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横7mのスクリーンに8班の観察画像が並ぶ、細胞と出合う「料理の科学」の授業
――福井大学教育学部附属義務教育学校 公開授業レポート
2026年9月24日 06:30
株式会社内田洋行と国立大学法人福井大学は、ICTやAIを活用した学習環境、教育データ、教育評価をつなぐ次世代の教育モデルを共同研究するための包括連携協定を、2026年8月26日に締結した。同日に行われた福井大学教育学部附属義務教育学校の公開授業のレポートとともに、両者が取り組む「次世代の教育モデル」を解説する。
巨大スクリーンのある理科教室で行われるプロジェクト型学習
「野菜にしよう。タマネギ? ナス?」
「どうやって剥ぎ取ろうか」
「ピーラー?」
「ピンセット使ってみよう」
大型スクリーンが配置された広い理科教室で、机に並べられた野菜や肉、魚を、生徒たちが取り囲み、相談し合っている。 これは、福井大学教育学部附属義務教育学校の7年生(中学1年生)の理科授業の1シーンだ。
公開授業のテーマは「料理の科学」。同校では、全教科で探究的な学びを行っており、今回の授業では「給食の献立に使用されている食材を題材とした、動物・植物の分類」に取り組んだ。
最初に授業を担当した松本拓也先生は、前回の授業を振り返り、生徒たちから出た「動物と植物の違いは何か」「そもそも、『生きている』とは何か」という問いをあらためて示した。
今回は、実際にデジタル顕微鏡を使い、動物と植物の相違点と共通点を見つけていく。用意されたのは、バナナ、タマネギ、ナス、ツユクサといった植物や、豚の肝臓、若鶏の肉、塩サバなどの動物。生徒たちは、興味をもった素材を薄く剥ぎ、デジタル顕微鏡で観察を行う。松本先生は細かな指示は与えず、問いと最低限の手順だけを伝え、サポートにまわる。
授業に使われたのは、内田洋行の中学校・高等学校向けデジタル生物顕微鏡「D-SF600」だ。総合倍率は600倍、約500万画素の映像素子を搭載。USBで端末を接続することで静止画を撮影することができる。班ごとに観察を行い、最後に観察した内容を、大型のマルチスクリーンで全員に共有し、考察を行う。
始まってわずか1分で顕微鏡で観察を始める班もあれば、観察物をあれこれ吟味している班もあり、進捗はさまざま。全員が楽しそうに授業に参加している様子がうかがえた。
理科教室内は、机や椅子を自由に動かして配置を変えられる仕様になっている。生徒たちは広い空間を移動し、必要な素材を集めたり、隣の班の様子を見たり、相談しあったりしている様子が随所で見られた。
約20分の観察後、植物と動物、あわせて8班分の観察記録が、縦2.7メートル・横7メートルの大型のスクリーンに8分割して表示された。ホワイトボード機能を備えたマルチスクリーン上に、生徒たちが気づいた特徴をペンで書き加えていく。
ここからは、全員で考察と検証を行う時間だ。ツユクサを選んだ班から「所々に気孔みたいな穴があって、唇に似ている」という発表があると、「気孔は、葉の裏側にたくさんついている唇みたいなもので、蒸散させるための器官」と別の生徒が補足する。
そこから、「植物には気孔があるのに、動物にないのはなぜか」という、問いに発展していく。生徒から、「植物は光合成をするために気孔があるが、動物は自分の中で養分を作らず、他のところから摂取するから気孔がないと思う」と考察が上がる。
最後に、松本先生がこの授業で初めて「細胞」という言葉を出した。生徒たちに「植物も動物も、ミクロな世界を見てみると、こんな細かい『細胞』がたくさん組み合わさっていることがわかる」と話し、今回の授業を終えた。授業を通して、生徒たちは実験と考察、話し合いという体験をもって、「細胞」が何たるかを深く学んだ。確かな知識となって根付いていくのではないかと感じられた。
しかし、探究はこれでは終わらない。今日新たに生まれた疑問に、この後の振り返りや授業であらためて取り組んでいくという。問いから始まった公開授業は、新たな問いで終わった。
「理科がますます好きになる」「学びが深くなった」と語る中学生
今回の取材で驚いたのが、生徒の学びに取り組む姿勢だ。福井大学教育学部附属義務教育学校の7年生は、中学1年生にあたる。数人の生徒に話を聞いたところ、いずれも授業を前向きに捉え、「学びが深くなる」と楽しそうに語っていたのが印象的だった。
理科が好きという女子生徒は、「身近な植物や食べ物の細胞まで見ることができた。授業では普段あまりできない体験をさせてくれて、自分の世界を広げてくれる。もともと理科が好きだったけれど、ますます好きになった」と話してくれた。
中学から入学したという男子生徒2名は、いずれも学校見学などを通じて同校に魅力を感じ、受験したという。動画実況者を目指す生徒は、「社会で生きていくうえで重要になることを、ここでは教えてくれる。色々な人の視点を知ったりして、学びを深められる」と話していた。また、将来は科学者になりたいという生徒は、「わからないことや気になったことが明らかになって、知識の量が増えていく」と語った。
