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教育セキュリティは「気をつけるもの」から「仕組みで守るもの」へ、内田洋行の校務DX最新事例

――「NEW EDUCATION EXPO 2026 東京」レポート

内田洋行フューチャークラスルームで特別セッションを開催(撮影:編集部)

株式会社内田洋行は2026年6月4日、「NEW EDUCATION EXPO 2026 東京」の開幕初日に合わせ、報道関係者向けの特別セッションを開催した。ゼロトラストや校務DX、データ連携など、これからの教育現場に欠かせない環境整備について、各自治体での最新事例をもとに同社の取り組みを紹介。本稿では、その内容をレポートする。

教育現場のネットワーク、企業より高度な要件へ

株式会社内田洋行 代表取締役社長 大久保 昇氏

冒頭、株式会社内田洋行 代表取締役社長 大久保 昇氏は、教育現場のネットワーク環境に求められる要件が大きく変化していると指摘した。

GIGAスクール構想によって、全国の小中学校には教員分を含め約1000万台の端末が整備された。これにより、学校では授業開始時に児童生徒が一斉にログインするなど、企業や官公庁とは異なる利用実態が生まれている。さらに、1人1台端末から得られる学習データは、児童生徒の支援に関わる校務データともつながっていく。

大久保氏は「今の教育現場は、企業や官公庁のネットワークより高度な要件が求められるようになってきた」と述べ、「大規模な同時接続への耐性と子供たちの機微な情報を守るセキュリティの両立が、今の学校ネットワークの核心的な課題だ」と強調した。

そして、それらを実現している具体例として、大久保氏は府中市と横浜市の事例を挙げた。府中市では市立の小中学校33校、約2万1000人の児童生徒・教職員が利用する環境に、SASE(Secure Access Service Edge)を用いたゼロトラスト基盤を構築。また横浜市については、児童生徒24万人・教員2万人、計26万人が利用する環境で、学習データを教育に生かす取り組みを進めていると述べた。

会場でもゼロトラスト環境や校務DXのソリューションを展示

教育セキュリティ、「気をつけるもの」から「仕組みで守るもの」へ

株式会社内田洋行 システムズエンジニアリング事業部 副事業部長の河合 剛史氏

続いて、株式会社内田洋行 システムズエンジニアリング事業部 副事業部長の河合 剛史氏が、教育現場におけるゼロトラストの取り組みについて紹介した。

ゼロトラストとは、ネットワークの内側にあるものを無条件に安全と見なさず、利用者が使用する端末やすべての通信を継続的に検証するセキュリティの考え方だ。従来のネットワーク環境は、校内を安全な領域として囲い、外部の脅威から守る「境界防御」を基本としてきた。しかし、クラウド利用の拡大や校務系と学習系のデータ連携が求められるようになったことで、学校現場でもゼロトラストの重要性が高まっている。

教育ネットワークセキュリティの変化(画像:内田洋行の資料より)

河合氏は、ゼロトラストの導入によってリスクの軽減につながっていると話す。たとえば、校務系と学習系でネットワークが分離された環境では、データのやり取りにUSBメモリを使わざるを得ない場面も多く、情報漏えいのリスクが課題だった。しかし、ネットワークが統合されることで、こうした作業は不要になった。

また、多要素認証やデータ暗号化の仕組みも構築することで、教職員がセキュリティに対して「意識して気をつけるもの」から、仕組みによって「自然に担保されるもの」へと変わると述べた。1台の端末で校務と学習の両方を扱えるようになり、教職員は職員室に限らず、学校のあらゆる場所や校外でも安心・安全に業務を行える。河合氏は、「ゼロトラストはセキュリティ対策というより、学校現場を変える大きな基盤だと捉えてほしい」と語った。

内田洋行のゼロトラストネットワーク導入実績は、2021年の埼玉県鴻巣市を皮切りに全国50以上の自治体に広がっている。導入先は、小規模な小中一貫校から政令指定都市、都道府県レベルまで幅広く、全国の案件をネットワークサポートセンターが一元的に支援することでノウハウを蓄積している。

内田洋行、ゼロトラストネットワーク導入実績(画像:内田洋行の資料より)

鴻巣市・荒川区・府中市、3つの事例が示す次世代校務DX

株式会社内田洋行 システムズエンジニアリング事業部 ネットワークサポートセンター 永山達也氏

自治体の導入事例については、株式会社内田洋行 システムズエンジニアリング事業部 ネットワークサポートセンターの永山達也氏が語った。

同氏は、「教育現場が抱える課題の変化に応じて、その時点で必要とされる先行モデルを実装してきたが、技術だけを導入しているのではなく、運用保守研修や伴走支援を行い、現場の教職員が使いこなせる環境づくりに力を入れてきた」と話す。

2021年:埼玉県鴻巣市 場所を問わず、安心・安全に働ける環境へ

最初の事例となった埼玉県鴻巣市では、GIGAスクール構想第1期の環境整備として、全小中学校を対象に端末・ネットワーク・教育ICT環境を一体で整備した。当時はコロナ禍にあり、約1万台の端末を安定的に使うための通信基盤、大規模な端末を無理なく管理できる環境、そして教職員が場所に縛られず、安心・安全に働ける環境の構築が求められていた。

こうした課題に対して、閉域網とSINETを活用した高信頼ネットワーク、教育ICT基盤のフルクラウド化、Microsoft 365 A5 Securityなどを組み合わせ、校外でも安全に使える教育ICT基盤を実現。永山氏は、「端末整備にとどまらず、学校現場で使い続けられる基盤まで整えた事例」として紹介した。この取り組みは先行事例として全国から注目を集め、「鴻巣モデル」として知られている。

埼玉県鴻巣市の導入事例(画像:内田洋行の資料より)

