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『桃鉄 教育版』とマイクラ、「学び」と「遊び」の境界線がないエデュテイメントを語ろう

――「エデュテイメント祭り! presented by桃太郎電鉄」ワークショップレポート

「エデュテイメント祭り! presented by桃太郎電鉄」

ブラウザ版『桃太郎電鉄 教育版Lite ~日本っておもしろい!~(以下、『桃鉄 教育版』がリリースされてから約1年、学校での活用が広まっている。

2023年12月2日に開催された「エデュテイメント祭り! presented by桃太郎電鉄」では、教育の未来について語るトークセッションのほか、教育版マインクラフトや『桃鉄 教育版』の活用などが語られた。教育にエンターテイメントを取り入れた「エデュテイメント」はどのように実践されているのか。イベントの模様をレポートしよう。

自分たちの住んでいる街をもっと深く知る学習へ

冒頭、文部科学省 武藤久慶氏、枚方市教育委員会 浦谷亮佑氏、京都府公立小学校 坂本良晶氏が登壇し、それぞれの立場からゲーミフィケーションの視点で教育の現状と未来を語った。

枚方市教育委員会 浦谷亮佑氏

浦谷氏は、大阪府枚方市では『桃鉄 教育版』を実証校で検証し、2023年6月に市内の全小中学校に導入した。同氏は、1人1台端末を活用したゲーミフィケーションが目指すのは授業改善であり、児童生徒が自ら考え、判断・決定し行動する「学びの権限移譲」が可能となる環境づくりを目指していると述べた。

枚方市が取り組んだのは、「枚方市版桃鉄を作ろうプロジェクト」。同市立小倉小学校が2学期から3学期にかけて実践したもので、国語と総合的な学習の時間で実施。『桃鉄 教育版』に「枚方駅」がないことから始まったもので、コナミの担当者にプレゼンテーションを行い、最終的に「枚方駅」を追加してもらうことを最終目標としている。

「枚方市版桃鉄を作ろうプロジェクト」

授業でまず行ったのは、模造紙に描いた枚方市を4つのエリアに分け、実際の場所を訪れながら駅・線路・マスなど必要な情報を書き込む活動。児童たちは枚方市の魅力について考え、実際にある建物や物件を地図に書き込もうとしたが、自分たちが街について何も知らないという課題に直面。本やネットでは得られない情報を集めるために、地域情報を発信する地元企業にインタビューを行った。

枚方市をエリアに分け、模造紙に情報を書き込んでいく

調査を進めるなかで、児童の興味・関心はさまざまな方向へ発展していき、物件の収益率を決めるために実際にある施設の来客数や売上について調べ、算数で習った比率を使い、プラスとマイナス駅の数を決めていった。マップが完成した後は、他学年の児童に試遊してもらい意見を求めた。その結果、駅のトピックに「戦時中の出来事」を入れる案が浮かび、平和学習につながったという。『桃鉄 教育版』を活用したことで、児童の興味が他の領域にも発展しているのが興味深い。

京都府公立小学校 坂本良晶氏

坂本氏は、教育版マインクラフトを活用した実践を紹介。枚方市の実践にも共通するポイントとして、探究学習にゲームを取り入れる際に重要なのは「確かな目的意識と相手意識をもつことだ」と強調した。

6年生の総合的な学習の時間では、京都市の観光客が年間5000万人に対し、八幡市の観光客数が2万人であることに着目。八幡市の魅力を伝える動画をマインクラフトで制作し、市の公式YouTubeに載せて観光客を増やすことを目的に、「YAWATA CRAFTプロジェクト」を立ち上げた。

6年生総合的な学習の時間「YAWATA CRAFTプロジェクト」

活動内容は八幡市の観光名所をマインクラフトで再現し、動画を制作するというもの。児童は市の観光課の職員に対してプレゼンテーションを行い、自分たちが制作した動画にどのような効果が期待できるのか発表した。

