トピック

小4が挑むプロジェクションマッピング、試行錯誤と工夫の連続が育む論理的思考力

柏市立大津ケ丘第一小学校・4年生「プログラマッピング」授業レポート③

各班の投映場所で試行錯誤する子供たち

千葉県柏市立大津ケ丘第一小学校では、2023年12月15日に地域の人を招いてプロジェクションマッピングの作品を披露するイベントが開かれ、4年生2クラスが10班に分かれて作品を披露した。ここまで、イベント当日の様子プロジェクトが始動したときの様子をお伝えしてきたが、本稿では子供たちが制作を通して、話し合いながら試行錯誤する姿をお届けする。

自分たちで考えたストーリーをプログラミングで表現

前回までの活動で、班ごとにプロジェクションマッピングの投映場所を決めて、作品のストーリーを考えた子供たち。アイデアをプログラミングで形にして、うまく投映することはできるのか。ここからがいよいよ本格的な制作となる。

この日は、班ごとに自分たちの投映場所に移動して、前回着手した作品のストーリーづくりとプログラミングを進めた。紙に描いたストーリーボードと見比べたり、アイデアを相談したりしながらキャラクターを動かすプログラムを組んでいく。「ここの部分のプログラミング、どうなってるの?」「大きさはどうやって変えるの?」などの声が交わされ、自然とプログラミングが得意なメンバーが中心になって教え合っていた。

ストーリーボードをチェックしたり話し合ったり、班ごとのやり方とペースでプログラムを組んでいく

4年生はプログラミング自体の経験はあるが、プロジェクションマッピング用に開発されたアプリケーション「プログラマッピング」はこの活動で使うのが初めて。使い心地を聞いてみると、「今回のアプリはすごく簡単で、ブロックも少なくとてもやりやすかったです」と好評だ。機能が絞り込まれているため、迷わずに使うことができているようだ。

「プログラマッピング」には選んで使えるたくさんのイラストが用意されているが、写真など自分で用意した画像を取り込むこともできる。班のメンバーをChromebookで撮影して、グラフィック制作アプリで背景を削除してからプログラムに取り込むという工夫をする班も現れた。楽しい演出だ。1人が素材を作ったら、Google Classroomで班のメンバーに共有し、プログラミング作業を進めていた。

撮影した写真を画像として取り込み、作品の演出に生かす班も

ある程度プログラミングを進めたところで、実際に投映してみることに。想定通りにはうまくいかなかったり、イメージと違ったりというケースが続発し、各班の試行錯誤が始まった。

トースターや人体模型に投映できる?試してみたいアイデアがいっぱい

家庭科室では、トースターを持ち出して演出に使う作戦。トースターからいろいろなものが出てくるという不思議なストーリーを考えている様子だ。作成中のプログラムを実際にプロジェクターで投映してみると、想定していた位置や大きさと違ってうまく合わない。トースターの位置やプロジェクターの向きを調節して、自然に見えるようプログラムを修正していった。

どうしたらトースターから出てくるように見えるか、繰り返し試した

理科室では、人体模型に目をつけた。テーマはお化け屋敷。投映場所に決めた机の手前に人体模型を置いて、いざプロジェクターで映してみると、凹凸が多く想定した通りの見え方にならない。「高さがあってないかも、イスをいれてみよう!」など試行錯誤が続く。最終的には、黒板を投映場所に変更して人体模型の配置も変えた。さらに、机を叩いて雷の音を表現するなど、劇のような演出を加えて盛り上げようとしていた。

人体模型への映り込みを確かめる。最初は机の側面の小さな面積に投影していたが、黒板に変える判断をした

昇降口を投映場所に選んだ班は、はじめは壁と天井の角を生かして投映する想定でプログラムを準備していた。ところが実際に投映してみるとなかなかイメージ通りに映らない。「あーやっぱりあそこに行ってしまうね。ここにキャラクターがくるはずなのに……」。特に平面でない場所での位置合わせは難しいようだ。そこで思い切って廊下の壁面と窓枠に変更。窓部分にはみ出すように投映し、窓枠の角を生かして、キャラクターが頭をぶつけてしまうという演出を実現した。

映り方を繰り返し試して相談。計画を変更して壁と窓枠を利用することにした

情報センターという特別教室では、「本を山にする?」と、図鑑を積み上げて山に見立て、山を舞台にしたストーリーを投映する計画に挑戦中。リアルな本を使う演出には、「山っぽくない…プログラムの中で山にしたい」という意見も出るが、まずは試してみることに。最初は低い位置で投映していたが、最終的にはお客さんからよく見える高い位置に投映することに決めて、丁寧に位置合わせの調整を行った。

ロッカーの側面に映そうとしていたのを天井ギリギリの高い位置に変更。本もロッカーの上に積み上げた

どうしたら面白くなる? こだわりの演出とアイデアが光る!

