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DXハイスクール探訪:三鷹中等教育学校──「本物に触れる」が生徒の土台と可能性を広げる
2025年12月12日 06:30
文部科学省が2024年度から進めているDXハイスクール。この施策により、多くの高校でICT環境がアップデートされている。一方で、採択されたものの、ツールをどう授業に取り入れるか、教員の研修時間をどう確保するかなど、試行錯誤が続く学校も少なくない。
そうした中で、工業高校や専門学科ではなく、普通科のIT先進校として継続2年目を迎えるのが、東京都立三鷹中等教育学校(以下、三鷹中等)だ。同校では、高性能なICT機器を活用し、理数・情報科目にとどまらず、すべての教科や探究活動で生かせる環境を築いている。本稿では、同校が導入した製品や取り組みを紹介する。
高校生であっても、大人が使う本物に触れる
三鷹中等は、中学から高校までの6年間を通して学ぶ完全中高一貫校。同校では、GIGAスクール構想前から東京都による1人1台端末の実証研究に取り組んできた先進校で、現在はICTのみならず、「探究」や「国際教育」といった領域でも様々な指定校に選ばれ、特色ある教育を行っている。
端末環境としては、Microsoft Surfaceシリーズを1人1台端末として採用し、学習や学校生活のプラットフォームにはMicrosoft Teamsを活用している。中高一貫校であることから、特にICTに力を入れていると思われがちだが、あくまでも普通科として学習指導要領に沿った授業を実施。中学1年生からICTを「日常の道具」と位置づけ、学校全体として活用しているのが特徴だ。
そんな三鷹中等におけるDXハイスクールについて情報科の能城茂雄先生は、ITの専門家を育てるのではなく、普通科の生徒がどのような経験を積むべきかを重視していると語る。
こだわっているのは、高校生であっても「 大人が使う本物に触れる 」ということ。中高生でも高性能なスマートフォンを持つようになった今だからこそ、「学校に来れば本物のICT機器がある環境」を作りたいと話す。
「例えば、スマートフォンでも動画を撮ることはできますが、生徒たちがデジタル一眼レフカメラと三脚を使って本格的な撮影を経験することができれば、ICTに対する興味・関心や感性をさらに高めることができるでしょう。本物の機材に触れたことで、それが素養となり、異なる価値を知ることにもつながります。 食事をしておいしいと感じるには、おいしいものを食べた経験が欠かせないのと同様に、ICT機器も本物に触れた経験があるからこそ違いがわかり、ICTに対する理解が深まると考えています 」(能城先生)。
生徒が自由に使える、2つのラボ「メディアラボ」と「STEAMラボ」
こうした考えのもと整備されたのが、主に情報の授業で活用される「 メディアラボ 」と、高性能PCから3Dプリンター、3Dスキャナまでを揃えて高度な創作ができる「 STEAMラボ 」である。主にはDXハイスクール事業の補助金で整備されたものだが、一部、それ以外の予算で整備されたものも含まれる。
メディアラボ
メディアラボは、情報の授業で使⽤する40台のPCが並ぶほか、教室後⽅には マウスコンピューターの⾼性能PC「DAIV-DGZ530S3-SH2-VR」 が8台配置されている。8台のPCは、Core i7プロセッサ、32GBメモリー、GeForce RTX 2060 Superなどを搭載しており、50TBのNASを含め、10GbpsのネットワークでLANが構成されている。Adobe Creative Cloudを使った映像や画像の編集、データ処理など、負荷の⾼い作業も⼗分対応できる。
モニターは、 iiyamaの31.5型4K液晶ディスプレイ「ProLite XB3288UHSU」 を採用し、高精細な映像編集やデザイン作業も視認性高く行える環境だ。
また、三鷹中等では全生徒に Adobe Creative Cloudコンプリートプランのライセンス を付与しており、Photoshop、Illustrator、Premiere Proといったプロも使用する映像編集ソフトを学校や自宅で使用できる。メディアラボには、 SONYのデジタル一眼カメラや三脚 もそろっており、生徒は自由に利用可能。撮影した動画をPremiere Proで編集しているという。
さらに、高性能PCの周辺機器としては、 SONYのモニターヘッドフォン「MDR-CD900ST」 が用意されている。同製品は音楽業界ではレコーディングの定番機で、人気YouTube番組「THE FIRST TAKE」でも使われているモデルであることから、生徒の認知度も高いという。「 プロも使っている機材を手にすると、生徒たちの気持ちがぐっと高まるようです 」と能城先生。
ちなみに、ヘッドフォンスタンドは生徒の発案によるもの。「これは良いヘッドフォンだから、直置きはやめてスタンドを作りたい」という声が上がり、3Dプリンターを使って制作したという。
STEAMラボ
一方、校舎の一角に設けられたSTEAMラボには、Core i7プロセッサ、GeForce RTX 4060、32GBメモリを搭載した サードウェーブの高性能PC「GALLERIA RM7C-R46-C」 と、 デュアル4Kモニター を組み合わせたセットが4台配置されている。映像編集や3Dモデリングといった高度な処理を必要とする作業にも十分対応できる環境で、生徒が創作活動に本格的に取り組める設備となっている。
キーボードにもこだわりがあり、 PFU製の高品質キーボード「Happy Hacking Keyboard」 が並んでいる。能城先生は「PC本体はどうしても数年で古くなりますが、ヘッドフォンやキーボードといった周辺機器は長く使えます。こうしたものにDXハイスクールの予算を使うのも有効だと考えています」と話す。
