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プラレールプログラミングから宇宙教材まで、EDIX東京のSTEAM教育ゾーンを紹介

AR/VRを使った体験展示、電子工学のアートも

株式会社アーテックのブース

教育分野の大規模な展示会「第14回EDIX(教育総合展)東京」が、5月10~12日にかけて開催された。本稿ではSTEAM EXPOゾーンを中心に、主にプログラミング教育に関係する展示をレポートしよう。

今年の展示ブースは昨年と比べて、大型機材の展示、商談、模擬授業などがかなり戻ってきた印象だった。プログラミング教材の定番製品も展示されていたが、筆者自身は今までと違った取り組みや、長く活動を続けていた企業の展示に目が留まった。

アーテックのブースはSTEAM、プログラミング教育を網羅

日本の大手メーカーの展示ブースを眺めながら、まず目についたのは、プログラミング・情報教育関連の老舗である株式会社アーテックのブース。今年も広い展示ゾーンに、見ごたえのある製品を並べていた。

まず、目立つところに見慣れないブロックが整然と並んでいたので聞いてみた。来春出荷予定の「Artec Links」の参考展示であった。なお、これはあくまで展示用のレイアウトで、こういうセットではないとのことであった。

Artec Links(参考展示)、多彩なブロックを使った電子工作とプログラミングが楽しめる

ほかには、STEAM教育やプログラミング教育など、テーマに沿った展示も。STEAM教育では、株式会社ソニー・グローバルエデュケーションが開発したロボット・プログラミング学習キット「KOOV」とアーテックブロックを組み合わせた作例を展示。小学校の理科や総合、中学校の理科や技術科、総合などで活用できるSTEAM教育の学びを紹介していた。

STEAM教育に関する展示

また、プログラミング教育では、情報Ⅰ・Ⅱ向けの教材から教育用のデータロガー「Artech Logger」のセットなども。

プログラミング教育の展示では学年、科目別に利用できる多彩な教材が並ぶ

展示の中に、教室向けのアナログ製品も置いてあるのがアーテックらしいと思った。

これは新しい装着型の何かかと思ってよく見たら、ヘルメットでした

プラレール、ポケモン財団、STEMON、マイクラカップも!

続いてSTEAM教育ゾーンへと移動。会場が広く、通りすがりにさまざまなブースが並んでいるので散策感が楽しい。すると、ちょうどEDIX東京の開催と同時に展開され話題を集めていた、株式会社ジャムハウスの「プラレールでプログラミング」の展示を見つけたのでさっそく拝見。

ジャムハウス「プラレールプログラミング」のブース

ブースに立ち寄った来場者が熱心に質問している中、「プラレールがいっぱい走っているけど、どうやって制御してるんだろうか?」と、首をひねって眺めていた。実は筆者、この時点で完全にこの教材を誤解していた。てっきり改造されたプラレールをパソコンで運転制御するプログラムを作るのかと思っていたのだ。

本製品では、プラレールのレールの組み方を通して順次処理、ループ、分岐といったプログラミングの考え方を学ぶというのが趣旨のようである。なるほど、確かにこれはループだなあと思いながら周回するプラレール列車を眺めていた。

噂の「プラレールプログラミング」はほんとにプラレールだった

続いては、ポケモン・ウィズ・ユー財団の「ポケモンプログラミングスタートキット」だ。「ポケモン・ウィズ・ユー」は、2011年3月11日に発生した東日本大震災をきっかけに始まった支援活動。昨年から一般財団法人となり、全国の小学校を中心にポケモンプログラミングスタートキットを無償で提供している。

「ポケモンプログラミングスタートキット」を紹介するブース

ポケモンのキャラクター素材とScratchを使ったプログラミングのカリキュラム自体は、文部科学省、総務省及び経済産業省が推進する「未来の学び プログラミング教育推進月間(通称:みらプロ)」でも公開されていたので、記憶のある方も多いだろう。

展示されていたのは「プログラミングでポケモンをうごかしてみよう」と、パソコンにまだ慣れていない児童向けに操作を楽しく練習できる「ポケモンPCトレーニング」の2つ。GIGA端末ではじめてパソコンやタブレット端末に触れる児童向けにこの2つのセットはとても力強い助けになりそうだ。

ポケモンPCトレーニングでは、ポケモンをゲットしながらタイピング練習ができる

現在は出前授業は行っておらず、指導者向けのオンライン研修を定期的に実施しているそうだ。無償の教材なので、ぜひ取り組んでみて欲しいと思う。

さらに、このコーナーの一角で多彩な教材を展示していたのが、株式会社ヴィリングのブース。STEAM教育と探究学習を組み合わせた学びを、自教室や放課後デイサービスまで展開している。ついこの春、幼児・小学生向けSTEAM教育&プログラミングスクール「STEMON(ステモン)」も新たに24校開設した。

ヴィリングのブース

ICT CONNECT 21のブースでは、おなじみ「Minecraftカップ」の展示が行われていた。今年は第5回大会となり、現在は、全国キャラバンのエントリーを受付中。ブースでは、昨年のキャラバンの様子やパンフレットを展示。地域によってはまだ申し込み可能なところもあるので、興味のある方は、公式サイトを見てほしい。

