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もっと面白く!客観的な視点でプロジェクションマッピングを改良し、 いざ発表会へ

柏市立大津ケ丘第一小学校・4年生「プログラマッピング」授業レポート④

本番を翌週に控えた予行練習の日、作品をどのように発表するのか、最後までブラッシュアップ!

千葉県柏市立大津ケ丘第一小学校の4年生が取り組んだプログラミングxプロジェクションマッピングの作品発表会。この授業レポートでは、2023年12月15日に開催されたイベント当日の様子と、そこに至るまでの活動開始時制作段階の様子を伝えてきたが、いよいよ今回が最後のレポート。本番まであと1週間、子供たちはどのように作品を仕上げていったのか。その様子をお届けする。

大津ケ丘第一小学校「プログラマッピング」の授業レポート(全4回)

目次
1回目:地域の人を笑顔にしたい! 小4がプログラミング×プロジェクションマッピングの発表イベントを開催
2回目:学校は面白い場所がいっぱい!小4が創造性を発揮するプロジェクションマッピングが始動
3回目:小4が挑むプロジェクションマッピング、試行錯誤と工夫の連続が育む論理的思考力
4回目:もっと面白く!客観的な視点でプロジェクションマッピングを改良し、 いざ発表会へ

作品を作るだけじゃない。楽しませるためにできることを考える

本番を翌週に控えた予行練習の日。子供たちはいつもよりちょっとそわそわした様子だ。ゲスト講師として落語教育家の楽亭じゅげむ先生が来て、子供たちの作品にアドバイスをくれるというのだ。今回のプロジェクションマッピングの作品には、国語の落語の単元で学んだ「笑い」を取り入れるというテーマがある。これまでも何回か、じゅげむ先生と落語の笑いについて学んできた子供たち。自分たちで考えたストーリーをプロジェクションマッピングで表現し、じゅげむ先生に作品を披露した。

予行練習の日、じゅげむ先生を招いて本番に披露する作品を見てもらうことに……

前回の授業からこの日まで、子供たちはさらに作品の完成度を高めてきた。発表の練習もしてきたが、作品を誰かに見てもらうのは初めてだ。じゅげむ先生が各班の発表場所を順にまわっていくと、緊張した表情でプロジェクションマッピングを披露した。

子供たちは、はじめの言葉やおわりの言葉を言う時も、普段の練習より緊張ぎみで、本番ではもっと大勢のお客さんを迎えるというイメージを初めて持てたようだ。じゅげむ先生は発表が終わると作品の感想を伝えた上で、もっと面白くするにはどんな工夫ができるかをアドバイスした。子供たちは「笑い」の専門家からの助言に、緊張とうれしさがまざったような表情で真剣に聞き入っていた。

じゅげむ先生や校長先生、杉山先生の前で発表。じゅげむ先生のアドバイスを受けて、面白くするための工夫を考えていく

じゅげむ先生は、各班が平面だけでなく現実にあるものにアニメーションを重ねて投映して世界観を融合させていることや、さまざまな演出の工夫をしていることを捉え、「面白いね」「アイデアがいいね」と伝えていく。その上で、客観的に見てストーリーがわかりづらい点があれば「オチはどうなっていたのかな」「さいごはどうなったの?」なとど確認して、より伝わりやすくするアイデアを提案した。

作品を見ながら、より伝わるようするためにはどうすればいいかを考える

全体の傾向として、プロジェクションマッピングの作品をただ投映して見せる班が多く、ところどころ、ストーリーが伝わりづらい。アニメーションが中心で、登場キャラクターのセリフがなかったり、セリフを文字だけで表示していたりすることが影響しているようだ。そこでじゅげむ先生は、「セリフを入れてもいいね」、「アニメみたいに声をいれちゃってもいいかも」と、子供たち自身が投映に合わせてセリフを言ったりキャラクターを演じたりすることを提案していった。