STEAMラボにはほかにも、3Dプリンターや3Dスキャナーなど、デジタルものづくりにも挑戦できる環境が整っている。 3Dプリンターは「Creality K1C」 をあえて同一モデルで2台導入した。能城先生によれば、自分があまり3Dプリンターに詳しくないからこそ、同じ機種を複数台そろえたという。そうすることで、トラブル時に機器の個体差による不具合なのか、仕様によるものなのかを見極めやすいからだ。
また、3Dプリンターで使用するフィラメントは湿気に弱く、未使用時の保管や乾燥が重要であることも、運用の中でわかったそうだ。インターネット上にはフィラメントの保管について多くの情報が出ているが、乾燥機付きモデルを選んだことで「扱いやすさを実感している」と語ってくれた。
3Dスキャナーについては、 SCAN DIMENSION「SOL PRO 3D scanner」 を導入した。こちらもプロ仕様の3Dスキャナーでターンテーブルに載せた対象物を高精度にデータ化できる。そのほか、情報II等での活用を想定しているVRゴーグル「Meta Quest 3」や、探究学習などに活用するカラーレーザープリンター、スキャナーなどもそろっている。
三鷹中等では、これらメディアラボやSTEAMラボを 生徒がいつでも使えるように鍵をかけずに開放 している。能城先生はその理由について、「本物の機器だからこそ、生徒が使いたいときに使えることが重要であり、その自由度をもたせることがDXハイスクールのめざす情報人材の育成につながると考えています」と説明する。機材が壊れるかもといった懸念もあるが、「そこをどう指導するかが教育ではないでしょうか」と能城先生は語っている。
2つのラボを支えるネットワークとサーバー環境
三鷹中等では、超高速ネットワークも実現しており、DXハイスクールの取り組みを支えている。外部回線を10Gbpsクラスの「フレッツ光クロス」へ更新し、ルーターからメディアラボ・STEAMラボまでは光ファイバーで10Gbps接続。校内バックボーンも中高としては異例の完全10Gbps化を行った。ラボ内のPCはすべて有線接続とし、高速かつ安定した通信を確保している。
「時間によって多少は異なりますが、今は下り・上りともに3,000Mbps以上、環境によっては3,500Mbps近く出ています」と能城先生は話す。こうした高速ネットワークは、動画編集や3Dモデリングなど大容量データを扱う作業では、転送速度が作業効率に直結するので、見逃せないポイントだ。
また、DXハイスクールの整備に合わせて、 Intel Xeon W-1250を搭載した高性能NAS「QNAP TVS-H1688X」 を導入しサーバー環境も強化している。同機を導入することで、既存の学校サーバーに手を加えることなく、生徒用の仮想マシン(VM)を追加運用できる点が大きなメリットだという。
「学校のサーバーはほかの部署やシステムともつながっているため、教育用に環境を追加したいと思っても自由にいじることができません。ところが、QNAPを“学校内用の仮想環境サーバー”として導入することで、既存ネットワークに負荷をかけず、必要なVMを自由に構築できるようになりました。レンタルサーバーを借りて授業で設定する方法もありますが、もしも設定に失敗したり、授業時間内に構築が終わらないと、セキュリティホールがある状態のまま1週間放置することになりかねません。それは避けたいんです」(能城先生)。
自由に使えるデジタル空間で、広がる生徒の活動、深まる探究学習
こうした環境を生かして、三鷹中等では生徒の活動や学びの幅が広がりつつある。情報分野への興味を深めた生徒の中には、全国の高校生を対象としたアプリ開発コンテストやハッカソンに挑戦するケースが出てきた。また、映像制作のスキルを高め、高校生フィルムコンテストに出品したグループや、大学が主催する中高生向けのデータサイエンス講座で受賞した生徒もいる。
また、情報分野に興味を持った生徒個人の挑戦だけでなく、3Dプリンターによる創作は文化祭などの学校行事でも人気だという。来場者に楽しんでもらいたいという想いから、生徒がデジタルものづくりのアイデアを発想できるのは、こうした環境があってこそだといえる。
さらに探究活動では、自らの課題解決につながるケースも見られるようになった。たとえば、「伊豆大島三原山における溶岩流シミュレーション」をテーマに研究を行った生徒は、三原山の地形を立体化したモデルを3Dプリンターで出力し、複数の噴火地点を想定してシミュレーションを行った。3Dプリンターをものづくりだけでなく、学びを深めるためのツールとして生かしている好事例だといえる。
もちろん、こうした学習へと発展させるためには、生徒たちが一定のスキルを持ち、着想できることが重要になる。その土台は、日頃の情報の授業や、学校生活における端末活用を通して培われていることも忘れてはならない。
例えば、高校1年生の「情報Ⅰ」では、「モデル化とシミュレーション」の単元で、Pythonを用いた数式モデルの構築に取り組んでいた。お小遣いや貯金の増減を題材にシミュレーションを行い、後半ではPythonのライブラリの一つである「Matplotlib」をインストールして都市の人口変化をグラフ化する課題にも挑戦していた。
能城先生が授業づくりで重視しているのは、生徒が自分の力で「面白い」「できた」と実感できるよう、課題の負荷を適切に調整することだ。簡単すぎても学びが深まらず、難しすぎても意欲が続かない。だからこそ、一人ひとりが理解度に応じた手応えを得られるよう、細かな工夫を施しているという。
「将来、生徒たちが、学校で使っていた機材は本当に良いものだったと思ってくれることが、良いIT人材を育てる土台になるのではないかと考えています」と話す能城先生。機材の充実そのものを目的とするのではなく、そこで得た経験が生徒の未来を切り開く力につながってほしいという願いが込められている。
写真撮影:クレジット記載のない写真はすべて編集部撮影










































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