レポート
製品・サービス
DXハイスクールの高校生、Meta QuestとAIで地域課題解決に挑む
鹿児島県 学校法人希望が丘学園 鳳凰高等学校の事例
2026年1月9日 06:30
地方の高校生が、いかにしてテクノロジーを武器に社会と接続し、教師はいかにしてその環境をデザインすべきか。2025年12月3日に開催された国内最大級のXR・メタバース カンファレンス「XR Kaigi 2025」で、ある高校の取り組みが注目を集めた。鹿児島県南さつま市にある学校法人希望が丘学園 鳳凰高等学校(以下、鳳凰高校)だ。
同校は文部科学省のDXハイスクール指定校として、VR機器や生成AIを導入。単なる機器の習得にとどまらず、地域課題の解決や生徒の自己実現につなげる先進的な探究活動を行っている。本稿では、「Meta Quest 3/3Sがひらく高校教育の新たな可能性」と題した、同校のサイエンスクラブで活動する生徒も登壇した鳳凰高校の発表から、教育現場におけるXRとAI活用の新しい学びの形を紹介する。
探究とデジタル技術の融合で挑む、鳳凰高校の教育DX
鳳凰高校は、1956年に設立された鹿児島県南薩地域で唯一の私立学校である。普通科、文理科、看護科の3学科を有しており、普通科は文部科学省のDXハイスクール指定学科に採択され、「探究を軸にデジタル技術を活用できる人材の育成」に力を注いでいる。

同校学校戦略支援室室長の中村太悟先生は「地域から世界へ、現在から未来へ」という同校のスローガンとともに、「生徒の『やりたい』や『好き』『得意』を伸ばして、これからの社会に活躍できるような人材の育成に取り組んでいる」と説明した。特に普通科の未来探究コースでは、従来の教科学習に加え、生徒がやりたいことを授業で実践できる探究的な活動がカリキュラムに組まれている。
さらに、生徒のデジタル分野での活動を支援するため、自由に使える「デジタルラボ」が整備されている。ハイスペックPCや3Dプリンター、レーザーカッター、VR・MRヘッドセット「Meta Quest 3」などの最新デジタル機器が揃えられ、生徒たちは放課後にデジタルラボに集まり、制作活動やコミュニケーションを図っているという。
地域課題解決に挑むXR活用事例
セッションでは鹿児島県から参加したサイエンスクラブの生徒3名も登壇し、それぞれの活動や興味を語った。鳳凰高校のサイエンスクラブは、3年生2名、2年生9名、1年生20名で構成される同好会で、単にデジタル技術を習得するだけでなく、地域の課題解決や社会活動につながる取り組みも行っている。
その一つが、南さつま市の自動運転バスのラッピングデザインへのXR活用だ。
2024年度、同市が行った自動運転バス導入の実証実験で、生徒たちはMeta Quest 3のMR(Mixed Reality/複合現実)機能を用いて、バーチャル空間に配置された実寸大のバスモデルに直接デザインを描き込みながらアイデアを膨らませた。その上で市役所と対話を重ねてデザインに落とし込み、最終的なラッピングデザインを実現した。
さらに、この活動を単発で終わらせるのではなく、論文にまとめて「2025PCカンファレンス」で発表、「U-18研究奨励賞」の最優秀論文賞を受賞するという実績につながった。
この実績をさらにブラッシュアップしたのが、南さつま市の地域資源である深海魚を活用したXRゲームの開発だ。
タカエビを特産とする南さつま市では、漁獲時に混獲された深海魚を廃棄処分するという課題があり、サイエンスクラブでは2021年から「深海魚プロジェクト」に取り組んでいた。2025年度は1年生を中心にゲームエンジンや3Dモデリングソフトを駆使して、深海魚について遊んで学べるXRゲームの開発に挑戦した。
開発を行った同校サイエンスクラブの土橋拓晃さんは、「廃棄処分される深海魚を何かしらの形で活用できないかと考え、XRという分野を用いて、新しい角度からアプローチを行った」と説明した。
ゲームは、かごしま水族館との共催イベントや市役所などで展示され、多くの市民が体験した。中村先生は「イベントの直前に生徒たちが自主的にゲームのアップデート作業を行っていた」と、生徒たちが自ら意欲的に取り組んでいる様子を語った。この活動は地元新聞にも取り上げられ、地域課題に対する住民の関心を高めることに教育活動が寄与した事例といえる。
高校生が語るXR活動のリアリティと未来
続く生徒の発表パートでは、高校1年生の3名が自分の言葉でサイエンスクラブや活動内容を紹介した。
同校サイエンスクラブは、「科学」という視点で多角的な活動を行っており、個人の意思を尊重して運営されている。具体的な運営体制は「大人顔負けの会社的な体制」で、月に何度か方針を決める会議を行い、自主的に意見を出し合いながら予定を立てるというように、生徒主導で組織が運営されている。
