【連載】1人1台時代の学校現場
SSH公立高校のChromebook活用、アクティブ・ラーニングからGASプログラミングまで
――宮城県仙台第三高等学校の取り組み
2022年12月15日 06:45
高校は2022年度より学習指導要領が改訂された。「情報Ⅰ」が共通必履修科目になって高校生全員がプログラミングを学び、「総合的な探究の学習」で情報収集やアウトプットの手段としてICTを活用する授業が増えている。
その一方で、情報科の教員不足といった根本的な問題もあり、端末活用がなかなか進まない高校も多いと聞く。
そこで今回は、2021年度からChromebookを導入した宮城県仙台第三高等学校に1人1台端末の活用について話を伺った。同校では、さまざまな教科のアクティブ・ラーニングやプログラミングの授業などでICT活用が広がっている。同校の取り組みと成果、学校全体に広げるための工夫について詳しくレポートする。
SSHの端末導入の考え方、家庭の負担を減らす工夫も
宮城県仙台第三高等学校(仙台市宮城野区/以下、仙台三高)は、多くの生徒が国公立大学に現役合格する進学校。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定校でもあり、大学や研究機関と連携して先端の科学技術に触れる学びを提供するなど、科学的探究力の育成に力をいれている。授業では、全学年・全教科でアクティブ・ラーニングを実施。教育ICTにも力を入れており、2020年度には日本教育工学協会(JAET)が評価する「学校情報化優良校」にも認定された。
同校では、2021年度の新高校1年生よりChromebookによる1人1台端末の導入を実施した。旗振り役となった同校の佐々木克敬校長は前任校でも1人1台端末の導入を経験しており、その良さを実感していると語る。ゆえに、仙台三高においても、学校の特長に合わせたICT活用をめざしている。
「本校はSSH指定校で、アクティブ・ラーニングの先進校でもあります。1人1台端末はこれからの探究活動や課題研究において、情報収集や発表などの場面で大いに役立ちますし、学習効率を高めていけると考えました。また、生徒の情報活用能力の向上に取り組んでいくことも大切だと考えています」と佐々木校長は経緯を語った。
仙台三高では端末の導入方法として、学校が推奨する機種を家庭が購入する「BYAD(Bring Your Assigned Device)」を採用した。学校推奨端末には、初年度が「ASUS Chromebook Detachable CM3」を、2年目は「Dynabook Chromebook C1」を選択。また端末購入に対する家庭の費用負担を考慮して、無料アプリやネットのコンテンツなどで代替できる副教材を減らすことで、入学時にかかる費用を抑えたという。
Chromebookを選択した理由について、同校のICT活用推進を担う伊藤福子教諭は、Google Workspace for Educationとの親和性の高さとキーボードの必要性を挙げた。
「1人1台端末を導入する前の話になりますが、コロナ禍の休校の際に、県の教育委員会からGoogleアカウントが教員と生徒に配布され、スマートフォンなどでGoogleのツールは先に使用しており、それとの親和性は重要なポイントでした。またSSHの学習ではポスターやレポートなどを作成する高度な編集作業にはキーボードが必須だと考えていましたし、予算がリーズナブルであったこともChromebook選択の決め手になりました」と伊藤教諭は語る。
アクティブ・ラーニングとICTによる共同編集がマッチし、活用が広がる
2021年度からChromebookの活用がスタートし、今年度で2年目を迎えた仙台三高。伊藤教諭はここまでの取り組みを振り返り、「先生方の使い方を把握できないくらい、あらゆる授業や学校活動で活用が広がっている」と話す。
なかでも当たり前になってきたのはハイブリッド授業。欠席した生徒へオンラインで授業を配信するのは、コロナ禍の休校時に教員全員ができるようになった。またGoogle フォームを活用した小テストや、Google Jamboard(以下、Jamboard)を使った意見共有、調べた内容をGoogle スライドにまとめて共有し合う活用も日常的に行なわれているという。さらに、Google サイトを作成している教科も増え、学習に必要な情報や教材をわかりやすく提示・発信するなど、生徒への見せ方も変わってきた。
たとえば数学の授業では、教員が作成したYouTubeの解説動画をGoogle サイトに掲載し、生徒は反転学習の予習として視聴。授業はグループ学習で行なわれ、Jamboardを活用して生徒同士で分からない部分を教え合う。伊藤教諭はこのような授業は多くの教科で実践されており、生徒たちのディスカッションも活発になってきたと話す。「もともとアクティブ・ラーニングが進んでいた本校では、Googleの共同編集機能が学習によくマッチしています」と語る。
理数科の「課題研究」では生徒たちが研究している過程をGoogle スライドやポスターにまとめて発表するほか、Google Meet(以下、Meet)を活用して大学や研究機関、国内外の学生とつながり、英語でアドバイスをもらうなどより専門的で多様な交流が生まれる授業に取り組んでいる。
また昨年度から、京都の立命館宇治中学校・高等学校と協力し、2つの学校をMeetでつなぎ、遠隔でのアクティブ・ラーニングにも挑戦。生徒は授業で発表する原稿や資料を事前に相手校と共有し、Meetでの授業が終わった後も補足や質問をしながら交流を深めている。
