レポート

子供とIT 集約用

変化の鍵は意識改革にあり、マイクロソフトが語るDXの歩みとCopilotの可能性

「Microsoft Education EXPO 2025」レポート

Microsoft Education EXPO 2025

日本マイクロソフトは2月13日、教育関係者を対象としたオンラインイベント「Microsoft Education EXPO 2025」を開催した。

GIGAスクール構想の第2期においては、子供たちの学び方だけでなく、教員の働き方改革や校務DX、生成AIの活用など、さまざまな変革が求められているが、それらを実現するためには何が必要か。イベントでは、マイクロソフト自身が取り組んだ組織改革をはじめ、次世代の校務DXや生成AIの活用について語られた。

マイクロソフト自身も2014年から社内改革でデジタル化

 Microsoft Education EXPO 2025の冒頭は、マイクロソフト社内の働き方改革について、日本マイクロソフト株式会社 教育戦略本部長/GIGAスクール室長の宮崎翔氏が説明した。宮崎氏はかつてのマイクロソフトを「IT企業とは思えない紙だらけの職場」だったと振り返り、現在までの改革を説明した。

2011年頃、マイクロソフトの新宿オフィスの様子。教育戦略本部長/GIGAスクール室長の宮崎翔氏が登壇

 現在に至る変革は、2014年にサティア・ナデラ氏がCEO兼会長に就任して組織文化の変革に取り組んだことから。それまでのマイクロソフトは、同じ課題に対して複数の部署が互いを知らないまま取り組むこともあったという。PCの出荷台数が伸びていた時期は良かったが、成長が鈍化すると生産性やコスト効率、組織風土や文化面で問題が顕在化していった。

マイクロソフトが直面していた課題
組織文化改革へ

 そこで「お互いに共感力を持ってコミュニケーションを取り、協力と競争で乗り越えていく」という考えのもとで社員の意識改革に着手。ちょうど新宿から品川へのオフィス移転を機に、固定席の撤廃やペーパーレスを進めるとともに、自社のサービスをフル活用しテレワークを含めた柔軟な働き方を実践していった。

マイクロソフトの働き方

 しかし、「長年の慣習を変えることは簡単ではなかった」と宮崎氏は当時を振り返る。そのため、社内では変革を成し遂げるために「Growth Mindset(グロースマインドセット)」と呼ばれる、成長・発展を重視する思考が共有された。これに伴い、評価制度も見直され、個人の成果だけでなくチームへの貢献が評価対象になりチーム全体として高みをめざす組織へ変わっていったというのだ。

変化と成長に求められる思考(考え方)

 その結果、さまざまな働き方改革を実現。現在では女性の離職率が40%低下し、コスト削減、従業員一人あたりの売上や満足度が上がったという。

日本マイクロソフトの働き方改革による主な成果

 最後に宮崎氏は、マイクロソフトの教育部門が一貫して掲げてきた「Future-Ready Skills(未来に備える力)」の考え方を紹介した。テクノロジーはあくまで手段であり目的ではないと強調し、Future-Ready Skillsの育成に貢献することや、ユーザーに役立つ姿を想像しながら製品開発に取り組んでいくと述べた。今後も教育インフラを支える企業として、より良い製品の提供に努めていきたいと語った。

マイクロソフトが掲げるFuture-Ready Skills

教員の働き方改革に欠かせないゼロトラストセキュリティ

 続いては、ソリューションスペシャリストの山越梨沙子氏と、カスタマーサクセス担当部長の栗原太郎氏による次世代校務を実現するセキュリティー対策に関する講演。ゼロトラストセキュリティ環境を構築することで、先生の業務効率化を実現した事例などが紹介された。

聖徳大学附属取手聖徳女子中学校・高等学校は、校務系と学習系を1台のPCからアクセス可能にし、ネットワークも刷新

 最初に、Microsoft 365 A5を導入した聖徳大学附属取手聖徳女子中学校・高等学校の事例が動画で紹介された。校務系と学習系のシステムに1台のPCからアクセスできる環境を整備し、ネットワークを刷新したことで、従来のさまざまな制約が取り除かれた。その結果、教員が生徒と向き合う時間が増えたほか、子供のいる教員が、迎えの時間に合わせて学校を離れられるようになったなど事例が紹介された。

 動画に登場した同校の校長は「先生自身が幸せじゃないと、生徒に愛情を与えられない」として「便利なものはどんどん使って時間を空けて、先生方もリフレッシュして生徒と関わってる時間を増やしてほしい」とシステムの刷新の理由や効果を紹介した。

 これを受けて、マイクロソフトの栗原氏は、同校は、学校の制度見直しや働き方改革など、ICTの活用と並行して新たな挑戦に取り組んでいると話す。さらに、「ICTを活用することで、その場にいない教員とも連携し、常にアイデアを深め、さまざまな発想を共有する文化が根付いている」と述べ、学校文化の中で育まれた教員たちのGrowth Mindsetが、ICTを上手く活用する根底にあり、創造的な活動につながっていると説明した。

ICTを活用し、創造的な働き方へ

 そして、山越氏は同校の教員たちが安心してICTを活用できる環境を支えているのが「セキュリティ」だと話す。文部科学省のセキュリティガイドラインでは、アクセス制御のゼロトラストモデルが求められているが、マイクロソフトのクラウドサービスやセキュリティを採用することで実現できると紹介した。

セキュリティと不便さの負のスパイラル
文科省のセキュリティガイドラインで求められる対策はMicrosoft 365 A5で実現できる

 さらに「意外と知られていないが、Word、Excel、PowerPointなどのOfficeアプリはデスクトップ版であってもリアルタイムで共同編集が可能であり、複数人で同時に作業できる」と、身近なアプリでのクラウド利用を語った。