「個人でやる活動には限界がある。サイエンスクラブでは、自分の得意なところはとことん伸ばしつつ、苦手なところは任せ合う助け合いの関係が築けている」と、チーム活動によって一人では得られなかった体験ができることを語った。
また生徒たちは、チームプロジェクトに加え、個人の興味に基づいた活動にも取り組んでいる。
プロジェクトリーダーを務める山口陽夏さんは、主にBlenderを使ったモデリングを担当しており、全校舎のモデリング作業に取り組んだ際のエピソードを紹介。校舎の長さや高さを測るために「みんなで協力して、メジャーを使って測りメモをしている」と述べ、「今後はBlenderやUnreal Engineを使ったアニメーションやモデリングを学んで、これからに活かしていきたい」と意欲を示した。
堀切万徳さんは、実家がブリ養殖を行っていることから、「ブリ養殖シミュレーションゲーム」の制作を構想している。「そこで体験した問題や自然災害などの苦労を、ゲームを通して多くの人に知ってもらいたい」と動機を語った。
ゲームデベロッパー兼ディレクターとして「XR深海魚仕分け人」を開発した土橋拓晃さんは、中学時代からUnreal Engineに触れており、現在はバグ修正を他の部員に協力してもらったり、AIを活用したりしながら制作を進めているという。
セッション後の個別取材で、生徒たちに鳳凰高校入学の経緯を尋ねた。土橋さんは体験入学で初めてXR機器に触れた際、「こんなに面白い世界があるのか」と衝撃を受け、同校へ入学する動機になったという。また、もともとDIYが好きだったという山口さんは、現実での制作に限界を感じていた中で高校でXRと出会い、「これなら自分の頭の中にあるものを形にできる」と考えたという。なお、こうしたサイエンスクラブでの活動に対しては、家族も理解を示し、応援してくれているそうだ。
「できない理由」より「最適解」、生徒の熱意に火をつけるマインドセット
中村先生は、2014年から鳳凰高校の理科教諭を務め、現在は学校戦略支援室の室長も兼任している。教員を続けていく中で、「VUCAやライフシフトといった変化の時代において、学校が生き残るためには、魅力的な教育コンテンツと設備と環境、さらには社会への接続」が不可欠であるという危機感を持っていたと語る。
そんな中、2016年に「科学に限らず、生徒が自分のやりたいことが実現できる環境」としてサイエンスクラブを発足。予算獲得からスタートし、実験教室、デジタルファブリケーション、ワークショップ運営など、活動を多角的に展開していった。そして2024年から始めたのが、XR分野だったという。
XR活動推進における重要な視点として、中村先生は「面白い実践の中に、XRをエッセンス的に取り入れたい」と強調した。これは、手段を目的化させないためのアプローチであり、既存の活動に「できるところから少しずつ自分の活動に取り入れていく」ことが、現場の教員の負担軽減からも重要であるとアドバイスした。
また、サイエンスクラブを運営していく中で生徒たちからの多様なリクエストに対応する力がつき、「できない理由探しではなくて、できるための最適解を探す」ことを、教員として大切にしていると語った。「根幹には、ワクワクしたいというのが一番」と述べつつも、「生徒のやりたいことや興味の価値を最大限引き出すこと」であり、Meta Quest 3やハイスペックPCは、そのためのツールであるとした。
学校が教育DXを進める上で直面する「知識・スキル」「設備・整備」「組織内共有」といったハードルを乗り越えるため、鳳凰高校は外部人材の活用を重視している。特に、「先生が話すよりも、外部の方、特に卒業生が言うととても響く」として、外部からの言葉が生徒に与える影響力の大きさを指摘した。
さらに、中村先生は「AIの存在感」が非常に大きくなっていることを強調。3D制作ツールの「Unreal Engine」や「Blender」といったソフトで生徒が技術的なつまずきに直面した際、「AIがもう勝手に解決してくれる」時代になっていると述べた。
こうした技術進化を目の当たりにし、中村先生は「ティーチャー(教える人)はもう必要ないんじゃないか」と自問する。その上で、これからの教員や大人に求められる役割について、「やり方を教えるのではなく、生徒にきっかけを与え、活躍の場を設定すること。そして、社会との接続や技術の生かし方を、生徒と同じ熱量でワクワクしながら一緒に取り組んでいくことだ」と結論づけた。
生徒が課外活動や学習でAIと共創する環境
鳳凰高校では、生徒の学習活動におけるAI活用が進んでいる。同校は「Google Workspace for Education」を契約しており、Googleの生成AI「Gemini」の利用を探究や課外活動で推奨している。
