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Google、校務DXのクラウド化+セキュリティを強化する「ゼロトラスト環境」の導入支援を開始
2025年3月27日 06:30
Googleは、自治体(教育委員会)が校務DXを目的としたクラウドベースのゼロトラスト環境の導入を支援する「4つの特別オファー」を2025年3月25日に提供開始した。同プログラムは、2025年12月31日までの期間限定となっている。
校務におけるクラウド化・ゼロトラスト化を支援
現在Googleでは、GIGA第2期における児童生徒の学習環境に向けたソリューションとして、Google Workspace for Educationに加え、Chromebookを管理するMDM「Google GIGA License」や、導入や活用を支援するサポートサービスを組み合わせた「Google for Education GIGAスクールパッケージ」を提供している。
さらに、校務におけるクラウド化とDXをGoogleは推進している。教員がChromeOS(Chromebook)を使っている場合と同様に、ほかのOSを使っている場合でも、Googleの高度なセキュリティ機能を持つChrome EnterpriseやGoogle for Education Plusなどのソリューションを組み合わせる。これにより、一貫したゼロトラストポリシーを適用し、セキュアなアクセスを保護することを実現する。
従来の学校ネットワークでは、学習系と校務系のネットワークを分離し、校務系のネットワークはその閉域網の中でのみアクセスできるようになっていることが多かった。それに対して、信頼できるネットワークを限定することによるアクセス制限ではなく、クラウドのように認証と権限設定でアクセス制限するのがゼロトラストだ。これにより、場所を問わず、学習系と校務系のネットワークを分離する必要なく、セキュアに利用できる。
今回発表された特別オファーは、この校務DXのためのゼロトラスト環境導入を支援するものだ。
1つ目は導入の第一歩として、事前アセスメントと導入までの計画作りを、先行応募した30自治体に無償で提供する。2つ目は、ゼロトラスト関連製品の特別オファーの提供で、教職員とスタッフ数1,000名以上が対象となる。
3つ目は、ゼロトラスト環境を試すために、Chromebookの検証用端末と検証用トライアルライセンスを貸し出す。Chrome Enterprise Premiumトライアルライセンスは5,000ライセンスを60日間、Google Workspace for Education Plusでは50ライセンスを60日間利用できる。
4つ目は、ゼロトラストや高度なセキュリティを現場でどう利用するかといったセキュリティ研修を実施する。
このようにGoogleでは、ゼロトラストの計画から導入まで、DXパートナーと連携しながら、ステップバイステップで伴走支援していく考え。
次世代校務の課題をクラウド化・ゼロトラスト化で解決
同日開催された記者説明会では、グーグル合同会社のGoogle for Education 営業統括本部 本部長である杉浦 剛氏が、校務DXの課題やゼロトラスト環境の意義について説明した。
杉浦氏は、次世代校務としてクラウド化・ゼロトラスト化が必要とされる理由として、紙ベースから汎用クラウドサービスに変えることによるデジタル化という「働き方改革」、学習系のデータと校務系のデータが別々になって活用できない課題についての「データ連携」、災害などでデータが失われるリスクを回避するための「災害対策」の3つの観点を挙げた。
「ゼロトラスト環境によって、これらの課題を減らすことができる」と杉浦氏。データの一元化やIDの統合によって、学習データと校務データを安全に連携させることができるようになり、子供の学習状況や出欠状況の相関を分析するなど、教員によるきめ細かな学習指導や、教育委員会による効果的な教育政策が実現できるだろうという。
先進的な自治体の事例も杉浦氏は紹介した。
山形県では、県立高校の申請書類を電子化・自動化によって業務を効率化し、費用の削減や柔軟な働き方、転記ミスの削減を実現した。また、福島県では、県域でGoogle Workspaceアカウントを用意し、小学校1年生から高校を卒業するまで同一のアカウントを利用することで、同じIDで学習の履歴などを持ち運ぶようにしたという。
