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1人1台時代の学びを広げる、「学習eポータル」の中身を紹介

校務支援システムとの連携や、児童生徒の学び・心・健康の変化を見守る機能まで

学校現場では1人1台端末の活用とともに、クラウドサービスの利用が進んでいる。そもそも、クラウドの活用はGIGAスクール構想においても重視されている部分であり、昨今は小中学校に教育プラットフォーム「学習eポータル」を導入する自治体も増えている。

そんな学習eポータルであるが、どのようなツールで、どのようなことができるのだろうか。今年5月、「第14回EDIX(教育総合展)東京」で展示されていた製品をもとに、その中身を見ていこう。

まなびポケット:校務支援システムとの連携や学習データの分析を強化

NTTコミュニケーションズが提供するのは、クラウド型教育プラットフォーム「まなびポケット」だ。児童生徒、教職員がそれぞれ1人1アカウントを持ち、学習の入り口としてまなびポケットにアクセスし、そこからデジタルドリルや辞書・教材などのコンテンツ、授業支援システムや協働学習ツールなどさまざまなサービスにシングルサインオンでアクセスできる。

「まなびポケット」の画面。中央に学習コンテンツ、左側にメニューが並ぶ

また、文部科学省のCBTシステム「MEXCBT(メクビット)」を利用できるのはもちろん、授業や学校生活に必要なコミュニケーション機能も実装されており、先生から児童生徒・保護者への個別メッセージやファイル共有、課題提出、クイズ・アンケートといったやり取りも可能。まなびポケットひとつあれば、いつでもつながり、クラウドで学習できる環境が用意されている。

チャンネル機能の投稿画面。部活連絡や児童生徒へのアンケートが送信できる

さらに、2023年2月からは、まなびポケットで「統合認証サービス」が提供開始となり、コンテンツだけでなく統合型校務支援システムへのシングルサインオンも可能になった。これにより、たとえば保護者連絡機能でやりとりする出席・欠席の情報も自動集計されExcel出力できるほか、統合型校務支援システムへの登録作業も効率化できるようになった。

「学習ログ機能」では、どのコンテンツにどれだけ取り組んだのか、児童生徒別、クラス別、学校別に履歴を確認できる。利用したアプリごとに可視化されるので、教育委員会は学校ごとの活用頻度を把握するのに役立ちそうだ。また、児童生徒の最終アクセス時間も確認できるため、生活指導を目的とした活用などにも生かせる。

学習ログ機能でコンテンツの利用状況を可視化

まなびポケットの豊富なコンテンツの中でも、注目したいのは「WEBQU」だ。WEBQUとは、教員が児童生徒の状態を多角的に知ることができるアンケートツールで、いじめ、不登校、やる気、ソーシャルスキル、部活動、アクティブラーニング、学習意欲の項目で、個人とクラスの状態をアクティブに可視化して表示する。学級がどのような状態なのか、堅さやゆるみで表示されるほか、児童生徒それぞれの満足度や支援の必要性を一覧で確認できる。

WEBQUの結果画面

WEBQUの結果は児童生徒にも分かりやすいフォーマットで返却され、今の気持ちや生活に対するアドバイスが平易な言葉でフィードバックされる。

WEBQU、個人の結果画面と、生徒児童に対するフィードバック

また今後の展開としては、WEBQUの結果とMEXCBTのテスト結果をクロス分析し、児童生徒の心の状態と学力状況を合わせて分析することで、学級運営やよりきめ細やかな見取りに生かせるようにもしていくという。

MEXCBTの結果とWEBQUの結果をクロス分析して、データを生かした学級経営、児童生徒の対応も可能に

tomoLinks:AI予測による分析で、1人1人にお勧め教材を提案

コニカミノルタジャパン株式会社が提供する「tomoLinks」は、学校教育向けクラウド型学習支援サービス。MEXCBTに対応し、2023年5月1日からは「学習支援」サービスを正式販売。今後はAIを活用した個別最適な学びを提供する「先生×AIアシスト」と「授業診断」サービスをリリースしていく。

「tomoLinks」の教員用画面。

tomoLinksの特長は、授業支援システムやデジタルドリル、動画教材、連絡帳といった授業や学校生活に必要な機能が用意されているほか、学習状況の見える化を充実させていること。たとえば、教員用の「学びのきろく」というダッシュボードでは、「気づきとアクション」という形で、AIが児童生徒の様子をお知らせ。確認テストの点数の推移や、単元ごとの学習定着度をもとに、「支援が必要な児童生徒」や「がんばっている児童生徒」を教えてくれる。

「こころの日記」では、児童生徒がログイン時にその日の気持ちに応じて顔のアイコンを登録する。ダッシュボード上ではその推移が「こころの変化」として記録される。

ダッシュボード上で、「気づきとアクション」「こころの変化」をわかりやすく表示。サポートが必要な児童生徒を可視化する

一方、児童生徒用画面のダッシュボードには「学びの宝ばこ」を用意。ドリルに取り組んだ回数や「かくにんテスト」で正解した数をカウントし、星や宝石が貯まる。また、かくにんテストでは結果と共に、単元ごとにAIからのコメントを表示。1人1人の習熟度や学習状況に応じて、お勧めのドリルが表示され、問題に取り組んだ後は、ドリルの内容に対して自分がどれくらい分かったかフィードバックを行う。

学習状況に応じて、星や宝石が獲得できる「学びの宝ばこ」

児童生徒用のダッシュボードでもう1つユニークな機能は、児童生徒が学習の目標を立て、お互いの学習状況についてコメントし合う「学びのば」だ。ポジティブなメッセージが伝えられるスタンプが豊富に用意されており、お互いを褒めて励まし合う前向きなコミュニケーションを促す仕組みになっている。

