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自動採点・記憶定着・進捗管理はデジタルでサポート、EDIXで見た今どきの個別教材
――第13回教育総合展「EDIX東京」展示会場レポート④
2022年5月18日 06:35
第13回 EDIX(教育 総合展)東京レポート 目次
2022年5月11日(水)~13日(金)に東京ビッグサイトで第13回教育総合展「EDIX東京」が開催された。コロナ禍の影響をダイレクトに受けた2020年、2021年に比べ少し雰囲気は明るくにぎやかになった印象だが、この2年間でGIGAスクール構想によって1人1台端末が各小中学校に行き渡り、業界の状況はガラリと変わった。
今まさに活用フェーズ真っ只中で迎えた今回のEDIX。第3回となるSTEAM教育EXPOの展示ブースを中心に、デジタル教材に注目してレポートしよう。もはや自動採点、個別最適化、進捗管理機能などは当然の機能となり、それらの機能の洗練度合いやUIデザイン、教材コンテンツ自体の質で勝負するフェーズに入っている。
学習記憶の定着に特化したアプリ「Monoxer」
教材系のエリアで比較的大きなブースを構えていたのがモノグサ株式会社。同社の「Monoxer」(モノグサ)は学習記憶の定着に特化した学習アプリで、先生が手間をかけずにオリジナル教材を作り、児童生徒が効率よく反復学習を行なえるツールだ。
先生は、定着を促したい内容を登録するだけで、設問が自動生成され、対象の児童生徒に問題集として配信できる。各設問は自動採点されるので、管理画面から各児童生徒の進捗状況や記憶定着度をチェックすればよい。
出題フォーマットは、単語、漢字手書き、計算、スピーキングなど複数用意されているので反復練習を促したい多くの領域をカバーできるだろう。小テストの作成と実施の機能もあり、自動採点で簡単にクラス全体の定着度を把握できる。
利用する児童生徒は、デジタルドリル感覚で出題される設問に回答していくだけで良い。解答状況に応じて難易度や出題頻度が自動的にコントロールされ、使うに従い各個人に最適化されていく。期日を設定して学習ペースを提案したり、記憶度を可視化するなどモチベーションの維持に役立つ仕組みも用意されている。
以上のように、Monoxerは仕組み提供型のサービスといえるが、それだけでなく既存の教材をコンテンツ購入することも可能だ。英単語や漢字など入試や検定試験を想定して作られた大手の教材をMonoxer上で利用できるのが魅力。なお、コンテンツ購入は学校や塾など法人契約の場合のみ可能で、個人利用の場合は無料コンテンツのみの利用となる。
なお、MonoxerアプリはiOS、Androidの各タブレット、スマートフォンから利用でき、管理機能のみウェブブラウザ(Google Chrome)にも対応している。
全国で8000校が導入。デジタル学習教材「ラインズeライブラリアドバンス」
授業や家庭学習で使いやすいデジタル教材を提供しているのがラインズ株式会社。小中学校の5教科と中学校の実技教科にまで対応した「ラインズeライブラリアドバンス」は、すでに全国8000校以上の小中学校での導入実績があるデジタルドリル型教材だ。
各社の教科書の内容に対応しているので、先生が授業の進度に応じて利用しやすい。日頃のドリルへの解答状況や確認テストの結果に応じて、各児童生徒にふさわしい難易度や分野の課題を提示する仕組みがあり、個別最適化した学びも提供する。
また、利用者は小中の学年や教科を問わず、コンテンツを行き来することができる。例えば、中2のある理科の問題に正答できなかった場合、関連項目として、中1の数学のある単元が苦手克服問題として表示されるなど、個人の取りこぼしを学年や教科を越えてさかのぼれるのだ。逆に、発展教材として上の学年の問題への挑戦が示されることもあるという。
ラインズeライブラリアドバンスはウェブブラウザで利用でき、通信環境に配慮しオフライン利用にも対応している。シングルサインオンに対応したり、同一自治体内ならば子どもの学習履歴の引き継ぎができるなど、学校現場のリアルな状況に即したサポート体制を整えている。
