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「桃太郎電鉄 教育版~日本っておもしろい!」学校向けに無償提供
~Webブラウザ版で動作し、先生向けの管理ツールも付属
2022年9月16日 15:52
「桃鉄」で地理を学んだという声は以前から多い
株式会社コナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)は、学校教育機関向けの「桃太郎電鉄 教育版Lite ~日本っておもしろい!~(以下、桃鉄 教育版)」を、9月15日より開催中の東京ゲームショウ 2022で発表した。
「桃鉄 教育版」は、鉄道を題材にしたデジタルボードゲーム「桃太郎電鉄」シリーズをもとに開発された。鉄道で日本を巡るというゲーム内容から、地理や経済に興味を持つきっかけになったという声が多いことから、教育現場でも使えるよう各種仕様を変更・改良して提供される。
東京ゲームショウ 2022のKONAMIブースで実施されたステージイベントでは、シニアプロデューサーの岡村憲明氏と、小学校教諭の正頭英和氏、エッセイストの犬山紙子氏が登壇し、MCをお笑いコンビのパックンマックンが務めた。
正頭氏は「教育版マインクラフト」を活用した学習でGlobal Teacher Prize 2019のトップ10に選ばれている。その実績もあり、本作のエデュテイメントプロデューサーとしてアドバイザー役を務めている。
正頭氏は学校現場にデジタルゲームを持ち込むことについて、「ゲームはもともと授業にあるもので、じゃんけんゲームや運動会も一種のゲーム。それがデジタルになると壁がある。今の子どもは生まれたころからスマートフォンがある世代で、デジタルゲームとリアルのゲームの境界があいまい。つまり大人のマインドの問題だ」と持論を展開した。
「桃鉄」というコンテンツの学習効果については、岡村氏が「ゲームに出てくる地理や地名は、さくまあきら先生(「桃鉄」の生みの親で、現在もシリーズの監督を務める)が実際に現地を旅して、食事をしておいしいという記憶から、物件や収益が決められている。ゲームに出てきた場所に行くと実際にある、というのが何より素晴らしい」と説明。
子どもの頃から「桃鉄」を遊んでいたという犬山氏は、「当時、勉強で詰め込んで暗記した記憶より、『桃鉄』で覚えた記憶の方が残っている。ゲームで学ぶのは身になるのでは」と述べた。実際にシリーズ作品を遊んだ人の中にも「日本の地理を『桃鉄』で知った」という人は多く(筆者もその1人だ)、「桃鉄」を教育現場と繋げようという動きに繋がったようだ。
GIGAスクール構想に合わせた教育現場向けの「桃鉄」を開発
学校現場ではGIGAスクール構想により、タブレットPCが1人に1台用意されているが、実際に使われる端末のOSはまちまち。「桃鉄 教育版」はそれを前提に、Webブラウザ版として提供される。ゲーム内容も、学校で使われることを考慮し、これまでの「桃鉄」シリーズから一部の仕様が変更されている。
まずプレイできる地域を限定できるようにした。通常の日本全国に加えて、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄の7地域が選べる。学習単元は地域ごとに学ぶことになっているので、それに合わせた地域版を用意したという。
また駅に到着すると、その駅や都道府県の情報が画面の右側に表示される。例えば品川に到着すると、品川の場所がわかるだけでなく、実際の街がどんなところなのか、何があるのかが表示される。ゲームと現実が繋がっているのがよくわかり、試験導入した学校でもこの機能が最も人気だったという。
ゲーム内容では、プレイヤーに悪さをするキャラクター「貧乏神」を排除。また他のプレイヤーを邪魔するカードも、特定のプレイヤーを選べずランダム選択されるよう変更されている。授業で使う想定だとプレイ時間が短く、またゲームがいじめに繋がるようなことがないように配慮したという。
さらに先生向けには管理ツールを提供。プレイできる時間や人数を制限でき、授業をコントロールできるようになっている。利用時間の設定は授業中のみならず、帰宅後にもプレイ可能な設定もできる。
