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『桃鉄 教育版』で、子供たちに自発的な学習の入り口をつくろう!

――インプレス「こどもとIT」編集部主催『桃鉄 教育版』オンラインセミナーレポート

インプレス「こどもとIT」編集部は、「GIGA端末で動く『桃鉄 教育版』リリース記念 セミナー~申し込み方法から授業展開まで、学校で始めるためのノウハウを伝授!」を2023年4月15日に開催した。

同セミナーには、ブラウザ版『桃太郎電鉄 教育版Lite ~日本っておもしろい!~(以下、『桃鉄 教育版)』のエデュテイメントプロデュ―サーで小学校教諭の正頭英和氏が登壇。『桃鉄 教育版』に関心を持つ教育関係者に向けて、学校に導入する際のポイントや授業での活用アイデアを紹介した。また、セミナーの後半には参加者の質問にリアルタイムで回答する一コマもあった。

『桃鉄 教育版』が子供の自発的な学習の入り口になる

『桃太郎電鉄 教育版』エデュテイメントプロデューサーで小学校教諭の正頭英和氏

『桃鉄 教育版』は、株式会社コナミデジタルエンタテインメントの人気タイトル『桃太郎電鉄』をベースに開発され、2023年1月24日より教育機関に向けて無償でリリースされたデジタル教材。WEBブラウザでプレイ可能なため、GIGA端末すべてに対応しており、教育関係者の熱い注目を集めている。

正頭⽒は冒頭で、自身の肩書でもある「エデュテインメント」の意味について説明。教育界のノーベル賞といわれる「Global Teacher Prize(2019)」を受賞したきっかけとなった、教育版マインクラフトを授業活用にも触れながら、「ゲームと教育は相性が良い」と語った。「エンターテインメントの要素を教育に取り入れ、子供たちが学びに前のめりになるような仕掛けを作る試みは以前からあった」と正頭氏は話す。

一方で、「エンターテインメントを教育化する事例は少なかった」と語り、『桃鉄 教育版』が教育現場にとって革新的な試みであると説明。2019年に始まった開発からどのような経緯で製品化されたのか、また2023年4月にリリースされたばかりの小学生向け教材「漢字桃鉄 地名漢字っておもしろい!」を始めとする、さまざまなエデュテインメント型教材を紹介した。

『漢字 桃鉄』など、さまざまなエデュテインメント型教材を無償でリリース(画像は日本漢字能力検定協会のサイトより)

「ゲーム×教育」という、本来相反する場所にあった両者が、エデュテインメントとして融合しつつある中、それでもやはり「学校現場にゲームを導入するのは、ハードルが高い」という声は少なくない。実際、今回のセミナーには参加者からも「『桃鉄 教育版』を学校に導入するためには、周囲をどう説得したらいいですか?」という内容が多く寄せられた。

正頭氏は「こうすれば上手くいくという確実な方法はない」と前置きしたうえで、ゲームについて、まずは客観的に考え、ゲームが持つポジティブな面とネガティブな面を理解することが必要だと述べた。

ゲームのポジティブな面。1人で没入し、達成感を得る一方、複数人で遊ぶコミュニケーションのツールに。また、興味・関心の入り口にもなる
ゲームのネガティブな面。勝敗が設定されることで、感情の起伏が激しくなるほか、健康面への影響が心配されることも

また、ゲームには他者との交流を促し、幸福感を高めるほか、プレイをきっかけに興味・関心を広げる学びの入り口としての有効であるとされている。正頭氏は2020年に海外メディアが取り上げたゲームに関するオックスフォード大学の研究発表を紹介。「人気ゲーム『どうぶつの森』をプレイするプレイヤーは幸福度が高い」という記事を取り上げながら、「過度なゲームは『原因』ではなく『兆候』」という有名な研究発表が示すように、良い面と悪い面を理解したうえで、上手に使うことが大事だと強調した。

オックスフォード大学の研究で示された、ゲームの効能
海外メディアが取り上げた、「ゲームと幸福度」に関する記事

この説明の中で、正頭氏は「実はゲームと学習には共通点が多く、唯一の違いは子供たちが自発的に取り組むかどうかである」と言及。ゲームにゴールがあるように、学習にもテストで満点を取ることや受験に合格するといった目標がある。

しかし、ゲームと異なり、学習は学校や保護者から与えられることが多く、子供たちが自発的に取り組む機会が少ない。もし学習に子供たちが自発的に取り組みたくなる入り口があれば、主体的な学びを促すことが可能であり、正頭氏は「エデュテインメントという切り口はそこから生まれた」と説明した。

