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「Scratch Day in Tokyo 2023」が4年ぶりに開催、拡張機能を活用したユニークな展示も

「Scratch Day in Tokyo 2023」が4年ぶりにリアル開催

2007年にリリースして以来、ビジュアルプログラミングの入り口として、多くの子供たちに親しまれてきたScratch。その誕生を祝う年1回のお祭りイベント「Scratch Day in Tokyo 2023」が、2023年5月20日に開催された。コロナ禍の影響で、同イベントの開催は4年ぶり。久しぶりのリアル開催で盛り上がったイベントの模様をレポートする。

登録ユーザーが全世界で一億人を突破

今回会場となったのは、青山学院大学革新技術と社会共創研究所が設置した「Aoyama Creative Learning Lab(青学つくまなラボ)」。このラボは、Scratch Day in Tokyoの開催と同時に正式にオープンした。「つくることでまなぶ」をコンセプトに、3Dプリンターやレーザーカッター、プラスチックや木材を削り出す工作機器「CNCミリングマシン」といった本格的な機材が揃い、創造的な場となっている。

案内板を頼りに会場へ到着すると、Scratcherの皆さんがいた。お目にかかるのは、筆者もほぼ4年ぶりになる。

こういう案内の手作り感も「Scratch Day」らしい

同イベントの実行委員長は、日本におけるScratchの第一人者・青山学院大学大学院 社会情報学研究科 特任教授 阿部和広氏。開会挨拶とともに、阿部氏がScratchの最新事情についてプレゼンテーションを行った。

青山学院大学大学院 社会情報学研究科 特任教授 阿部和広氏

コロナ禍を経て、Scratchの登録ユーザー数とプロジェクト数はグローバルで急増している。昨年はついに、全世界の登録ユーザー数が1億人を突破した。日本でもここ数年、登録ユーザー数が世界の増加率を上回るスピードで増えており、本稿の執筆時点では約180万人となっている。この背景には、小学校におけるプログラミング教育の必修化やGIGAスクール構想によって1人1台端末が行き渡ったことが大きいだろう。

コロナ禍でユーザーが急増し、現在はグローバルで1億1000万人を超えている(執筆時点)

しかし、その一方で大人側の理解や、子供たちの利用を見守る体制に関する議論も耳にする機会が増えてきた。筆者の周りでも、低学年からScratchに触れる子供たちが増えた一方、学校でScratchが禁止になったという例を耳にすることがある。この辺りの話題は、「こどもとIT」の記事でも取り上げているのでご覧いただきたい。

「つくまなラボ」の会場では、ワークショップや作品展示コーナーが並んでいた。UVプリンターやミシンをScratchとつないでオリジナルのTシャツを作ったり、Scratch用拡張ボード「AkaDako(アカダコ)」シリーズの新製品「Takoratch(タコラッチ)」を使った紙飛行機発射装置も展示されていた。プログラミングができるトースターを使って焼きマシュマロをつくるコーナーまである。

UVプリンターやミシンをScratchとつないでデザインをTシャツにプリント
「AkaDako」シリーズの新商品、「Takoratch(タコラッチ)」を使った紙飛行機発射装置、micro:bitを使ったネコリンピックは年齢問わず人気の様子
プログラミング可能なトースターを使った焼きマシュマロコーナー!?

Scratchといえば、画面の中の世界も楽しいのだが、Scratch用拡張ボード「AkaDako(アカダコ)」を始め、Scratchで使えるツールも増えている。その背景には、有志による独自の拡張機能開発が広がり、新しいデバイスを接続しやすくなったことが一因かもしれない。子供たちのプログラミングの世界がScratchを通して広がっていることを改めて感じた。

また、会場の一角には、DIYの展示発表会「MakerFaire」などでもお馴染みの、プログラミング喫茶が行われていた。4年ぶりの開催で参加者が久しぶりの交流を楽しんでいたり、恒例の寄せ書きも行われてにぎやかに過ごしていた。

「MakerFaire」などでお馴染みの「プログラミング喫茶」
交流と恒例の寄せ書きも、あいかわらず賑やか

誰もが作品を発表できる「Show&Tell」は今回も大盛り上がり

Scratch Dayの定番企画の1つが、Scratcherが自分の作品をデモして話す「Show&Tell」。作品はどんなものでも構わないとされてはいるものの、Scratch歴が長い猛者も多く、「どうやってるの!?」感が満載なプログラムばかりであった。

