レポート

教育実践・事例

新渡戸文化小学校、「ミニ四駆」を活用してEVの可能性と街づくりを考える特別授業を実施

特別授業「なかの電動化スクール」

 学校法人新渡戸文化学園、日産自動車株式会社、株式会社タミヤは、特別授業「なかの電動化スクール」を2024年3月11日と12日に開催した。電気自動車(EV)が持つ可能性とともに、街づくりについて考える授業で、EVについて理解するとともに、EVを使って誰かを助け、楽しい場をつくるということを表現した。

 特別授業は新渡戸文化小学校4年(取材当時)の児童に対して2日間に渡り行われた。初日はEVを学ぶうえで重要なエネルギーと電気について、タミヤのミニ四駆を実際に作り、ミニ四駆には日産が提供した蓄電池を装着し、手回し発電機を使ってエネルギーを作り出すこととそれを動かすことを、さらにEVの仕組みや未来の可能性といった特徴を学んだ。

初日には、ミニ四駆作りを行った
体育館に用意された中野区のジオラマ

 報道向けに公開された2日目は、体育館に中野区の街をジオラマで再現し、2つのテーマに沿って考えたものをかたちにして表現した。

「しあわせをつくる人になろう」というテーマが示された

 1つ目のテーマは「安心な街:停電の街を照らす」で白い箱で主な建物を再現した中野区のどこに、EVを置き、だれを照らすかを考える。2つ目は「楽しい街:遊び場を作る」で、遊び場が少ないと言われる中野の街に新しい遊び場のアイデアを工作で表現していくものとなる。

児童が作ったミニ四駆、思い思いにデコレーションされている

停電して誰に届けるか、特製ミニ四駆でEVからの給電を実践

 1つ目のテーマである停電の街を照らすでは、中野区が停電になった場合に、自分のEVの電気は満タンとして、どこに、誰に、電気をとどけるか考える。体育館に広げられた中野区のジオラマのどこにEVを置くか考え、その考えを発表する。

EVは走る蓄電池

 制限時間内に、児童たちにはジオラマのなかに入り、必要と思われるところにEVに見たてた自分のミニ四駆を置いていく。

ミニ四駆もまた小さなEV

 多かった考えは、病院に置くというもの。先生が与えたテーマでは「停電」とだけ指定しているが、停電に至るには「災害」があったと考える児童も多く、けが人が運ばれることがある病院に電気は必要と考えた。

ジオラマには駅、病院、など実在のお店が配置された
児童がEVを中野区のジオラマに入ってEVを置いていく
病院にはEVが集中した
新渡戸文化小学校ももちろんある

 また、コンビニに置いた児童は、コンビニには懐中電灯などの灯かりを販売しており、いろいろな人が明るさを広げることができると発表した。ほかにも、何も書いていない建物にEVを置いた児童は、周囲に病院、警察署、コンビニがあり、中間地点に置けばいろいろな人に電気を届けやすいとした。

 児童の考えを発表したあとは、街に置いたEVの電気で街を照らす。

どこにEVを置いたか発表した

 特別授業のミニ四駆は、市販のミニ四駆「イグニシオン」そのものだが、日産が用意した単3型の蓄電池を装着し、端子が出ていて手巻きの発電機と接続して充電ができる。充電した電気では、ミニ四駆を動かすだけでなく、端子に豆電球を接続すれば「街の灯かり」とすることもできる。

用意された手回し発電機と豆電球
手回しで充電していく
EVからの電気で豆電球が点灯
中野区のあちこちで豆電球が灯る

 児童たちはまず手回し発電機で充電し、その電気で街を照らしてみせた。今回の授業でも学ぶ、EVから電気を給電できるV2H(ビークルトゥザホーム)を実践したことになる。

授業で使ったミニ四駆からはリード線と端子が出ている
ミニ四駆は初心者におすすめと言われるモーターを中央に配したMAシャーシを採用した「イグニシオン」。そこに日産がリード線付きの充電池を提供、ミニ四駆から電源を取り出し豆電球を点灯させるようになっている

遊び場を作ろうをテーマにまちづくりを実践

 続いてのテーマはまちづくりとして、遊び場を作るというもの。ジオラマの中の白い箱に絵を書いてもいいし、用意された工作材料を加えて「遊び場」をかたちにしていく。EVの給電機能を使い、電気がない場所でも電気が使えることを遊び場に組み込むことも盛り込まれた。

第2のミッションは新しい遊び場を作る
遊び場の例
チームになって遊び場を考える
児童だけでなく、スタッフも協力して案を練り上げていく
用意された材料
材料とジオラマを使って遊び場をかたちにしていく
遊び場ができてきた

 停電のテーマと違い、考えることも多く、そのうえ書いたり貼ったり作ったりするため時間がかかる。新渡戸文化小学校の先生だけでなく、日産、タミヤのスタッフなども児童に声をかけながら進めていく。今回、ゲストとして東京都中野区長の酒井直人氏も参加しているが酒井氏も声をかけていた。