2024年:東京都荒川区 教員のChromebookからWindows環境へアクセス

荒川区では、GIGAスクール構想第2期の端末整備に伴い、教員のChromebookから校務と学習を1台で扱える環境整備に取り組んだ。同区では、Chromebookを校務でも安全に使える環境整備や、多様なクラウドアプリケーションの安定運用、端末利用増加に伴うソフトウェアのアップデート対応、そしてデジタル教科書利用によるネットワーク負荷への対応が求められていた。

これらの課題に対し、仮想デスクトップ環境と多要素認証を組み合わせて、Chromebookから安全に校務環境を利用できる仕組みを導入した。また、校務支援システムとのアカウント連携によりクラウドアプリケーションを運用しやすい環境に整備したほか、内田洋行が独自に開発したキャッシュサーバーの導入によってネットワーク負荷の低減も実現した。荒川区の事例は、校務と学習で異なるOSを用いるマルチOS環境による働き方を実現した、先行事例となっている。

東京都荒川区の導入事例(画像:内田洋行の資料より)

2026年:東京都府中市 SASEを中核としたゼロトラスト型ネットワークを導入

最新事例として紹介されたのが、府中市の次世代校務DX基盤だ。同市では、校内外を問わず安全に端末を使える環境整備や、児童生徒を含めたアカウント管理と認証の強化、教職員の業務負担軽減、そして、利用状況を可視化するダッシュボードの整備が求められていた。

こうした要件に対して、SASEを中核としたゼロトラスト型ネットワークを導入。従来分離されていた校務系・学習系ネットワークを統合し、教職員が1台の端末で校内外を問わず安全に業務ができるロケーションフリー環境を実現した。あわせて、アカウント管理の一元化と証明書による認証を組み合わせた統合ID認証基盤も整備し、複数のクラウドサービスにひとつのIDでアクセスできる環境を構築した。さらに、Microsoft 365を活用した業務負担の軽減、利用状況を可視化するダッシュボードの整備により、運用改善につなげる仕組みも整えている。

永山氏は府中市の事例について、「SASE、統合ID認証、生成AI、ダッシュボードを組み合わせた、今後の校務DX基盤のスタンダードとなる先行的なモデル」と語った。

東京都府中市の導入事例(画像:内田洋行の資料より)

校務データに生成AIを組み合わせ、教職員の業務負担を軽減へ

株式会社内田洋行 地域デジタル化推進部 次長 稲原裕介氏

後半では、内田洋行 地域デジタル化推進部 次長の稲原裕介氏と、同部の関根知里氏が、校務DXとデータ連携について説明した。

稲原氏は最初に「自治体・学校・家庭が持つさまざまなデータをつなぎ合わせることで、子供たちの学びの支援と見守りにつなげていきたい」と述べた。データ連携にあたっては同社独自の仕様ではなく、1EdTechのOneRosterをはじめとする国際技術標準に準拠した設計を重視しているという。特定のシステム同士だけをつなぐのではなく、さまざまなシステムが連携できる環境を作ることが狙いだ。

内田洋行が推進する校務DXとデータ連携の取り組み(画像:内田洋行の資料より)
株式会社内田洋行 地域デジタル化推進部 関根知里氏

関根氏は、校務支援システムを中心に、保護者連絡や児童生徒のデータをつなぐ事例を紹介した。

保護者が欠席・遅刻の連絡をアプリで入力すると、その情報が校務支援システムに連携されたり、家庭環境調査票についても、保護者がアプリで登録した内容を校務支援システムに連携する取り組みが進んでいる。また通知表など、これまで紙で扱っていた情報をデータで届ける動きもあるという。

一方、児童生徒側のデータ活用も進んでいる。朝の健康観察では、児童生徒が自分のタブレットから入力することで、教員のもとに一元集約される仕組みが整いつつある。関根氏は、「紙ではなくデータが蓄積されることで、子供自身が振り返ることができ、先生が日々の見守りにつなげられる。これがデータ化の最大の強みだ」と語った。さらに、内田洋行が提供する学習eポータル「L-Gate」上では、子供が相談したい先生を選んで連絡できる教育相談機能も提供されるなど、子供から発信できる仕組みも整えられている。

保護者や児童生徒とのやり取りもデータ連携し、教職員の働き方改革を支援(画像:内田洋行の資料より)

蓄積された校務データと生成AIを組み合わせる取り組みも進行中だ。同社は2025年度、文部科学省の実証研究事業に4団体で参画し、校務データをもとにした所見文案の作成や学級編成の提案といった機能を開発。現在、製品化に向けた開発を進めているという。具体的には、ダッシュボードに表示される児童生徒情報の要約、通知表の文章評価案の作成・確認、学級編成の提案といった活用が想定されており、今後ますます校務における生成AI活用は進んでいくことが示された。

文部科学省「セキュアな環境における生成AIの校務利用の実証研究事業」に参画(画像:内田洋行の資料より)

今回の特別セッションでは、学校現場の端末活用が広がるにつれて、ネットワークや校務DX環境に求められる要件も変化してきたことが見えてきた。整備にとどまらず、校務と学習のデータを安全につなぎ、それらを教育活動に生かす段階に来ていることも明らかだ。内田洋行の事例からは、複数のソリューションを組み合わせながら、それぞれの自治体の課題に合わせた環境を構築していることもわかった。

教育現場は校務DXや働き方改革など、まだまだ課題が山積している一方で、教職員が子供と向き合う時間をどう創出するかが求められている。各自治体はその方向性を目指しながら、複数の課題解決つながる教育基盤の整備が引き続き求められるだろう。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやアプリを中心としたゲーム雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは小学生兄弟の母。親目線&ゲーマー視点でインクルーシブ教育やエデュテインメントを中心に教育ICTの分野に取り組んでいく。