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GIGA端末で動く『桃鉄 教育版』リリース︕ 教科学習から協働的な学び、お⾦の教育までを教育者が熱く語る

――「第1回 桃太郎電鉄 教育祭り!」レポート

「第1回 桃太郎電鉄 教育祭り!」の登壇者。写真左から坂本良晶氏(小学校教諭)、渡邊友紀子氏(小学校教諭)、岡村憲明氏(コナミデジタルエンタテインメント シニアプロデューサー)、正頭英和氏(小学校教諭)、福島 学氏(ICT支援員)、大河内 薫氏(税理士)

株式会社コナミデジタルエンタテインメントは2023年1月24日、学校で使えるゲーム『桃太郎電鉄 教育版Lite ~日本っておもしろい!~(以下、『桃鉄 教育版)』をリリースした。『桃太郎電鉄』は1988年に第1作が誕生して以来、最新作の販売数が累計350万本を超す大ヒットタイトル。それが学校で使えるようになり、教育関係者の注目を集めている。

リリースに先立ち、昨年12月18日(日)には、esports 銀座 Studioにて教育関係者向けセミナー「第1回 桃太郎電鉄 教育祭り!」が開催された。今回のセミナーでは、『桃鉄 教育版』の開発に携わった小学校教諭でエデュテイメントプロデューサーの正頭英和教諭が製品化の経緯や中身について語ったほか、現場の教師やICT支援員が活用を紹介。さらに税理士も交えて『桃鉄 教育版』を使ったお金の教育に関する対談も行われた。

教育×ゲームで「MADE IN JAPANの教育を作りたい」

小学校教諭・『桃太郎電鉄 教育版』エデュテイメントプロデューサー・正頭英和氏

正頭⽒は冒頭で、⾃⾝が教育界のノーベル賞といわれる「Global Teacher Prize(2019)」で世界のTop10に選出されたときの逸話を披露。海外の教育者の模擬授業を⾒て、「海外に比べて⽇本の教育はダメだと⾔われることが多いが、⽇本の先⽣⽅の技術は⾼い」と感じたという。

その経験から、「MADE IN JAPANの教育を作りたい」と思うようになったと正頭氏。当時から教育版マインクラフトを活用した授業に取り組んでいたことや、日本はゲームやアニメが強いことから、教育×ゲームに可能性を見出した。そして、たどり着いたのが、日本人に親しまれている『桃鉄』。「思いついた時に、すぐに原作者のさくま先生にメールしました」と正頭氏。それがきっかけとなって『桃鉄 教育版』の制作につながったと語った。

『桃鉄 教育版』の開発には、約3年かかったという。着想は2019年だったが、開発期間中にGIGAスクール構想が始まり、Webブラウザ版で、GIGA端末の3OSすべてに対応することを重視した。また、なるべく手を加えず、『桃鉄 教育版』を提供することにもこだわったと正頭氏。「先生方が笑顔になるのは、教材作りでワクワクして、それを子どもたちの前で“どうだ!”と試すとき。あれこれ機能を追加せず、もともとのゲームの面白さを活かせるので、先生たちのアイデアをかけ合わせて、クリエイティビティを発揮してほしい」と熱い想いを伝えた。

『桃鉄 教育版』は、GIGAスクール端末3OSに対応

『桃鉄 教育版』の3つの特徴「地域選択」「地理情報の表示」「教師用の管理画面」

『桃鉄』は、プレイヤーが鉄道会社の社長になり、日本全国の目的地をすごろくで周りながら、物件などを買い集めるゲーム。終了時点で、一番多く資産を持つプレイヤーが勝利するルールだ。『桃鉄 教育版』では学校の授業で使いやすいよう、いくつか独自の機能が搭載されている。

特長①:授業にあわせて、対象地域やプレイ時間が設定できる

授業のカリキュラムや住んでいる地域に合わせて、対象地域を絞った学習ができる。通常の「日本全国」の他に、「北海道」から「九州・沖縄」まで7つの地域が選択可能。プレイ時間は1~3年で、1年が約18分、3年は約54分。手軽にプレイできる1年を選べば、授業のアイスブレイクにも活用できる。

最初にプレイ年数を選択、おおよそのプレイ時間が表示される
「全国」の他、7つのプレイ地方から選択が可能

基本的な操作はキーボードで行う。矢印のカーソルで電車を動かし、enterキーで決定。タブレットPCやiPadのタッチ操作にも対応している。

キーボードでプレイする際の操作方法も解説

特長②:駅やランドマーク情報が表示される

すごろくで止まった駅の物件を購入するのが『桃鉄』の醍醐味だが、『桃鉄 教育版』ではそれに加えて駅や土地の地理情報がわかる「地理情報表示機能」を搭載。その地域の人口や特産品など、“実在地”の情報が写真と共に表示される。ほかにも、マップ内に建物や食べ物など豊富なアイコンがあるが、それらに虫メガネのカーソルを合わせると、観光地や史跡などランドマーク情報を参照できる。

石川県の金沢駅の情報、兼六園が紹介されている
カーソルを合わせると、鳴門の渦潮のランドマーク情報が!

