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ChatGPTを親子で体験!親は子供に「AIとの付き合い方」をどう教えるか

ChatGPTを体験する親子ワークショップ。子供向けプログラミングスクールのTech Kids Schoolが2023年3月26日に開催(Tech Kids School東京渋谷校)

対話型のAI「ChatGPT」が、大きな話題になっている。革新的なAI技術として広く驚きを持って受け止められている一方で、学業で使うことへの懸念を示す声も上がるなど様々な受け止め方がある。

このChatGPTを親子で体験するワークショップをプログラミングスクールのTech Kids Schoolが開催した。同スクール生に限定したイベントながら、親子30組60名の枠に倍以上の応募があるという人気で、当日は抽選で選ばれた参加者が集まり、親子でその機能を実感し、AIとの付き合い方を考えた。

ChatGPTをさっそく体験!

株式会社CA Tech Kidsプロダクトグループ責任者 松倉健悟氏

ワークショップを進行するのは株式会社CA Tech Kidsプロダクトグループ責任者 松倉健悟氏。いきなり「シンギュラリティって聞いたことがある人いますか?」という問いかけからスタートした。

さすがプログラミングスクールに通っている子供たちで、その意味を知っている参加者も。松倉氏は「人間の脳と同程度のAIが生まれることをシンギュラリティと言います」と説明し、ChatGPTの登場は、シンギュラリティが現実的なものに思えるほどのインパクトがあることを伝えた。

そしてChatGPTとGoogle検索の違いを示し、「ChatGPTは人間の言葉で質問すると人間の言葉で返してくれるロボット」と説明。まずはさっそくいろいろな質問をしてみようという時間になった。

調べたいことのために、キーワードを考えて検索して情報を選ぶという検索のステップとは違うということを示した

なお、ChatGPTを開発したOpenAIの利用規約では「利用は13歳以上」とされているが、同ワークショップでは事前に保護者がアカウントを作成した上で参加することが条件で、子供は保護者のアカウントで、保護者の監督のもと共に体験をするという形で行われている。

CA Tech Kidsの見解としては、13歳未満はリスクから守るべきという意図と捉え、本イベントが親の判断で子供と一緒に体験するものであること、加えて、内容が間違っている可能性があることや、プライベートな情報を書かないなど注意喚起やリスクも伝えていることから、子供たちの安全に十分配慮していると判断している。

参加者は、さっそくいろいろな質問を入力し始めた。ゲームの攻略法など自分の興味のあることをどんどん質問している子もいれば、とりあえず試すように検索感覚で「○○について教えて」と聞いている子もいる。中には、さっそくプログラムの書き方を聞いて、コードを出力させている子も。まとまった文章で返答が表示される様子に、どこからともなく「すごい」という小さな声が聞こえてくる。

Unityのコードを出力させてみている参加者。同スクールのUnityコースに通っている

条件をつけて聞き方を工夫しよう

少し触ってみたところで松倉氏は、より適正な返答をさせるための重要なポイントを紹介した。質問で条件を明示したり、返答に条件や制約を設けたり、役割を与えたりすると、ChatGPTが出す返答の表現が変わるのだ。

例えば少し回答が難しいときには、「小学4年生で理解できるように例を交えて教えてください」と質問に付け加えると、より平易な表現になる。また、「あなたは心理カウンセラーです」と役割を設定するとやわらかい表現になる。

条件や役割を与えることで、回答の文章が変化する

自分が欲しい回答を引き出すためにはコツがあるということを知った上で、再びChatGPTを試す。今度は同じ内容を違う聞き方をして回答を比べるような様子があちこちでみられた。最近、対話型AIの使いこなし術として、プロンプト(指示文)の書き方に注目が集まっているように、自分が使い手としてコントロールするという感覚が伝わった様子だ。

「南海トラフ地震について教えて」という質問に「小学四年生です」とつけ加えて質問し直している

保護者も熱心にのぞきこみながら、質問の仕方次第でいろいろな変化が生まれることを一緒に楽しんでいる。質問の内容や、文言について親子で相談したり、出てきた返答について意見を交わしたり自然とコミュニケーションが生まれる。保護者が自らいろいろな質問を試している様子も印象的だ。

ChatGPTってそもそもどんなことをしているのか?

しばらく試したところで松倉氏は、ChatGPTのふるまいについて説明した。私たちが、「むかしむかし」と聞いたら「あるところに」という言葉を思い浮かべ、さらに「おじいさんとおばあさんがいました」と続きそう……と予測するのと同じように、ChatGPTのシステムが使っているGPT(Generative Pre-trained Transformer)も「前の言葉につながりそうな言葉を予測して話す」という仕組みで言葉を選んでいる。この説明に、参加者はちょっと意外そうな様子で聞き入った。

「カニが住んでいました」でも文章は成立するが、「おじいさんとおばあさんが住んでいました」の方がよりつながりそうだと判定して後者を選ぶ

だから実は苦手なこともある。例えば計算は苦手で、「1234+250×10−700」という式を示されても計算を間違ってしまう。暗算が得意な小学生が即座に正解を答える一方、ChatGPTがもっともらしい表現のまま明らかに答えを間違える様子に、会場の空気が少し変わった。

