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学校は面白い場所がいっぱい!小4が創造性を発揮するプロジェクションマッピングが始動

柏市立大津ケ丘第一小学校・4年生「プログラマッピング」授業レポート②

プロジェクションマッピングだから、学校のいろんな場所に投映できる

千葉県柏市立大津ケ丘第一小学校では、4年生が総合的な学習の時間の取り組みとして、2023年12月15日に地域の人を招いてプロジェクションマッピングの作品を披露するイベントを開催した。当日の様子は、こちらの記事でお届けした通りだ。

千葉県柏市立大津ケ丘第一小学校

ここからは、イベント当日までに同校の4年生がどのようにプロジェクションマッピングに取り組んできたのか、プロジェクトが始動した11月から遡って活動の様子を紹介する。子供たちが最初に触れたのは、専用アプリ「プログラマッピング」。このアプリでプログラミング的思考を育みながら、プロジェクションマッピングの映像コンテンツを制作していく。

大津ケ丘第一小学校「プログラマッピング」の授業レポート(全4回)

目次
1回目:地域の人を笑顔にしたい! 小4がプログラミング×プロジェクションマッピングの発表イベントを開催
2回目:学校は面白い場所がいっぱい!小4が創造性を発揮するプロジェクションマッピングが始動
3回目:小4が挑むプロジェクションマッピング、試行錯誤と工夫の連続が育む論理的思考力
4回目:2月20日公開予定

創造性を刺激するプログラミング教育のかたち

このプロジェクトは、プログラミングとプロジェクションマッピングを掛け合わせるという試みで、放送大学教授 中川一史先生と同客員教授 佐藤幸江先生の監修の元でスタートした。

放送大学 客員教授 佐藤幸江先生

佐藤先生はそのねらいを次のように話す。「プログラミング教育は、創造性を伸ばしたり論理的に考えたりする力を身につけるということで始まりました。プロジェクションマッピングは人に見せるというアウトプットが必要です。”何をどう伝えようかな”と子供たちは、どんどんイメージを広げていきます。そして、プログラムする中で、描いたゴールに向けて、試行錯誤しながら創造性を発揮しています。ここでは、論理的に考えて解決するというプロセスを踏んでいると考えます」(佐藤先生)。

大津ケ丘第一小学校校長 佐和伸明先生

この学習のねらいは、大津ケ丘第一小学校が掲げるビジョンにぴたりとはまった。同校校長の佐和伸明先生は、「子供たちが活躍する10年後、20年後の社会を見据えると、これまでのような知識、技能があればいいわけではありません。これからは、企画力、発想力、創造性が求められていくと捉えています」と話す。

同校で行われている「創造性を育む学び」の中で、プログラミングとプロジェクションマッピングをつないだ試みは、まさに「自分から生み出していく、創り出していく」機会になると佐和先生は見込んだのだ。

さらに、4年生が1学期の国語で学んだ落語と関連づけ、「良い笑いとは」を単元に総合的な学習の時間のプロジェクトとして、地域の人に喜んでもらうことを目指して始まった。

オリジナルのアプリ「プログラマッピング」で直感的にプログラミング!

プロジェクターで投映する作品を作るプログラミングアプリ「プログラマッピング」はエプソン販売株式会社と株式会社ユニティで共同開発中のアプリだ。命令ブロックを組み合わせるビジュアルプログラミング型で、子供でも無理なくプログラミングができる。

「プログラマッピング」の画面

アプリにはあらかじめ多数のイラストが登録されていて、そのまま使用することもできるほか、写真や自作のイラストなどの画像ファイルを取り込むこともできる。音声は、組み込まれている効果音を使うだけでなく、その場で録音した音声を使うことも可能だ。

キャラクターなどをプログラムの命令で動かすという基本的な機能に絞り込まれていて、プログラムできる命令の種類は順次処理と繰り返し処理でシンプルにまとめられている。また、制作中にグリッドを表示させることができたり、背景色があらかじめ黒に設定されているなど、プロジェクションマッピング向けの作品を作りやすい。

背景は黒で、プロジェクションマッピング向けの作品を作りやすい機能に絞り込まれている

同校の4年生はすでに、子供向けのプログラミングツール「Scratch(スクラッチ)」を経験していたこともあり、プログラマッピングの習得に苦労することはなく、1時間の体験で操作方法を把握できたようだ。次の授業までの間に、早速自作のプログラムで短いストーリーを作って披露した児童も現れたほどだ。

プロジェクションマッピングってどういうもの?

