レポート

イベント・セミナー

マイクラカップで社会を学び、未来を創る、どんどん考え抜ける子どもたちのチカラ

――「Minecraftカップ2022全国大会 最終審査会・表彰式」レポート

ファイナリストが集結!最優秀賞に選ばれた作品は?

今年も子どもたちが熱くなる、あの大会がやってきた。教育版マインクラフトを使った作品コンテスト「Minecraftカップ2022全国大会 最終審査会・表彰式」が、2023年2月5日、積水ハウス SUMUFUMU TERRACE 新宿 で開催された。

昨年5月からエントリーがはじまり、全国各地で行われたワークショップを経て、一次・二次審査を通過したファイナリストたちが集まった最終選考会。大会の全容を振り返りつつ、最終審査会の様子、最優秀賞受賞者の作品と発表をレポートする。

規模感も大きくグレードアップ!

開催4回目を迎えた今回は、審査ブロックが全国13ブロックに拡大。参加する児童・生徒の年齢別に3部門が設けられた。チーム編成は1名以上30名以下で、最年長者の年齢によって参加する部門が分かれる方法だ。3部門の内容は、下記の通り。

  • ジュニア部門:
    チームの最年長が小学校低学年以下(満9歳以下)で編成されたチーム
  • ミドル部門:
    チームの最年長が小学校高学年以下(満12歳以下)で編成されたチーム
  • ヤング部門:
    チームの最年長が高校生以下(満18歳以下)で編成されたチーム
一次・二次審査は、全国13のブロックに分かれて選考

夏休み期間には、全国13ブロックでキャラバンも開催。審査委員長を務めるプロマインクラフター・タツナミシュウイチ氏が現地を訪れ、「廃校ワークショップキャラバン」が開催された。作品提出後の審査もブロックごとに行われ、一次審査はブロックのエントリー者がそれぞれの作品に投票する相互評価形式。続く二次審査は地区ごとに審査会が開催された。

夏休み期間に行われたキャラバンの様子

一次・二次審査の結果、地区ブロック大会を勝ち残った計39チームが、ファイナリストとして選出された。最終審査会は、審査員及びアドバイザー、関係者は会場に、ファイナリストはMicrosoft Teamsでリモート参加するハイブリッド形式で実施。会場には、二次審査の審査員を務めた教育関係者も「子どもたちの活躍を見届けたい」と顔を覗かせていた。

栄えある3部門の最優秀賞はどのチームに

今回の大会テーマは「生き物と人と自然がつながる家・町〜生物多様性を守ろう〜」。SDGsの目標のうち、「14.海の豊かさを守ろう」と「15.陸の豊かさも守ろう」のいずれか、または両方を取り入れたワールドが課題。さらに、建築だけでなく、MakeCodeを使ったプログラミングやレッドストーン、コマンドブロックを使った仕掛けも評価のポイントとなる。

積水ハウス SUMUFUMU TERRACE 新宿で開催された最終審査会の様子

各チームに与えられた発表時間は約4分。最初の1分間で作品紹介の動画が流れた後、2分間のアピールタイム、そして審査員の質疑応答に応える。

発表では、2回の予選を勝ち抜いたバラエティに富んだ力作が次々に登場した。子どもたちのプレゼンテーションはとてもスムーズで、各チームが時間を守り、工夫したポイントや見どころを語った。その内容やレベルの高さ、こだわりには会場にいた大人たちも感心しごく。なかにはブラジルから参加していたチームもあり、「日本に住んでいる人たちに、ブラジルの課題を伝えられてよかった」と話す場面も。子どもたちが制作を通して、大会のテーマであるSDGsに真剣に向き合ってきたことが伝わってきた。

そんな力作が勢ぞろいした最終審査会。3部門の最優秀賞と、こどもとIT賞の作品・プレゼンテーションを紹介しよう。

ジュニア部門 最優秀賞:CCさん「雷様の方舟」

CCさん「雷様の方舟」。雷エネルギーを使った箱舟で、生物多様性を守る。

ジュニア部門の最優秀賞に輝いたのは、東京ブロックCCさんによる「雷様の箱船」。この作品のテーマは、一度人間によって砂漠化してしまったバイオームを、雷の力で動く「空飛ぶ箱船」によって再生していくという壮大なもの。雷発電や箱船に設けられた研究所など、仕掛けも楽しい。