教育版マインクラフトの中でロケを行い、「Canva」で動画編集を行った

学校でゲームを活用する際に必要となるのは、管理職や保護者に対して、明確な目的を説明できることだと語る坂本氏。「ふわっとしがちな活動にこそ、明確な提案性を持って文書化することが大事」だと語った。ゲームはあくまでも1つの手段であり、児童の個別最適な学びとしてどう成立するか、協働的な活動や主体性を引き出すための授業計画を示すことの大切さを示した。

文部科学省初等中等教育局 学校デジタル化プロジェクトチームリーダー 武藤久慶氏

武藤氏はそれを受け、授業時数と単元数に関する課題について言及した。授業に新しい取り組みを入れようとしても、現場の教員や学校だけは限界があるという。同氏は「教育委員会と文科省の役割も大きい」とし、こうした新しい取り組みを効率的に実践するためにも、端末活用やクラウド活用を推進してほしいと語った。

また同氏によると、「令和5年度全国学力・学習状況調査」の結果では、GIGAスクール構想の端末活用は小中学校ともに自治体の格差があり、「児童生徒が自分の考えをまとめ、発表・表現する場面」と「児童生徒同士がやりとりする場面」での活用が低い結果を示しているという。

武藤氏は、「授業以外の休み時間や家庭学習、クラウドの活用を取り入れることで、子供たちの学ぶ動きが早くなり、学校をとりまく多様性や新しい教育観を生む余裕が生まれるのではないか」と期待をこめた。

文部科学省「令和5年度全国学力・学習状況調査」の結果(小学生)
文部科学省「令和5年度全国学力・学習状況調査」の結果(中学生)

教科学習から特別支援教育まで、授業で広がる「教育×ゲーム」の実践

続いては、『桃鉄 教育版』や教育版マインクラフトを活用した教育実践が紹介された。

プロマインクラフター タツナミシュウイチ氏

プロマインクラフター タツナミシュウイチ氏は、常葉大学 造形学部造形学科で講師を務める「マインクラフト造形学」の取り組みについて触れ、「大学の単位取得科目に『教育版マインクラフト』が導入されたのは、日本国内初」と紹介すると、会場からは拍手が起こり和やかなムードになった。教育版マインクラフトは建築だけでなく科学・歴史・地質学など様々な学びにつながる多様性があり、とくに小中学校の早い段階から論理回路の基本に親しむことは、後に「情報Ⅰ」を学ぶ際に役立つと語った。

レッドストーン回路を通して、論理回路の基本に触れる

またタツナミ氏は、JAXA宇宙教育センターと共に企画・制作したオリジナルワールド「LUNARCRAFT」について紹介。1月末に無人探査機「SLIM」が月面着陸に成功し話題となったが、「LUNARCRAFT」では「SLIM」を始め、月面の地形データや環境をマインクラフトに再現されている。タツナミ氏は「月の環境で何かを作るのが大変ということを体験できるワールド」だと語り、宇宙やモノづくりが好きな子供たちに届けたいと熱い思いを語った。

実際のデータをもとに月面世界を再現した「LUNARCRAFT」

茨城県日立市立大沼小学校 飯山彩也香氏は、小学4年社会での授業実践を紹介。学校に『桃鉄 教育版』を導入する際の3つのポイントとして、完全無料であること、教員がプレイ時間を設定できる安心・安全な設計であること、参考となる授業実践の紹介動画が多数公開されており、管理職や同僚に説明する際に役立ったことを紹介した。

茨城県日立市立大沼小学校 飯山彩也香氏は、小学4年社会で『桃鉄 教育版』を活用

エデュテイメントの秘訣は「授業を行事化する」ことだと語るのは、東京学芸大学附属小金井小学校 小池翔太氏。教育版マインクラフトの活用をした小学2年の図工では、事前に設計図を作成し、「理想の家」を制作した。出来上がった作品をカメラ機能で撮影し、フォトフレームに飾って展示したところ、保護者や地域の関係者に好評を集めたという。

