レポート
トピック
地域マイクラコミュニティ始めてみた。公園みたいに子どもも大人も集まれる場所を作ろう!
2022年12月21日 12:03
全国どこからでもアクセスできて、マルチプレイで好きなように遊べる小中学生のためのマイクラのクラブ。そんな場所があったらどんなに楽しいだろう。
そんな思い付きから、筆者は教育版マインクラフトを活用した小中学生対象の地域マイクラコミュニティ「MCClub」を主宰している。最近増えているマイクラを使ったプログラミング教室ではなく、子どもたちがマイクラの中で⼀緒に遊ぶというもの。実は、この取り組みを「こどもとIT」主催の教育版マインクラフトオンラインセミナーで紹介したところ、多くの方に興味を持っていただき、その後もお問合せをいただいたりしている。
そういうわけで、今回はMCClubがどんなことをしているのかをご紹介したい。
活動は、ゆるく始まった
2021年5月に「Camps and Clubs Update(キャンプとクラブアップデート)」がリリースされ、教育版マインクラフトが学校以外でも利用可能になった。筆者は、これを機に日本全国でマイクラを使うクラブが増えるのはないかと期待したのであるが、そう簡単にできるはずもなかった。なにしろ、教育版マインクラフトは初心者が始めるには情報が少なすぎる。ならば、いっそう自分でやってみるかと、"うっかり"思ってしまったのである。
一方で、子どもたちはコロナ禍の中、友達同士で集まって遊ぶこともままならない状況だった。家にいても退屈している。そんな話を知人から聞いて、「放課後にマイクラ広場でも開きましょうか」という流れに。当時、筆者はマルチプレイ用のホストをネット上で安定的に運営する実験もしており、ちょっとしたテストをかねるつもりでもあった。
こうして不定期ではあるが、筆者が教育版マインクラフトのゲストアカウントを用意して、希望するご家庭から参加してもらった。ときには、ただの草原ブロック、ときには「はちみつカップ」で遊んでもらったが、これが、妙に評判がよかった。雨の日に開くとたいそう喜ばれたりもした。
ある時、はたと気がついた。結局子どもたちは勝手に集まって遊べる場所と時間が必要だったのだ。いわば昭和にあった原っぱのようなものを求めているのかもしれない。もしそういう需要があるならば、この際、日本全国を対象にしたバーチャルなマイクラクラブを作ってしまおう、と思ったのが活動の始まりだ。
建築、探検、eスポーツ、イベント開催、遊びが広がる自由なマイクラ空間
こうして立ち上げたのが、「mcclub.jp」である。対象は日本全国の小中学生。基本はPCを用意してもらい、自宅のネットからの参加という方式を採用した。必要なアカウントは筆者が一括して発行/管理を行なっている。
幸い、今年の春ぐらいから、ネット越しのマルチプレイも安定運用が可能なレベルに改善され、現在は平日週2回、土曜日月2回と定期的にホストを開いて、子どもたちが毎回いろんな遊びをしている。どんな遊びをしているのか、簡単に紹介しよう。
ビルドチャレンジ「鯉のぼりを作ろう」
制限時間内にテーマに合わせた建築に挑戦するもの。ちょうど、5月の連休中に開催したミニイベントだったので「鯉のぼり」をテーマにした。全くの更地を用意したところ、子どもたちは特に迷うことなく、1時間以上、作業に没頭して完成した作品がこの3つ。
ピクセルペイント風の鯉のぼりは、実はかなり巨大スケールで見ていても作るのが大変そうだった。見事に泳いでいる鯉の模様だったりとか工夫があふれている。ちなみに織機で織ったらしい。
チームビルドに最適な「雪山サバイバルキャンプ」
子どもたちは、サバイバル遊びも大好きだ。建築をしていたかと思うと、サバイバルしたいと皆で探検に行ってしまうこともある。切り替えがとにかく速いのである。お気に入りの一つが「雪山サバイバルキャンプ」。なぜか寒い時期になると行きたがるようである。
かなり過酷なバイオーム(地形)で、雪は降り続くし、食べ物や木も少ない、そして何より強敵のストレイやウィッチが湧くのである。筆者は、これも修行のうちと思って、独りキャンプに挑戦して何日も過ごしたが、さんざんな目にあった。子どもたちと出かけた時は天国かと思った。チームや仲間のありがたさが身に染みた。こういうのも大事な体験のうちなのかも。
子どもたちによって洗練された「はちみつカップ」
教育版マインクラフトの中でeスポーツを楽しめるのが、「クリエイティブクラッシュ:働きバチ」のワールドでプレイできる蜜集め競争、通称「はちみつカップ」である。以前、編集部の有志で大人対子どもの会をやったことはレポートでもご紹介したが、既にあの時よりもレベルが上がっている。競い合うので練度が上がり、蜜を集めるスピードがともかく段違い。大人10人がかりでも3人の子どもにかなわない気がする。
夏祭りやハロウィンなどのイベント会場づくりに熱心に取り組む
夏祭りのイベントを開催したときは、特に女子小学生たちがイベントの会場づくりなどの準備から、当日の進行まで熱心に取り組んでくれた。この体験がよほど面白かったのか、ハロウィーンの時にはさらにスケールアップして、どこになにがあるやら全く把握できない巨大ハロウィーンパークができあがっていた。今はクリスマスの準備に燃えているようだ。何ができるのやら。
