レポート
イベント・セミナー
マイクラで創る「Well-being」なまちづくり、未来の都市開発はマイクラキッズに託す!
――「第6回Minecraftカップ」全国大会・表彰式レポート
2025年3月21日 12:30
教育版マインクラフトで理想の未来を創造・発表するコンテスト「第6回Minecraftカップ」の全国大会・表彰式が、2025年2月16日に大阪で開催された。
今年のメインテーマは、「Well-beingをデザインしよう」。今回から「まちづくり部門」と「たてもの部門」の2部門が設けられ、計774点の作品が応募された。全国大会当日には、最終審査に残った28チーム・総勢246名(まちづくり部門)の小中高生が登壇。日本国内はもちろん海外在住のファイナリストも集結し、熱いプレゼンテーションを繰り広げた。
本稿では、まちづくり部門で「最優秀賞」「ヤング賞」「ミドル賞」、そして「こどもとIT」賞を受賞した作品を中心に紹介するとともに、たてもの部門の優秀作品や会場の様子もお届けする。
■子供たちの視点でWell-beingを探究した「まちづくり部門」
・最優秀賞 弘前高校メディアクリエイト同好会「環世界~歴史と共に歩む街~」
・ヤング賞 長岡高専 Unfixed「Mirror Town」
・ミドル賞 R.O.Eプロジェクト「R.O.E city Recycling-oriented environmental city ~循環型環境都市~」
・こどもとIT賞 にゃんこ大挑戦「未来へつなぐ、想いと時間の町 にゃんこタウン」
■入賞作品は万博で展示! デザイン力が光る「たてもの部門」
■全国に広がるデジタルものづくり、クラウドファンディングで規模を拡大
子供たちの視点でWell-beingを探究した「まちづくり部門」
「まちづくり部門」のテーマは「未来のまちを共創しよう」。オンラインの相互投票による予選と地区大会を経て、28チーム総勢246名の小中高生がファイナリストとして全国大会に進出した。
全国大会では、各チームが4分間の発表を行う。最初の1分間で紹介動画を上映し、続く2分間で作品をアピール。その後、審査員による質疑応答へと進む。審査は、構想力・調査力・技術力・計画遂行力・テーマ性・表現力という6つの観点から行われる。
審査員には、タツナミシュウイチ氏を始め、国連政務官や建築家、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーなど、多彩な顔ぶれがそろった。
最優秀賞 弘前高校メディアクリエイト同好会「環世界~歴史と共に歩む街~」
最優秀賞に選ばれたのは、弘前高校メディアクリエイト同好会、同級生の3人組だ。彼らが考えたWell-beingは、「青空の下で食事が食べられること」。年齢を問わず、誰もが行動しやすい環境が“暮らしやすさ”だと考え、「2055年コンパクトシティ弘前市」を創り上げた。街の大動脈として、弘前市の桜にちなんだ桜色のLRT(次世代型路面電車システム)が走り、その沿線上に市役所や病院、ホスピス住宅のほか、大学を含む教育機関などを配置している。
作品の大きなテーマとなる、「歴史的建造物や文化的資産との共存」も見事に表現されていた。弘前城や禅林街、土手町商店街・かくみ小路といった建造物を文化的資産として保全し、「進化しながら未来へと引き継がれる街」を創造。歩きたくなる魅力的な街並みを重視し、愛着を持つ弘前市の建物を再現した。
特に目を奪われたのは、弘前城を囲む美しい桜の風景だ。発表者の小田桐健太郎さんは、「桜は全部色が違う。県外の人に伝えるには細部まで追求しなくては」と、桜の色合いへの工夫を説明。敢えて、桜ブロックは使わず、白や紫の羊毛・ガラス・コンクリートなど、テクスチャーや色の異なるブロックで地元の桜を表現した。日常の風景を丁寧に描き、その美しさを表現したからこそ、強い印象を残したのだろう。
同じく、入江宏希さんは、いつも学校から眺めているという五重塔の再現にこだわった。「縮尺をすべて正確に再現しました。実際に現地に足を運び、わからないところはGoogle Earthで距離を測るなど、リアルな建築にこだわりました」と笑顔で語ってくれた。
街をデザインするにあたり、近隣の市町村が集まって現在から未来へと続いていくロードマップをチームで作成し、ストーリーを詳細に設定した。