作品を投映するだけにならないよう、セリフの工夫もアドバイス

前回のレポートで紹介した通り、担任の杉山先生も佐和校長先生もあえて内容に関するアドバイスはせずに見守ってきた。ここで初めて笑いの専門家からの具体的なアドバイスを受けて、子供たちの気持ちが動く。ただ投映するだけでなく、自分たちが演者となって、その場で演じたり、場の雰囲気を作ったりすると、よりお客さんにストーリーが伝わりやすくなることに気づいたようだ。地域の人に楽しんでもらうためにどうしたらよいか、新しい視点が加わった。

落語教育家 楽亭じゅげむ先生

「全体として、子供たちの発想がすごく自由で豊かに表現されていてとても良かったです。より面白くするにはどうしたらよいかという目線でアドバイスしました」とじゅげむ先生。プロジェクションマッピングについては、「今、映像で楽しむコンテンツが増えている中、受動的に楽しませてもらうだけではなく、自分たちで作ってみてお客さんをどう楽しませるのかを考えるのにとても良い教材ですね」と話した。

いよいよ本番! 直前の学年閉鎖を乗り越えて

いよいよ本番!……という直前に、4年生が体調不良者増加で学年閉鎖になるという事態に見舞われた。本番当日もまだ登校できない子供たちが多い中、参加できる児童はリモートでつないで本番に参加するという対応をしながら12月15日の発表会を迎えた。

本番当日、欠席した子供たちもリモートでつながって最終確認

大変な状況だったのにもかかわらず、発表会当日の各班の作品は、ストーリーを調整したり発表の仕方を工夫するなど、ぐんと進化していた。作品中に録音した声を入れたり効果音を増やしたり、発表時にリアルにセリフを言うことにした班が増え、場の空気がより生き生きとしたものになっていたのが印象的だった。およそ1時間の発表時間に、子供たちは班ごとの発表場所でお客さんを集めては発表するということを繰り返した。

当日は、効果音やセリフを増やして演出をアップ!地域の人に楽しんでもらった
4年2組担任の杉山雄太先生

4年2組担任の杉山雄太先生は当日を振り返り、子供たちが本番で見せた底力に驚いたようだ。「たくさんのお客さんを前に何度も発表する中で、どんどん良くなるチームがありました。また、当日は欠席者が多かったですが、普段は見せないような力を発揮する子もいて、このプロジェクトを通して、子供たちがそれぞれに役割を感じながら、頑張ってその場を乗り越えてやりきる姿を見ることができました。すごく成長できたと感じています」と話す。

また、プログラミング教育としての価値にも言及し、「これまでやったプログラミングの授業では、個人の作業で自分の画面上で完結してしまい、その先への広がりがありませんでした。プロジェクションマッピングにしたことで、プログラミングで思っているものを形にして人に見てもらうという活動ができたのはとても良かったです」と語った。

みんなを笑顔にできたことがうれしい!

このプロジェクトに取り組んできた子供たちは、一連の活動をどのように感じているだろうか。

「みんなが笑顔になってくれてうれしかった」と話す子供たち

子供たちが発表の際に語った感想はさまざま。「苦労したことは、みんなの意見がまとまらなかったことです」「場所決めに苦労しました」「プログラムを作るのをがんばりました」「プロジェクターの調整をがんばりました」など、意見調整をしたり自分の役割を果たそうと頑張った様子が伝わってきた。

個別に聞いてみると、立体的な投影場所に位置を合わせるのに苦労したというエピソードや、タブレット端末のカメラでプロジェクションマッピングを動画撮影し、それを見ながら改善点をメモしてプログラムを修正する作業を繰り返したという制作エピソードも出てきた。

また、後日改めて子供たちに振り返ってもらうと、「初の体験だったので、やる前はもう緊張ばかりだったんですけど、やった後は、みんなを元気づけられたなっていう感じでとてもうれしかったです」とか、「絶対こんなの無理だって思っていたんですけど、実際やってみたらすごく楽しかったし、その場にいたみんなが笑顔になってくれたので、うれしかったです」といった感想を、充実した表情で聞かせてくれた。

