レポート

教育実践・事例

ソニーが開発したロボットトイ「toio」を使って、小学校のプログラミング授業を実践

――千葉県流山市立東小学校「toio×プログラミング 公開授業」レポート

千葉県流山市は、プログラミング教育にロボットトイ「toio」を活用。東京理科大学と内田洋行が小中学校向けのカリキュラム案を共同開発した。小学校低学年はPCを使用しないアンプラグドプログラミングから始め、中学校ではJavaScriptを学ぶ

小学校のプログラミング教育は近年、さまざまなツールやサービスが登場している。株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)が開発したロボットトイ「toio」もそのひとつ。手のひらサイズの可愛いロボットで、小学校のプログラミングの授業にこんな可愛いロボットが出てきたら、子どもたちもワクワクできる。

そんなtoioを使ってプログラミング教育に取り組んでいるのが千葉県流山市だ。同市は、2021年7月から東京理科大、内田洋行、SIEの協力のもと、toioを活用し、小学校から中学校まで一貫したプログラミング教育に取り組んでいる。本稿では、流山市立東小学校で2021年11月に行なわれた公開授業の模様をお届けしよう。

ソニーが開発した、ロボットトイ「toio」とは?

「toio」はキューブ型ロボットを使ってプログラミング的思考を養うロボット教材。初級編(小学校低~中学年)、ビジュアルプログラミング編(小学校高学年)、上級編(中学生~大人)で構成されており、小学校から中学まで幅広い学年、授業での活用ができる。マルチOS対応で、GIGA端末を有効活用することが期待されている。

3年生の授業で使用した初級編のtoio教材一式。絵本「GoGo ロボットプログラミング」の謎解きストーリーにそって、toioを「めいれいカード」で動かしていく。公開授業では、内田洋行よりtoioのモバイルバッテリーが1人1台で用意された

初級編はPCを使わないアンプラグドプラグラミングで、「めいれいカード」と絵本「GoGo ロボットプログラミング」がセットになっている。「すすむ」「みぎをむく」などの命令が書かれたカードを並べると、toioがそれに従って動く。絵本は謎解きのストーリー仕立てになっており、楽しみながら「順次・分岐・反復」といったプログラミングの基礎が学べる。

絵本は謎解きのストーリー仕立て。楽しくプログラミングに取り組める

ビジュアルプログラミング編では、Scratch 3.0のブロックを使用。専用マットで正多角形を描くほか、上級編では迷路と障害物センサーを使ってtoioの動きをプログラミングする。今回の公開授業では、初級編を使った3年生の総合的な学習の時間と、ビジュアルプログラミング編を使った5年生の算数の授業を取材した。

「toioビジュアルプログラミングセット」では、Scratch 3.0のブロックで座標を指定してプログラミングすることで、toioが専用マット上に図形を“正確に”描く
toioをプログラムするソフトウェアの画面
迷路と障害物センサーを使ってtoioの動きをプログラミング

toioの特徴として注目したいのが、内田洋行がオリジナル開発する「絶対位置制御」を行なうビジュアルプログラミング用専用マットだ。マットに印刷された目に見えない特殊パターンをtoioが認識し、リアルタイムで絶定位置を検出する仕組みになっている。それによって座標でキューブを制御することが可能になり、ロボットをプログラミング通り“正確に”動かすことができるのだという。

東京理科大学 滝本宗宏教授

この自分の手でプログラムしたロボットを動かし、正確なフィードバックを得るという体験こそがtoioの面白さだ。そう語るのは、東京理科大学の滝本宗宏教授。同教授は「子どもたちがロボットを動かすのは容易ではなく、気づいたら授業の目的がプログラミングではなく、ロボットを動かすことにシフトしてしまうことはよくあります。一方で、toioの良いところは『直進しろ』『直角に曲がれ』と命令すると、プログラム通り、正確に動いてくれることです」と話す。

toioを動かす面白さを通して、プログラミングの楽しさに触れる

3年生は「総合的な学習の時間」でプログラミングが実施された。授業の冒頭で、洗濯板と全自動洗濯機を取り上げ、昔の道具と現代の家電の違いを考えることで、プログラミングが何かを考えるところから始まった。

身近な道具を通して「プログラミング」を意識するところから始まる

続いて、toioを使った学習がスタート。絵本「GoGo ロボットプログラミング」と命令カードを使って、3マスほどtoioを動かすプログラムに取り組んだ。子どもたちは「いっぽすすむ」カードを並べて、toioの動きを確認。toioを1人1台ずつ使用した授業は、この日が初めてだったようだが滑り出しは順調だ。

「いっぽすすむ」のカードを並べて、toioを動かすところからスタート

ここからが、今回の授業のねらいでもある「くりかえし」と「アクション」について学ぶ。教員は「プログラムを短くするためには、どのカードを並べればいいか」を児童に問いかけ、「くりかえし」という命令カードがあることを提示。「いっぽすすむ」を複数枚使ったプログラムと、「くりかえし」を活用したプログラムを比較させた。

命令カードを拡大したプレートを使って、プログラミングの「くりかえし」について確認

児童たちは、「くりかえし」を使ったプログラムに挑戦。命令カードをtoioに読み込ませ、自分で組み立てたプログラムを実行するtoioを見守る。その視線は真剣そのもので、成功すると静かに頷く姿が印象的だ。なかには、敢えて「くりかえし」を使わず、「いっぽすすむ」を並べて我が道を貫く児童の姿も。どういうカタチでゴールにたどり着くのか、自分なりにいろいろな方法を試すことも大切だ。