Microsoft 365を活用した校務の情報化
Officeは時代に合わせて進化

 これらを実現するクラウド型セキュリティは、安全なネットワークと危険なネットワークを明確に分けることは不可能なことから生まれた考え方であり、ゼロトラストセキュリティはすべての場所が危険、安全な場所はない前提での性悪説に基づいたアプローチだと説明した。

採用事例

 また、どこでも校務ができるとなると心配になるのがセキュリティ。しかも、校務と学習が1台になると、生徒など送ってはいけない人へのファイル誤送信が心配になる。

誤って共有してしまっても「秘密度ラベル」で暗号化

 その点については「秘密度ラベル」という機能を使うとファイルが暗号化されているので誤送信やファイル入りUSBメモリーの紛失があっても中身を見ることができない。さらにAIが機密度の高さを自動判定して自動的に秘密度ラベルを設定する機能まであることまでが紹介された。

組織向けのCopilotは、入力データが学習されずに保護される

 AIの活用についてはソリューションスペシャリストの青木智寛氏が担当。学習指導要領の改定に向けてAIなどテクノロジーの進化が非常に急速であると指摘、これをいかに学校現場で適切に活用していくかが重要だと語った。

ユーザーが1億人に達するまでの時間。ChatGPTはほかより早い3カ月

 そのうえで2024年12月に公表された「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」の内容に絡めながら、マイクロソフトの生成AI「Copilot」は副操縦士という意味で、あくまで操縦士は人間で、それをサポートする存在であると強調した。マイクロソフトではCopilotをあらゆる製品に搭載していき、教育機関で利用する製品も同様で、活用が進んでいるという。

MicrosoftのAIソリューション
教育機関で使える無償の生成AIチャット「Microsoft 365 Copilot Chat」

 Copilotには個人向けと組織向けががあり、学校現場での利活用は「Microsoft 365 Copilot Chat」の利用を推奨し、学校や教育委員会で使う教職員向けのアカウントでは無償で利用することができる。

文科省のガイドラインに利活用の際のチェック項目があり、生成AIも含まれる
エンタープライズデータ保護

 個人用との違いはデータが保護されるということ。入力のデータが生成AIに学習されずに保護される。さらにWeb上の情報を元にして回答した場合は情報源へのリンクが分かりやすく提示される。最近のアップデートではファイルをもとに指示することが可能になった。

 現在では全国で活用が進んでおり、都道府県域でアカウント配布、一斉に研修をして活用が進む自治体もあるという。

生成AIの利活用例

 利用で注意すべき点では、文科省のガイドラインに利活用の際のチェック項目があり、重要性の高い情報の入力や、著作権侵害につながる使い方をしていないかの確認があるが、これらはCopilotでも配慮すべき点として対応し「エンタープライズデータ保護」として提供していてマイクロソフト自身も顧客データを閲覧することはできないという。

 さらに、著作権保護についても意図せず著作権を侵害する状況が発生した場合にマイクロソフトが責任を負う。

Copilotが生成した出力結果の著作権について

プロンプト集を配布、使うことや共有することで生成AIの理解を深める

 マイクロソフトでは、生成AIを使い始める第一歩としてプロンプト集を無償配布している。そのうえで青木氏は「生成AIというのは、その仕組み上、一度で完璧な結果が得られるものではない。回答は、問い合わせるたびに少しずつ変わっていくという性質がある。それを前提として、少しずつ使いながら徐々に使いどころが分かってくる」と語った。

Microsoftではプロンプト集を無償配布
生成AIと付き合うマインドセット

 公開されてるプロンプト集では6つのカテゴリーに分かれて例をあげているが、一般的なこととして「依頼の目的や利用する人物、回答を受け取る対象の人物。こういう人物の情報を詳細化するか、回答の制約をきちんと明示する」とした。

校務の利活用シーンの例
効果的なプロンプトの要素例

 ただし、これらの項目を意図しながら利用することは最初は難しいと思う場合は、プロンプトをより良く書く方法自体を、Copilotに依頼してしまう方法もある。青木氏は「プロンプトに記載不足を指摘させるプロンプト」を紹介しこれを活用してほしいとした。

うまく書けないときの「プロンプトに記載不足を指摘させるプロンプト」

 そして、Copilotをよりよく使うには「配慮すべき点を理解した上で、とにかく使ってみること」や「使った結果をを周りの方々と共有して深め合う」ことだとした。共有に関しては、Microsoft 365 Copilot Chatでは、使ったプロンプトとその出力結果をほかの先生と共有することもできるようになっている。

文科省のガイドラインにおける教師の役割と生成AI
Microsoft 365 Copilot Chatの利用例

 その結果、定期テストを作るときに分担して作業するときもCopilotに手伝ってもらいながら、Copilotの結果とそれに対する意見を共有していくということも考えられる。

 また、Microsoft 365 Copilotのライセンスが必要になるが、Microsoft WordやMicrosoft Excelをはじめ、Microsoft TeamsやMicrosoft FormsでもCopilotがアシストしてくれるようになる。その応用として、学校内に保存されているいろいろな情報を元に、質問に答えてくれるようなチャットボットを簡単に作ることができるという。

学校内の情報をもとに、依頼にこたえるようなチャットボットを作ることもできる

 青木氏は最後に「生成AIの活用を中心に組織が変わり、先生方の働き方の変化までもたらすと考えており、マイクロソフト自身も自ら働き方を変える取り組みを実施してきて、その学びを教育現場に届けていきたい」と講演を締めくくった。

正田拓也