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受験・入試

単なるCBTじゃない、メタバース模試に取り組むベネッセの本気を見た

仮想空間で高校生の仲間やライバルとつながり、24時間いつでも受験が可能

ベネッセが提供するメタバースは「Youmetas(ユメタス)」

 株式会社ベネッセコーポレーションは、同社の「進研模試」をメタバースプラットフォーム「cluster」上で実施すると発表した。対応するパソコンやタブレット端末があれば、期間内に時間や場所を問わず試験を受けられる。9月25日から「第1回 ベネッセ・駿台大学入学共通テスト模試(オンライン方式)」の受付を開始しており、受験料は2200円(税込)となっている。

24時間いつでも受験可能、メタバース活用の試み

 ベネッセは、「Youmetas(ユメタス)」という名称のメタバースを提供する。模擬試験は生徒が個人単位で申し込み、メタバース上の「試験会場」で試験を受ける。採用する「cluster」のメタバースは3Dゴーグルを使わなくても利用可能だ。

メタバース上の試験会場

 今回提供するサービスでは、会場に入って着席するまでがメタバースであり、模擬試験の受験や結果の確認は、受験者のWebブラウザーを利用する。

メタバースの試験会場にあるパソコンからWebブラウザーを起動して試験を開始
模擬試験の受験や結果確認はWebブラウザーを利用
消しゴム機能や画面の拡大・縮小、ページの移動方法などを確認できる
メタバースにログインしてマイルームに入室し、受験会場で模擬試験を受ける流れ

 模擬試験には、すべて画面上で回答する「マーク式」と、ダウンロードした試験問題を印刷し、答案をタブレット端末などで撮影・提出して採点を受ける「記述式」がある。マーク式は、受験後すぐに結果がわかるが、記述式は1~2週間の採点期間がかかる。受験料はマーク式が2200円、記述式が2700円(すべて税込)。

画面上で回答する「マーク式」と手書き答案を画像データで送る「記述式」がある
記述式の解答用紙

 試験は期間内なら24時間いつでも受験が可能。一度にすべての科目を受験する必要がなく、1科目ずつ受験することも可能で、忙しい受験生が空いた時間に特定の教科・科目を受験できる。

 メタバース模試は、通常模試を実施した日の3週間後から開始する。メタバース模試で得た得点は通常模試の得点データと照合し、8校まで選べる志望校の合否判定を出すが、メタバース模試によって模試全体のデータには影響が出ないようにしている。そのため、メタバース模試で不正な解答があったとしても、模試全体の合否判定には影響しないという。

全国の仲間とつながってコミュニケーションができる場所に

 同社が開始したメタバースへの取り組みは、模試試験そのものよりも、高校生同士がコミュニケーションの場として活用することが目的。違う学校や違う場所、リアルでないつながりを高校生に提供する。

 メタバース上には「マイルーム」と「試験会場」「コミュニケーションルーム」がある。「マイルーム」は自分の部屋であり、本棚には過去に受けた模試が並ぶ。同社は、マイルームにも仲間とつながる機能や目標を掲げてモチベーションを高める機能の追加を検討しているという。

マイルームの本棚には過去に受験した模試が並ぶ

 「試験会場」は試験を受ける場所で、大学のような教室の席にパソコンが置いてあり、空席に着席すると試験を受けられる。ほかの受験生もいて、一緒に受験する人を確認することもできる。

試験会場は大学の講義室のような空間となっている

 「コミュニケーションルーム」は、チャットや音声機能で同じ空間にいるほかの高校生と交流できる。ミーティングができるブースに集まって会話をした後、仲間を誘い合って試験会場に進むことも可能だ。なお、チャットによるトラブルを避けるため、送信ができない「NGワード」が設定されている。

