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マイクラカップで自ら学ぶ力を発揮!「持続可能な社会」を表現豊かに創造できる子供たち

――「第5回Minecraftカップ」全国大会・表彰式レポート

「第5回Minecraftカップ」全国大会・表彰式

教育版マインクラフトで創る作品コンテスト「第5回Minecraftカップ」の全国大会・表彰式が、2024年2月11日に開催された。今回は第1回大会以来の現地参加が実現し、37チーム中、26チームが会場で発表を行った。会場となった日本マイクロソフト株式会社 品川本社は、プレゼンテーションを控えたファイナリストたちの賑やかな声に包まれていた。

今回のテーマは、「誰もが元気に安心して暮らせる持続可能な社会 〜クリーンエネルギーで住み続けられるまち〜」。10,350人がエントリーし、全国13ブロックから500作品が集まった。その中から地区大会予選、地区大会本選を通過したファイナリストが全国大会に進出、最終プレゼンテーションを披露した。例年以上にハイレベルな作品が揃い、熱いアピールが繰り広げられた大会の模様を、各部門の最優秀賞と「こどもとIT賞」を中心にレポートしよう。

水素蓄電や三角関数、高度な学びと創造性を発揮したハイレベルな戦い

会場の日本マイクロソフト株式会社 品川本社

審査部門はジュニア・ミドル・ヤングの3つ。チーム編成は1名以上30名以下で、最年長者の年齢によって参加する部門が分かれる。

全国大会では各チームが4分間の発表を行う。最初の1分間で作品紹介の動画を上映した後、2分間のアピールタイム、その後に審査員による質疑応答という流れ。審査は、構想力・調査力・技術力・計画遂行力・テーマ性・表現力という6つの観点のもと行われる。

ヤング部門 最優秀賞 UtoPIA広報部「源流創成都市~源創京~」

UtoPIA広報部「源流創成都市~源創京~」

ヤング部門の最優秀賞のUtoPIA広報部は、今年から新設された新人賞とのW受賞という快挙だった。「源流創成都市~源創京~」は、メインビル“創青の柱心”を中心に、住宅地・ビル区・田舎町・研究施設が広がる都市。カメラアングルにもこだわりを感じる紹介動画ではアドオンも導入し、郷愁を誘うBGMが流れるなか広大な自然に近代的な研究施設と和の建物が共存する美しい世界観が広がり、観衆を魅了した。

海の豊かさを保全する研究を行う生物研究室
季節の移り変わりが美しい田舎町の白玉楼

この作品でまず注目すべきは、平らな地が広がるスーパーフラットの状態からプログラミングを駆使して、隆起した山々や滝など、自然豊かな地形を作ったこと。発表では、その一例として、砂ブロックで球体を作成し、途中からそれを土ブロックに変えることで、山などの大きな地形を作ったと紹介した。

プログラミングで効率よく、広大な地形を作り上げた

住宅地は、「3Dプリンター住宅」を採用することで、安価で誰もが安心して住める住環境を整えた。街のエネルギー供給には、環境負荷の少ない地熱発電・風力発電に加えて、プラズマ発電所と水素ステーションを建築。「水素蓄電」に注目した理由として、山梨大学の高校生向け講座で「プラチナを触媒に使うと水素蓄電の効率が最大限になる」という最新研究に触れ、専門家から得た学びをマインクラフトの世界で表現した。

受賞に際し、大会運営委員長の鈴木寛氏は、「3部門中、最高得点での受賞であり、ヤング部門の指針となる作品」と高く評価。「サイエンスの学術知識に基づくワールドには、大都市と地方、和洋折衷の文化的観点も盛り込まれており、教育版マインクラフトが探究活動の基盤になることを示してくれた」と称え、今後の作品づくりにエールを送った。

(写真左より)UtoPIA広報部として登壇した望月彪伍さん、中島諒太さん

受賞後、UtoPIA広報部として発表を行った望月彪伍さんにマイクラカップに挑戦した動機を尋ねたところ、同級生である「中島諒太さんの物作りの素晴らしさと才能を、多くの人に伝えたかった」と熱い想いを打ち明けてくれた。

望月さんはプレゼンテーションが苦手だという中島さんに代わり、全体の進捗管理や発表を中心となって担当。チームとして、互いの得意・不得意をかけ合わせ、初出場にして最優秀賞という成績を残したことは、これから大会に挑戦しようと考えている子供たちの希望になるはずだ。