佐々木校長はこうした取り組みについて「学校外の大人や生徒と学ぶ中で、“資料はこれで十分なのか”、“自分が意図する内容が相手にきちんと伝わっているのか”と発表内容を吟味するようになりました」と学習成果を語る。教員にとっても他校の生徒と取り組む授業は良い刺激になっているようで、結果として授業展開、教材、発問を見直す授業改善に結びつく好循環が生まれているのだという。
GASを使ったプログラミング授業でアルゴリズムの基礎を学ぶ
仙台三高では、生徒たちの情報活用能力の育成にも力を入れている。2年生の「情報の科学」では、Googleが提供する各種サービスの自動化や連携を行なう「Google Apps Script(以下、GAS)」をプログラミング学習の環境として使用。プログラミングやアルゴリズムの基礎を学ぶ学習で活用している。
プログラミングの授業は同校の草 陽介教諭と宮城教育大学の講師で行なわれ、カリキュラムと教材は大学が提供。生徒は手順が説明された教材を見ながら、与えられたプログラムを改変していくカタチでオリジナルの単語帳を作成していく。
授業を受け持つ草教諭は「Chromebookを生かしたプログラミングの授業としてGASを採用しました。わからないことがあっても、生徒同士で“ここはどうやるの?” と互いに教え合う場面が多く見られました。各自が自分のペースで学習を進めることができるので、得意な生徒はどんどん次の課題に進むなど主体的・協働的に取り組む姿が印象的でした」と語る。
一方、仙台三高では今年度から、情報に関する学習をさらに強化。学校設定科目として「データサイエンス」を新たに設け、生徒全員が履修するカリキュラムに組み込んだ。草教諭は、「これからの社会ではどのようにデータを活用していくのか、分析する力が求められます。高校では、その入り口部分を学びながら、資質・能力を育んでいきたいと考えています」と語る。
高1のデータサイエンスの授業では、みかん農園を題材にした学習を実施。みかんの大きさや収穫量など、さまざまな数値をスプレッドシートから読み込んでヒストグラムで分析し、どの農園と契約するのが良いか、その分析内容をスライドにまとめて発表する、といった授業が行なわれた。
草教諭は「データサイエンスといっても、高1なのでハイレベルな内容ではありません。生徒たちはITリテラシーにも大きな差がありますので、生徒同士で教え合いながら学ぶ環境や、Google 検索を使って分からないことは自分で調べて解決することを重視しています」と語った。今後の取り組みについては「作ったスプレッドシートをGmailで送信するといったGASの応用までできるといいのですが、授業時間数が少なくむずかしさを感じています。生徒の方から“GASを使えばこんなことができるんじゃないか”という提案が出るようになるといいですね」と草教諭。
ICT環境も整い、生徒の将来に役立つ情報の授業実践をと試行錯誤を続けつつも、時間的な制約などにより発展的な内容になかなか踏み込めないという、もどかしさが伝わってきた。
短時間でICT活用のヒントが学べる“ちょこ研”が大きく貢献
このように学校内でICT活用が広がった仙台三高では、教職員の間では具体的にどのような取り組みを行なったのだろうか。
佐々木校長は1人1台端末導入時に校内の組織を変革し、ICT活用を牽引する「図書ICT部」を新設したと話す。「導入当初から、学校の特徴を最大限に生かすためにはどうすればいいか、教員全員でアイデアを出しながら進めてきました」(佐々木校長)。
この図書ICT部長を務める伊藤教諭は、通称「ちょこ研」と呼ばれるICT活用研修が同校のICT活用に大きく貢献したと語る。これは20分で実施される「ちょこ」っとした研修のことで、「Google サイトの活用方法」や「Google ドライブの整理方法」など、日々のちょっとした疑問や困りごとをテーマに取り上げて学ぶ。参加は自由で、教員同士がざっくばらんにICTについて話せる場を作ったという。
伊藤教諭は、できる人や、得意な人だけがICTに取り組めばいいという空気は作りたくなかったと語る。「自分自身もICTが得意ではないのでよく分かるのですが、慣れてしまえばなんてことない操作も、慣れるまでに時間がかかりますし、つまずいてしまいます。そんな時に、“どうすればいいの?”と気軽に聞いたり、つまずきやすい部分を教えてもらったりできるような場があればいいと考えて、『ちょこ研』を始めました。結果として、よくわからない、できない視点でICT活用を進められたことが学校全体の活用に広げられたと考えています」と伊藤教諭は語る。
今後の課題について佐々木校長は、通信環境と人的支援の2つを挙げた。現在、同校では約1000台の端末が稼働しているが、同時接続は1学年分(約300台)が限界だという。また、不具合に対して自分たちだけで解決できない部分があり、ICT支援員の存在がますます重要になってきていると佐々木校長は語る。
高校の1人1台端末活用は、国が主導したGIGAスクールとは異なり、各高校に端末選定や活用方針を委ねられているケースが多い。そのため、学校内でICT活用を広げていくには課題も多いが、一方で高校にもなると、生徒も教員もICTを使ってできることが広がり、今までにない面白い授業ができることを、仙台三高の取り組みから学ぶことができた。ICTのメリットを生かせば、まだまだ高校の授業は面白くなると思える。GIGAスクールで学んだ子どもたちがさらに高校で充実した学びが受けられるようにICT活用を進めてほしい。
1人1台時代の学校現場 目次
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