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鈴木教諭の生成AIガイドライン解説(中編)――教科学習と「組み合わせ」てAIを活用し、AIを学ぶ

文部科学省の「生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.2.0」が公開され、学校現場でも生成AIの活用が広がりつつあります。先生方はどのようなポイントを押さえるべきでしょうか。本ガイドラインの制定を検討した委員の一人であり、生成AI活用の実践にも熱心に取り組まれている東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹教諭に、ご寄稿いただきました。
【目次】鈴木教諭の生成AIガイドライン解説

前編 教師はどのように受け止めるべき?
中編 教科学習と「組み合わせ」てAIを活用し、AIを学ぶ
・後編 「不適切」な活用場面は本当にそうなのか?

既存の教科の中で積極的な活用を

前編に引き続いて、ガイドラインの本丸とも言うべき「3-2.児童生徒が学習活動で利活用する場面」について見ていきましょう。まずはちょっと長いのですが、ガイドラインから引用します。

児童生徒の生成 AI の利活用場面としては、「生成 AI 自体を学ぶ場面(生成 AI の仕組み、利便性・リスク、留意点)」、「使い方を学ぶ場面(より良い回答を引き出すための生成 AI との対話スキル、ファクトチェックの方法等)」、「各教科等の学びにおいて積極的に用いる場面(問題を発見し、課題を設定する場面、自分の考えを形成する場面、異なる考えを整理したり、比較したり、深めたりする場面等での利活用)」等が考えられる。それぞれの場面を意識しつつ、組み合わせたり往還したりしながら情報活用能力の一部として生成 AI の仕組みへの理解や生成 AI を学びに生かす力を高め、「日常使いする(生成 AI を検索エンジンと同様に普段使いする)」ことも視野に入れていくことが考えられる。

『【本体】初等中等教育段階における 生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver2.0)』の17ページ

これをそのまま読むと、「そうか、児童生徒が生成AIを使うのには、①生成AI自体を学ぶ、②使い方を学ぶ、③各教科等の授業で使う、という順番があるのだな」と読めてしまわないでしょうか。 違います。そんな順番はありません。

だいたい、もし順番だと言うのなら、「①生成AI自体を学ぶ」「②使い方を学ぶ」はどの授業で行えばいいのでしょうか。小学校には「情報科」はなく、この手の話になるとすぐに「総合的な学習の時間」や「特別活動」で扱うという向きもありますが、それらの時間の中で年間どれほど確保できるというのでしょうか。わずか数時間の中で「生成AI自体について学んで、その使い方も学ぶ」ことは可能でしょうか。ということは、どうしたって、 結局は既存の教科の中で積極的に活用しなければならない と思うのです。

そのために重要なのが、場面の説明の後に出てくる「それぞれの場面を意識しつつ、組み合わせたり往還したりしながら」という文言で、この 「組み合わせたり」というところがポイント です。例えば、どのような「組み合わせ」があり得るのか。私が取り組んだ実践をご紹介しましょう。

鈴木教諭による生成AIを活用した授業風景

生成AIが書いたお礼の手紙に、子供たちがダメ出し

小学校4年生、国語の「お礼の気持を伝えよう」という単元の学習でのことです。

この授業では、まず手紙の基本的な構成を学びます。挨拶から始まり、感謝の気持ちを伝え、最後に結びの言葉を添えるといった、一般的な手紙の形式です。その後、実際に手紙を書いてみる課題に取り組ませました。テーマは、宿泊生活でお世話になった管理人さんへのお礼の手紙です。

半分くらいの子供たちが手紙を書き終えたあたりで、生成AIにも同じ課題を与えて手紙を書かせてみました。生成AIに与えたプロンプトは、「あなたは小学校4年生です。先月行った宿泊行事の宿舎の管理人さんへのお礼の手紙を書いてください」というもので、手紙の構成は教科書にあるものを参考にしました。

【生成AIに与えたプロンプト】
あなたは小学校4年生です。先月行った宿泊行事の宿舎の管理人さんへのお礼の手紙を書いてください。以下のような順番で書いてください。
・季節の言葉
・相手の様子をたずねる言葉
・自分の紹介
・伝えたいこと
・相手を気遣う言葉
・別れのあいさつ
・日付
・自分の名前
・相手の名前(様をつける)

AIが生成した手紙を子供たちに見せると、多くの指摘がありました。指摘、というかダメ出しですね。

その内容を分類すると、手紙の形式や表現に関して間違いを指摘するもの、事実と異なる内容があると指摘するものでした。例えば、「いつでも声をかけてくれた」と書かれていましたが、子供たちからは「実際には管理人さんは厨房にいてあまり話す機会がなかった」という声があがりました。また、「炎天下の中大変だったことと思います」という部分に対しては、「宿泊生活に行ったのは6月の長野で涼しかった」というようなズレが指摘されました。

生成AIが書いた手紙に子供たちが指摘したもの。青が手紙の形式や表現に関して、赤は事実と異なる内容について指摘があった

ここで、私から子供たちにこういう話をしました。

「AIは膨大なデータを学習している。それは僕ら人間では絶対に敵わない。そして、AIはその学習データをもとに文章を作るわけだね。でも、 AIは君たちが実際に宿泊生活での体験から何を感じ、どんな感動を抱いたのかはわからない。お礼の手紙を書くなら、そこじゃない?

この言葉に子供たちは納得し、お礼の手紙をより良いものにするために、推敲を重ねていきました。

生成AIが書いたお礼の手紙に、子供たちがダメ出し

この授業でのAIの活用場面は、どのようなものであったと言えるでしょうか?「各教科等の学びにおいて積極的に用いる場面」であることは間違いないですよね。AIの生成したものを吟味して、自分の書いたお礼の手紙の推敲に向かったわけですから。

しかし、これは同時に 「生成AI自体を学ぶ場面」とも言える はずです。AIはなぜお礼の手紙を書けたのか。なぜ、間違った内容を書いてしまったのか。そういったことについて学ぶところから、子供たちはAIの可能性や限界についても考えていくことができます。

ということは、 この授業は「生成AI自体を学ぶ場面」と「各教科等の学びにおいて積極的に用いる場面」を組み合わせたもの、 と言えるでしょう。このように、3つあげられている活用場面は「その順番でやりなさい」ということではなく、組み合わせたり往還させたりしながら進めることが肝要です。

児童生徒による生成AIの利活用場面のイメージ

なお、この授業の場合、「内容的に間違いのないお礼の手紙をAIに生成させるにはどのようなプロンプトにすればよいか」という検討を取り入れれば「使い方を学ぶ場面」をも組み合わせることになるわけですが、それをやるとそもそもの国語の授業の目的から逸脱しかねません。その辺りの匙加減は非常に大切になってくるでしょう。

話を戻しますが、3つの活用場面を組み合わせたり往還したりして、教科の学習を進めながら子供たちの中に「生成AIってこうなっているのだな」「生成AIはこうすれば学びに生かすことができるぞ」という意識を醸成することができれば、「生成AIを日常使いして学ぶ子供」になっていくのではないでしょうか( 後編につづく

鈴木秀樹(東京学芸大学附属小金井小学校教諭)

東京学芸大学附属小金井小学校教諭。慶應義塾大学非常勤講師。私立小勤務を経て2016年より現職。ICT×インクルーシブ教育、生成AI活用等が主要な研究テーマ。2024年文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議」委員。近著に「Unlock Learning: 特定分野の特異な才能への支援は、すべての子どもの学びにつながる」(金子書房)、「『非常識』な授業づくり 悩んだ時に立ち返りたい40の疑問」(明治図書、3月31日発売)。