ジュニア部門 最優秀賞 CoderDojo池田石橋「宇宙人も、すべての人も、みんなが住みやすい! みんな・なかまシティ+自家発電ゆうえんち☆」

CoderDojo池田石橋「宇宙人も、すべての人も、みんなが住みやすい! みんな・なかまシティ+自家発電ゆうえんち☆」
CoderDojo池田石橋のみなさん

CoderDojo池田石橋が作ったのは、宇宙人を多様性の象徴にした「楽しいを電気」に変えられる遊園地の街。「宇宙人が住みやすければ、どんな人でも住みやすい」として、「ジェンダーフリーブティック」や「翻訳機のある広場」など、ユニークな施設をたくさん作った。なかでも、「ダイバーシティな会社」に“新女性社長”と掲げたNPC(※)が登場すると、会場が湧き立つ。また、「お父さんに早くお迎えに来てほしい」という日常の思いから生まれた「会社の近くにある保育園」には、保護者目線でグッときてしまった。

※Non Player Characterの略。ワールドの案内係やセリフを言わせることができるキャラクター

「ダイバーシティな会社」に“新女性社長”
会社の近くに保育園があれば、家族で一緒に過ごす時間が増える

自由な発想は遊園地にも溢れていた。「銀河鉄道ジェットコースター」のブレーキ発電や、ごみ焼却発電を使った「流れ星バイキング」など、遊び心ある施設には、クリーンエネルギーについて調べた成果が生かされており、さらには食糧問題を解決するための「培養肉プラント」という斬新な発想が光る。プログラミング面では、コードビルダーで核融合発電所を制作。レッドストーンのほか、ストラクチャーブロックを上手く使い、宇宙人も暮らせる住居を量産した。

核融合発電所の球体型建築は、コードビルダーで制作
同じ形の家を作るときは、ストラクチャーブロックを活用した

受賞に際し、鈴木氏は小学2年生と3年生のチームにも関わらず、培養肉や核融合、重水素・リチウムなど理科の難しい内容を盛り込んだことを評価。さらに、「Googleスプレッドシート」や「Microsoft Teams」を駆使し、プロジェクトを推進したチーム力を称え、「文句なしの最優秀賞」と称えた。

ミドル部門 最優秀賞 チームやつきた「宇宙都市エイト・ノース~サステナブルな未来をつくろう~」

チームやつきた「宇宙都市エイト・ノース~サステナブルな未来をつくろう~」
チームやつきたのみなさん

チームやつきたは、プログラミング教室に通う仲間によって結成されたチーム。「エイト・ノース」は、人口増加・気候変動・生物多様性の減少を解決するために、2つのクリーンエネルギーを活用した宇宙都市。宇宙移住した人類の数百年後の未来を描き、動画では冒頭の「20XX年~!」という遊び心あるナレーションで、掴みも完璧だった。

作品の見どころの1つ目は太陽光発電。ソーラーパネルで太陽光を集め、マイクロ波でエネルギーを送電する施設を建てた。2つ目はゴミからバイオマスを使って水素を取り出し、発電に利用する核融合発電。核融合炉でタービンを回し、その熱を利用して発電する仕組みで、滑らかなタービンの動きを表現するために、アドオンを取り入れた。

ソーラーパネルで太陽光を集め、マイクロ波でエネルギーを送電する太陽光発電
水素を取り出し、発電に利用する核融合発電

使ったプログラムの総数は30本以上、JavaScript換算で4000行を超えたという大作に、会場の大人たちもどよめく。

難しい数学に挑戦し、膨大なプログラムを作成した

また、複雑なプログラムを作るために、「三角関数」や「ピタゴラスの定理」といった高校レベルの数学にも挑戦。高度な数学の知識を駆使し、プログラミングで美しい宇宙ステ―ションを作り上げた表現力に、審査員の畑 紗羅氏は「プログラミングを芸術的に活用している」と感嘆した。

最優秀賞の発表時、オンラインで画面から飛び出るほどの喜びを見せたチームやつきた。制作の中で大変だったことを聞くと、「意思疎通が上手くいかず、制作する土地が重なり、メンバー同士の仲が一瞬ぎくしゃくしかけたことがあった」と振り返りつつも、それを乗り越え大きな賞を獲得した達成感を見せてくれた。

こどもとIT賞 上條麻理さん「7seasonsエコランド未来を育む再生可能エネルギー島の冒険」

上條麻理さん「7seasonsエコランド未来を育む再生可能エネルギー島の冒険」
上條麻理さん

「こどもとIT」賞に選ばれた上條麻理さんは、ミドル部門の優秀賞とW受賞。四季ではなく、「春・初夏・梅雨・盛夏・晩夏・秋・冬」の7つの季節をテーマにしたワールドは、春は水力発電、初夏は消化ガス発電など、季節に対応した再生エネルギー施設を配置した美しい街。アイデアの素晴らしさはもちろん、細部にわたる建築の作り込みやオリジナリティ、美しい芸術性が高く評価された。