試験導入の様子を見た岡村氏は、「みんな本当に楽しそうだったのが印象的。不登校だった生徒が桃鉄の授業には来ていたという話もあり、これがゲームの力なのではと思う」とコメント。正頭氏は現地には行けなかったそうだが、「子どもたちから『いつの間にか学んでいた』という声があった。遊んでいたらいつの間にか勉強になっていたというのがエデュテイメントの理想」と述べた。
MCのパックン氏は、「僕の子どもはインターナショナルスクールに通っているが、日本をちょっと遠く感じている。これを通じて日本を学べるかも」とコメント。犬山氏は「娘が来年小学校に入るが、これで楽しく学校に行ってくれる姿が目に浮かぶ。私もまた学校に行きたいくらい」と、それぞれ親の目線で語った。
教育機関に今冬より無償提供
気になる「桃鉄 教育版」の提供方法は、教育機関向けに無償で提供するとした。正頭氏は「地方と都会の教育格差は大きいが、無償であれば経済格差が1つなくなる」と意義を説明。
岡村氏はKONAMIが無償提供することについて、「さくま先生が、お子様のために何かできることはないかとずっとおっしゃっていた。それを1つ、ようやく実現できる準備が整った」と語った。
さらに、さくまあきら氏からのコメントも紹介。「昔から、『桃鉄』を学校教材にならないかな? と思って、作っていました。今回の『教育版』の話は長年の夢が叶った気がします。みんなで、地理で満点を取って、先生方を困らせてください」。
会場ではショウワノートとのコラボで、白地図帳を制作したことも紹介された。まだ商品化するかどうかは未定だが、ゲームで起きたことや学んだことを書き込める内容になっているという。
最後に正頭氏から、株式会社COLEYOが共同で行っている「タッチ+」という企画で、紙で遊べる「桃鉄」を制作したことが紹介された。こちらも無料で提供されるそうで、正頭氏は「『桃鉄 教育版』をやる前に紙で遊んでもらえれば、より楽しんでもらえるのでは」と語った。
「桃鉄 教育版」はティザーサイトがオープンしており、教育関係者からの問い合わせ窓口も用意されている。
KONAMIとしても初の試み。ゲームが子どもの役に立つ使い方を模索
イベント終了後、岡村氏と正頭氏に少しお話しを伺った。
――利用できるのが教育機関のみで、個人での利用はできない?
岡村氏:まずは学校関係のみで。初めての試みなので、実際にどういう風に使えばいいのか考えている。学校関係だけでなく、塾はどうなのか、あるいは家庭でやりたい場合はどうか。その辺りの対応はおいおい決めていきたい。
――Webブラウザ版であれば、内容アップデートも可能だと思うが、その辺りの予定は。
岡村氏:アップデートもかけていく。「桃鉄 教育版」だけでなく「桃鉄」の次回作も作っていくので、今回これで作って終わりではなく、使い方を広げていきたい。KONAMIの取り組みとしてはeスポーツもあるので、ゲームがお子様の役に立つような使い方をしていきたい。
――実際の現場でどう活用するのがいい?
正頭氏:基本的には社会の授業で使うことになると思うが、4~5月は新しいクラスで子どもたちも緊張があるので、そのアイスブレイクとして使うのもいい。転校生が来た時にも使えるのでは。自然に会話が生まれるので、地理にこだわらずに活用方法はあると思う。
――ゲームに対する先生方の理解も必要になると思うが、その点は。
正頭氏:「桃鉄」は先生の世代も知っているので、「ちょっとやってみたいな」というくらいの動機でやってもらえれば。やってみて「こんな学び方もあるんだ」と気づけば、先生方の想像力が少し開くと思う。「桃鉄 教育版」はただやるだけのコンテンツではなく、我々の想像していない使い方も出てくるはず。それを我々が集めて共有して、先生方の想像力が広がればいいなと思っている。
――対象になる学年は?
正頭氏:地理で言えば、4~5年生くらいになると思う。ただアイスブレイクのような使い方であれば中学校でも使えると思う。これから学校には総合的な学習、探究学習というものが入ってくるが、それならもっと高学年でも使い方はある。
岡村氏:学校教育機関であれば提供できるので、小学校だけでなく中学校も対象になる。漢字が出てくるので幼稚園は難しいが、学校教育機関ならどこからでも受け付ける。