特長③:教育現場に合わせたゲームバランスと管理画面

『桃鉄 教育版』では、相手プレイヤーの妨害につながる「貧乏神」を排除し、プレイヤーの持ち金(資金)が過度に変動しないように調整されている。また、攻撃カードの対象をランダムで選定し、子ども同士のトラブルに発展しないよう配慮した。

ゲームをプレイするには、管理ツールとの連動が必須で、「授業パスワード」を入力しなければ、児童生徒はゲームを開始できない。教師は必要に応じていつでも中断することが可能なうえ、管理ツールでゲームの参加人数、有効期限の設定もできる。管理ツールを閉じても、有効期限内であればプレイ可能なため、自宅での宿題として使用できるが、その際は、プレイ時間を設定し、児童生徒が夜遅くまでプレイすることを防ぐことができる。

管理ツールの画面。部屋を作成し、授業パスワードを発行する
「ゲームの一時停止」を行うと、児童生徒の画面が中断される

学校に導入する際のポイントや、授業・家庭学習での実践を発表

小学校教諭、Microsoft認定教育イノベーター 坂本良晶氏

続いては、小学校教諭の坂本良晶氏が小学校での実践を語った。

社会科では駅の名産品をレポートし、教育用掲示板「Padlet」で共有する活動を紹介。その際、「農業物件を買おう」などテーマを決めてミッション形式にすると、子どもたちは農業が盛んな地域をねらってスタートするなど、学びが活性化されるのだという。

特産品を集めて、子どもたちが作った「ぐるナビ~『桃鉄』編~」

算数では、小4の児童が『桃鉄 教育版』を活用して「1億を超える数」や「百分率(割合)」の考え方に触れられる事例を紹介した。児童たちは普段、10億の数字を自分事として扱うことが少ないが、「先生、あと9,000万で10億だよ」と発言する児童や、「1,000万円で(収益率が)80%の物件は、決算で800万円手に入る」と計算する児童がいた例を挙げた。ほかにも、国語では無意識に知らない漢字を覚えたり、興味のある地域の特色について説明文を書き、ディスカッションアプリ「Flip」で発表する活動を紹介した。

坂本氏は、『桃鉄 教育版』における公立学校への導入と活用について、必要になるのは「大人力」、「提案力」、「巻き込み力」だと強調。導入に対する反対意見があったとしても、感情的にならず、大人の対応で落としどころを探ること、また何も考えずにスタートするのではなく、具体的な提案を行い、学校単位で周囲を巻き込むことが大切だと語った。さらに、不登校児の人数が24万人に上ることにも言及。『桃鉄 教育版』のようなエデュテインメントを通して、学校をもっと面白く、楽しく学べる場所にしたいと語った。

小学校教諭、キッズコーチング®マスターアドバイザー 渡邉友紀子氏

小学校教諭で現在は育休中、キッズコーチングマスターアドバイザーの肩書きも持つ渡邉友紀子氏は、小4の娘と一緒に家庭で『桃鉄 教育版』をプレイした様子を発表した。

保護者目線で見た『桃鉄 教育版』のメリットは、設定できる年数が限定されている、地域ごとに分れている、貧乏神がいないという3点だという。シングルプレイであれば、最も長い3年でも約1時間。また、地域が限られているので、親が介入しなくても子どもだけである程度プレイできる。渡邉氏がとくに助かったと語るのは、貧乏神がいないという点。ただ、プレイヤーからお金を奪う「スリの銀二」は実装されているため、イライラすることはある。

家庭でプレイする子を見守る際に、声がけするポイント

不利な展開になった際は、「銀二が来たんだね」と事実を伝え、「でもまだ〇万円あるね」と今手元にあるものに目を向ける。そのうえで、次の行動を選択するよう促すと、気持ちを落ち着かせて継続できるのだという。

