レポート

教育実践・事例

中学生が「ぷよぷよプログラミング」に挑戦、講師はeスポーツのプロ選手!

―― さいたま市立岩槻中学校「ぷよぷよプログラミング公開授業」レポート

中学校のキャリア教育の一環として「ぷよぷよプログラミング」を実施

⼤⼈気ゲーム「ぷよぷよ」シリーズを手掛ける株式会社セガが今、「ぷよぷよプログラミング」と呼ばれる教材を開発し、⼩学校、中学校、⾼校、⼤学でのプログラミング教育を⽀援する取り組みを進めている。

「ぷよ」と呼ばれるキャラクターを並べていく落ち物パズルゲームの「ぷよぷよ」。それが、どのようにプログラミング学習に生かされているのだろうか。さいたま市立岩槻中学校で実施された公開授業の様子を紹介しよう。

この授業は、さいたま市中学生職場体験事業「未来(みら)くるワーク体験」の一環として、同校の2年生を対象にセガが出張授業として提供したもの。埼玉県では初実施となり、講師は、ぷよぷよプロプレイヤー「ぴぽにあ」選手が務めた。

落ちる、回る、消す、「ぷよぷよ」の基本動作をプログラミング

「ぷよぷよプログラミング」は、株式会社アシアルが提供するプログラミング学習環境「Monaca Education」において、ぷよぷよのソースコードを書き写す作業を通してプログラミングが学習できる教材だ。クラウドサービスのため、インターネット環境があれば端末を問わず使用できる。

2022年6月29日、さいたま市立岩槻中学校の2年生を対象に実施された「ぷよぷよプログラミング」の公開授業の様子。5・6時間目を使って実施された

最初に、セガの講師からゲーム開発の仕事や、プログラミング⾔語について簡単に紹介。ぷよぷよプログラミングは「HTML」と「JavaScript」という⾔語が学べるという。

ぴぽにあ選⼿は、⼀般社団法⼈⽇本eスポーツ連合公認「ぷよぷよ」プロプレイヤー。「ぷよぷよのゲームを知っている⼈︖」と問いかけると、約3分の1ほどの⽣徒が⼿を挙げた

メイン講師であるぷよぷよプロプレイヤーの「ぴぽにあ」選⼿は、挨拶代わりに⽣徒たちの⽬の前でぷよぷよをプレイ。どのようなゲームなのかを紹介するとともに、連続して「ぷよ」を消す「15連鎖」を披露し、⽣徒たちからはどよめきと拍⼿が沸き起こる。雰囲気も温まったところで、プログラミング学習がスタートした。

授業はまず、縦12個×横6個のぷよが並ぶゲームフィールドと背景を作成するところからスタート。生徒たちは、配布されたテキストに書かれたサンプルコードを参考にしながら、JavaScriptのソースコードを打ちこんでいく。

ぷよぷよプログラミングの画面構成。左側にファイル構成、中央の黒い部分がソースコードの入力画面。プログラムを実行すると、右側のゲームデモ画面に表示される

ぴぽにあ選手は、「間違えても全然大丈夫!多少うるさくなってもいいので、分からないことがあったら質問したり、周りの友だちに聞いてください」と生徒に向かってアドバイス。

その後は、ぷよを動かすプログラミングに挑戦。ぷよを「落とす」「左右に動かす」「回す」「消す」という4パターンの基本動作のプログラムを順番に組み立てていくと、ゲームは完成する。

ソースコードを入力していくだけで、ゲームが完成する仕組み

テキストを見ながら、慎重にコードを打ちこんでいく生徒たち。普段の学習でも1人1台のGIGA端末は活用しているようだが、入力するコードの中には「’(シングルクォーテーション)」や「*(アスタリスク)」といったあまり馴染みのない記号も多く、間違って入力してしまう。一方で、覚えたてのショートカットキーを使う生徒もいた。ぴぽにあ選手は、間違いやすい3つのポイントとして、「英字のスペルミス」「大文字、小文字の入力ミス」「空白(スペース)の入力ミス」を挙げ、生徒たちに注意を促した。