さらに、弘前大学大学院の土井良浩准教授に連絡を取り、他市の街づくりの事例を学び、暮らす人の目線に立った街づくりについて教わった。また、「共創」の部門テーマを形にするため弘前市都市計画課を訪問し、市長と都市計画担当者から市政や都市計画について学んだという。
東京大学大学院の渡邉英徳教授は講評で「都市計画を調べ、『30年後の街』をイメージさせるリアリスティックな作品」と高く評価。審査委員長のタツナミシュウイチ氏は「断トツの1位」と絶賛し、歴史や古いものを活用する視点や大学・自治体と連携して知識を取り入れる姿勢を賞賛した。
ヤング賞 長岡高専 Unfixed「Mirror Town」
長岡高専Unfixedは、エッジの効いたテーマと建築が評価され、ヤング賞を受賞。「Mirror Town」では、Well-beingが達成された幸福な世界と、荒廃した世界の2つの世界観を提示した。マイナス面に焦点を当てることで、「2030年に向け、人類はどう行動すべきか」を問いかける。
Well-beingが達成された街のランドマークは、巨大な円柱型の水槽「海洋ポッド」だ。ここでは、海洋生物の保護や、電気魚による発電の研究が行われている。人々が暮らすマンションには、ジャングルが生い茂り、光合成でエネルギーを供給している。空中を走るスカイグライダーも、100%再生可能エネルギーで電力をまかなっている。
2つの世界を効率的に作るためには、ワールドをコピーする必要があった。狭い範囲ならMakeCode、ストラクチャーブロック、WorldEditなどで複製できるが、街全体では範囲が広大すぎる。そこで、「アーマースタンド」を活用してワールドをコピーする方法を思い付き実行したところ、効率的に2つのワールドを作ることに成功した。
建築家・永山祐子氏は、「多くのチームが理想都市を描く中、唯一ディストピアを描いたチーム」と評価。単なる美しい都市との対比ではなく、人類が未来を築く上で避けて通れない選択肢を突きつける、高度なメッセージ性を称賛した。
発表者の千葉幹太さんは、「マイクラからエンジニア・クリエイターの夢が生まれる。今後は高専生としてマイクラの面白さを伝えたい」と語り、「高専に来てね!」とアピール。小中学生に幅広い進路があることを示す姿が頼もしい。
ミドル賞 R.O.Eプロジェクト「R.O.E city Recycling-oriented environmental city ~循環型環境都市~」
小5の双子の兄弟・R.O.Eプロジェクトは、誰もが農作業に参加し幸福を分かち合える世界を描いた。R.O.E cityは、農業を中心にエネルギーや生活が循環する環境都市。畑での楽しい野菜栽培体験が作品のもとになっているという。子供が働くと「おやつ券」がもらえるアイデアがほほ笑ましいが、注目すべきは街の循環を支える多彩な施設。ポリ乳酸製造、竹パルプ活用、生ゴミ堆肥化など、「作る→使う」循環システムを追求している。
街の主要エネルギーは水素発電。山形大学「ヤマガタSTEMアカデミー」で得た、水の電気分解と燃料電池の知識が生かされている。発電水源には豊富な海水を利用するが、コストを考慮し、海水を真水化する設備を構築。水素発電と水力発電を組み合わせ、安定した電力供給を実現した。
審査で永山氏は、「住みたいと思える循環型環境都市」と評し、「実体験から得た学びが作品に表れている」と称賛。プレゼンの終盤には「社会を良くするため探究したい」と語る兄弟の想いが強く伝わった。
こどもとIT賞 にゃんこ大挑戦「未来へつなぐ、想いと時間の町 にゃんこタウン」
高い芸術性と熱い建築魂を感じさせる作品に贈られる「こどもとIT」賞。今年は、中世ヨーロッパの世界観で美しい街並みを創り上げた「未来へつなぐ、想いと時間の町 にゃんこタウン」に贈られた。受賞後のインタビューで、チーム・にゃんこ大挑戦のメンバーたちは、「美しい街を作りたい」という想いがメンバー8人共通の想いだったと明かした。制作では特に「壁や屋根のトーン、色彩のバランスにこだわった」と語る。
