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聖徳学園高校、女子高生がデータサイエンスを学び、社会課題の解決に挑む!
「WiDS(Women in Data Science)Tokyo@Shotoku」イベントレポート
2024年10月21日 06:30
2024年4月より、高校でデータサイエンスを本格的に学ぶ専門コースを設けた聖徳学園高等学校(東京都武蔵野市)。初年度入学した全6名の生徒たちは、なんと全員が女子だという。
彼女たちは、どんなことを学んでいるのだろうか。聖徳学園高校で2024年8月に開催されたイベント「WiDS(Women in Data Science)Tokyo@Shotoku」の様子を紹介しよう。同イベントでは、生徒たちの中間発表やデータサイエンス領域で活躍する女性研究者らの取り組みや課題感などが語られた。
高校で本格的なツールを活用しデータサイエンスを学ぶ
「WiDS(Women in Data Science)」とは、2015年に米スタンフォード大学を中心として始まった、ジェンダーに関係なくデータサイエンス分野における人材育成をめざすグローバルな活動のこと。今回のイベントはその一環として聖徳学園高校が会場となり、新設されたデータサイエンスコースの記念イベントとしても開催された。
冒頭、同校 校長補佐・データサイエンス部長のドゥラゴ英理花氏は、同コースを開設した理由について、「複雑な社会課題と新たな科学に関する知識が増大していく時代に生徒たちが対応するためには、データサイエンス教育が必要である」と語った。同校では教育課程特例(※)の制度を利用してデータサイエンスコースを設置しており、「教科を横断しながら学んだ知識・スキルを課題の探究に生かし、最終的に新たな価値の創造ができる人財を生み出すべく、3年間の教育課程をデザインした」と特色ある教育プログラムを紹介した。
※学習指導要領などの教育課程の基準によらない特別の教育課程の編成・実施を可能とする特例
一例として、同コースでは海外のデータを扱うため、数学など複数の教科を英語イマージョンで学ぶ。また統計学においては統計分析ツール「IBM SPSS Statistics」、プログラミング言語はPython、数学や情報を学ぶツールに「 Wolfram(ウルフラム)」という実際にビジネスでも使われているツールを採用。その知識やスキルを生かし、3年間を通じた「研究(データサイエンスアカデミー)」で生徒たちは新たな価値を生み出せる能力を身に付けていく。ちなみに、生徒たちが使用しているのはMacBookである。
データサイエンスコース1年生の研究成果の「中間発表」
生徒たちが取り組んでいた研究テーマは「防災」。今年1月に発生した能登半島地震から設定した課題である。関連するデータから課題を発見し、課題解決につながる「新しい価値」を考える。女子生徒5名は2チームに分かれて登壇した。
最初のチームは、身近な「避難訓練」を設定。従来の避難訓練は情報が事前に知らされており、突発的に起こる地震などの災害に対応できないのではないかという仮説のもと、校内でアンケートを実施。92.6%の生徒が避難訓練の必要性を認めるものの、避難経路については44.4%が覚えていないと回答。これでは突然やってくる災害時に対応できないと考えた。
そこで同チームでは「ランダム避難訓練」という仕組みを考案。突然、緊急地震速報が鳴り、3分間のカウントダウンタイマーが作動している間に、LINEに送信された複数パターンの避難経路を瞬間的に読み解いて避難するというもの。ただし、学校にいない間に発動しては困るので、過去の大地震の発災時刻の統計データを集め、その中で比較的よく地震が起きている時間帯の中から、在校時間帯と重なる10時、14時、16時から選択されるようプログラムしたそうだ。
条件分岐などのプログラムはArduinoスケッチで構成し、発生条件を満たすとプログラムが作動する。Wi-Fiと電源に接続された状態で校内に設置しておき、避難訓練を行う日にプログラムを実行させれば、教員も生徒も「その日に避難訓練が実施されることはわかるが、いつ、どのルートで避難するかは発動するまで誰もわからない」という緊張感がある中で避難訓練ができるようになる。
次のチームは、無事を知らせるローリングストック「ブジスト」という仕組みを提案した。事前の調査で、災害大国である日本でも非常用持ち出し袋(避難袋)を常備している人は36%しかおらず、さらに定期的に中身を入れ替える「ローリングストック」を行っているのは約13%という情報を得た。また災害時の備えだけでなく、家族への連絡にも課題があるとし、特にスマホに不慣れな高齢者が家族に無事を伝えるのが難しいという課題に着目した。