SDGsを連想させる色相環をブロックで表現するなど360度どこから見ても美しい町
「春・初夏・梅雨・盛夏・晩夏・秋・冬」の7つの季節に分けたエリア

審査員のカズ氏は開口一番、上條さんに「相当な時間、マイクラをプレイしていますよね?」と語りかけ、熱い“建築魂”に言及。アイデアやデザイン力もさることながら、テクニックの高さを感じたと絶賛した。上條さん自身も、「1人で制作するので、コマンドやプログラミングを効率的に使った」と語っており、雪玉や砂の塊を使って地形を作るプログラムや、ダムの水門が徐々に開いていくレッドストーン回路の制御が見事だった。

ダムの水門が開く様子も芸術的

今年のファイナリストには、常連組による再挑戦や1人で制作に没頭し、圧倒的な世界観を構築した作品が光る一方で、大人数チームや学校での挑戦が強く印象に残った。小学生と中学生の異年齢による構成も多く、互いに教え合い、役割分担をして制作。進捗管理も「Trello(トレロ)」や「Google スプレッドシート」を駆使するなど、大人顔負けの仕事ぶり。なかには異なる国に住む子供たちが、リモートでつながって制作を進めた海外チームもあり、大会5年目の厚みと広がりを感じた。

広がるコミュニティ、第6回目の全国大会は2025年2月16日に決定

開催5年目を迎え、Minecraftカップのコミュニティは全国・海外に広がっている。今回も大会パートナーの協力を得て、地区大会予選前の5月から7月にわたって全国6カ所でワークショップを開催した。今回全国大会に進出したファイナリストの中には、キャラバン参加者も多く、ジュニア部門で最優秀賞を獲得したCoderDojo池田石橋は、大会が用意した教材「みんなのワークブック」が事前準備に役立ったと語っていた。

Minecraftカップ全国キャラバンの様子
ジュニア部門最優秀賞 CoderDojo池田石橋も教材を使って作品作りに臨んだ

また、リアル開催ということで、会場ではファイナリスト同士の交流も多く生まれた。受賞を待つ間「今度一緒にマイクラする?」「できるかな…」「できるよ!」という微笑ましい会話や、「今回は1人で参加したけれど、大会で新しい仲間ができたので、次はチーム制作に挑戦したい」と語る上條さんの姿が印象的だった。素晴らしいプレゼンテーションを終えた後に、子供たちが見せた眩しい笑顔。ヤング部門最優秀賞 UtoPIA広報部の2人も「ミドル層のレベルが高かった」と興奮気味に語っており、ファイナリスト同士で刺激を与え合う姿も印象的だった。

ステージ裏、チームを越えてマイクラ談義に花を咲かせる子供たち

世の中にはまだ、「Minecraftカップに興味があるけれど、ハードルが高い」という子供たちが大勢いるかもしれない。ジュニア部門で最優秀賞を獲得したCoderDojo池田石橋に、「これから挑戦する子にメッセージを贈るとしたら?」と聞いたところ、「マイクラは自由ですから、自由っていうことを生かして自由にもの作りをして。別にやり直せるし、1回失敗したらもう駄目ってことはないから、勇気を出して、くじけずチャレンジしてほしい」と頼もしいエールが飛び出した。

次回、第6回大会のテーマは「Well-beingをデザインしよう - 未来を楽しむために、今できることを考えてみよう」。最終審査会の開催も2025年2月16日(日)に決定した。

第6回大会のテーマは「Well-beingをデザインしよう - 未来を楽しむために、今できることを考えてみよう」

Minecraftカップ公式サイトでは、大会参加のための情報を得られるほか、全国各地のワークショップ情報も随時公開される予定だ。まずはそこに参加するだけでも大きな一歩になるに違いない。自分の“好き”や、誰かに伝えたいという熱い気持ちを胸に、Minecraftカップに挑戦する子供たちの輪が全国に広がってほしい。

MinecraftカップのYouTubeチャンネルでは、「第5回Minecraftカップ」全国大会・表彰式の模様を公開している。記事で紹介した受賞作品以外にも、いずれも劣らぬファイナリストの作品をぜひご覧いただきたい。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやアプリを中心としたゲーム雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは幼稚園児&小学生の母。親目線&ゲーマー視点でインクルーシブ教育やエデュテインメントを中心に教育ICTの分野に取り組んでいく。