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探究学習で訪れたい「NTTe-City Labo」、未来空間で体験から問いを育てる

高校生が校外学習で「NTTe-City Labo」を訪問

探究学習において、「問いを立てるのがむずかしい」「テーマがなかなか決まらない」といった課題を抱える先生は少なくない。そもそも、生徒の興味・関心を広げ、問いの種を見つけるためには、何らかのインプットが欠かせない。

そうした場面で活用したいのが、NTT東日本が運営する、地域の課題解決に向けたソリューションを体感できる施設「 NTTe-City Labo 」である。ここでは、地域循環型社会をテーマに、テクノロジーを活用した課題解決の取り組みや、未来の社会を学び・体感することができる。

今回は、群馬県立利根実業高等学校(以下、利根実業高校)の校外学習に同行し、NTTe-City Laboを見学した。その様子をレポートする。

様々な産業の課題解決ソリューションを体験できる施設

NTTe-City Laboは、東京都調布市にあるNTT中央研修センタ内に設置された施設である。地域循環型社会の実現と地域の課題解決を目指して、NTTグループが有する通信技術やデジタル技術を活用し、様々なソリューションの実証に取り組むフィールドとなっている。

NTT東日本が運営する実証フィールド「NTTe-City Labo」(東京都・調布市)

ここで取り組まれている実証の分野は、農業、エネルギー、流通、防災、文化・観光など多岐にわたる。例えば、ローカル5Gを活用した自動運転バスや、AIやIoTを駆使した無人店舗、スマート農業の実証ハウスや遠隔医療など、未来の社会を支えるソリューションをリアルに見たり、触れたりできるのが特長だ。

NTT東日本が取り組む、様々な分野の課題を解決するソリューション
施設内は、ロボットの案内係が巡回
自動運転バス

今回、利根実業高校は校外学習で1年生が訪れた。生徒たちは訪問前に、施設担当者によるオンラインの事前学習を受けており、当日はNTTe-City Laboの見学と、「探究学習における問いづくり」をテーマにしたワークショップに取り組んだ。学習のねらいは、施設見学を通して 生徒が「面白い」と感じた技術や社会課題を、自分なりの問いに育てること 。同校のように、探究学習の一環として同施設を訪れる学校も増えているという。

施設内には大きな会議室もあり、ここでお弁当を食べたり、ワークショップを行った

次世代通信技術、スマート農業、再生可能エネルギーの最先端を体験

施設見学では、1年生が6つの班に分かれ、各グループにアテンドするスタッフが付く形で行われた。筆者は、農業系の学科のグループに同行。各設備について説明を受けながら施設を巡る。

最初に案内されたのは、スマートストア「ピックスルー」。利用者は専用スマホアプリで商品のバーコードを読み取り、そのままレジを通らずに決済まで完了できるウォークスルー型の店舗だ。

ウォークスルー型実証店舗「ピックスルー」

来店者の動きをAIカメラが追跡し、「どの棚の前で立ち止まり、どの商品に手を伸ばしたか」を行動データとして記録していることが紹介されると、生徒はしげしげと頭上のカメラを眺めていた。

続いては、「先進ネットワーク実証ラボ」へ。ここでは、NTTが開発する光技術を基軸とした次世代の情報通信基盤構想「IOWN(アイオン/Innovative Optical and Wireless Network)」やローカル5Gの技術を体験できる。

IOWNの仕組みや可能性についても説明

IOWNの活用として、生徒たちはロボットアームを用いた遠隔操作を体験した。医療分野の遠隔手術や介護分野の遠隔支援などの活用を想定したもので、遠隔地にいるロボットがスポンジやゴムをつかむと、手元のコントローラーに柔らかさや反発力が伝わる。生徒が操作してみると「本当に柔らかさが分かる!」と歓声が上がった。

ロボットアームを用いた遠隔操作を体験

次は、屋外に設置された「最先端農業ハウス」へ移動。ここでは、ローカル5Gと4Kカメラ、スマートグラス、遠隔操作ロボットを組み合わせ、データを活用した農業支援の実証が行われている。ハウス内では、作業者が装着するスマートグラスから送られる映像を活用し、離れた場所にいながら栽培指導を行う取り組みもされていた。

遠隔営農実証ハウス
室内に展示された「遠隔営農指導コックピット」
スマートグラスを活用した遠隔の栽培指導も

こうした遠隔営農の仕組みは、農家の高齢化や就農人口の減少が進む地域の課題に応えるもの。未来の農業について学ぶ生徒たちは、熱心にメモを取っていた。

農業×ICTの展示では、軽量化されたドローンも見学。軽トラックに積みやすいサイズや高齢の農業者でも扱いやすくする工夫を聞き、実際に持ち上げて重さを確かめた

再生可能エネルギーの実証ゾーンでは、食品廃棄物などをメタン発酵させ、エネルギーと液体肥料を生み出す「超小型バイオガスプラント」が目を引いた。生徒たちは、この規模の設備が「超小型」と呼ばれることに驚きを見せていた。また、発生したバイオガスだけでなく、発酵後に残るメタン発酵消化液の独特の匂いも体験。肥料として再利用されることも多いこの消化液を通して、資源循環を物質レベルで実感した。