プロジェクトが本格始動する日がやってきた。プログラミングの経験はあっても、プロジェクションマッピングと聞くと、どのようなものかわからないという子供たちもたくさんいる。

4年2組の教室で担任の杉山雄太先生が商業施設のプロジェクションマッピングの様子を見せると、「あぁ〜」、「すごい」などの声。先生が気づいたことを聞くと、「建物の形を生かしている」とその特徴を的確に捉えた声が挙がった。

プロジェクションマッピングについて説明する杉山先生

さらに先生が例として、プログラマッピングのアプリを使って実際に同校の校舎内でプロジェクションマッピングを行っている映像を見せると、子供たちの表情が変わった。見慣れた場所で立体物を生かした投映ができる様子を目にして、自分たちがこれから挑戦することのイメージが一層クリアになり、実感がわいてきた様子だ。

「学校の中で、どんなところでプロジェクションマッピングができそう?」と先生が問いかけると、楽しそうに周りと相談しながら、特別教室の名前や「天井」「廊下」「窓」「人体模型」「机」「水道」「カーテン」「本」「オルガン」など様々な声が挙がった。

学校の中でプロジェクションマッピングができる場所を相談する子供たち

一方で、プロジェクションマッピングに必要なプロジェクターの扱い方も知っておく必要がある。子供たちは、普段プレゼンテーションをする機会は多くとも他の用途でプロジェクターを使った経験はないからだ。

そこでエプソン販売の社員がサポートに入り、プロジェクターで実際にどのような場所にどのように映るのかを教室でデモンストレーションし、機器の扱い方の注意を伝えた。

エプソン販売の社員が距離や投映場所によってどのような特徴が出るのかを解説

子供たちはちょっと緊張した面持ちで、実際に目の前のプロジェクターを触らせてもらい、向きや位置を変えるとどうなるのかを確かめた。例えば、向きを変えればどんな場所でも投映できること、距離を遠ざけると大きく映ること、凸凹のある場所や曲面などに投映すると平面とは全くちがう見え方になることなどを発見した。

どこで投映したら面白い? 班の発表会場を探せ!

プロジェクションマッピングの概要がわかったところで、いよいよ班ごとの活動に入った。このプロジェクトは、4年生2クラスが10班に分かれて取り組む。10班それぞれが、学校の中ならどこでも好きなところを選んで発表会場にできるのだ。一斉に校内に散らばり会場探しが始まった。

校内を歩き回り班ごとに発表会場を探す。候補地を写真に撮っておく姿も

目の前でプロジェクターを見たばかりなのでイメージが膨らむ。候補地を持ち寄り、2クラス合同で相談をして、希望が重なった班はじゃんけんで最終的な発表会場を決めた。各班の会場が決まったら早速アイデアがわいてきて、休み時間中も班ごとに自然と意見交換が始まっていた。

早速班ごとに話が盛り上がる

休み時間をはさんで次の時間は、さっそく作品のストーリー作りに入る。プロジェクションマッピングで披露する作品のテーマは「笑い」。見る人が笑える要素があることが目標だ。笑いに大切な要素は落語の学習で学んできた。

プログラマッピングのアプリの仕様に合わせて作品の構成を考えるシートが配付され、まずは個人でストーリーを考え、その後、班の中で意見を調整することになった。プロジェクションマッピングは、投映場所が大きな鍵をにぎる。アイデア出しも各班の発表場所で行うために、各所に移動した。

発表場所で思いをめぐらせながら個人でアイデア出し
プログラマッピングのアプリで作ることを想定した作品の構成を考えるシート。アプリのプログラム用ブロックを確認しながらプログラムを考えて書き進める子も

個人でアイデア出しをした後は、自然とどこで何をしようかと相談が始まりアイデアが膨らむ。「カーテンとかいいじゃん」、「戸を開けると出てくるとか……」、「天井もいいかな」などといろいろな投映場所やしかけをイメージしたり、家庭科室では「フライパンを使うとか?」、水槽の前では「魚を釣るみたいにしたら?」など、場所に合わせたアイデアが聞こえてきた。

自然とどこで何をしようかと相談が始まり、班ごとにストーリーの調整が始まった

班ごとにストーリーが定まるのにはまだ少し時間が必要そうだが、早速音声を録音してみたりと動き出す班も。アイデアがあふれ出す楽しい時間となった。

コロナ禍で入学した子供たちの経験の場に

4年2組担任の杉山雄太先生

4年2組担任の杉山先生はこのプロジェクトを通して、他者と関わる経験値を上げたいと考えていたそうだ。この学年の子供たちは、入学がコロナ禍の一斉休校の直後であったため、制限の多い学校生活を送っており、協働的な学びの機会も限られていた。「この取り組みを通して、子供たちの対人的な力や表現力を伸ばしていきたいと考えています。また、どうすれば地域の人が喜んでくれるか、そんな“他者目線”を育んでいきたいですね」と杉山先生は語ってくれた。

子供たちはプロジェクトを通してどんな変化を見せてくれるだろうか。次回のレポートでは、制作に取り組む子供たちの姿を中心に紹介する( 第3回につづく )。