完成した遊び場はタブレットで撮影してスクリーンに表示された

 できたものはグループごとに授業用のタブレットで撮影、スクリーンに転送していく。そのなかから、その遊び場について説明してもらった。

完成した遊び場たち。これは、駐車場にとめたEVから給電してゲームセンターを運営
EVからの電気でゲーム機を動かし、食べ物を温めたりする
商店街にEVを組み合わせた
EVを使った遊園地
ミニ四駆のサーキットを観戦する場所を作った
ジオラマの周囲にはミニ四駆コースが作られたが、コースを飾り、進行方向まで設定された

 EVからの電気でゲーム機を動かし、キッチンカーのように食べ物を温めて食べれるような遊び場のほか、ミニ四駆のレースを観戦する場所などが考えられた。なかには、駐車場に止めたEVから電気を供給するような電線までつけられたものもあった。

さまざまな遊び場のアイデアが盛り込まれたあとの中野区のジオラマ

 発表をあとは講評として中野区長の酒井氏が「本当にみんなが欲しいのは、楽しい場だってことがよく伝わってきました。今日、皆さんからアイデアをいただいたので、中野区も色々考えていきたい」と述べた。

栢之間倫太郎先生

 また、指導した教諭の栢之間倫太郎氏は最後に「みなさんは、町の住人ではなくて、街を作る側になろうとしました。それはとても大事な考え方で、その場にいるだけじゃなくて、この場をもっと良く、もっと素敵にするんだって想いをもって行動することはとても大事なことを少し感じ取ってくれたらいい」とまとめた。

社会のリアルと掛け算することで子供たちの学びが本当に生きたものになる

特別授業のあとで、今回の主催者などから感想などが語られた

 特別授業のあとで、今回参加した方々からの特別授業の意義や感想などを聞いた。

日産自動車の寺西章氏

 日産自動車の寺西章氏は「子供たちにとっても忘れられない授業になってくれたと思います。あのときの授業がクルマ好きなったきっかけだったとか、勉強って面白いと思ったとか、そうなってくれればよいと思います。私自身もミニ四駆で育ち、小さいときのものづくりの経験が今の私の原体験になったと思うところもあります」と語った。また、タミヤと将来のクルマ好きを広げていかないかと話をしていたとき、新渡戸文化小学校に話をしたところ、今回の特別授業の実施につながったということも明らかした。

タミヤの満園紀尚氏

 タミヤの満園紀尚氏は「タミヤはミニ四駆の組み立てに注力して協力しました。ミニ四駆を組み立てて手回し発電で走らせる取り組みはこれまでになく不安なところもあったが、思った以上に4年生の皆さんが一生懸命作ってくれてありがたかった」と感想を語った。「各界の技術者の原体験としてミニ四駆や模型作りの経験がある話はよく聞くが、静岡市では小学生の70%が模型に触れたことがないというデータもある」とし、子供たちにものづくりを実践してもらう取り組みを継続していくという。

東京都中野区長の酒井直人氏

 地元の中野区の区長の酒井直人氏は「子供たちが楽しみながら授業に参加しているのが非常に印象的で、よく考えられたプログラムだった」と感想を述べた。新渡戸文化小学校については「先端的な教育を実践されているので、中野区の区立学校と私立学校が交流しながら切磋琢磨して、子供たちが楽しめる、参加する授業を一緒に開発していきたいと思います」とし、具体的には「主体的に授業に参加するような仕掛けがあり、子供たちが主体的に学べる授業を公教育でも目指すべきだと思う」と指摘した。

 さらに中野区には「中野区子どもの権利に関する条例」があることを紹介し「子供たちの意見を活かしていくことを我々は率先してやっていて、子供と接する時間をたくさん作り、私だけでなく区役所の職員にも機会をどんどん作れるように今、進めています」と中野区としての取り組みを紹介した。

新渡戸文化学園 理事長の平岩国泰氏

 学校法人 新渡戸文化学園 理事長の平岩国泰氏は「移動や乗るというものが誰かの役に立つという視点を今日手に入れた。子供たちがクルマの役割としてもうひとつ大きなものを発見したと思います。まちづくりにも、今までは消費だけだったが、自分たちもまちづくりの一員ということを感じてもらえたという意味では、ものすごく大きな一歩」と評価した。

 特別授業については「授業は理科や社会の要素もあり、表現としては国語、また手を動かす図工の要素や算数の要素もあり、もう全ての教科が入っている。我々は総合的な学習の時間を『プロジェクト科』と呼んで進めているが、まさに社会のリアルなものと掛け算することで子供たちの学びが生きたものになると思う。社会のいろいろなことと学校の学習はどんどん掛け算されていくと豊かな学びになることをすごく感じました」と感想を語った。

 授業を受け持った栢之間倫太郎教諭は「今回は授業では、日産はEVを使ってどんな未来を描こうとしているのか、タミヤはものづくりでどういう未来を描こうとしているのか、そして、私たちは新渡戸文化小学校はどういう未来を目指してるのかという、企業と学校の存在目的をすり合わせた上でこの授業ができ上がった」と経緯を説明。「教育と企業が協力して未来をすり合わせたこと、そのプロセス自体に価値があり、素敵な体験ができた」と感想を語った。

 また、授業の効果として「EVやいろいろなものの電動化について、時代の潮流がそうだからとか、地球に優しいという視点だけでなく、これがあると人を助けられたり、もっと未来を面白くできたりすることを学べたことが大きいと思います」と発展的な学びにつながったことを評価した。

正田拓也