Minecraftカップのブース

宇宙への夢が広がる! ロボットプログラミング

ロボットプログラミングは、STEAM教育の人気テーマの1つ。今年は展示数が限られてはいたが、真新しいものをいくつかご紹介しよう。

月面探査を題材としたワークショップ用の探査ローバーを展示していたのは、株式会社日本旅⾏が手がける「ミライ塾」だ。現在進行中の月への有人飛行計画「アルテミス」を中心に、月面探査はホットな話題の一つ。ここで欠かせないのがローバーを使った探査である。リアルに月面に行くかもしれない機材を使ったワークショップは楽しそうだ。

探査ローバーが展示されていた

ロボット関係では、参考出展になるが、韓国企業のSAEONが目を引いた。展示されていたのは、ブース内の道路を周回し続ける自動運転ロボット「ALTINO」。使われている機械としては身近にあるが、ちゃんと横断歩道の前で止まる機能が組み込まれている。自動運転が身近になっていることもあり、プログラミングの題材としては面白い。

自動で周回する、四輪の自動運転ロボット「ALTINO」

また、「Arduino Board」を使ったいろいろな仕組みを展示している企業もあった。ともかく種類が多くて、それだけでも面白い。日本語の展示もあり、ブースの方も日本語で説明してくれた。一周回ってこういう電子工作を身近で作れるのも楽しい。

段ボールとArduino Boardを使ったバリエーション豊富な電子工作

今や、家庭のお掃除ロボットだけでなく、ファミレスの配膳ロボットを目にする機会も増えてきた。今の時代の子供たちは、ロボットと一緒にいることも抵抗なく、もはや身近にある当たり前の道具になりつつある。子供たちの興味や関心を広げるためには、夢が広がるなにかと組み合わせた教材や、自分でいじり倒せてプログラミングもできる小型ロボットや電子工作に触れる経験が大切だろう。

ARやVRからさらに広がる裾野、プログラミングやSTEAM教育の可能性は広い

少しプログラミングという視点からは外れるかもしれないが、AR/VRを使った体験展示も紹介しよう。展示内容が見慣れないこともあり、おっかなびっくりで遠巻きに見ている大人が多かった(筆者もその1人である)。

AR技術を使った最先端スポーツ「HADOU」も展示されていた。筆者も以前、TV番組で拝見したことがあった。ブースではプレイしている様子をディスプレイで表示しており、エナジーボールと称するエネルギーを撃ちあったり、バリアを張る姿が興味深かった。

ヘッドマウントと腕にセンサーを装備して技を駆使して競いあうスポーツHADO。戦っている様子をモニターで見ることができるのが面白い

さらにもう1つ紹介したいのは、床に画像を表示することで、特別な機材を装着せずに体を使って運動を楽しくできる「DiDiM」。ちょうど筆者が通ったときには計算クイズをやっていた。こちらは運動が苦手でも楽しめそうだ。小学校の体育館でやったら盛り上がりそうである。

アプリを自分たちで開発できるのかと聞いてみたが、現状は受託開発の形式になるそうだ。このあたり、設備や機材がもっと普及していくと学校や身近な施設での活用も広がっていきそうである。可能なら、地域の子供たちを巻き込んだアイデアソンやハッカソンをやってみたら面白そうだ。

床に表示された数字のアイコンを踏むことで操作する計算クイズ。いやでも体を動かすことになる

STEAMのAはアートだ!

主要なプログラミング教材を見て回ると、不意にむき出し基板を使った工作セットに目が留まった。東京理科大学葛飾キャンパスに研究室を置く、有限会社ケー・ピー・デイのブースだ。

ケー・ピー・デイのブース

メインで紹介していたのは、はんだ付け不要基盤ジョイント導通技術「LED Cube」。帝京大学教育学部との共同研究で小中学校の実践授業も行っており、実際に児童生徒が作成した作品も展示されていた。

機械の中身を見ることが少なくなった今、子供たちに基板を手に取ってほしいという想いから考えられた「基板アート」。なかなかの美しさだ。そして、基板とアートが結びつくとは!

この基盤はいったい何? というアート作品

最後に余談だが、会場を去ろうとしたときに、どこからか優雅な室内楽が聞こえてきた。「音楽教育のブースでもあったかしらん?」と音の出所をさがしてみると……

なんと、本物の演奏家が生演奏をしていたのだ!

S-Paketteによる音楽のデモンストレーション

ここはEDIX会場だよなあと思いつつ、掲示されていた内容を見て納得した。こちらは、株式会社S-Paketteによる学校に楽しい音楽を届ける活動のデモンストレーション。これもれっきとした教育コンテンツ、これもSTEAMのA。つまりアートではないか。

デジタル、メタバース、AR/VRによる広がりはもちろん大切だが、我々は所詮アナログな生き物である。スポーツやアートも共に大切であることは変わらない。さまざまなブースをまわり、改めて、子供たちの興味・関心や特性に応じて、テクノロジーの学びをデザインしていくことが大切だと考えさせられた。

新妻正夫

教育ライター/ICTコンサルタント。MIEE2022-2023、Global Minecraft Mentor。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主宰、STEAM分野で豊富な経験を持つ。コワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーター他、多方面で活動中。 教育版マインクラフトを活用した緩(ゆる)イースポーツ「はちみつカップ」の普及が最近のマイブーム。