ドリームルームという特別教室では、最初は黒板にチョークで描いた絵と重ね合わせて投映する演出を検討。しかし、やろうとしていることが難しいとわかり、大きく方向転換した。教室後方の棚に目をつけ、そのマス目状の形を生かした作品を作ることにしたのだ。

プログラマッピングで棚とぴったりあうカラフルなマス目を作るのはなかなか大変なこと。投映しながらプロジェクターの向きを少し傾けて、上から投映することで影が出にくいことを発見。微調整を重ねた。プログラムを作る中心メンバーは「すごいがんばりました!」と話してくれた。

当初は黒板を利用したアイデアだったが、投映場所もコンセプトも全て大転換した

理科室前の水槽を舞台に選んだチームは、釣りがテーマのストーリーを投映する予定だ。「人が釣れてくるとか?」「ゴミ釣った方がいいと思う」「ここに魚いた方がいいかな……」などとストーリーのアイデアがふくらむ。

しかし、プロジェクターで投映を試すと水槽に映すのはハードルが高い。「もっと上に映す?」「水槽の中の掃除した方がいいかな?」「壁と水槽の間に黒い紙を入れる?」などといろいろな意見が挙がり、試行錯誤が続いた。最終的には、水槽の水面より上のエリアに白い紙を貼って、陸地に見立て、鮮やかに人物が投映できるようにした。水上と水中のメリハリを生かした作品になりそうだ。

水槽に投映するにはどうしたら効果的か、手を動かして試して考えた

この班の作品は、すべての登場キャラクターが自分たちで用意した写真や絵を取り込んだオリジナル。「アプリの中のキャラクターを使ってしまうと周りの班と同じような感じになってしまうと思って、周りとは違う面白さを出したかったので、現実にいる人を写真に撮って登場させました」と班のメンバーは話す。

班のメンバーが次々に出演する楽しい作品をプログラムした

意見のぶつかりあいも、工夫もさまざま

各班が作るのは1分程度の作品。1分というのはイメージよりも長いもので、そこに笑いの要素を入れながらストーリーを構成するのは簡単なことではない。特にはじめのうちは、アイデアはあふれても形にはなっていない様子で、順調に進めていそうな班からも「やっと13秒できた〜!」という声が挙がる。相談しながらストーリーもプログラムも作っているという班も多く、道のりは長い。

ほかにも各班がそれぞれの場所で工夫をこらした。自分たちでセリフを録音して作品に取り込んだ班も

そして今回のプロジェクトは個人作品ではなく班ごとに1作品を作るので、常に意見の調整が必要だ。当然、意見が合わないこともあるし、感情がぶつかってしまうこともある。常に明るく元気に意見交換とばかりはいかず、なんとなく停滞した空気が流れる様子もあった。

そんな様子を見せながらも2週間かけて徐々に作品の形ができあがってきた。意見を集約するにしろ、誰かを説得するにしろ、役割を分担するにしろ、コミュニケーションを取らなければ前に進まない。作品の変化から、班ごとに自分たちなりに解決をしてきたことが伝わってくる。

実はこの2週間、希望する班は先生にGoogle Meetを用意してもらい、放課後に自宅からリモートでつながって作業を進めていたというのだ。子供たちはICTの普段使いが定着しているので、学校の授業以外の時間も使いながら、作品づくりに取り組むことができた。

また、回を重ねるごとにプロジェクターの扱いにも慣れ、大人のサポートがなくとも子供たちだけで自主的に投映場所まで運んだり設置したりする姿も見られた。班ごとに自分たちの作品作りを前へ進めようとする意識が高まってきているようだ。

プロジェクターの扱いにもすっかり慣れた子供たち

創造性や論理的思考力を育むために、教師は子供たちに任せて見守る

大津ケ丘第一小学校の佐和伸明校長は、今回のプロジェクトを同校が取り組む「創造性を育む学び」に位置付けている。これまでの学びと決定的に違うのは、誰にとっても「ゴールが決まっていない」ことで、教師の関わり方も変化が必要だ。

「今回のような創造的な学びに取り組むときは、一体どんな作品ができあがるのか、教師は見当がつきません。そういう中で子供たちは自分たちで選んで投映場所を決めて、どんなプログラミングをしていこうかと次々に考えていく。それに対して教師は、大人にとって見栄えの良い作品を創らせようとして声をかけすぎたり、アイデアを言ってしまうことがないように上手く支援をすることが大切です。今回は、創造性や論理的思考力が育まれるよう、できるだけ子供たちに任せるようにしました」(佐和校長)。

各班を巡回して声をかける佐和校長

杉山先生は、国語の落語の単元で学んだ「笑い」の要素をストーリーに取り入れる過程を振り返り、「仲間内ではうけるけれど、地域の人にその面白さが伝わるのかどうか、という視点に気づいてもらうのが大変でした」と話す。プロジェクションマッピングを披露する発表会は地域の人に笑顔になってもらうのが目的。ストーリーの展開やオチが初めて見るお客さんにきちんと伝わらなければ、笑いにはつながらない。そんな心配をしながらも、あまり具体的な指摘はせずに、客観的な視点で見るよう繰り返し投げかけたという。

声をかけ進捗を確認する杉山先生

子供たちの活動中、佐和校長も杉山先生も巡回して様子を見守っていたが、確かに、「何も知らない人が見てわかるかな?」「お客さんが見た時に、なんで戦っているのかわからないかもよ」という具合に、気づきを促す声掛けに徹していた。技術的なトラブルへの対応やアドバイスはしていたが、特にアイデアに関する部分は、言いたいことがあっても言わずに「待つ」という態度を貫いていた。

自ら考えることを委ねられた子供たちは、この後、作品の完成度をどうあげていくのか。次回はゲスト講師を招いての予行練習から本番へとステップアップして、さらなる成長を見せる様子を紹介する(第4回に続く)。