慣れない記号の入力もあるが、集中して、慎重にコードを打ち込んでいく

1か所でもコードを間違えてしまうとプログラムが正しく実行しないという難しさを、身をもって体験する生徒たち。実際、落ちてきたぷよが、他のぷよを貫通したり、瞬間移動するといったバグ(プログラム上の間違い)が発生する場面もあった。ぴぽにあ選手は、そうした生徒に対して、大文字と小文字の間違いやコードの書き忘れなど丁寧に説明していく。

プログラムが正しく動かない生徒たちにアドバイスする、ぴぽにあ選手

プログラムが上手く実行しないときは、生徒同士が画面を見ながら互いに間違い探しをしている姿が微笑ましい。分からないキー操作を教え合ったり、回り続けるぷよの動作を見ながら「おかしい。もう一度、戻ってやり直そう」と声を掛け合ったり、生徒たちは協力して取り組んでいた。

生徒同士でソースコードに間違いがないか積極的に確認。和気あいあいとしたムードの中取り組んでいた

最終的にプログラミングし終わると、ゲームデモ画面で実際に操作して、ゲームが正常にプレイできるかを確認するデバック作業を行なった。狙い通りにぷよが消えて連鎖が起きると、あちこちから「よし!」「やった!」と手ごたえを噛みしめる声が上がり、生徒たちが達成感を得ている様子が見られた。

完成したプログラムを自分なりにカスタマイズも

プログラミング体験の後半では、自分で完成させたぷよぷよゲームのカスタマイズに挑戦した。ぷよの数や大きさの変更、落下スピードの調整、背景画面の変更など、自分がカスタマイズしたい部分のプログラムを変えていく。

カスタマイズの作業を始める前に、セガの講師からネットリテラシーや著作権にまつわるレクチャーが行なわれた。ゲームソフトはコンピュータープログラムに限らず映像やイラスト、セリフの1つ1つが著作権で守られており、許可なく他者の作品を利用することが禁じられていることや、フリー素材を使用する場合も利用条件をしっかり確認することの重要さを強調。

またネットリテラシーに関しては、SNS上の誹謗中傷は一度アップしてしまうと消えないことについて言及。それに加えてゲーム会社らしい視点として、スマートフォンなどのアプリゲームで行なったやりとりやプレイ履歴も事細かに記録されている点を挙げ、「インターネットは便利で楽しいけど、気をつけて行動してほしい」と注意を促していた。

生徒たちは、ぷよぷよプログラミングを通して著作権やネットリテラシーも学んだ

生徒たちは、ぷよの大きさを変えたり、背景色を変えたりしながらカスタマイズの楽しさに触れる。

そして、さらに面白いのは、imgファイルに格納された画像であれば、ぷよの画像や背景も変更可能なところ。今回の授業では、生徒たちが事前にオリジナルのぷよを描いて用意しており、それらを使ったカスタマイズも楽しめた。

早速、自分が描いたぷよに入れ替える生徒たち。「かわいい!すごい~!」と言いながらプレイを楽しむ生徒がいる一方で、ゲームオーバーの際に表示される「ばたんきゅー」のイラストをアレンジして楽しむ生徒も。プログラミング画面とは別に画像編集ソフトを開き、フリーの画像素材を使ってオリジナルのメッセージを作成。カスタマイズしたマイ「ぷよぷよ」をクラスメイトにプレイしてもらって、楽しそうな笑い声を上げていた。

「ぷよぷよ」で表示されるメッセージを、フリー画像でアレンジする生徒。通りかかった教師に「ちゃんとフリー素材ですよ」と伝える姿がなんとも頼もしかった

ゲーム漬けではない、eスポーツ選手の生活とは?