ChatGPTが計算を間違って回答

松倉氏は、このようにChatGPTは返答が間違っていることもあるので、内容が正しいか自分で確認しなければいけないし、プログラムのコードを書かせた場合は実際にテストしてデバッグしてみないとわからないから注意が必要だと説明した。「読書感想文も作ってくれますけど、自分が知らない物語の感想文だったら、それが本当にあっているのかどうかわからないですよね」(松倉氏)。

どんなことに使いたい? 活用アイディアを発表

これをふまえて、最後はどんなことに使ったら便利だと思うか、アイデアを考えながらChatGPTを試す時間になった。

参加者の画面をのぞいてみると、その質問は本当にさまざまだが、さっと見ただけでも3組くらいが料理に関する質問をしていた。たしかに料理のように、日常のルーティンワークでエンドレスに続き、発想が枯渇しやすく手間をかけている暇がないようなものに、さっと提案をもらえたらとても助かりそうだ。保護者のアイデアだったのかもしれない。

「大根がたくさんあります。醤油味でもなくてサラダでもなくて、子供が好むレシピを教えて」と聞いている。日常のつぶやきのような感覚で、レシピの提案が受けられる。お母さんのアイデアのようだ

最後に、考えたChatGPTの使い道を数名が発表した。「旅行先のおすすめスポットをきく」、「おすすめの本を教えてもらう」というものもあれば、「寝る前に子どもに読むお話をChatGPTに書かせてそれを自動音声で読み上げたらいいのではないか」、というアイデアもあがった。

松倉氏は参加者のさまざまな使い方を受け、次のようにまとめた。「ChatGPTはいろいろあるAIのうちのひとつです。AIをどう活用して、どう付き合っていくかがとても大事になってきます。これから私たちが想像できないようなAIやロボットが出てくる可能性がありますが、今回のChatGPTのように、新しいものが出てきたときに、それをどういう風に活用しようか、どういう使い方が私にはあっているんだろう、と考えられるようになってもらいたいです」。

参加者の感想はとても前向き

何組かの参加者親子に話を聞いた。「休み時間に4人で遊ぶアイデア」をChatGPTに聞いてみたというお子さんは、その回答に学校ではできないことが入っていることを教えてくれた。確かに、トランプ、おやつなどが含まれている。

一緒にいたお父さんは、「こうして回答を自分で見て、学校でやって良いとか悪いとかわかるわけじゃないですか。全部を信じずにあくまで参考にするということを覚えてもらいたいなと思います」と話す。お父さん自身が仕事ですでに論文の要約などに使っているそうで、「AIのいい使い方を学んでもらいたいです」と前向きだ。

回答には、トランプやおやつなど、学校に持っていけないものも含まれていた

また、この日初めて使ったというあるお母さんは、「たくさんの情報が得られる便利なツールですが、その答えが本当に信用できる情報なのかを、うのみにしないで自分が選んでいくという感覚を最初に持ってもらいたいな、と今日の話を聞いて思いました」と話してくれた。回答の情報源がわからないので、こんどは情報源が何なのかということもChatGPTに聞いてみようと考えているそうだ。

ほかにも、同じく今日初めて触ったというお父さんは、「仕事で使えそうですね。メールの謝罪文とか、結婚式のスピーチとかを考えてくれそうで、なにか補完的にやるには、使えそうだなと思いました」と話す。さらに、「こういう新しいことがどんどん出てくるわけなので、今までのやり方を貫くよりも、新しいことを受け入れてやっていった方がいいんじゃないかと思います」と、技術に対してとても積極的な受け止め方をしていた。

今回のワークショップ、主役はむしろ”親”だったのでは?

全体を通して、子どもたちは純粋に楽しんでいる様子だったが、どこか本気で相談しすぎていたり、AIに人格を見ているような様子もたまに見え、少し危うさも感じた。デジタルネイティブどころか、もはやAIネイティブとも言える世代の子供たちには、この技術は大きな変化ではなく、初めからそこにあるものとしてしか受け止めようがない。今回のようにAIとの距離感を保てるような情報を知ることは、AIを人と同一視するような感覚から離れるよいきっかけになっただろう。

一方で、同じ説明を聞いて体験をした保護者の感想は、大人だからこその視点と判断力に満ちていて、子供の一番近くにいる大人が、経験値と照らし合わせて自分なりのスタンスを持つことの大切さを感じさせられた。大人がほんの少しの知識をつけるだけで、少し余裕をもって、新しい技術に触れる子供たちを見守れるようになる。親子のワークショップの価値はここにあったのではないかと感じた。

松倉氏は最後にイラスト生成のAIで作ったイラストを紹介し、ChatGPT以外にもさまざまな新しいAIの姿があることを示した

松倉氏によると、普段同スクールでは原則として親子で一緒に受講することはなく、親が子供に介入しないような環境を意識しているそうだ。しかし今回のChatGPTに関しては、必ず親子での参加という条件にした。「おそらくChatGPTは、子供よりも保護者の皆さんの方が不安に感じているのではないかと思います。新しいものが出てきたときに、怖いからと保護者が禁止してしまったら子供は触れることができません。共に体験することで理解を得られればと考えていました。保護者の皆さんにもとても熱心に聞いてもらえて良かったです」と松倉氏は振り返った。

子供も大人も新しいものに出会うときは同じ初心者。こうして解説や少し知識を入れながら技術に出会えるという機会は、とても大切だと感じさせられた。なお、こちらのイベントについては保護者の関心も非常に高く、第2弾も応募が殺到している様子。CA Tech Kidsでは引き続き同イベントを開催してく予定だ。

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。