一方、教員として『桃鉄 教育版』を家庭学習に取り入れる際は、事前に保護者に目的やルールを伝える必要があると渡邊氏。そのうえで、物件が買いやすい3年を設定することや、1人もしくは家族とプレイすること、プレイ地域を限定することを挙げた。後日、プレイした地域に関するミニテストをクイズアプリ「Kahoot!」で行うとより効果的だと述べた。

ICT支援員、教育版マインクラフト グローバルメンター

ICT支援員の福島 学氏が紹介したのは、佐賀県にある小学校の事例。小規模ながら、ICT活用に力を入れている学校で、小5、6の担任に『桃鉄 教育版』を提案すると、2つ返事で快諾してくれたという。校長の許可を得て、9時から21時までの時間制限だけを設定し、学校と自宅で自由にプレイできるようにした。子どもたちの反応は良好で、ゲームとして勝敗を競ったり、互いに特産品や地理情報を教え合いながら、マルチプレイを楽しんだという。

印象的だったのは、自分たちが住んでいる地域と東京のマップを比べ、その違いに衝撃を受けたというエピソード。東京は「建物が多い」「これでは3年間で物件を買い占めることができない」と言う子どもたちの反応に、会場がドッと湧いた。その他にも、富士山や青森のりんごなど、さまざまなアイコンを眺めながら地理や特産品への知識を身につけていったようだ。

自分が住んでいる地域と東京を比較

今では低学年の子どもたちもプレイしているというが、子どもたちの様子を見て福島氏が驚いたのは、ゲーム中にケンカが起きなかったこと。ゲームバランスの調整で大きく差がつくことがなく、プレイ時間も短いため、イライラする気持ちが大きくなる前に終了するのが良いのだと述べた。

『桃鉄 教育版』は、お金の教育にも役立つ

税理士、未来の先生フォーラム 監事 大河内 薫氏

最後のセッションを飾ったのは、正頭氏と税理士の大河内薫氏による「『桃鉄 教育版』×お金の教育」をテーマとした対談。大河内氏は、YouTubeやVoicyでお金の基礎知識を発信するほか、日本全国及び海外の日本人学校で、無償で“お金の授業”を展開している。

冒頭、正頭氏から「お金の授業とは?」という疑問を投げかけられると、大河内氏は「大人に邪魔をされない、マインドセットを与えること」と回答。日本の社会では「人前でお金の話をするのは、適切ではない」という認識があるが、「お金を特別扱いせず、お金の正しい使い方を覚えることが大切だ」と述べた。

“お金の教育”というと、投資の話題に偏りがちであるが、大河内氏は日本の金融教育は入り口から投資までの、グラデーションの部分が抜けていると指摘。最初のステップとしては、家計管理や社会保険を学ぶことが重要であり、そこを飛ばしてお金を学ぶことは算数に置いて四則演算を飛ばして因数分解を学ぶのと同じと例えた。

そのうえで、『桃鉄 教育版』は、お金について学ぶ、1つのトリガーになるという。ただし、ゲームをプレイするだけでは、“お金の勉強”にはならない。大切なのは、学ぶテーマを定め、それに添いながら並行して『桃鉄 教育版』をプレイすること。もし本格的に金融教育に『桃鉄 教育版』を活用するのであれば、投資の利回りを取り入れた「収益成績ランキング」や、税金の概念を扱う金融教育版 『桃鉄』があると望ましいという話題に発展した。

申し込みは、学校ドメインのメールが必要

コナミデジタルエンタテインメント シニアプロデューサー 岡村憲明氏

コナミデジタルエンタテインメント シニアプロデュ―サーの岡村憲明氏は、今後の展望や具体的な申し込みについて語った。

募集にあたっては現状、公立・私立の小中高が対象で、個人ではなく学校ドメインのメールで申し込むことが必須。学校の許可を得ていることが前提で、順次確認を経てアカウントが発行されるという。教育委員会や自治体の問い合わせは別途窓口を用意し、期間限定で試用版を提供することも可能だとした。また、学校以外のフリースクールや塾への対応も、今後段階的に検討していると述べた。

会場となったesports 銀座 Studioには、全国から教育者が集まった

「第1回 桃太郎電鉄 教育祭り!」で印象的だったのは、参加者の熱量。参加者も東北から関西まで200名近く集まったほか、質疑応答も活発で関心の高さを伺えた。正頭氏は、『桃鉄 教育版』の活用を広げるべく、今後もこうした集まりの場を重ねてエデュテインメントの現場を盛り上げていきたいと意欲を示した。MADE IN JAPANの『桃鉄』が、日本の新しい教育をどう動かしていくのか、熱い期待を抱きながら追いかけていきたい。

©さくまあきら ©Konami Digital Entertainment