レポート

教育情報・データ

先生1年目で特別支援学級、指導計画や個別指導もできる「LITALICO教育ソフト」は強い味方!

LITALICO教育ソフトの活用が進む、足立区立加賀中学校の活用を紹介

多様な教育的ニーズを持つ子供たちが増える一方で、特別支援教育を担当する教員は不足傾向にある。また、初任者や転任者が急に担当するケースもあり、多くの教員が、児童生徒の実態把握と教育支援計画の作成に頭を悩ませている。

そうした中、「初任でも自信を持って指導できるようになった」といった声が寄せられているのが、株式会社LITALICOが提供する特別支援教育向けサービス「LITALICO教育ソフト」だ。同ソフトは、全国約200自治体が導入しており、東京都足立区もその1つだ。

同ソフトが現場でどのように活用されているのか。足立区立加賀中学校で、初任から通級教室を担当する田内謙蔵先生に、初任の教員ならではの課題や、活用によって得られた変化について語ってもらった。

特別支援教育の用語に苦戦した初年度、「まなびプラン」の文例が助けに

LITALICO教育ソフトは、特別支援教育に携わる教員を支援する、学校向けサービス。「まなびプラン」「まなび教材」「まなび動画」の3つの製品で構成されており、指導計画や教材の作成、教員の専門性・知識の獲得を支援する。足立区は、同ソフトがリリースされた2022年に、いち早く同ソフトを導入した。

特別支援教育に携わる教員の指導を包括的にサポートする「LITALICO教育ソフト」

足立区では、通級での指導を必要とする児童生徒に向けて、特別支援教室「コミュニケーションの教室」を設置している。田内先生は、初任で同教室の配属となり、今年で3年目。現在、12名の生徒を担当している。

足立区立加賀中学校 田内謙蔵先生。通常学級の先生とも連携を取りながら、特別支援教室で生徒を指導している

初任で配属された当初、「特別支援教育について、ほとんど知らない状態で着任したため、教育指導計画の作成にとても苦労しました」と振り返る田内先生。特に、個別の支援教育計画で「長期目標」と「短期目標」を立てる際の言葉選びに悩み、多くの時間を費やした。教員1年目というだけでも大変ななか、限られた時間で生徒を観察し、計画に反映させることは、とてもハードルが高い。使われる用語を1つとっても専門性が高いなか、LITALICO教育ソフトの「まなびプラン」が大きな助けとなったという。

「まなびプラン」は、児童生徒の特性を客観的に把握し、個々のニーズに合った支援計画の作成を支援するアプリだ。学習面だけでなく、行動面、感覚と運動の困りなど、4種類のアセスメントが用意されており、児童生徒の特性や各スキルの習得状況を、グラフやレーダーチャートでわかりやすく表示する。

「まなびプラン」アセスメント結果のイメージ

アセスメントの結果について、田内先生は「生徒の苦手な部分が、視覚的にわかりやすくなった」と効果を実感。「以前は、生徒の行動観察を手がかりとして、自分なりに実態を把握していました。しかし、アセスメントの結果が視覚的に表示されることで、生徒が「ここに困っている」という新たな気づきや、「この数値は高く表示されているのに、困っているのはなぜだろう?」という客観的な視点を得ることができました」と語る。

なお、教師だけでなく、保護者によるアセスメントも実施可能で、家庭と学校、両方の様子を多角的に把握することができる。アセスメントの結果と、実際の生徒の様子は必ずしもすべてが一致するわけではないが、データと実際の様子を見比べることで、より生徒の実態に合った指導計画が作成できるのだという。

指導計画を作成する際には、「計画作成サポート機能」が多くのヒントを与えてくれる。たとえば、目標や指導方法を入力する際には、アセスメントの結果に基づいた文例を提示する。アプリには6000点を超える文例が搭載しており、児童生徒の普段の様子や実際の行動をもとに、より適切な目標や指導法、合理的配慮を選択できる。0から計画を立てる難しさを軽減すると同時に、1人ひとりに合った指導の実現に近づくことで、経験の少ない先生でも自信を積み重ねていけるのが良い。

「計画作成サポート機能」では、アセスメント結果に基づいた文例や、前年度の入力内容など、計画検討のヒントになる情報が提示される

こうした文例を活用することで、田内先生が特に実感したのは、保護者面談での変化だった。「以前は、『家庭での様子はいかがですか?』といった一般的な質問しかできませんでした。しかし、LITALICO教育ソフトを活用することで、より具体的な情報を共有できるようになり、自分自身の知識が深まりました」と語ってくれた。

生徒との信頼関係を築き、自己有用感を高める「まなび教材」の活用法

「特別支援教育において、生徒と信頼関係を築くことは、何よりも大切」と語る田内先生。進級に伴う環境の変化や、なかには中学で初めて通級教室を利用する生徒も多く、コミュニケーションを図ることが難しいケースも少なくない。そこで、田内先生はまずは活動を楽しく、教室を好きになってもらえるよう、「まなび教材」を生かしている。その中でも生徒に好評なのが、「ストロータワー」だ。

「まなび教材」には、授業で使える教材が約25,000以上掲載されている。学習や生活面、コミュニケーションなど、児童生徒の困りごとや伸ばしたい力に応じて、幅広い学齢の教材が用意されており、「ストロータワー」もその1つだ。