今回は2部にわかれて計15名のScratcherが登壇(1名は動画参加)。下は小学生から、上はなんと80歳のScratcherが参加していた。有名Scratcherの方も多く、普段オンラインでしか接点がない“スク友(Scratch上の友だち)”同士が、初めてリアルで会うオフ会感覚も楽しいところ。

実は筆者も、この企画にうっかり参加。「連続! おうえん! ねこたいほう」という作品を出展した。これは、PCのマイクで音を拾い、その数字をためて一定数に到達すると、ねこが大砲から飛んだり戻ったりするというもの。仕組みは簡単で、ねこが戻ってくるごとに、必要な数字が増えていくという仕様になっている。

プレゼン時間も長くはないので、笑いをとって終わろうと思っていたのだが、どういうわけか妙な盛り上がりに。「みんなでやってみよう!」ということになった。会場の声で数字をためて、ねこを動かす挑戦が始まった。

しかし、デフォルトの目標値は200なので、これではすぐにねこが飛んで行ってしまう。それではおもしろくないので、まずはこの数を増やしてみることにした。簡単にいじれるのがScratchのいいところなのだが、まさかライブでコーディングするはめになろうとは……。そう思っていた矢先、会場からは「10,000」というリクエストが!

まさかその場でScratchのプログラムをいじることになるとは

200から10,000に、数字を変えるのは簡単だが、これを実際にみんなの応援、つまり声でためていくのは相当大変である。かくして会場中に、参加者の大声が響き渡る大応援大会へ――。5,000を越えたあたりから「頑張れ! 頑張れ!」という声援と、手拍子の一体感溢れる様相に。無事10,000に到達し、ねこが飛んでいった瞬間、大きな拍手と歓声が湧いた。

余談はさておき、イベントで発表された全作品はScratchのスタジオに公開されているので、是非、実際に遊んでみてほしい。

発表された多様な作品がまとめられたScratchスタジオ

なお、「Show&Tell」を含むイベントの様子は、YoutTubeでも配信されているので、興味がある方はアーカイブからご覧頂きたい。

Scratch Dayはお祝いイベント、誰でもいつでも開催できる

イベントのクロージングには、各コーナーの振り返りとビンゴ大会が行われた。ビンゴのルールは、紙に書いてある条件に該当する人を見つけてScratch名を書いてもらうこと。「ねこが好きです」、「メガネをかけています」といったScratch名が並ぶ中、「New Scratcher(はじめて間もない人)です」という、この場では厳しそうな条件もあった。

ビンゴカードは、自分から参加者に話しかけないと埋まらない

筆者もなんとかビンゴを完成させ、プレゼントの抽選箱にカードを入れた。場を盛り上げようと、数だけでも増やそうと思ったのである。そのはずだったのだが、抽選に当たってしまい「大人げない」と周りからいじられる始末。当たったのがM5Stackの切手(Stamp)サイズの小さな開発プラットフォーム「M5Stamp S3」だった。

抽選会で、うっかり当たってしまった「M5Stamp S3」

Scratch Day 2023 in Tokyoの最後には、例年通り「来年も来たいですかー?」という阿部氏の問いかけに、「来たいー!」と参加者が答えるコール&レスポンス。

Scratch Dayは、冒頭でも触れたようにScratchのお誕生月をみんなでお祝いするのが趣旨であるが、必ずしも5月の開催が決まっているわけではない。いつ、どこでやっても構わず、さらに言えば、誰がScratch Dayを開催してもよい。阿部氏のもとには「地元でもやってほしい」といった声が寄せられるそうで、やりたい人は身近なところから企画してみてもいいのかもしれない。

ねこが一歩動いてひっくり返ってニャアと鳴き、大声を出したら飛んでいくだけで僕たちは楽しいのだ。「Scratch」が大好きな皆さん、この初期衝動を思い出し、今こそ、“緑の旗”をクリックして新しいプロジェクトを始めてみてはどうだろう。

終了後に歴史ある緑の旗を振らせてもらいました
新妻正夫

教育ライター/ICTコンサルタント。MIEE2022-2023、Global Minecraft Mentor。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主宰、STEAM分野で豊富な経験を持つ。コワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーター他、多方面で活動中。 教育版マインクラフトを活用した緩(ゆる)イースポーツ「はちみつカップ」の普及が最近のマイブーム。