Adobe Premiere Proでひとつの作品に

今回のイベントで初めてChatGPTを使った参加者の反応は、「使ってみると、意外とやりとりがしっかり成立することがわかった」というポジティブなものが多かった。ChatGPTに指示するだけで、自分では思いつかない発想を得ることができ、そこから創作活動が広がる楽しさを味わっていた。

ChatGPTやStable Diffusionでゲームをアレンジ

「AI×Unityゲームプログラミングコース」では、「ユニティちゃん」というキャラクターがステージを走る、「Unity.Run」というゲームを作成した。まずはゲームの基礎を作りながら、Unityの使い方に慣れ、ステージを作成。キャラクターが走る工程を終えると、Stable DiffusionやChatGPTを使ってゲームをアレンジした。

Stable Diffusionでは、ゲームの背景素材を作成し、世界観をアレンジする。最初は無機質だったステージが、岩場や砂漠、宇宙など個性豊かなものに変わっていく。ゲームのBGMは動画編集コースと同様、Mubertを使って生成した。

Stable Diffusionでゲームのステージをアレンジし、自分好みの世界観に

ChatGPTでは、ステージの障害物を追加したり、キャラクターの動きをより複雑にするコードの作成に挑戦。ChatGPTに思い通りの動きをコードで書いてもらうようプロンプトを工夫しては、生成されたコードをUnityに取り込みながら自分の作品の世界観を広げていった。参加者の中には、コードだけでなくChatGPTに「ゲームをより面白くするためのギミックを教えて」と聞く姿も見られた。

ギミックをより複雑に、ChatGPTでコードを編集しながらゲームをアレンジ

同コースに参加した高校生に話を聞くと、「自分で1からコードを書くのが大変な時や、『このコードはどう書くんだっけ?』と忘れてしまった時にChatGPTが役立ちました」とコメント。座標やプログラムのファイル名を指定し、どのオブジェクトをどう動かすか、細かく指示する必要があるものの、「プロンプトをしっかり提示すれば、完成度の高いコードが生成されるので、作業効率が上がるし、作品の幅が広がる」と語ってくれた。

「AI時代のハイパフォーマー」が生まれる時代に変わる

作品が完成した後は、チーム作品共有会。チーム内で作品を発表し合い、工夫点やこだわった点について伝え合った。中高生たちが仕上げた作品はどれも、1日で完成させたものとは思えず、生成AIを使ったアウトプットの速さに驚かされた。中高生でも短時間でここまでできることに、生成AIがもたらすインパクトを感じる。

チーム作品共有会。お互いの作品をプレゼンし合う参加者たち

ライフイズテック株式会社 取締役・最高AI教育責任者の讃井康智氏は、生成AIについて、今の高校生は生成AIを使って自分の能力をブーストできるようになると語る。

「現状のAIに100%正しい答えを求めることはできませんが、アイデアの壁打ち相手やプログラミングのサポートなど思考や創造のパートナーとして極めて優秀な存在となってきています。学校教育においても、AIが1人1人に学習のアドバイザーとしてつくようになれば、個別最適な学びをもう一段階上に引き上げることも可能性として考えられます」と、AIが教育に与えるポジティブな影響について語った。

一方で、学校現場や児童生徒がAIを活用することについては、不安や懸念点も多い。それについて讃井氏は、大切なのはAIを使うことによって得られる良い面とリスクの両方を知っておくことだと話す。AIを無思考に否定したり、人間との対立構造で捉えるのではなく、人間の創造性を引き出すことに利用できるという共創のアイデアを、これからの子供たちは持っておくことが重要だという。

「今回のイベントに参加してくれた中高生のように、AIの力を利用してプログラミングやグラフィックデザイン、作曲などさまざまな能力を発揮する“AI時代のハイパフォーマー”がこれからたくさん生まれるでしょう。今の中高生たちには、そうした力を武器にしながら、異領域をつないでイノベーションを起こし、社会課題を解決できる力を身につけてほしいですね」と讃井氏は語った。

文部科学省から生成AIの利用に関するガイドラインが発表されたが、学校で生成AIに触れ、学べる機会はまだまだ少ない。大人の適切な見守りのもと、子供たちがAIについて学び、自身の創造性をブーストできるような体験の機会を多くの学校で実現してほしいと願う。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは2人の男子を育てるママ。幼稚園児&小学校低学年の子どもを持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。