超小型バイオガスプラント
食堂の食べ残し、圃場の廃棄物などを再利用しているという
メタン発酵消化液の匂いも体験

デジタルアートや没入型の映像体験、文化とテクノロジーの融合も体験

続いて案内されたのは、文化財のデジタルアーカイブを体験できる「Digitalアート」の展示だ。約20億画素という超高解像度で撮影された名画をもとに、高精細に再現されたパネルが並び、絵の具の盛り上がりや筆致の凹凸まで再現したテクスチャーを、実際に手で触れて確かめることができる。

最新iPhoneの約50倍の高画素で再現された「Digitalアート」に触れる体験

生徒たちはパネルをなでながら、「絵の具の凸凹が見えるのに、触ると平らなのが不思議」と、視覚と触覚のギャップに驚いた様子で見入っていた。企業向けに世界の名画をサブスクリプション形式で提供するサービスの説明が紹介されると、「コスパがいい!」といった声も上がり、実用面で捉える生徒の反応も印象的だった。

各自のスマホで熱心に撮影していた

観光×XR・メタバースのゾーンでは、観光地や各地のイベントなどの映像を楽しめる270°シアターを体験した。専用の空間には「270°シアター(Immersive Magic Wall)」も設置されており、正面から左右に広がる大画面スクリーンによって、視界を包み込むような没入型映像空間が演出されていた。また、恐竜の世界を歩き回るVRコンテンツも体験した。

ダイナミックな観光体験を360度ビューで提供する技術に感動
VRゴーグルを装着し、間近に迫る恐竜に手を伸ばす

eスポーツ分野の展示では、対戦パズルゲーム『ぷよぷよ』を使ったeスポーツ体験が用意されていた。4人対戦のルールで順番にプレイし、連鎖が決まるたびに歓声が上がった。初めてプレイする生徒も多かったが、対戦に夢中になってコントローラーを握り、クラスメイトたちが声をかけて応援する様子も見られた。プレイヤーと観客の両方を含めた「eスポーツの場」が自然と生まれていた。

eスポーツの『ぷよぷよ』を初体験
施設内には、教育のミライをイメージした教室もあった。ここで実際に研修が行われているという

レゴとグループワークで探究テーマの「問い」を見つける

昼食を挟み、午後は「問いづくりワークショップ」が行われた。生徒は学校で社会課題の解決事例について事前学習を済ませており、当日は現地で得た気付きや疑問をワークシートに書き留めていた。

NTTe-City Laboの副読本とワークシート

ワークショップは「①感じたことを表現してみよう ②問いをシェアしよう ③自分で問いを考えよう・選ぼう」という、3ステップで構成。生徒はまず、メモをもとに印象に残った技術や自分が描く「理想の未来」をレゴブロックでかたちにする。レゴで表現することで、漠然とした疑問や感情を言葉にしやすくする狙いがあるのだという。続いて、自分の作品について周囲の友だちと意見を交わし、他者の視点からのコメントを手掛かりに問いを深めていく。

見学して印象に残った技術を、レゴで表現する生徒たち
生徒の作品。「人を乗せて運ぶドローン」を表現した

最後に、自分が探究してみたいテーマを一つ選び、しおりの最後のページに「持ち帰る私の問い」として記入し、教室へ持ち帰ることがゴールとなっていた。

群馬県立利根実業高等学校 井嶋稜之先生

群馬県立利根実業高等学校 井嶋稜之先生は、このプロセスについて「1年生の段階では、まだ自分の興味・関心をうまく言葉にできない生徒も多いですが、レゴやワークシートを使って『もやもや』や『わくわく』を整理しながら問いにしていく流れは、3年生の課題研究につながる良いステップになると感じました」と評価している。

今回、利根実業高校はDXハイスクール事業の予算を用いてNTTe-City Laboの訪問を実施。生徒が社会に出る前にDXや最先端技術に触れ、「知る」機会をつくることを目的とし、とりわけ「農業と工業の両分野を横断して学べる点」に強い価値を感じたという。井嶋先生は「この経験が、3年生で行う課題研究において、DXやICTと関連付けたテーマ設定につながっていってほしいと期待しています」と語った。

NTT東日本株式会社 渡邉 亮氏

NTT東日本株式会社 渡邉 亮氏は「プログラムに参加した生徒がみんな、非常に生き生きと帰っていくのが印象的です。学びの始まりにはワクワクや知的好奇心が重要だと考えており、当施設はそれを触発できる場だと感じています」と語る。

また、渡邉氏が強調するのは、「情報や数学、社会などの教科学習で身に付けた基礎的な知識が、どう社会実装されているのかを体感できる施設」であるという点だ。「たとえば、防災対策として空気中の水分から飲み水をつくる『無限水』という設備があります。理科で扱う飽和水蒸気量の考え方ともつながっていて、最新のテクノロジーと教科書で学ぶ内容が結び付くことで、生徒にとって身近な自分事として学びを捉え直すきっかけになります」と説明する。

防災対策として空気中の水分から飲み水をつくる「無限水」

探究学習では、最初のテーマ設定や問いづくりが重視される一方で、「どこから手を付ければよいのか分からない」という声が教育現場から多く聞かれる。生徒の興味・関心を広げることは容易ではないが、実体験を伴うNTTe-City Laboでの経験を通して、好奇心を刺激することができそうだ。探究学習の出発点として同施設を訪れてみてはいかがだろうか。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやアプリを中心としたゲーム雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは小学生兄弟の母。親目線&ゲーマー視点でインクルーシブ教育やエデュテインメントを中心に教育ICTの分野に取り組んでいく。