東京学芸大学附属小金井小学校 小池翔太氏は教育版マインクラフトを活用した小学2年の図工の実践を紹介

大阪府立特別支援学校の樋井一宏氏は、中学部の数学の授業で『桃鉄 教育版』を活用。当初の狙いは、ゴールの方向を指示する矢印を目安に、左右・上下を確認しながら移動するものだったが、実際は生徒が思い思いの方向へ進み、誰もゴールを目指さなかったのだという。樋井氏は「教員はゴールの基準や学び方を定めがちだが、その固定概念を捨てればもっと自由な学びが広がる」とコメント。大切なのは、生徒の実態に合った課題設定であり、生徒が意欲的に取り組める授業づくりがエデュテイメントの醍醐味だと語った。

特別支援学校 中学部で行った『桃鉄 教育版』×数学の授業

埼玉県立特別支援学校 関口あさか氏は、『桃鉄 教育版』の実践を紹介。自分の順番が分かるようにプレイヤーの電車と同じ色のランプを用意した工夫や、算数が苦手な児童が「物件の収益率」を計算することで、学習に意欲的に取り組めたエピソードを話した。また、エデュテイメントの一環として、クラシエの知育菓子を活用した授業実践も紹介した。

特別支援学校で『桃鉄 教育版』を導入する工夫や、知育菓子の実践を発表

1人1台端末が普及する以前から、教育版マインクラフトの実践を重ねてきた茨城県立公立小学校 山口禎恵氏。授業に導入する際のポイントとして、教室の環境づくりやメンバー構成が大切だとコメント。コミュニケーションや協働活動が苦手な生徒に向けて、大阪府立水都国際中学校のマインクラフト部が制作したワールドを使った授業について紹介した。

教育版マインクラフトを使って生徒のコミュニケーションを支援した

ゲーム業界とIT企業が一体となって学びの入り口を広げる

『桃鉄 教育版』のエデュテイメントプロデュ―サー 正頭英和氏は、コナミデジタルエンタテインメント 岡村憲明氏と、マイクロソフト 田中達彦氏を囲むトークセッションの中で、「エデュテイメントは子供たちの学びの入り口だ」と語った。

小学校教諭、『桃太郎電鉄 教育版』エデュテイメントプロデューサー 正頭英和氏
コナミデジタルエンタテインメント シニアプロデューサー 岡村憲明氏
マイクロソフトコーポレーション インダストリーブラックベルト 田中達彦氏

学びと遊びの境界線を引くのは大人の目線であり、今の時代の子供たちには「やってみよう、調べてみよう」と思える楽しさが動機付けとして必要で、エデュテイメントがそのきっかけ作りになると期待を寄せた。

また、岡村氏は同セミナーのタイトルを第1回目の「桃鉄教育祭り!」から「エデュテイメント祭り!」に改めたことについて、「『桃鉄 教育版』だけでなく、もっと広くゲームメーカーやエンターテイメント企業に参加していただき、業界全体でエデュテイメントを盛り上げたい」という想いを語った。

田中氏は、「教育とゲーム業界・IT業界がうまく融合した結果、子供たちがどのようなスキルを持った大人に成長するのか楽しみです」と賛同。

正頭氏は、エデュテイメントのような多様な学びを実現するためには、学校が社会のリソースを取り入れることが必要になるが、教員の努力だけではむずかしく、「教育に興味・関心を持つ企業との連携を高めていきたい」と伝えた。

『桃鉄 教育版』のリリースから約1年、公立小学校を中心に導入校が増え、今回の「エデュテイメント祭り」では、授業に取り入れたという教員も多く参加していた。子供たちの学習意欲を高め、教科学習や探究学習を深める“学びの入り口”がより多くの学校に広がることを期待できそうだ。次回はどのような“祭り”が開催されるのか、ワクワクする。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは2人の男子を育てるママ。幼稚園児&小学校低学年の子どもを持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。