生徒たちは、AIを自律的な学習や活動の支援ツールとして活用。例えば山口さんは、Blenderの3D制作スキルを教えてくれる「先生」をNotebookLMで作成、それを他のメンバーに共有している。ほかにも、今回のセッションのスライド作成をはじめ、様々な場面でGeminiを利用しているという。土橋さんはゲーム開発においてバグの修正案をAIに考えてもらっているほか、英単語の学習などにもGeminiを活用しているという。
中村先生自身もAIを積極的に活用しており、生徒の壁打ち相手として機能する「答えを教えない AI」というGeminiのカスタムGemを独自に作成し、実験的に運用している。このGemの目的は、「生徒の意見を引き出して、最終的にアウトプットに落とし込む」ことにあり、AIが答えを教えるのではなく、生徒に思考を促す対話を行うように指示が書かれている。
中村先生は、AIを「私の他に、40人のサブティーチャーが生徒のタブレットにいて対話を支援するイメージ」と説明。集団の中では発言しにくい思春期の生徒たちも、「1対1だから自分の意見を出さざるを得ない」状況に置くことで、発言を促す効果に期待している。さらに、その対話履歴をもとに、「対話の質や取り組みの姿勢を評価できるような使い方」を実験している段階であるという。
導入はゴールではない、DX人材育成の鍵は「自主性」を育む環境整備
DXハイスクールなどで予算を獲得し、新たな技術やサービスを導入する際の課題となるのが、その使い方や活用方法の広がり方だ。鳳凰高校では教育DXを支えるコンソーシアム(共同事業体)を設置し、多様な企業からの視点やアイデアを教育活動に取り入れている。
教育機関向けにMeta Questシリーズを活用した教育ソリューション「Meta Horizon Managed Solutions for Education」の導入支援を行い、同校のXR活用も支援しているmonoDukiの鮫島歩氏は、XR導入において最も重要なのは「伴走支援」であると強調する。
鮫島氏のもとには、学校の先生から操作や管理、トラブル対応、授業への組み込み方など、様々な不安の声が上がってくるという。鮫島氏は、「従来のように導入時で支援が途切れるのではなく、導入後から支援が本格化する」と語り、「未来から逆算した『教育環境』と『学習体験』をあたりまえにしたい」と訴えた。
さらに、教育におけるテクノロジーの活用は、「教育×XR×AI」の掛け算になっていると提示。「教育は未来作り」「XRの本質は世界や概念とのコミュニケーション」「AIは今、全ての人々に関わること」であり、AI技術が実現する世界は「魔法」を使うかのように進化していくと語った。そして、この「人」と「AI」をつなぐインターフェースであるXRを、その力を引き出す「魔法の杖」だと表現した。
鮫島氏は、適切な環境を整えれば「生徒たちが自律的にすごいことやっていく」と述べ、次世代の創造的な熱意が世界的に爆発している状況の中で、大人の役割は「その熱意を社会の価値やインパクトへと接続していく」ことであると語った。
Meta Quest 3などのXRデバイスと、GeminiやNotebook LMに代表されるAI技術は、鳳凰高校の実践例が示すように、高校教育における学びを深い探究活動へと変革する強力なツールである。
しかし、重要なのはデバイス自体の導入ではない。そのツールをどう使いこなすか、いかに生徒の「やりたい」という熱意を実践へとつなげ、社会と接続させるかという「未来からの逆算」の視点である。
教員が「共創者」として、専門的な外部人材と連携しながら環境を整備し、生徒の自主性を最大限に引き出すこと。これこそが、未来のDX推進を担う人材を育成するための、教育に求められる役割だと言えるだろう。































![[復刻版]国民礼法 製品画像:10位](https://m.media-amazon.com/images/I/51UJxXmztFL._SL160_.jpg)










![タッチペンで音が聞ける!はじめてずかん1000 英語つき ([バラエティ]) 製品画像:1位](https://m.media-amazon.com/images/I/611xdkoqG7L._SL160_.jpg)







![タッチペンでいっぱいあそべる!まいにちのことばずかん1500 英語つき ([バラエティ]) 製品画像:9位](https://m.media-amazon.com/images/I/515JolaI7LL._SL160_.jpg)










