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「ICTの使い方を学ぶ教員研修はやめた」、戸田市が活用推進で重視したこととは

戸田市教育委員会 1人1台端末の活用推進事例

戸田市立戸田東中学校における授業の様子

埼玉県戸田市は、GIGAスクール構想前からICT教育に力を入れてきた先進自治体だ。今も約70以上の教育機関や企業と連携しながら、国の実証事業や教育DXに関するプロジェクトなど多くの先進的な教育実践に取り組んでいる。

しかし、そんな戸田市も最初からICT活用がうまく進んだわけではない。当初はネガティブな意見も多く、活用が広がらなくて苦しい時期もあったようだ。

そこで本稿では、戸田市がどのようにICT環境整備や端末活用を進めてきたのか、同市教育委員会の取り組みを綴ったエプソンの「普通教室電子黒板導入事例」をもとに紹介したい。


ICT環境整備で重視したのは「協働」

戸田市教育委員会。戸田市は人口約14万人の自治体

埼玉県戸田市は、小学校が12校、中学校が6校あり、約1万2000人の児童生徒が学んでいる。同市は2016年からICT環境整備に着手しChromebookを導入。当時はまだ公立学校でChromebookを選ぶ自治体は少なかったが、いずれ1人1台端末とクラウド環境で学ぶ時代が来ることを想定して端末とネットワーク環境を整備した。

また戸田市は、ICT環境整備だけでなく、産官学で連携してICT教育の実証実験に取り組む「戸田市SEEPプロジェクト」にも力を入れたのが特長的だ。学校を閉ざされた空間にせず、さまざまな教育実証を担う場とする「Class Lab」と位置づけて、産官学で連携しながら多くの先進的な実証事業やプロジェクトに挑戦した。現在も70以上の教育機関や企業と連携しながら最先端の実証事業に取り組んでおり、戸田市の教育を牽引している。

戸田市の教育改革の取組(令和4年度版)※出典:戸田市の教育改革についてより抜粋

そんな戸田市がICT環境整備で最も重視したのは「協働」である。戸田市教育委員会 教育政策室 指導主事 布瀬川裕貴氏は、「当初から重視していたのは、児童生徒が協働しながら学びを深められる教室づくりでした」と述べている。

戸田市教育委員会 教育政策室 指導主事 布瀬川裕貴氏

テクノロジーの変化がはげしい今、児童生徒がたくましく幸せに生きていくためには、自分で課題をみつけ、自分で学び、他者と共創しながら解決できる力が欠かせない。もちろん、その解決手段のひとつとして、ICTが使えるのは当たり前。こうした力を伸ばしていくためにはどのような環境が必要か、戸田市では「AIでは代替できない力の育成」「AIを使いこなす力」の育成をめざして教育改革を進めていった。

学びの場で大切なのは、お互いの考えが見えること

戸田市では、児童生徒が主体的・協働的に学ぶ授業を実現するためには、一人ひとりの考えを可視化できることが重要だと考えた。

「児童生徒の考えを瞬時に黒板に表示して必要に応じて大きくしたり、自由に書き込むなど、教師が児童生徒の考えをベースに、ともに学習を創り上げていく、そんな環境が必要だろうと考えていました」(布瀬川氏)。

そこで戸田市では、エプソンのプロジェクター型電子黒板を導入。当初はテレビ型の大型提示装置でもいいのでは?という意見もあったようだが、プロジェクター型電子黒板の方が今ある黒板を広く使って書き込みがしやすく、双方向性も活性化しやすいなどデジタルとアナログ、両方のメリットが生かせる点を評価した。

戸田市立戸田東小学校・小学4年生の授業。児童の解答を大きく写し意見交換

実際、戸田市の小中学校ではプロジェクター型電子黒板があることで授業も変化しており、児童生徒の意見共有や話し合い活動を多く取り入れた授業が行われている。なかでも2021年に開校したばかりの戸田市立戸田東小学校・中学校では活用が進んでおり、その具体的な活用事例についてはエプソンの事例集PDF冊子『 電子黒板活用授業事例集 』として無料公開されているので、そちらも併せてご覧いただきたい。

戸田市立戸田東中学校・中学3年社会の授業。全員の振り返りをリアルタイムで表示し、教師がフィードバック

布瀬川氏は、「授業を見ていても教師の板書にかかる時間が減った分、児童生徒たちが話し合いや思考する時間が増えていると感じます。意見を共有しやすくなったことで、さまざまな考え方をもとに授業を練り上げることがしやすくなりました」と語っている。

何をすればICT活用は進むのか

現在、戸田市ではどれくらい学校現場のICT活用が進んでいるのだろうか。布瀬川氏によると、戸田市では授業におけるICT活用の指標として独自の「戸田市版SAMR モデル(※)」を作成し、市内の小中学校と共有。その指標に基づくと、戸田市はSAMR モデルの『S(Substitution/ 代替)』は完了し、ようやく活用が広がってきて『A(Augmentation/ 増強)』段階になったところだと同氏は分析している。

※SAMRモデル……ICTを授業などで活用する際に、テクノロジーが授業にどのような影響を与えるのかを示す尺度

戸田市版SAMRモデル(ICT活用の指標)※出典「2022年度(令和4年度)教育政策室 指導の重点・主な施策

実は、ICT教育の先進自治体である戸田市においても、ICT活用を広げるためにはかなり時間を要したと布瀬川氏は語っている。

「視察に来られる方から、『何をすればICT活用が進みますか』という質問をよく受けるのですが、一つ言えることは『急いでもすぐにはできない』ということです。本市も一朝一夕で今日に至ったのではなく、取り組みの当初はICTに対するネガティブな意見も多くありました」(布瀬川氏)。

では、そんな戸田市がどのようにICT活用を広げたのか。同市ではさまざまな取り組みを行ってきたが、注目したい点が2つある。ひとつは、授業だけでICT活用を進めるのではなく、校務や学習などさまざまな場面でICTを使うことによって、教師が「便利だ」「必要だ」「使ってみよう」と思えるよう、時間をかけたこと。

もうひとつは、教師がICTの使い方を学ぶ研修をやめて、新たな学びづくりに関する研修へと転換したこと。布瀬川氏曰く、「戸田市では、教師がICTの使い方を学ぶ研修は実施していない」という。

戸田市教育委員会におけるICT活用推進のポイント

ほかにも、組織としては、ICT支援員の配置や学校現場のICT活用を支えるサポート体制も充実させており、その詳細については、同市の取り組みをまとめたエプソンのPDF冊子で読むことができる。無料でダウンロード可能なので、ぜひこの機会にご覧いただき、今後のICT活用推進に役立てていただきたい。

★戸田市教育委員会の普通教室電子黒板導入事例をまとめたPDF冊子を無料でダウンロード。印刷して配布も可能!
本記事でご紹介した戸田市教育委員会が、いかにしてICT活用を推進したのか。そのポイントをまとめたPDF冊子は、こちらのページから無料でダウンロードできます。

ICT活用の取り組みや具体例、教育現場への教委によるサポート内容など、活用推進の成功の秘訣がまとめられた本冊子をぜひご覧いただき、これからの教育活動にお役立てください。

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