授業の後半では、扉を開けるための鍵を拾うといった「アクション」を取り入れた課題にも挑戦。直進だけでなく「みぎをむく」など命令のバリエーションも増えた。児童の中には、toioの回転する様子に合わせて身体を揺らしていたりと、プログラミングを楽しみ、”ノって”いる様子も見られた。ロボットを思い通りに動かす楽しさを“感覚”として味わっているのが印象的だ。その後、それぞれがどのようなプログラムを考えたのか、黒板で発表し合った。1つの正解だけでなく、複数の方法を見て、プログラミングにはいろいろな答えがあることを児童たちは学んだ。

「アクション」のカードを使ったプログラムにも挑戦

授業後、児童に授業の感想を聞くと、「命令のカードを並べるのが楽しい。『くりかえし』や『アクション』(などのプログラム)を憶えられてうれしかった」「プログラミングのおもしろいところは、どんどん自分でレベルアップできるところ」という声が飛び出した。

流山市立東小学校 三澤志緒里教諭

また授業を担当した三澤志緒里教諭は「今回初めて『反復』を使ったプログラミングに挑戦したが、児童は既習事項をうまく活用して進めることができた」と手ごたえを述べた。三澤教諭自身もプログラミングは未経験で、児童と一緒に1からtoioについて学んでいる最中だという。「toioには初めてでも安心して取り組める指導案がセットになっているので、教員も児童と一緒に気軽に取り組むことができると思う」と語った。

Scratch 3.0のブロックで効率的かつ正確に多角形を作図する小5の授業

5年生は算数の「正多角形と円」の単元でtoioを活用した。Scratch 3.0と同じブロックを使用したソフトウェアを使い、toioで正多角形を作図する。5年生ともなると自分でtoioを立ち上げ、PCとのペアリング設定を難なくこなし、授業準備を進めていた。

授業は、正多角形の性質と外角の求め方を振り返るところからスタート。正五角形の場合は外角が72°、正六角形の場合は外角が60°、という具合に、正多角形の作図には外角の値がプログラムを組み立てる際に大切であることを既習事項として確認した。

5年生の授業風景。正五角形と正六角形の外角を求めるために必要な計算法を踏まえたうえで、toioを用いた正七角形の作図に挑戦する

今回の学習のテーマは、そうした外角の知識を踏まえて、toioを活用して正七角形の作図に挑戦すること。児童は早速、手元のプリントで正七角形の外角を計算し、toioのプログラミングに取りかかろうとした。が、正七角形の外角が51.428…と割り切れない値になり、つまずいてしまう。

正七角形の外角は? 割り切れない値のときは、どのようにプログラムすればいい?

こんな時は、どのようにプログラミングすればいいか。児童たちは友だち同士で考えたり、プログラミングの作図に取りかかってみたり。辺と辺の結合がきれいにおさまらず「これはできたとは言えない」と首を傾げる姿も。15分間ほど作図に挑戦したのち、教員は授業支援システムを使って何人かの児童が作図したものを全体に共有した。

toioを活用して、正七角形の作図に挑戦。Scratch 3.0のブロックとtoioの座標を合わせると、キューブ型ロボットが専用マットの上を動いて画面上に図形を描く。

教員は「割り切れない値の外角を使って正確に作図するにはどうすればいいか?」と児童たちに問いかけ、「少数でできないときは…」とヒントを与えていく。すると、何人かの児童から「分数!」という言葉が飛び出し、「360÷7」を「360/7」で表す「演算」が紹介された。

これを踏まえたうえで、児童はもう一度「演算」を使ったプログラミングに挑戦。分数が使えるブロックを選んでプログラムを組み、toioの動かしながら、プログラムの画面上でも正しく作図されるのを確認する。画面の中だけで作図を完結するのではなく、toioも同様に動くことで、自分の作ったプログラムが実物を動かせる、という体感を得られるのがtoioの面白さだ。

「演算」を用いて、正七角形をプログラミングで作図する
流山市立東小学校 鈴木昴平教諭

今回の授業でいちばんの狙いは、「演算」を使うことによって分数でも効率的に、正確な作図ができるという気づきを与える点だ。授業を担当した鈴木昴平教諭に話を聞くと、プログラミングに入る前段階として外角の求め方など算数の知識を定着させることが重要と語ったうえで、「これまで何度かtoioを活用した授業を行なってきたが、児童が頭を使ってプログラミングの良さを体感できた点が良かった」と述べた。

一方、授業を受けた児童からは「計算が難しかったが、みんなと話して解けたのでスッキリした」「toioのおもしろいところは、自分の思った通りに動くこと。プログラミングのレベルが上がると、やれることのグレードが上がって楽しい」という感想が挙がった。

今回の授業では、インタビューした児童全員が、「toioを使った授業やプログラミングが楽しい」とポジティブな感想を伝えてくれた。「やれることのグレードが上がって楽しい」という児童の言葉もプログラミングの良さを物語っている。流山市では、9年間を通じて一貫したプログラミング教育に取り組んでいるが、これから子どもたちがどのようにプログラミングを学んでいくのか、この先の学習が楽しみだ。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは2人の男子を育てるママ。幼稚園児&小学校低学年の子どもを持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。