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青山学院大学「青学つくまなラボ」に潜入!3Dプリンターやレーザー加工機、UVプリンターで自由なモノづくり空間

「青学つくまなラボ」は、青山学院大学青山キャンパスに設置されている、ものづくりのためのラボであり、その名前の通り、作って学ぶことを目的としている。2023年5月に革新技術と社会共創研究所の下で開設されたが、その後2025年9月に移転し、同年12月には最新鋭の大型レーザー加工機を導入するなど、進化を続けている。

今回、同ラボのシニア・フェローであり、日本におけるScratchの第一人者でもある阿部和広特任教授にラボを案内していただいたので、その様子をレポートしたい。

青山学院の学生や生徒、児童、教職員なら誰でも自由に使える

 「青学つくまなラボ」は、青山学院大学青山キャンパス内の大学10号館地下1階にある。青山キャンパス内には、大学・大学院だけでなく、幼稚園・初等部・中等部・高等部の校舎もあるが、大学10号館はそれらの敷地に近く、大学生以外の生徒や児童も利用しやすい場所に位置している。

「青学つくまなラボ」の入口

 ラボの開室時間は、月曜日から金曜日の13時~18時まで。青山学院の幼稚園・初等部・中等部・高等部・大学・大学院の児童、生徒、学生と教職員なら誰でも利用可能だ。初めて利用する場合は、スタッフから施設の説明を受けたうえで利用者IDが発行される。利用者IDがあれば、基本的に予約不要でラボを利用できるが、一部の工作機器は、事前に利用者講習を受ける必要がある。

 ラボは、入口を入って右側と左側の2つのエリアに分かれている。右側の部屋の奥にはスクリーンとプロジェクターが用意されているので、セミナー形式でワークショップなどにも対応できる。

入り口入って右側の部屋。天井から電源タップがぶら下がっている

3Dプリンターやレーザー加工機など、多彩な工作機器を備えるファブスペース

 入口から入って左側の部屋は、大型の工作機器が置かれているファブスペースとなっている。「青学つくまなラボ」には、UVプリンターやレーザー加工機、3Dプリンター、刺繍ミシン、CNCミリングマシン(コンピュータ制御で木材などを削り出して加工する工作機械)など、充実した機器が整備されている。特に、利用頻度の高いCO2レーザー加工機は、大型の60Wタイプを2台設置。さらに2025年12月には、出力80Wを誇るレーザー加工機「xTool P3」も導入された。

最新のレーザー加工機「xTool P3」。出力80Wで、分厚いアクリル板も楽に切断できる
入口から入って左側の部屋に大型の工作機器が置かれている
金属やプラスチックなどにも印刷が可能なUVプリンター
出力60Wのレーザー加工機
こちらも出力60Wのレーザー加工機

 また、刺繍ミシンも多色対応の高性能な機種が導入されており、活用されている。3Dプリンターは、中央の部屋の棚に配置されており、小型の「Bambu Lab A1 mini」を複数台導入しているほか、一回り大きな「Bambu Lab A1」や多色印刷に対応した3Dプリンターも導入されている。

刺繍ミシン。複数の色を使い分けて刺繍が可能だ
文字を刺繍することも簡単にできる
こちらも小型の刺繍ミシンである
多色印刷が可能な大型3Dプリンター
Bambu Labの3Dプリンター「Bambu Lab A1 mini」を複数台導入している
こちらはAnkerの3Dプリンター

 その他、貸し出し用のノートPCや3Dペン、ポスターの印刷機、アクリル板などを加工するための曲げ器、製本用の道具などもそろえている。さらに、電子工作用の工具やLEDなどの電子部品、紙や木などで工作をするための工具や材料も揃っており、学生や生徒の「自分でものづくりをしたい」という望みに、存分に応えられる環境が整っている。おそらく、日本の私立大学でも、ここまで充実したファブスペースを備えている例は、まだ珍しいのではないだろうか。

立体的な絵や形を作れる3Dペン
アクリル板の曲げ器。アクリル板を熱して手で曲げていく
曲げ器を使ってアクリル板を曲げた例
電動糸鋸盤とCNCミリングマシン
こちらは金属加工も可能なファイバーレーザー加工機
こちらはステッカーなどを切るカッティングマシン
A1ノビまで印刷できる大判プリンター
電子工作関係のパーツも揃っている
ハンダごてなどの電子工作用工具
高性能GPUを搭載したゲーミングPCもある
折り紙やストロー、モールなどの工作材料や工具も揃っている
缶バッジを作るための工具
電動ローラースケート「セグウェイドリフト」も数セットある