小さな頃から好きだった絵本『バーバパパのはこぶね』や、積水ハウスの住宅展示場で生物多様性について勉強したCCさん。生物多様性の実現のためには、植物や動物を増やすだけでなく、その場所に合った生き物を増やすことが大切だと学んだという。方舟から地上探索機を出し、人間が壊した土地の土や生き物を保護するのが作品のメインのテーマ。人間と生き物が両方楽しめる遊園地や、雷様が降らせた雨を再利用する「ろ過装置」やエレベータといった発想がユニークだった。

方舟で生き物を保護。それぞれに合った土を改良し、地上に戻す

左右の袖に、雨と雷のモチーフを付けた両手での身振りが印象的だったCCさんのプレゼンテーション。実際に植林を体験し、その経験をもとにメイクコードで植物を植える間隔を工夫したと語った。審査員の髙﨑正治氏はCCさんの情熱とパッションが作品に表れていると高評価。CCさん自身がエネルギーあふれる「雷様」のようだとコメントした。

表彰式の様子。表彰者とスキンがかぶり、会場から笑いが起こる一幕も。

ミドル部門 最優秀賞:チーム高砂小「Symphony of Lives(いのちのシンフォニー)」

チーム高砂小「Symphony of Lives(いのちのシンフォニー)」。地元の「見沼たんぼ」から着想を得た。

ミドル部門の最優秀賞は、北関東ブロック「チーム高砂小」。さいたま市立高砂小学校の6年生と3年生で構成され、過去にも入賞者を輩出した実力チームの一つ。「Symphony of Lives(いのちのシンフォニー)」では、バイオミミクリー(生物模倣技術)で森の生態系を実現した街を構築、オリジナルのアドオン(マイクラに機能を追加する仕組み)でさまざまなミッションを作成した。

華麗に舞う蝶や、音楽を再現したワールドが見事。アニメーションや3Dモデリングソフトの活用のほか、NPCのセリフをAIで作成するなど、意欲的な作品となった。「シンフォニー」のタイトル通り、美しく壮大な世界観を表現。また、作品紹介動画のクオリティもすばらしく、音楽や構成も注目ポイントとなっている。

大会のテーマを地球規模で考えた、美しく壮大な世界

プレゼンテーションには、7名のメンバーが勢ぞろい。陸と海の生きもの様向け「住民説明会」と題して発表したのも見事な演出。人と生き物が共存する街づくりの工夫と、ミッションを通して自然について学ぶプログラムを紹介。質疑応答で堀内容介氏は、チームメンバーの意見が食い違った時の解決法について質問。「みんなで話し合う時間を多く取った」という回答を受け、複数メンバーの意見をまとめることは大人でも難しいことなのに、よく皆でまとまったと賛辞を送った。

チーム高砂小の表彰式。肩を並べて画面を覗き込む姿が微笑ましい。

ヤング部門 最優秀賞:metaleさん「巨大樹がつなぐ生命」

metaleさん「巨大樹がつなぐ生命」。巨大樹と共に栄えた村と、廃墟になった街を表現。

ヤング部門の最優秀賞に輝いたのは、中国ブロック metaleさんの作品「巨大樹がつなぐ生命(いのち)」。metaleさんが作品で描いたのは、自然を守る大切さではなく、自然と共生する大切さ。巨大樹の元で風力に頼って動物や生き物、人間が共存する村と、技術があれば自然を守れると考え廃墟と化した文明の跡を対比させた。両者の間は橋でつながれ、人間が廃墟の街へ行こうとすると花火で警告される。