先生の管理機能や、児童生徒の自己把握やモチベーション維持のしかけなども一通りそろっている。こうしたジェネラルなデジタル教材の導入は、今後ますます当たり前のものとなっていくだろう。
英語の総合デジタル教材アプリ「ELST Elementary」「ELST」
教材関連のエリアで比較的元気があったのが、英語関連だ。2020年度から小学3年生で外国語(英語)が始まり、5、6年生では教科化されたこともあって、小学生向けの英語教材には注目が集まる。また、2021年度の中学校の学習指導要領改訂では、より一層コミュニケーションを重視した内容になっており、「話す」「聞く」の力をつける重要性がますます高まっている。
英語学習に特化した総合的なデジタル教材を提供している株式会社サインウェーブは、比較的大きなブースを構え、小学生向けの総合対策アプリ「ELST Elementary」、中高生向けの4技能対策アプリ「ELST」などを展開した。
ELST ElementaryとELSTはiOS、Androidの各種タブレット、スマートフォンのアプリとして提供される。各社の教科書に対応し、自動採点スタイルで単語や本文表現の練習などができる。授業でも課題としても、児童生徒がモチベーションを保って繰り返し練習するのに便利だ。
教科書だけでなく試験対策も。英検は一次試験だけでなく二次試験の面接対策もある。音読やフリースピーチなどの練習が自動採点でできる。中高生向けのELSTでは、2022年度から正式に実施されるESAT-J(東京都中学校英語スピーキングテスト)対策や、各都道府県効率高校入試リスニング過去問、大学共通テストのリスニング対策にも対応している。
ほかにも、多読に役立つレベル別英語書籍ラダーシリーズを閲覧、音声再生、音読採点できたり(音声、音読は一部対応)、中高生向けのELSTでは文法練習問題や英和辞書が利用できたりと、オールインワンの英語デジタル教材アプリだ。なお、先生の管理機能はウェブブラウザに対応していて、宿題配布、児童生徒の習熟度や学習状況の確認などができるようになっている。
発音矯正に特化した精度の高いアプリ「ELSA Speak」
英語系では、テクノロジーが存分に生かされたアプリもある。ビジネス・ブレークスルーのブースに出展していたELSA Japanの「ELSA Speak」は、発音矯正に特化したアプリだ。AIによる判定で発音記号ひとつひとつのレベルで発音がチェックされ、ユーザーは非常に細かいフィードバックを得られる。
例文を読み上げるチェックを行なうと、アプリがおすすめコースを提案してくれるので手軽に始められそうだ。自分のスコアを参考に苦手な音を選んで練習していくこともできるし、トピックス別にテーマに沿った文章を読んで練習することもできる。次々に現れる単語や文章を発音すると、発音の正確さが点数と色で表示され、うまくできなかった発音は、口の開け方、舌の位置になどの解説が表示される。音声別に動画のレクチャーも用意されている。
今や発音の採点アプリは多くなったが、単語単位や文章単位で全体的な点数が出るだけで、見本の音声だけを頼りに何度も試してみるしかない場合が多い。発音を基礎から積み上げていない英語学習者にとっては、耳からの音声を手がかりにするだけでは越えがたいハードルが多いのが現実だ。その点、ELSA Speakのフィードバックはとても細やかで具体的な参考になるだろう。
ELSA Speakは、「英語の読み書きに自信はあっても発音のせいで自分が話す英語が伝わらなかった」というCEOの体験が原動力となり生まれたアプリで、発音に自信がないユーザーの気持ちに隅々まで配慮して設計されている印象だ。AIを駆使した発音指導で、しゃべる力も聞く力も同時に伸びるという。
世界100カ国以上、4000万人が利用していて、日本でも60万人以上の利用(2022年4月時点)があり、教育分野では大学だけでなく、同志社中学校や京丹後市(全市立中学の2年生)などでの導入が始まっている。