コロナ禍のアクリル板を再利用、ものづくりに生かす

 「青学つくまなラボ」のシニア・フェローを務める阿部和広特任教授は、Smalltalkの開発者であるアラン・ケイに師事した、日本におけるScratchの第一人者である。阿部特任教授は、20年以上前から子供を対象としたプログラミング教育やものづくりに関する講習会を多数開催しており、STEAM教育における日本有数のオーソリティである。そこで、阿部特任教授に、「青学つくまなラボ」の設立の経緯や狙い、利用状況などをお訊きした。

「青学つくまなラボ」のシニア・フェローを務める阿部和広特任教授

――「青学つくまなラボ」の設立の経緯について教えてください。

阿部:私は2001年にアラン・ケイさんの指導を受けることになり、「プログラミング教育をやりなさい」ということで、Squeak EtoysやScratchのローカライズに携わるようになりました。Scratchの日本コミュニティーの立ち上げにも関わっています。

 ScratchにしてもSqueakにしても、バーチャルな世界ではありますが、「作って学ぶ」という点で本質的に同じだと思っています。私自身の感覚としても、ソフトもハードも、リアルもバーチャルも、すべては「作って学ぶ」ことにつながっています。

 こうした考えの背景には、ジャン・ピアジェやミッチェル・レズニック、マービン・ミンスキーといった研究者の思想の影響もあります。子供たちは、自分が一番面白いと思っていることに取り組んでいるときに、最大のパフォーマンスを発揮するため、この場も、そうしたことができる環境にすることが大切だと考えています。

「つくまな」とはつくる+まなぶであり、作ることで学ぶという意味が込められている
ジャン・ピアジェの構成主義について。子供は環境と相互作用することで認知構造(シェマ)を構築するものであり、子供たち自身が理解を発展させられるように学習を支援すべきである
LEGO MINDSTORMSやScratchなどを開発したミッチェル・レズニックは、生涯幼稚園という概念を提唱した
マーヴィン・ミンスキーの「創造する心」。子供の興味を「一般的教育」の視点から「正常」な成長を妨げるものとみなさず、違いを認めて個人的な興味を追求するよう促す方がよい

 ここは大学の中にあって、初等部や中等部の児童生徒が利用できる場ですが、子供たちにとっては常設の場所であることが重要だと考えています。私は2001年から全国を回って、いろんな場所でワークショップをやってきましたが、子供たちはその場では喜んでものづくりをやっても、家に帰ったら続かない。一過性の活動で終わってしまうんですね。そういう意味で、やはり、常設の場所が必要だとずっと思っていました。

 そうした中で、この施設の立ち上げ話が出てきました。青山学院大学は理系学部が相模原キャンパスになり、文系学部が中心の青山キャンパスでも、学生たちがものづくりを経験できる場が必要との考えから、GMOインターネットグループ株式会社、株式会社サイバーエージェント、株式会社KADOKAWA、渋谷区の協力を得て、「青学つくまなラボ」の開設に至りました。幼稚園から大学院まで併設されたひとつのキャンパスに、年齢に関係なく利用できるファブスペースがある例は、比較的少ないと思います。

――工作機器はどんなものがあるのでしょうか?

阿部:UVプリンター、レーザー加工機、CNCミリングマシン、3Dプリンターが主な機器ですが、入れ替わりはあります。最近、大型のレーザー加工機を入れました。特に、3Dプリンターは台数と、一番新しいものを入れることが重要だと思っています。

 例えば、初等部の児童の場合、つくまなラボでの活動時間は50分のことが多いので、3Dプリンターでの印刷は到底間に合わない。時間がある場合でも、全員分を時間内に終わらせるためには、大きな3Dプリンターが1台あるより、小さい3Dプリンターがたくさんあったほうがいい。そうした理由で、今は「Bambu Lab A1 mini」を大量に入れています。

「青学つくまなラボ」に設置されている工作機器。現在はさらに機器が増えている

――「青学つくまなラボ」は主にどのように活用されているのでしょうか?

阿部:ものづくりのメニューを用意していますが、初等部や中等部の児童生徒だと、3Dモデルの作成と3Dプリンターでの印刷が一番人気です。大学生は、アクスタ、アクキーです。推し活ですね。刺繍は一部の子にはとても刺さってます。これもどちらかというと大学生ですかね。彫刻系はあまりやらないですね。一度アクスタ、アクキーを見ちゃうと、つくまなラボで作れるものは製品レベルのクオリティなので。

――セグウェイドリフトに乗れるのも面白いですね。

阿部:これは私物なんですが、大人気です。うちはラウンドワンかみたいな感じになっていて(笑)。

――初等部や中等部の児童や生徒はどのように利用しているのでしょうか?