ちなみに、我々の間ではこうした定期的な集まりのことを、「おあつまり」と呼んでいる。あるお子さんが「今日はマイクラの『おあつまり』はないの?」と聞いてきたと保護者の方が連絡をくれ、以来、筆者も大層気に入って使っている。
おあつまりも当初はZoomを併用していたが、最近はすっかりマイクラ内のチャットを使うようになった。小学生たちの他愛ないやり取りも、眺めているだけで微笑ましい。ときには、スキン作りの好きな子が別の子にプレゼントして、もらった子が嬉しくて踊る姿もあった。そういえば、筆者もハロウィーン用に1ついただいた。
活動が広がり、派生した「mcclub.net」と「へたくら」
このmcclub.jpから派生した活動が2つある。1つは「mcclub.net」。全国向けの活動が思いのほか好評だったので、同じ仕組みで対面のマイクラ部も各地でできるのではないかと思ったのだ。
現在は、まだ1つだが、神戸/大阪で活動されている「フラミーゴ」という教室の中に「マイクラ部」のメニューが用意されている。アカウントは一括して当方で管理/発行してお渡ししているが、運営主体はおまかせして好きにやってもらっている。
このように、地域で活動されている方々が教育版マイクラにも興味をもち、何かしたいと相談のお問合せは増えてきている。ちなみに現在は、mcclub.jpとmcclub.netの活動をあわせて「MCClub」と称している。
そして、もう1つが、大人のへたっぴマイクラサークル「へたくら(hetakura.com)」である。
筆者はときどき誤解されるのだが、別にマイクラのプロでもなんでもない、ただのおじさんプレイヤーである。子どもたちと遊んでいると完全に下っ端扱いで、時に心優しい子が親切に面倒をみてくれる。
そんな状況なので、できれば大人の同レベルの話し相手が欲しいと思って立ち上げた。また先生方の中には、学校ではできないけど興味ある方もいて、へたくらが受け皿としての役割も果たしている。今のところ定期的に月1回で「夜会」をやっているが、今後は、大人向けの活動もいろいろ思案中である。
ここであげた3つの活動、mcclub.jp、mcclub.net、hetakura.comは違うドメインだが、土台になっているのは同じ1つのテナントだ。そのため、参加している子どもたち(と大人)はクラブに関係なく、容易に1つの場所に集まることができる。
例えば、前述した夏祭りとハロウィーンにはそれぞれのドメインからご参加いただきご好評だったようだ。中にはお子さんがあまりに楽しそうなので、自分も一緒に参加したいと「へたくら」に加入する保護者の方もいたりする。
教育版マインクラフトというプラットフォームの上で、地域や年齢をまたがったコミュニティが形成されつつあるわけだ。
教育版マインクラフトは業界をつなぐ架け橋に
今のところ、なんとなくゆるく続いているこれらクラブ活動だが、これから始めたい人のためにいくつかポイントを。
実験期間含めて、約1年ほど運営してみてわかったが、教育版マイクラは、クラブとして団体が利用するには、とてもよい仕組みだということだ。団体がきちんと契約して参加者にアカウントを提供する構造自体がとてもやりやすい。
ただ、教育版マイクラを継続的に利用するには1人当たり年間1425円(税込)の費用が発生する。この費用をどう負担するかがクラブ開始時の懸案事項だったが、各ご家庭、大人なら個人で負担してもらうのが現状ではベストと判断した。毎回ゲストアカウントを発行するよりは、いつでも自分のアカウントでサインインできる方が便利であるし、「自分のアカウント」を使ってもらう経験も必要だと思ったからである。
もう1つ、ネックになるのが、アカウントの管理に必要なMicrosoft 365上でのいろいろな設定作業。できる人が身近にいないという声はよく聞くが、Microsoft 365は企業で多く使われているクラウドサービスでもあり、実務で管理者をしている人や概念的なことを分かっている大人は多い。そのため、もしかしたら助けてくれる大人が近くにいるかもしれない。
これを実感する出来事があった。10月に「Microsoft Power Platform Conference 2022」というIT業界向けのイベント開催され、その中の一コマで、お話をさせていただく機会を得た。タイトルは「還暦の元kintoneエバが Power Platform を使ってバーチャル・マイクラクラブ運営に挑戦」。たいそう長いがご愛敬である。
普段お話しする教育関係とは全く異なるIT業界の方々は、教育版マイクラという存在そのものは初耳だったようだが、仕組みの話はすんなりご理解いただけた。中には登壇中にライセンスの購入画面まで進んでいた人もいたほか、なによりそういう活動があるなら自分も関わってみたいし助言もできるといった声をいただけたことが収穫だった。それもそうだ、IT業界の人だって、普通に人の親でもあるのだ。
教育版マインクラフトには多くの可能性を感じている筆者だが、教育関係者とIT業界の橋渡しになるかもしれないというのは発見であった。地域で人がいないと悩んでいる皆様、ちょっと足を踏み出してみると、意外と近くに青い鳥はいるのかも。いや、マイクラにいるのはオウムでしたっけね。
教育版マインクラフト関連記事
ワールド紹介【1】冒険しながら、英語も学べる「ケンブリッジ大学の英語アドベンチャー」