英語の「聞く」「話す」に関しては、従来型の一斉授業ではどう工夫しても力を伸ばすのは難しいだろう。せっかくGIGAスクール構想で1人1台端末が入った今、様々な形でデジタルの良さ、テクノロジーの力を生かして子どもたちの力をつける助けにして欲しいと思う。
百科事典や辞書のデジタル利用を学校に提供
学校現場でもインターネットで検索するのが当たり前になってきている一方で、百科事典や辞書など、専門家の目と手で編集された情報源から知識を得るという経験も重要だ。
株式会社ポプラ社は、電子書籍の読み放題サービス「Yomokka!」と調べ学習用サービス「Sagasokka!」からなる「MottoSokka!」のサービスを展開。Yomokka!はすでに稼働していたが、Sagasokka!は、同社の総合百科辞典ポプラディア第三版(2021年11月刊行)のコンテンツをデジタル化したもので、2022年4月に新たにスタートしたばかり。それまでインターネット百科事典として提供してきた「ポプラディアネット」に替わるサービスとして走り始めた。
百科事典の編集部による安心のコンテンツを、子どもが見やすいデザインで提供している。キーワード検索だけでなく、テーマから下りてみていく百科事典ならではの情報の調べ方ができるのも魅力だ。ほかにも、ちょっとマニアックにNDCという図書館で使われる分類法の数字で検索する方法も。ポプラディア第3版ではヨシタケシンスケ氏がイメージキャラクターを描きおろしていて、この分類の数字が10賢人としてキャラクター化されているのが楽しい。
インターネットでのキーワード検索は、知識の広がりを生みづらい側面もあるし、情報の発信者を確認する習慣を身につけるのが何よりも重要だ。Sagasokka!のようなデジタル百科事典サービスは、検索のリテラシーが育つ前の子どもたちには、安心で便利な情報源になるだろう。
コンセプトは似ているが、中高生向けをターゲットに大量の情報源を提供するサービスを展開しているのが、株式会社ネットアドバンスの「ジャパンナレッジSchool」。搭載コンテンツは幅広く、各種辞典、百科事典、統計資料、参考書、新書や学習まんがなどを総合的に利用できるサービスだ。資料をまたいで検索できるのが魅力で知識の広がりがうまれそうだ。ブラウザから利用でき、シングルサインオンにも対応した。
なお、現在も平凡社地図出版から白地図や交通図などの学習地図ライブラリの提供があるが、2023年度より、地形や気候、人口、産業などさまざまな軸で表示切り替えが可能な地図コンテンツが搭載される予定だ。
探究系の教材も
探究学習系のプログラム提案も昨年度ほどではないが、いくつか出展があった。株式会社日本旅行の「ミライ塾」は先端科学技術を扱う企業との共同開発で生まれた宇宙に関連する様々な探究プログラムだ。旅を伴うものもあれば、学校への出張授業で行なえるものもあり幅広いメニューが用意されている。
例えばスマートグラスを使って実際の空を見ながらARで星座表を重ねてみるような体験や、チームでローバーを走行させて課題解決に取り組むプログラム、NASA発のカードゲームを使ったワークショップなどが紹介されていた。宇宙をテーマにSTEAM視点でさまざまな探究プログラムを提供する。
2022年のEDIX東京全体を見渡すと、デジタル教材は各種機能の有無で勝負するフェーズはすでに終わり、便利な機能はあって当たり前となっている印象だ。今後は、機能の質の高さ、UIデザインなどの操作性、コンテンツの質などが、いかにして選ばれるかのポイントになっていくだろう。
また、特に英語学習では、テクノロジーの力が学習の質を高め、学習方法をガラリと変えてしまう可能性を感じさせられる。テクノロジーを生かしたツールを活用するかどうかが、学習機会の差になってくるかもしれない。
紙の教材とは別の視点で教材を見る目を養う意味でも、デジタルツールを実際にいくつも試してみて、学習の質の変化を教育者自らが実感することをおすすめしたい。