コミュニケーションルームでひと休み
コミュニケーションルームでほかの受験者と会話できる

 友達になった相手は「フレンド」として登録することができ、オンラインかどうかの確認などもできるようになっている。

 なお、メタバースの大きな機能として、顔や衣装など、多くのパーツから自分の好みに合わせてアバターを作成できる。

アバターの髪型や顔のパーツ、衣装などを細かく設定できる

高校生を取り巻く課題のひとつをメタバースで解決したい

ベネッセコーポレーション ビジネスイノベーション部 部長の戸賀瀬知佳子氏

 9月25日の模試受付開始前に、同社による発表会が開催された。同社ビジネスイノベーション部 部長の戸賀瀬知佳子氏は、高校生を取り巻く環境変化に触れ「都市と地方、家庭の経済状況などによる教育環境の差が大きくなっている。多様性あるコミュニティの喪失や生徒の多様化、進路や学習の多様化により、自分に合った学習環境や仲間、ライバルを見つけにくい高校生が増えている」と指摘した。

 なかでも、1学年のクラスやクラス人数が減っている学校では、同じ進学先や同じ学部を志望する生徒が自分以外におらず、進路について気軽に話す相手がいないケースがある。

高校生を取り巻く環境の変化

 同社が「どういう感情が満たされたときにうれしいと感じるか」を高校生に調査したところ、「ほめられたい、ただし人前でなく」「自慢したい! ただし嫌な感じではなく」「でもライバルがほしい」という声が寄せられた。そのため、教育に関わる企業として生徒が学ぶ場、集う場、いろんな体験をする場という選択肢を増やすことを本気で考え、メタバースの提供に至ったという。

なぜメタバースなのか

 メタバースを選んだ理由として「生徒の課題を考えると、メタバースならではの特性や機能を使えば、いつも生活する場所では得られない体験を得られ、時間と場所の制約なしに仲間やライバルを引き合わせることができる」とした。高校教員からは、「学力が定着するならば、必ずしも試験は紙実施でなくてよい」という反応が寄せられたという。

高校生・大学生・高校教員の反応

 また、戸賀瀬氏は「メタバースで最初に展開するのは模擬試験でなくてもよかったが、不登校の生徒が増えていることから、必要性の高いものとして試行的に模擬試験を選んだ」とし、「並行して開発中、検討中のサービスが多々ある」とメタバース内でのサービス拡充の可能性を示した。

メタバース進研模試を体験、試験を受けた高校生も期待を寄せる

 発表会では、実際の進研模試をデモ機で試すことができた。Youmetasはclusterのプラットフォーム上で動作するが、デモ会場のノートパソコンで試した限り、軽快かつスムーズにアバターを操作できた。

試験会場にいるアバターの様子

 clusterを利用するには、初回のみアプリをインストールする必要がある。現時点では、Windows、macOS、iOS、Androidの環境で利用が可能だ。ただし、画面が小さいため、スマートフォンでの利用は推奨していない。また、現時点でChromebookには対応しない。

 発表会では、Youmetasを試用した千葉県在住の高校3年生「りーふ」さんから話を聞くことができた。

Youmetasを試用して「英語(リスニング)」と「情報I」を受験した高校3年生のりーふさん

 試用した感想として、時間にとらわれずに受験できることを最大のメリットとして挙げた。実際の模試会場に行くのはとても憂うつだが、自宅から受験できるので「自分のスイッチ」が入ったときにすぐに試せて、リラックスして試験に挑めたという。

 また、紙に印刷された試験問題だと、複数ページに記載された問題を確認するのにページを何度もめくる必要があるが、パソコンの場合は表示の縮小や画面分割が可能で、内容を確認しやすいと語った。

 りーふさんは、「英語(リスニング)」と「情報I」を受験したが、とても使いやすく、すぐにパソコンの操作に慣れたという。なお、パソコンで受験するにしても「あらかじめ計算用紙を用意した方がいい」という気付きを教えてくれた。

 りーふさんによると、ビデオ通話などで友達とつながりながら勉強を進める高校生もいるという。りーふさんは、Youmetasのコミュニケーションルームでほかの生徒と交流したり、同じ志望校を目指す人と勉強法を共有したりできることに期待を寄せていた。

正田拓也