児童生徒同士がスタンプで学習状況を励まし合う「学びのば」

今後、リリースされる「先生×AIアシスト」では、学校が所持する既存の学力データや、エドテック企業などの教材の学力データなどを分析することが可能。自治体や民間企業の学力調査、定期テストなどさまざまな教育データを用いて、地域の実情に合わせた分析を行っていく。

OPE:児童生徒のログデータを可視化し、個別最適な学びを支援

NECが提供するのは、「Open Platform for Education(OPE)」で、MEXCBT連携・シングルサインオンに対応した様々な学習の土台となる教育クラウドプラットフォーム。デジタル教科書やドリル、プログラミング教材や授業支援システムなど、18種以上のコンテンツやツールとシームレスに接続できる。

短い授業時間の中で、スムーズに授業が行えることを重視しており、画面のレイアウトは実際の時間割と連携可能。教科ごとの教材が本棚のように並び、それ以外の副教材は“引き出し”をクリックすると表示される。

OPEの児童生徒用画面。児童生徒の机の上を再現したデザイン

教員からのお知らせがあると、ハムスターの元に手紙が届き、教科の課題や学級の連絡事項が確認できる。お知らせにはPDFやOffice系のファイルが添付できるほか、日時や期間をあらかじめ指定することも可能なため、長期休暇中の課題追加や連絡にも活用できる。

ハムスターが教員からのお知らせを届けてくれる

一方、教員用画面では授業で使う教材を学年ごとに分け、1つの画面に集約。全教科の教材が、副教材も含めて一目で確認できる。ここから教材やアプリ管理の画面に遷移し、授業の内容に応じて児童生徒用画面に表示する教材を変更する。

OPEの教員用画面

続いて、OPEの大きな特長となるのが、児童生徒のログデータを可視化する「学びの様子見える化サービス」だ。教員は「利用実績」画面から、児童生徒の端末利用時間やアプリごとの利用履歴、端末操作の頻度を確認することができる。

利用実績から、学年・教科別のアプリ使用状況を確認

さらに、MEXCBTとの連携により、テスト結果の分析を細かく表示。学年やクラスの傾向を、設問ごとにグラフ表示し、学年・クラスの平均点をすぐ確認できる。グラフの種類も様々で、回答結果によってオレンジと青に色分けされるヒートマップも用意。オレンジが多いと誤答が多く、青は正答が多いという具合に一目で学年や学級ごとの傾向を把握できる。

得点率のヒートマップのイメージ

なお、NECではOPEのダッシュボードで行うログ分析に加え、利用自治体に対しアクセスログから日々の活用状況を分析したレポート「NECカスタマーサクセスレポート(NCSR)」を、2023年度は無償で提供している。

また、学習状況だけでなく「アンケート」機能では、児童生徒の心や体調の変化を確認することができる。生徒は端末から5段階の顔マークとコメントを入力してアンケートに回答。教員の画面には日々の体調や気分の変化が一覧で表示され、特定の児童生徒や期間など絞り込みをかけることも可能だ。

アンケートで児童生徒の体調や気分の変化を確認

これに加え、端末の深夜利用やアンケートのコメントで特徴的な回答が続いた際には教員に通知が届く「おしらせ」機能も搭載。さまざまな角度から児童生徒の学びの様子を可視化し、1人1人に合った学習指導を支援していてく。

R-Station:校務支援システムと連携、今後は教育コンテンツも強化

株式会社両備システムズが提供する学習eポータル「R-Station」は、2023年2月より提供を開始した。ICTを活用した個別学習・協働学習をサポートし、MEXCBTやデジタル教科書などとシームレスに連携。児童生徒1人ひとりのテスト結果や、学習に関する記録を取りためて可視化する。

R-Stationの特長は、同社が提供する校務支援システム「RYOBI-校支援」との連携だ。アプリで学校と保護者の双方向のやり取りを支援する「保護者連絡システム」を備えるほか、児童生徒の名簿管理、年度更新を一括で行うことができる。

RYOBI-校支援と連携し、校務を支援する

もちろん、MEXCBTにも対応している。MEXCBTでは、国や地方自治体などの公的機関が作成した膨大な問題を利用できるが、R-Stationにおいても教員が必要な問題を選んで、児童生徒に配布できる。

MEXCBTの登録画面。MEXCBTの問題を指定して簡易テストを作成することもできる
児童生徒の画面では、このように表示される

実際に児童生徒がテストを受ける際は、「MEXCBTテスト」のアプリで改めてログイン。シングルサインオンで接続する。児童生徒用の画面に問題が表示され、選択式と記述式、両方の問題を出すことができる。

MEXCBTテスト、全国学力・学習状況調査のデモ画面

テストの結果は受験後にすぐ採点され、その結果は児童生徒用の画面にも表示される。

テストを終了すると、結果を即座に表示

今後は全国学力・学習状況調査のほか、学校や教員が独自で作成したテストを配信し、自治体の中で共同利用できる仕組みを検討しているという。また、それらの機能強化と共に、デジタル教科書や各種教材との連携も行っていく。

1人1台端末の活用が進み、授業やテスト、学校生活や児童生徒の精神的なサポートなど、様々な情報がデジタル化され、教育データとして活用される環境が学習eポータルを通してできあがってきている。今後は、収集したデータをどのように分析し、授業改善や学級・学校運営に生かしていくのか、その実践力も求められるだろう。見える化されたデータから新たな気づきを得ることで、現場のさまざまな解決につながってほしい。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは2人の男子を育てるママ。幼稚園児&小学校低学年の子どもを持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。