プログラミングをひとしきり楽しんだ後は、ぴぽにあ選手とセガの講師による講演パートに移った。

ぴぽにあ選手は、eスポーツ選手として大会出場など活躍する傍ら、動画配信や講演、ゲームコーチングなど多岐にわたる仕事内容を紹介。自身の1日のタイムテーブルを提示しながら分かりやすく、eスポーツ選手の生活を伝えた。

ぴぽにあ選手の話で印象的だったのは、eスポーツ選手だからといってゲーム漬けになるのではなく食事と睡眠、フィジカルトレーニングを重視した生活を送っていること。なかでも、「ゲームをやったら、それと同じくらい勉強もしっかりしてほしい」という言葉は、第一線で活躍する選手のメッセージだからこそより響いた生徒もいただろう。

eスポーツ選手の仕事について紹介するぴぽにあ選手。報酬が仮想通貨で支払われるなど、興味深い話がたくさん飛び出した

セガの講師からは、「SDGsとeスポーツ」に関する取り組みも紹介された。今回のようなプログラミング授業のほか、生涯スポーツとして「ぷよぷよeスポーツ」を推進するなど、生徒たちにとっても新たな観点でeスポーツが感じられるような気づきを与えた。

中学生とプロが「ぷよぷよeスポーツ」で勝負!

授業の最後は、司会を生徒とバトンタッチして、ぴぽにあ選手やセガの講師に素朴な疑問をぶつける「Q&Aコーナー」が行なわれた。

生徒の質問は、「セガの社名の由来は?」「1つのゲーム制作にかかる人数や費用は?」といった内容から、「ゲームセンターに置かれたアーケード用の音ゲーで、新規の楽曲を選ぶ基準は?」というマニアックなものまで、さまざま。また、ぴぽにあ選手には、ぷよぷよが上手くなるコツをたずねる質問のほか、「eスポーツ選手の年収は?」という直球な質問もぶつけられていた。

生徒たちから事前に集められた質問に対して、セガの講師が答えてくれる貴重な時間も

Q&Aコーナーの後には、有志の生徒4名とぴぽにあ選手による「ぷよぷよeスポーツ」対戦が行なわれた。生徒全員に「ぷよぷよeスポーツ」の応援で使用されているスティックバルーンが配られ、雰囲気も一変。

ぴぽにあ選手には、ぷよの回転なし、ゲーム開始から4手休んでプレイするなど、ハンデが与えられた。一方で、生徒たちには初心者でも運に任せて大逆転できる「かえる積み」をレクチャーされたが、プロの前に敗れていく。応援のバルーンを鳴らす音が教室中に響きわたるなか、生徒1人が勝利をもぎ取ると大きな歓声が起きていた。

配られた応援用のスティックバルーンを打ち鳴らして大興奮。中学校の教室がeスポーツ大会の会場に様変わり

「人生の中ですごく良い経験だった」と生徒の声

岩槻中学校の2年生。三𣘺一紗さん(左)、萱場涼介さん(右)

当日、授業を受けた2人の生徒に感想を聞いた。

元々プログラミングに興味があったと語る三𣘺一紗さんは、今回の授業で初めて「ぷよぷよ」を知ったという。「授業はとても楽しかった。プログラミングは単純な動作でも、コードを正確に打つのが難しかった。この作業を最初から最後までできるゲーム開発者はすごい」と語ってくれた。また、このような授業を通して、「ネットに強くなりそう。ネットリテラシーや著作権についても学べるので、ネットでのトラブルの対処にも強くなれると感じた」と述べた。

小学生の頃に「ぷよぷよ」を経験したことがある萱場涼介さんは、eスポーツ選手が学校に来てくれたことに喜びを示す。「eスポーツ選手という存在を身近に感じることができ、人生の中ですごく良い経験になった」と語ってくれた。「小学校の時の先生に、将来はAIに負けないような仕事をしなさいと言われたことを思い出しました。今日学んだことでエンジニアやIT系の職につながると感じ、とてもありがたい授業だと思った」と率直な思いを伝えてくれた。

今回の授業では、参加した生徒が生き生きとパソコンに向かう姿がとても印象的だった。数年前では学校の中で「ゲーム」を扱うのは考えられなかったが、「ぷよぷよプログラミング」では、生徒たちが楽しく学び、短時間で達成感を得られるのが良いと感じる。また第一線で活躍するeスポーツ選手から学べる体験は、生徒たちにとってかけがえのない経験になったに違いない。こうしたワクワクするような取り組みが、たくさんの学校に広がることを願う。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは2人の男子を育てるママ。幼稚園児&小学校低学年の子どもを持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。