阿部:初等部の場合は、1学期、2学期、3学期に分かれて、各回で利用者を募集し抽選で決めています。それ以外の初等部の児童は、保護者と一緒に利用できます。中等部の場合は、マイコン部という部活や、情報の授業などで利用しています。高等部以上は自由です。ただし、高等部の利用がなぜか少ないんですよ。前の場所は、高等部からはすごく遠かったのですが、今は高等部からの帰り道なので来やすくなっていると思います。

――3Dプリンターのフィラメントなど材料費はどうなってるのですか?

阿部:少量作る分に関しては無料です。ただし、大量に作って配る場合は、必要なフィラメントを持ち込んでもらっています。また、アクスタやアクキーなどで使うアクリル板に関しては、全部無料です。アクリル板も本当は結構高いのですが、コロナ禍の時に食堂などで使われた仕切り板が大量に残っているので、それを再利用しています。例えば、新しい図書館の案内板なども「青学つくまなラボ」で作っています。SDGsとはあまりいいたくありませんが、そういう評価もされている面はありますね。

レーザー加工機やUVプリンターを使って制作された作品

――今後やってみたいことや導入したい工作機器などはありますか?

阿部:既存の取り組みの延長でいえば、UVプリンターをもう1台入れたいですね。そもそもUVプリンターがある場所自体が珍しいので贅沢ではあるのですが、アクスタやアクキーを作るときに、そこがどうしてもボトルネックになってしまいます。レーザー加工機も同様ですね。

 それに加えて、電子工作をもう少し「機能を持ったものづくり」に広げていきたいです。今はどうしても、形だけ作るところで終わってしまうんですね。「キーホルダー症候群」という言葉があって、キーホルダーだけ作って終わり、という状態です。少し、それに近い状況になりかけていて、その先に進めていないので、こういう場所があるからこそ、もう少し先のできることを広げていきたいと思っています。

 また、スタッフは能力があって人材も揃っているのですが、子供たちがあまり乗ってこない面もあるので、その辺に取り組んでいきたいですね。理由のひとつとしては、作品を持ち帰れないことが関係しているかもしれません。アクスタ、アクキー、3Dプリンターの作品は持って帰れますが、さすがにM5Stackやmicro:bitをそのまま渡すわけにはいきませんからね。

3Dプリンターやレーザー加工機などを駆使して作られた作品

 その点でいうと、中学校には技術科がありますし、最近は初等部でも情報の授業があるので、先生方と上手く連携できればといいと思っています。ただし、青山学院の場合は、各学校の独立性を重んじる校風もありますので慎重に進めていきたいと思います。利用者に関しては、児童生徒や大学生だけでなく、宗教センターが募金のためにガチャガチャの景品を作ったり、人事の方が新人研修のために使ったりとか、警備員室の前に置く表示板を作ったりといった職員の方が活用されるケースもあります。さらに、Scratch DayやCoderDojoのような活動を通して、青山学院だけでなく外部の皆さんにも使ってもらえる機会を増やしたいですね。

「青学つくまなラボ」の利用者向けに用意されたものづくりメニュー
こちらがコロナ禍のときに仕切り板に使っていたアクリル板をレーザー加工機で加工したもの

ラボ入口に並ぶ作品が、次のものづくりのヒントに

 「青学つくまなラボ」に入ると、入口近くの棚にこれまでラボで作られた作品が多数展示されている。3Dプリンターやレーザー加工機、UVプリンターなどを使って制作されたアクスタや模型、立体作品などが展示されており、この場所でものづくりに取り組んできた子供たちや学生たちの成果を見ることができる。

 こうした作品を眺めていると、「作って学ぶ」というラボのコンセプトが、実際の活動として形になっていることがよく分かる。訪れた利用者にとっても、新たなアイデアや次の挑戦につながるヒントになる展示といえるだろう。

「青学つくまなラボ」の入口にはラボで作られた作品が多数展示されている
3Dプリンターを使って制作された作品
こちらは3Dペンや3Dプリンターを使って制作された作品
レーザー加工機で木材を切断して作られた作品
3Dプリンターやレーザー加工機を使って制作された作品
廊下の壁には学生たちが「青学つくまなラボ」で作った作品の写真が飾られている
石井英男

PC/IT系フリーライター。ノートPCやモバイル機器などのハードウェア系記事が得意。最近は3DプリンターやVR/AR、ドローンなどに関心を持ち、取材・執筆を行っている。子どもを持つ父親として、子どもへのプログラミング教育やSTEM教育にも興味があり、CoderDojo守谷のメンターとして子どもたちにプログラミングを教えている。