吉岡町(群馬県)では、教員用の端末をChromebookに統一。2年間で約40枚の紙削減と、柔軟な働き方、データの安全性向上を実現したとしている。
奈良市教育委員会が事例を紹介
こうした自治体の例として、奈良市がゲストで登場した。
「子供たちのために必要な業務」以外を合理化
まず市長の仲川げん氏がビデオメッセージで登場。教員の働き方改革について、子供たちのために必要な業務とそうでもないものがあり、後者を合理化することによって教員の負担を削減できると語った。
またそのための費用について、新しいシステムと従前のシステムを比較。約10億円規模の中で2,000万円ほどの差であり、それによって教員の働き方改革がなされ、保護者や教員間のコミュニケーションもスムーズになる圧倒的なメリットがあると説明した。
「学校によくあるこんな時間」を削減
実際の内容は、奈良市教育委員会事務局 教育DX推進課 教育ICT推進 係長の米田 力氏が説明した。
米田氏は最初に、職員朝礼やコピー機の前にいる時間、プリントを配る時間、朝の欠席電話を受ける「学校によくある時間」を挙げ、「同市では基本的に削減をしている」と語った。
米田氏は、同市がYouTubeで公開している学校教員の現場を紹介する動画の内容を交えて説明した。
教員も子供と同じく、1人1台のChromebookをすべての業務で利用しており、出欠連絡は校内ポータルサイトから確認可能で、朝の電話はほぼないという。職員会議もGoogle Workspaceの共同編集やGoogle Chatを活用することで削減し、すべてのデータがクラウドにあることから、資料に関する連絡もチャットでURLを送ることですぐアクセスできる。
職員朝礼の16〜32時間、朝の電話対応の約66時間が年間で削減
その結果、勤務時間外在校時間(時間外勤務)が、36協定で認められる月45時間以上の教員数が減少。令和3年度(2021年度)の32.4%から、令和5年度(2023年度)には27.5%になり、令和6年度(2024年度)にはさらに減少する見込みだという。
米田氏は削減した業務として、まず、ポータルサイトの活用で職員朝礼がなくなったことを挙げた。1日5〜10分、授業日数が年間200日とすると、年間で16〜32時間が削減された計算になる。また朝の電話対応は、1件およそ1分として、1人2〜3クラス担当して1日20件とした場合、年間約66時間が削減された計算になる。
さらに保護者のやりとりもすべて電子化された。
こうした数字を元に米田氏は「欠席連絡などの業務そのものがなくなったわけではなく、業務のやり方を変えたことで時間を生み出せるようになった」として、その時間を子供と向き合う時間に使えるようになったと説明した。
データをクラウドに閉じ込める奈良市モデル
奈良市ではこうした環境をGoogleのクラウドサービスとゼロトラストで構築した。
この“奈良市モデル”のゼロトラストのポイントとして米田氏は、オンプレミスのサーバにおけるセキュリティ管理の負担を避けて「すべてをクラウドに上げ、世界標準の世界標準でデータを守る」、子供と教員が同じツールを使えない問題に対して「ネットワーク統合に加え、授業で使うツールと校務で使うツールの統合」、Google基盤にまとめてコスト上昇を抑える「シンプルな構成で、コストとセキュリティのバランスを最適化」の3つを挙げた。
教員は1台のChromebookを校内でも校外でも利用。Google Cloudの認証基盤で認証して、各種サービスにアクセスする。残っているオンプレミスの校務システムについてはChrome Enterpriseのオンプレミスコネクタを利用してアクセスする仕組みだ。
米田氏は、自身にとってのゼロトラストの考え方として、データをクラウドに閉じ込めてエンドポイントにデータを持ち出さず、クラウドの中のアクセスもすべて記録が残る制御が可能になると説明した。
なお、この奈良市モデルを参考に、いくつかの自治体が構築をしているという。
一連の取り組みについて米田氏は、これらの環境があくまで目指すべきなのは、子供たちの学びの充実であると説明。そのために先生方が校務についてもクラウドで行動し、そのための基盤がネットワーク統合であると語った。