そこで同チームは、避難袋が持ち出されると専用LINEグループに通知が飛んだり、ローリングストックを促すための通知がLINEに届く仕組み「ブジスト」を考案した。
災害時は袋を自宅から持ち出すだけで「袋を持って家から出た」ことが家族に通知され、平時は避難袋の点検をLINEでリマインドしてくれる。今後は避難袋を開けて中身を点検するとセンサが作動し「遠隔地に住んでいる家族が点検した」ことが離れた家族にも伝わるようにするという。
この仕組みもスクーミーボードに接続されたセンサが避難袋の持ち出しを検知し、あらかじめ設定した家族のLINEグループに通知を自動送信する。プログラムは同じくArduinoスケッチで構築している。
このように、2つの発表は「防災」をテーマに課題発見、課題を裏付けるデータの調査、課題解決の立案、アイデアの実装という、教科横断した知識やスキルを生かしながら探究的に学んでいるのが特徴だ。しかも、データ分析だけに終わらず、高校生が学んだ知識をもとに実社会で役立つ課題解決の手法を着想しプロトタイプを作るところまで発展的に学んでいる。課題解決の手法として、様々なセンサや入力データをトリガーに動くスクーミ―ボードを利用している点も興味深く、何度も試行錯誤しながら実社会での実現可能性を体験できるのも面白い。
生徒たちが取り組んでいる両システムは現在開発中であり、プログラムなどの改良や実際の検証を重ね、最終成果を学年末に披露する予定だという。
女性研究者や有識者が語るデータサイエンス教育
イベントでは、データサイエンス領域の第一線で活躍する大妻女子大学データサイエンス学部設置準備室 教授 小野陽子氏、京都ノートルダム女子大学 社会情報課程 特任教授 北村美穂子 氏、Wolfram Research, Inc. 金光安芸子 氏、元IBM プロジェクトマネージャー 大田真実子氏が登壇した。
基調講演に立った小野陽子氏は、グローバルの人材が集まるWomen in Data Scienceの活動において、日本は長年参加が遅れていたことを述べた。東京で2019年に初イベントが開催された時も、「やっと日本で開催できた」という反応があったとエピソードを披露。
とはいえ、足元では急速に日本の大学でもデータサイエンス教育は広がっており、その教育は「課題設定」「データ分析」「モデリング」「社会実装」という段階を踏むという考え方が披露された。その上で小野氏は「人間の尊厳は考える能力にある。データや科学で言語化できるものはコピー可能だが、人間の思考やビジョンはコピーできない。これから大切なのはデータからストーリーを紡ぐ能力で、データの力を活用して人々を説得する能力が重要になってくる」と述べた。
大田真実子氏はIBM在籍時、いかに顧客に近いところで課題解決に関与するかに悩みつつ、最終的にプロジェクトマネージャーという立場でその願いが叶ったというエピソードを披露。顧客課題の解決のため良い提案を行ってコンペに勝つ必要があること、受託後にどうシステム構築を進めていくかになど、システム開発領域の実業務を高校生にもわかりやすく説明した。さらに今後はセキュリティやAIの組み込みが重要テーマとなり、データサイエンスによって今後30年の間でシステム構築が様変わりしていくであろうことを示唆した。
また、北村美穂子氏と金光安芸子氏は、Wolfram(ウルフラム)の各種教材の紹介とデモンストレーションを実施。会場では実際に機械学習の概念を直感的に理解できるよう、「きのこの山」と「たけのこの里」を画像認識して回答するAIとその裏側の仕組みが紹介された。この仕組みは Wolfram言語で構成されており、これを用いればノートPCと通信環境が揃えばデータはすべてクラウドに集約されるので、いつでも、どこでも作業が可能になるという。実際に聖徳学園でも数学や情報の授業で活用しているという。
一方で、後半の質疑応答では会場の参加者から「女性の技術職が増えないのはなぜか」という質問が出た。これに対し生徒の岡田さんは、「私は原子力が学びたかったし、父親が理系は稼げると後押ししてくれたし、兄も理系だったから物理を選んだけど、周りを見ていると親や友達の影響は大きいと思う」と回答。会場からは岡田さんの実感のこもった発言に拍手もあがった。
学校教育は時代を反映して変化しようとしているが、親や大人たちは昔のままの価値観で、それが子供たちの進路選択に大きな影響を与えている側面もあることがわかる。理系分野や技術職のジェンダーバランスを解決していくには、やはり学校だけではなく、社会や家庭も認識を変えていく必要性がまだまだあると感じたイベントであった。