中学から同校に入学し、約5か月しかたたない生徒たちも、しっかりと自分の意見を語っていた。最新のデジタルツールを取り入れた今回の公開授業は、たんに目新しいだけのものではなく、まさしく、子供たちの好奇心や学びへの意欲を引き出すものだったと感じられた。
両者の実績と強みを生かした新たな教育モデルの創出へ
こうした学びを支えているのが、福井大学と内田洋行の連携だ。8月26日、福井大学教育学部附属義務教育学校の公開授業に先立って、同校において、国立大学法人福井大学と株式会社内田洋行による包括連携協定締結式が執り行われた。
福井大学長の内木宏延氏は、式の冒頭で、福井大学が2040年に向けた地方国立大学の在り方として「社会を共に創る大学『社会共創大学』」を掲げていることを紹介した。そのうえで、「地域社会の課題解決と発展を牽引する中核として、『深い実践的教養を備える卓越高度専門職業人の育成』をミッションと定めている」と述べた。
福井大学は、2022年3月に文部科学省から「教員養成フラッグシップ大学」の指定を受け、教員養成・教師教育に意欲的に取り組んでいる。
その特徴として内木氏が挙げたのが、「『学校拠点方式』に象徴される学校現場をフィールドとした実践と省察の往還による学びの展開」だ。
つまり、学校現場での実践と、そこで得た気づきを振り返る「省察」を繰り返しながら学びを深めていく取り組みだという。重要な実証拠点である教育学部附属義務教育学校では、プロジェクト型の探究学習をはじめ、先進的なプログラミング教育やSTEAM教育が日々実践されているという。
今後は、「地方創生のプラットフォームとなる『教育』という共通のテーマのもと、持続可能な学びの在り方を追求し、次世代を担う子供たちや若者たちの未来を拓き、新しい価値と社会を共創するパートナーとして歩みを共にしていきたい」と意欲を示した。
内田洋行は、文部科学省のCBTシステム「MEXCBT」の構築・運用を担い、今春には小中学生約200万人規模の学力テストを受託したほか、教育総合研究所を通じて教育評価に関する知見を蓄積してきた実績を持つ。
株式会社内田洋行 代表取締役社長 大久保 昇氏は、「私たちが目指すのは、データによって子供たちを順位付けすることではない」と述べた。続けて、「一人ひとりが、何に気づき、どのように考え、仲間との対話を通じて、どのように成長したのか。その学びの過程を丁寧に捉え、次の学びと、より良い授業につなげること」が目的であると強く語った。
さらに、「福井大学の教育・研究の知見、そして内田洋行の教育ICTとアセスメントの力を結び、学習空間、教育プログラム、教育データを一体的に研究していく。教育の可能性を実感できる未来を、ここ福井からともに創り出していきたい」と抱負を述べた。
包括連携協定の概要と今後の展望
福井大学は文部科学省の「教員養成フラッグシップ大学」に全国唯一の総合大学として指定を受けている。教育学部および連合教職開発研究科の実践と省察の往還による教育・研究を根幹とし、工学部・医学部等とも連携しながら、教育学部附属義務教育学校や総合教職開発本部を先進的な実証・実践フィールドとして活用してきた。こうした取り組みを通じて、同大学は次世代の教育改革を牽引してきた実績をもつ。
これまでも内田洋行と連携し、附属義務教育学校に、「プロジェクトルーム」や「未来型理科教室」、9年一貫教育を支える「合同職員室」を整備したほか、福井大学総合教職開発本部には「STEAM教室」を構築するなど、新たな教育・学習環境の整備を行ってきた。
今回の包括連携協定では、福井大学の実践成果を実証基盤とし、内田洋行の教育アセスメントやCBTなどの高度なソリューションと融合させることで、新たな教育モデルの創出を目指すという。具体的な連携内容は以下の4項目となる。
1.附属義務教育学校をフィールドに、STEAM教育やプログラミング教育、次期学習指導要領を見据えた協働探究型のプログラムや教材の開発・実証を行う。
2.両者の知見を活かし、資質・能力を多面的に捉える評価指標の開発や、CBT・AIを活用した新たなアセスメント手法の研究を進め、指導改善や学習支援に活かす。
3.ICTやAI等を活用した次世代の教育・学習環境の構築を行い、効果的な指導方法の実証と地域への普及・展開を推進する。
4.学術的・実践的な効果を検証し、福井大学の教員養成や教育現場への還元をはじめ、国内外へ広く情報発信する。
福井県では、「福井県学力調査(SASA:Student Academic Skills Assessment)」と呼ばれる独自の学力テストを1951年より行っており、全国学力・学習状況調査ではトップクラスの成績を維持している。
今回の連携を契機に、SASAなどで培われた教育評価の知見と内田洋行のアセスメントやCBTの知見を掛け合わせ、将来の教育評価のあり方を検討する。CBTの意義や課題を検証するとともに、教育データやAIを活用した新たな分析・評価手法の研究も進めていく。
内木宏延学長が語った「持続可能な学びの在り方」がどのように発展していくのか。今後の展開にも注目したい。
































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