地域の人たちを楽しませようとがんばってきた子供たち。苦労や上手くいかないこともあったが、互いに協力しながら大きなプロジェクトをやり切った
柏市立大津ケ丘第一小学校 佐和伸明校長

同校の佐和伸明校長は、子供たちが社会とのつながりを感じられる活動を大切にしている。「日本の子供は、この社会に課題があって自分で解決できるとはあまり思っていないと言われています。いきなり社会や世界を変えることはできないけれども、小学生でも学級や学校や地域という身の回りのものであれば変えることが可能です。 “自分たちの力で何かを変えることができた”という自信を持つことを重視しています。今回のプロジェクションマッピングも、地域の人に喜んでもらったことで、地域の人たちに貢献できたという自信が生まれたのではないかと期待しています」と佐和校長は語る。

今回の4年生のプロジェクトはこの一環でもあり、さらに、プログラミングで何かを生み出せる人になって欲しいという願いもこめられている。子供たちの感想からは、佐和校長の言葉の通り、地域の人に楽しんでもらうという目標を実現してひとつ自信をつけた様子が伝わってきた。

子供たちの想像力と創造力を引きだす「プログラマッピング」

同プロジェクトは放送大学教授 中川一史先生と、放送大学客員教授 佐藤幸江先生が監修を手掛けている。子供たちがプログラミングに使用したのは、「プログラマッピング」というエプソン販売株式会社と株式会社ユニティによる共同開発中の専用アプリだ。

放送大学客員教授 佐藤幸江先生

佐藤先生は今回のプロジェクトを振り返り、「プロジェクションマッピングは、創造的な活動という点でとても面白かったと思いますね。今回はそれ以上に、地域の人たちを喜ばせたいという思いで、伝えたいメッセージを映像と言葉に乗せて、さらに音もうまく合わせて、高度な技術を発揮していました。私たちが思っていた以上の成果が見えました」と話す。また、このプロジェクトの効果として、「試行錯誤を通じてプログラミング的思考を育むこと」、「グループごとの作品づくりで協働的な学びの場を生み出すこと」、そして「成果を発表する機会を持てること」を挙げた。

放送大学教授 中川一史先生

中川先生は、プロジェクションマッピングとプログラミングを組み合わせる効果に注目する。「テーマを設定して、プログラミングで作品をつくり、プロジェクションマッピングで発表するという一連の流れの中で、プログラミングの効果を子供たち自身が実感できるのがいいですね。プロジェクションマッピングのワクワク感が相乗効果になって“次はもっとこうしたい”という意欲にもつながります。プログラミング敎育にはテーマとスキルの積み重ね、効果の実感の3つの要素の掛け合わせが大切です」と中川先生は話す。

また、プログラミング教育の魅力は、イマジネーション(想像)とクリエイション(創造)の2つの“そうぞう力”だと表現し、「『プログラマッピング』でプロジェクションマッピングの作品づくりをするというのは、まさに、イマジネーションとクリエイションを引き出します。子供たちがふたつの“そうぞう力”を自然と発揮できるという価値は大きいですね」と語った。

本番数日後、実は児童だけの発表会が開催され大いに盛り上がった。お互いの作品を鑑賞して笑い合い、作品の良いところを伝え合う姿に成長を見せてくれた

小学校におけるプログラミング敎育は、新たな教科として独立しているわけではないため、学習活動の自由度は高い。授業設計によっては、子供たちのさまざまな力を引き出す非常に面白い機会になる。今回の「プログラマッピング」は、学校を舞台に非日常的なプロジェクションマッピングを行うことで、子供たちが創造力を発揮する絶好の機会となった。子供たちが生き生きと取り組むプログラミング教育が、多くの学校で広がることを期待したい。