建築やMakeCode、動画作成・進行管理など、メンバーの得意を生かした役割分担も見事だった同チーム。しかし、応募締切の1カ月程前、制作データが消える悲劇に見舞われていた。審査員のKazu氏いわく、「普通なら、出場をあきらめてしまいたくなる事件。どうやって立て直したのか?」という問いに対し、「来年は高校受験。最後の挑戦だからこそ、ギリギリまで素晴らしい作品を追究したかった」と語った。
「こどもとIT」賞の副賞として、マーケットプレイスへの挑戦権が授与される。データが消えても、挫けないレジリエンスの強さは、世界にチャレンジするにふさわしい。メンバーも「ぜひ挑戦したい」と意欲を見せていた。
入賞作品は万博で展示! デザイン力が光る「たてもの部門」
後半は、「たてもの部門」の表彰式と受賞者によるプレゼンテーションも行われた。「初心者でも挑戦しやすいように」と新設された同部門の対象は、12歳までの小学生以下。部門テーマは「未来の技術でパビリオンを創造しよう」で、入賞作品は大阪・関西万博で展示される。子供たちの作品が、未来を担う技術として披露される意義は大きい。
最優秀賞には、まつだせいじゅさんの「命のつながりパビリオン ~自分を大事に出来る場所~」が選ばれた。ミドル賞はgrow up together O.Y.Nさんの「TOGETHER -支えあうものたち-」、ジュニア賞はCCさんの「世界平和基地」が受賞し、表彰後には3チームによる発表が行われた。
授賞式でタツナミ氏は、「たてもの部門は、デザインの個性が際立っていた」と総評。まちづくり部門が都市の役割やWell-beingといったテーマを重視するのに対し、たてもの部門では「1つの建築物をいかに楽しく、面白く、個性的に表現できるか」が追求されており、子供たちの独創性が称えられた。
「命のつながりパビリオン ~自分を大事に出来る場所~」のテーマは、“ご先祖様”。まつださんは、Well-beingとは「心も体も良い状態であること」だと考え、そのためには自分自身を大切にし、ルーツとなる祖先への感謝が大事だということに気が付いたという。
特に、命が脈々とつながっていく様子を表現した有機的な建造物が素晴らしい。さらに、ご先祖様と同じメニューが食べられるレストランや、会話が楽しめる「ご先祖ホログラム通信機」など、ユニークな発想力が光る。審査委員長のタツナミ氏は、「デザインセンスが群を抜いている。このパビリオンが会場に現れたら、世界中の人々が感動するはず」と大絶賛した。
終了後、まつださんにマイクラカップの魅力を尋ねると、「大好きなマイクラの大会で楽しい。テーマ制作も面白く、英語も学べた。トロフィーがうれしい」と話してくれた。挑戦を見守った母親は、「人見知りだったが、受賞で『話したい』という気持ちが育った。挑戦のハードルは高いが、大会でのつながりが力になっている」と語る。万博での作品展示は、受賞者に自信と意欲を与えるだろう。
全国に広がるデジタルものづくり、クラウドファンディングで規模を拡大
受賞の有無に限らず、素晴らしい作品・プレゼンで力を発揮したファイナリストたち。街の完成度やプログラミング技術に加え、作品制作における調査・計画力が大人を驚かせた。審査員が「いつ起業するのか」と聞くシーンもあり、「理想の街づくり」を実装可能なプランに近づける構想力が際立っていた。
今年初めてファイナリスト控室に設置された「マイクラ体験ブース」も盛況だった。地域のテーブルごとにファイナリストの作品が用意され、子供たちは互いの作品を夢中でプレイ。実際のワールドを体験し、多くの学びを得ていた。
同ブースは、地区大会審査員の発案によるもので「地域の壁を越えてつながってほしい」という想いから生まれたという。各テーブルの色紙は、臨場感あふれるコメントで埋め尽くされていた。オンライン投票や大人の講評とは異なる“マイクラ仲間”の賞賛は、リアルな交流ならではの思い出となっただろう。
作品コンテストの枠を超え、地域のつながりを生み、大きく成長を続けるMinecraftカップ。今大会でも「すべての子供たちに、デジタルものづくりの楽しさを届けたい」という想いから、多数のワークショップや全国キャラバンが開催された。また、2025年1月にはNPO法人デジタルものづくり協議会を設立。来年以降の開催に向けて、クラウドファンディングを開始した。
全国には、まだ場が与えられていないだけで、未知の創造性を秘めた子供たちが大勢いる。この取り組みが、また新たな挑戦の場を生むことを期待している。