ゲームの定義
学習とゲームは、ゴールを目指すプロセスが似ている

「『桃鉄 教育版』はあくまで入り口であり、それだけで学習が完結するものではない」と正頭氏は説明したうえで、学校に導入する際には、児童生徒の興味・関心の入り口としてのアイスブレイク的な活用や、教科の学びと紐づけた周辺的な学びとして提案することが有効だと語った。

地域学習から国語、探究学習まで! 授業での活用アイデア

続く実践パートでは、正頭氏が実際に『桃鉄 教育版』をデモプレイ。「教員用管理ツール」にログインし、児童生徒に向けて新規授業パスワードを作成する基本的な流れを説明した。当日はセミナー参加者にも、テストアカウントとして「授業」を開放。授業参加者の上限である100名が、期限つきでプレイ可能になった。

「授業パスワード」の設定画面。「有効期限」やプレイ可能な「有効時間」を設定できる

プレイ年数や、プレイ地方を選択する基本的な流れを紹介。その中で、プレイ年数の目安は1年間で約18分だが、授業でプレイする際は名前入力や操作の説明時間が必要となるため、1時間の枠に導入・プレイ・まとめを詰め込むよりも、導入、プレイ、まとめや発表にそれぞれコマ数を設けるのがお勧めだと語った。

また、今回のセミナーで多く寄せられた「教科・単元にどう落とし込めばよいか悩んでいる」という声に対しては、「『桃鉄』中心で授業を作ることはもちろん可能だが、『使える時に使えたらいい』というライトなスタンスで始めてもいい」とアドバイス。「『桃鉄』は日本のことがよく分かる資料集で、単元目標に向かうためのルートの1つだ」と語った。

そのうえで、具体的な授業での活用アイデアとして、小学4年・5年の社会や地域学習で導入校が行っている活用例を紹介。『桃鉄 教育版』を「地図帳」に見立て、あえてゲームで提示されたゴールを目指さずに「日本の水産業について調べる」などの学習テーマにそって物件を調べて発表する授業や、『桃鉄 教育版』をプレイしてから「近畿と関東では、どちらが住みやすいか?」というテーマでディベートを行う国語の活用例を挙げた。

ゲーム画面右側に表示される物件情報、駅や物件への興味を引き出す

また、参加者から「中学校での活用方法」について質問された際には、探究学習での活用を提案。身近な地域や駅について調べ、オリジナルの『桃鉄』を作る授業や、『桃鉄 教育版』が導入校に向けて提供する「白地図」にメモした学習内容を「Canva」や「Padlet」、「Microsoft PowerPoint」などにまとめて発表、共有するアイデアを紹介した。

授業で使える白地図シート(『桃鉄 教育版』公式サイトより)

後半の質疑応答コーナーでは、その他にも、小学校低学年や特別支援学校での活用法や、民間スクール、放課後デイサービスへの導入を求める要望など、多くの声が寄せられた。

その中で、学校に『桃鉄 教育版』を導入する際、「保護者に対してどのように説明をしたらいいか?」問われると、正頭氏は「教員と保護者の共通の願いは、子供たちが楽しく学ぶこと」としたうえで、『桃鉄 教育版』が子供たちの興味・関心の入り口になることを、きちんと言語化する必要があるとコメント。学校で『桃鉄 教育版』を活用する意義は、「家で遊ぶだけでは得られない学びの入り口を、いかに子供たちに提供できるか」、教員の腕の見せどころでもあると語った。

質疑応答コーナー

リリース以降、教育関係者から注目を集め、多くの自治体、学校に導入されている『桃鉄 教育版』。教育関係者からの要望により「スリの銀次」が削除されるなど、学びと遊びのベストなバランスを目指して継続してブラッシュアップが行われている。

授業での活用法について語る際、正頭氏が使うのは『桃鉄 教育版』を「大根」に例える表現だ。

「大根」をブリ大根やおでんのように加工して提供すると、出された人は“おいしい”か“おいしくない”かしか判断しない。しかし、「おいしい大根」を素材として提供すると、それを渡された人はどのように料理したら美味しく食べられるか工夫するし、アレンジもできる。教育的機能をふんだんに盛り込んだ「加工食品」として提供するのではなく、子供たちが楽しく学びに入れるように現場の教員のアイデアと手腕によっておいしく料理する「素材」。それが『桃鉄 教育版』だ。

正頭氏によると、今後『桃鉄 教育版』の事例を共有するイベントなども予定されているという。校種や教科を超えたユニークな活用アイデアが蓄積、共有され、生き生きと学ぶ子供たちの姿を目にする機会が増えることを期待したい。

©さくまあきら ©Konami Digital Entertainment

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは2人の男子を育てるママ。幼稚園児&小学校低学年の子どもを持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。