「まなび教材」の画面。1人ひとりの目標に紐づいた教材が提案される
「この教材を見る」ボタンを押すと、PDF内の該当ページが表示される

「ストロータワー」づくりは、限られた材料を使って、制限時間内に高いタワーに積み上げるグループワーク。机上のワークではなく、身体を使った活動になるよう、田内先生は新聞紙の筒で代用した。前後半7分、作戦会議5分の時間設定で教室全体を使い、ペアを組んで取り組んだ。この活動で大切にしたのは、「相手を否定・批判しない」アサーティブなコミュニケーション。相手の気持ちを受け入れながら、自分の気持ちや考えを表現することを重視した。

まなび教材「ストロータワー」
教材の印刷やダウンロードが可能

生徒の試行錯誤により、タワーは、天井の高さにまで到達。教室名から、「コミュタワー」と名付けられた。この活動以降、「自分から『こんにちは』と教室に入ってくる生徒がものすごく増えた」と語る田内先生。

生徒が通常学級の友人を連れてきて「コミュタワー」を紹介する姿が強く印象に残ったという。また、活動の様子を写真に撮り、連絡ノートで保護者に共有したところ、多くのフィードバックを得ることができ、家庭との連携にも役立った。

一方、個別指導では、優先順位の判断や、予定の見通しを立てることが苦手な生徒に向けて、カレンダー教材「1日の予定を立てよう」を活用している。同教材は、AとBの2タイプの生徒のスケジュールを見比べ、自分の1日の過ごし方を客観的に振り返るもの。ワークシートのステップに沿って、自分に合ったスケジュール表を作ることを目標としている。

学び教材「1日の予定を立てよう」

田内先生が特に大切にしているのは、定期テスト期間の過ごし方だ。1日の生活の中に、学習時間をどう組み込むか、時間帯や場面別に「やることリスト」を考え、円グラフに書き込みながら、生徒が自ら予定を立てる。その際、重要なのは、計画通りにいくことではない。「1つでも、自分が決めた予定に沿って机に向かう時間があれば、計画成功。『頑張ったね』と褒めるようにしています」と田内先生。スモールステップで成功体験を積み重ね、生徒の自信と自己有用感を高めることをめざしている。

「まなび教材」をアレンジして、生徒の実態に合った支援を実現

LITALICO教育ソフトを活用する中で、田内先生も、自身の変化を実感している。1年目は「まなびプラン」の文例や提示される「まなび教材」に沿って指導を行っていたが、知識と経験を積むなかで「自分だったら、こう広げたい」という想いが芽生えてきたという。「次はこういう授業をしよう」と思いながら、教材をアレンジする時間が楽しいと語る田内先生。

たとえば、中学3年生に向けた授業「支えてくれる人」もその1つだ。内容は「身の回りにいる人たちが、自分にどんな手助けをしてくれているのか」について考え、生徒の自己理解・他者理解を促すもの。この授業には、「中学生活最後の自立に向けて、『自分の特性を理解して、困った時に誰に助けを求めれば上手くいくのか』、生徒が考えるきっかけを作りたい」という想いが込められている。

まなび教材「支えてくれる人」を元にアレンジ。自分の周りにいる人々との関係性を整理し、どのような手助けをしてもらえるのか考える

授業では、生徒が具体的に考えられるよう、学校の身近な人々を対象にしたワークシートを作成し、生徒に配布。担任やクラスメイトだけでなく、校長先生や栄養士、事務員など普段直接関わりがない人も、影で支えてくれる存在であることに目を向けた。また、「生徒が自由に記述する欄には、PTAや工事現場の作業員が挙がり、その生徒の視点がよくわかる気づきになりました」と田内先生。また、クラスでの友人関係が上手く行っていない生徒は、「仲の良い友達」の欄を空白にするなど、普段の困りごとや学校生活での見取りにつながる。

「まなび教材」をもとに、田内先生が作成したオリジナルの教材。中3の生徒が自身の周りにいる人について考え、自分の考えを書き込んだ

特別支援教育に携わるなかで「教員が生徒の困りごとを、しっかり理解する姿勢が大切」だと強調する田内先生。発達に特性がある生徒のなかには、自分の困りごとを理解していないケースも多く、「自分が何に困っているのか、自己理解を深めたうえで、その対処法や支援を求める術を身に付けていくことが大切になる」と考えている。

「特性のある生徒は、問題行動ばかりが注目されてしまい、本人の困りごとや頑張りが認められないことも少なくありません。生徒を様々な角度で見守り、支援するうえで、LITALICO教育ソフトは大きなヒントを与えてくれる存在です」と田内先生は語る。

アセスメントやデータは、必ずしも生徒の実態に合っているとは限らない。しかし、LITALICO教育ソフトは、経験が浅い教員にとっては、新たな視点をもたらす補助となり、スキルを積み上げた教員にとっては「やりたい授業」を実現するための良き伴走者となる。「学びづらさ」を抱える子供たちに、最適な支援を届けるためには、先生の経験やスキルに関係なく指導できる環境が大切だと実感した。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやアプリを中心としたゲーム雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは幼稚園児&小学生の母。親目線&ゲーマー視点でインクルーシブ教育やエデュテインメントを中心に教育ICTの分野に取り組んでいく。