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Google、個別最適な学びをサポートする「演習セット」日本語版を7月末より提供開始
Google Workspace for Educationの有料エディションで利用可能
2023年7月7日 06:30
グーグルは7月5日、教育関係者を対象とした同社のグローバル教育イベント「Google for Education Leader Series Japan 2023」を渋谷の日本オフィスで開催した。会場には、Google for Educationを学びに生かす教育関係者やICT教育を先導する教育者が全国から集まり、情報交換や交流の場が設けられたほか、イベントの一部は報道関係者にも公開された。
基調講演に登壇したのは、Google for Education Government and Academic Engagement LeadのChris Harte(クリス・ハート)氏。同氏は、グーグルがイベント同日に発表した調査レポート「The Future of Education(未来の教育白書)」から、今後注目すべき3つの教育トレンドについて語った。
このレポートは、日本を含む24か国で実施した教育の未来に関する調査結果をまとめたもので、「新しい未来に備える」、「指導と学びの方法を進化させる」、「学びのエコシステムを再考する」という3つのテーマによる三部構成となっている。
育成すべきスキルの変化、個別最適な学び、データ活用が今後のトレンド
ハート氏は、24か国を対象に実施した調査結果から、教育の未来に対して9つの傾向を紹介。その中で、日本でも共感が得られそうな3つのトレンドとして、「仕事に求められるスキルセットの変化」「個々に合わせた学びを提供する」「データの力で教育者を支援する」を取り上げ、グーグルの取り組みを語った。
最初の「仕事に求められるスキルセットの変化」についてハート氏は、今の子供たちを教育するうえで、「分析的思考とイノベーション」「批判的思考と分析」「想像性、独創力、イニシアチブ」などのスキルが求められていると語った。
経済の発展や気候変動、パンデミックにより流動する世界情勢と、テクノロジーが進化する中、仕事において求められるスキルも変化している。不確定な未来を生きる子供たちはさまざまな課題を解決していけるよう、教育も高いスキルを提供していく必要があると述べた。
ハート氏は川崎市の小学校を訪問した際のエピソードを披露。子供たちが1人1台端末を活用しながら前述した5つのスキルが身につくようなアクティブ・ラーニングで学んでいたほか、クラスメイトへの共感性や思いやりを育む姿に心を打たれたという。
またハート氏は、日本のGIGAスクール構想についても言及。以前は、コンピューター教室でしかPCを触ることができなかったのが、GIGAスクール構想で1300万人がPCを持って学ぶ環境になった。「たった12か月でここまで達成した日本はすばらしい」と賞賛した。
グーグルはスキルセットに役立つソリューションとして、子供向けのプログラミング教材「CS First」や、学生・教育者・社会人などリスキリングに活用できる無料のデジタルスキルトレーニング「Grow with Google」を紹介。また、2022年6月からは国や自治体、企業49団体が一体となる「日本リスキリングコンソーシアム」を発足したことを述べた。
個別最適な学びをサポートする新機能「演習セット」を7月末にリリース
2つ目のトレンド「個々に合わせた教育を実現する方法」については、東北大学 情報科学研究科 教授 堀田龍也氏のインタビュー動画を紹介した。その中で堀田氏は、今の教育現場はICTの基本的スキルを獲得した段階で、これからは児童生徒が自分で学習を決める段階に入っていくという見解を述べた。それを実現するためには、学習者個人に応じた「指導の個別化」と、学習の習熟度やニーズに合わせた「学習の個別化」が必要だと語る。
グーグルでは、こうした学びの変化に対し、新たなサービスとしてAIを活用したGoogle Classroomの新機能「演習セット」の日本語版を2023年7月末にリリースすると発表した。
演習セットとは、教員が演習セットに問題を追加すると、AIがその問題に対する学習スキルを提案する機能。例えば、数学の問題を演習セットに追加すると、方程式の解き方などその問題を解くのに必要な学習スキルがAIによって提案される。生徒は、問題につまずいたときに、学習スキルに応じてヒントや正解にたどり着くための関連動画を見ることができるほか、学習状況に応じてリアルタイムの指導が得られる。
また教員側は新規・既存の教材や授業からインタラクティブな課題を作成し、児童生徒の学習状況を把握できる。一例としては、提出された課題を自動採点し、成績や学習の傾向を分析。生徒に迅速なフィードバックを行うことが可能となる。
ハート氏は演習セットについて、教員は生徒に配布する学習スキルを自由に選択でき、児童生徒は助けが必要な時に役立つ学習スキルやヒント、リソースを受け取ることができると説明。児童生徒に教育体験を提供する中心的な存在は教員であり、今後もそうあり続けるべきと前置きをしつつ、「AIを活用することで、より個々に合わせた学習が可能になる未来を創造することができる」と語った。
なお、演習セットは、Google Workspace for Educationの有料エディション「Teaching and Upgrade」「Google Workspace for Education Plus」を定期購入すると使用できる。
生成AIの教育利用は大胆かつ慎重に
最後に、3つ目のトレンドである「データの力で教育者を支援する」に関しては、日本の多くの学校がGoogle Workspace for Education Plusを活用していることを歓迎しつつ、今後もダッシュボードの構築を通して、教育者の指導と児童生徒の学習を支援していくと述べた。
ミラー氏は、「AIと教育の未来」と題したプレゼンテーションで、グーグルは「AIを人々や企業、地域社会、全ての人にとって役立つものにする」という、AIファーストの方向性を表明。教育においても、アクセシビリティ、デジタルセキュリティ、生産性の向上、個に応じた指導(アダプティブラーニング)の4つの分野で、AIを教育ソリューションに導入してきたと述べた。
また、2018年に定めた「AI利用における基本方針」7項目を紹介し、「AIを使って教育者を支援し、児童生徒の可能性を最大限に引き出す」というグーグルの姿勢を表明。AIの活用により、個に合わせた学習が実現でき、「個別最適化された学習体験は、能力や家庭環境に関係なく、あらゆる児童生徒に適切な学習サポートを提供できる」と語った。
ミラー氏は、7月4日に文部科学省が「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を発表したことを受け、生成AIの扱いについても言及。グーグルでは長年、生成AIをサポートするモデルを構築してきたが、児童生徒の創造性を高める可能性を大事にしながらも、セキュリティに考慮した思慮深いアプローチが必要との考えを述べた。同省が示したガイドラインを遵守したうえで、今後もAIに関しては大胆かつ慎重に取り組んでいく方針を示した。