ワールドには、生命の象徴とも言える巨大樹がそびえ立ち、肉食恐竜のティラノザウルスもその実を食べに来るという世界観を描き、人間が動物の中で一番えらいわけではないというメッセージを伝えた。廃墟となった街には文明が栄えていた形跡を残しつつ、廃れた様子をマインクラフトで丁寧に表現。電力に頼らず、環境と共存する世界が残っていくという、深い思想が印象的だった。

プレゼンテーションで、「巨大樹がつなぐ生命」について説明した。

縄文時代を参考に描いたイメージスケッチと、生態系ピラミッドを提示しながら発表したmetaleさん。巨大樹を中心とした、生命の循環について説明。技術を追い求めた結果、環境を破壊した街を対比して表現したことが、自然との共生の大切さを際立たせた。審査員長のタツナミ氏は、「失敗と成功が共存するワールドから、強いメッセージを受け取った」とコメントした。

結果発表の瞬間。受賞は「本当に驚いた」と語るmetaleさん

こどもとIT賞:CoderDojo船橋・若葉みつわ台連合チーム「あたらしいがいっぱい初島 ~UI Island~地球と共に過ごす暮らしを、愉しみを」

こどもとIT賞 CoderDojo船橋・若葉みつわ台連合チーム「あたらしいがいっぱい初島~UI Island~地球と共に過ごす暮らしを、愉しみを」。

特別賞の1つとして「こどもとIT賞」には、CoderDojo船橋・若葉みつわ台連合チームが受賞。ヤング部門 優秀賞とのW受賞となった。同チームは、千葉県船橋市のCoderDojo船橋と、千葉市若葉区の若葉みつわ台の連合チーム。オンラインでコミュニケーションを取りながら、作品を完成させた。

2つのチームが連携し、巨大なワールドを3カ月かけて作り上げた。

この作品は、地下と地上からなる巨大建築物が中心となるワールド。博物館や科学未来館といった建物のほか、島独自の通貨や売買システムを導入している。プレゼンテーションでは、制作方法についても言及。メッセンジャーアプリを通して情報を共有し、スケジュール管理を行ったという。審査員のカズ氏は、「この規模のワールドを3カ月で作り上げたのは見事」と感心。作品作りの秘訣について質問すると、「大切なのは計画性」という、ワールドの緻密性を体現するような回答が返って来た。

今回は用意されたアワードが多く、部門ごとの最優秀賞、優秀賞に加え、各審査員、参加パートナーから多くの賞が与えられた。なかにはダブル受賞したチームも。また、一般視聴者からの投票による「オーディエンス賞」も導入された。YouTubeライブには作品やプレゼンを称賛するコメントが多数寄せられ、大会を盛り上げていた。

全39作品はどれも素晴らしかった。審査員も選考に時間がかかったとか

次回大会のエントリーは4月にスタート!

今回の大会は、13の地区ブロックができたことで、各地での切磋琢磨、地域内の交流も生まれた。教育版マインクラフトを使った活動の裾野が、大きく広がるきっかけになったのではないかと思う。

全アワードとファイナリストの作品は、大会公式サイトにて公開中。また、最終審査会の模様はYouTubeライブのアーカイブから視聴可能となっている。2022年大会の締めくくりとして、運営委員長の鈴木氏はすべての子どもたちの活躍に対して「希望しかない」と述べたうえで、早くも次年度開催のスケジュールを発表。「Minecraftカップ2023」の概要とスケジュールが公開(※)された。

※スケジュールは2022年度最終審査会時の予定であり、変更になる場合がある

次年度、「Minecraftカップ2023」の大会のスケジュール(※スケジュールは2022年度最終審査会時の予定であり、変更になる場合がある)

3月1日には、「Minecraftカップ2023」のティザーサイトがオープン予定。大会へのエントリー開始は、4月を予定している。ぜひ学校や地域のクラブ活動を通して挑戦してほしい。

新妻正夫

教育ライター/ICTコンサルタント。MIEE2022-2023、Global Minecraft Mentor。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主宰、STEAM分野で豊富な経験を持つ。コワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーター他、多方面で活動中。 教育版マインクラフトを活用した緩(ゆる)イースポーツ「はちみつカップ」の普及が最近のマイブーム。