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パナソニックHD、IoT家電とプログラミングで創造力を育む「Scratch Home School」を開校
小学校3年生~6年生までの親子を対象に
2024年1月15日 13:00
パナソニックホールディングスは、小学校3年生~6年生までの親子を対象に、日々変化するテクノロジーの時代に求められる能力を身につけるための学びを提供する「Scratch Home School~パナソニックの学校~」を、2024年1月13日からスタートした。
米MITメディアラボのミッチェル・レズニック教授が提唱している「クリエイティブラーニング」をベースに、ビジュアルプログラミング言語「Scratch」を活用するほか、パナソニックグループが試作したIoTトースターやIoT照明を利用して、学びの選択肢を提供する点が特徴だという。
パナソニックホールディングス 技術部門テクノロジー本部デジタルAI技術センターAIソリューション部 主幹技師の高田和豊氏は、「くらしのなかでの創造的逸脱と、自ら試行錯誤して最適解を見つけ出すという新たな授業形態によって、世の中に必要な創造力を家族とともに育む学校を開校する。日本におけるSTEAM教育の推進にもつながる」と位置づけている。
カリキュラムは有償で提供。パナソニックホールディングスでは、将来的には事業化する方針を示しており、まずは3カ月コースとして開始したあと、2024年4月以降、12カ月コースを用意。家電や照明だけでなく、環境技術、美容技術、スポーツなどにもカリキュラムの範囲を拡張していくことになる。
教育方針は「くらしのテーマ」「創造的逸脱」「Family Creative Learning」
「Scratch Home School~パナソニックの学校~」は、その名称から、ビジュアルプログラミング言語の「Scratch」を利用した学習カリキュラムのように感じられるが、実際には、Scratchの活用は一部にすぎない。
高田主幹技師は、「Scratch Home Schoolという名称には、MITメディアラボのLifelong Kindergartenが開発したScratchを利用するだけでなく、スクラッチ(殴り書き)からはじめるという意味を持たせている」と語る。
Scratchによるプログラムと、パナソニックが試作したIoT家電を使い、自分にとってより良い調理や空間デザインを試行錯誤する新しいプログラミング教育になると自信をみせる。
「Scratch Home School~パナソニックの学校~」では、「くらしのテーマ」、「創造的逸脱」、「FamilyCreative Learning」の3つの観点で、教育方針を定めている。「正解が決まっていない問題に対して、主体的に取り組める力を育むことが目的である。課題解決ではなく、課題発見の教育になる」と位置づける。
教育方針のひとつを「くらしのテーマ」とすることで、プログラミング学習の多くがロボットやゲームに限定されているという枠を開放。調理や住空間といった身近な経験をテーマにすることで、学習に対して、子供が関心を持ち、高いモチベーションを維持できるようにするという。
「創造的逸脱」では、講師がテーマを提示するという授業スタイルではなく、子供が主体的に学びをリードし、逸脱することを、プラスに評価するという新たな評価指標を用いるという。
また、「Family Creative Learning」では、学校や塾だけでなく、家のなかで、親子で学べる場を作ることを目指しており、そこには講師が介在しない形で授業を進めることになる。
探索から興味を喚起し、専門家との対話までをカリキュラムに
今回開始するカリキュラムは、4週間を1サイクルとして、12週間で修了する。
第1週から第4週にかけて、対面授業による「探索の手法を教室で学ぶ」、自宅学習による「家族で一緒に学びを深める」、オンライン授業による「新しいテーマでくらしの興味を喚起する」と「専門家との対話を通して学びを定着させる」といったカリキュラムを用意。1月はIoTトースターを活用した「食」、2月はIoT照明を利用した「光」、3月はARサウンドを活用した「自然」をテーマに、学習することになる。
具体的には、1月13日からスタートしたカリキュラムでは、1週目に、パナソニックグループの工場跡地に建設された神奈川県横浜市の「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン(Tsunashima SST)」のイノベーションスタジオにおいて、対面で授業を行い、「誰かのためのクッキー」を考えた。
Scratchによるプログラミングによって、IoTトースターを制御。庫内温度の取得や遠赤/近赤ヒーターのON/OFFにより、「180℃で3分間加熱したあと、遠赤ヒーターだけを使って、200℃で1分間加熱して焼き色を付ける」といった熱のコントロールを行い、温度と相変化、メイラード反応などを捉えながら、目指すクッキーを焼き上げることになる。クッキーづくりの実習を行う前に、Scratchによるプログラミングも学習する時間を用意している。
また、2週目には、暮らしに基づくテーマを出題。1週目の学習をもとに、家族で対話しながら取り組むことで、学びを深めるという。たとえば、1週目に「おじいちゃんのためのクッキーを焼く」とテーマを決めた場合、2週目には、実際に焼いたクッキーをおじいちゃんに渡して、フィードバックをもらい、レポートする。
そして、3週目には、オンライン授業として、「おにぎりと食感」をテーマに、炊いたご飯で、おにぎりを作り、ご飯のなかにどう空気を入れるかで食感が変わることなど、体験的に知ることができるようにするという。ここではテクノロジーを使った授業は行わずに、身体性で概念を理解し、子供の興味を「食」以外にも広げることを目的にするという。
最後の4週目は、教育作家による「オンラインプロフェッショナルトーク」を実施。フードデザイナーである中山晴奈氏が講師となり、「食と道具のくらし」をテーマに授業を行う。教育作家としては、「学びの表現作家」として活動する星功基氏も参加する。在宅授業やオンライン授業での試行錯誤を経て発見したことなどを、専門家との対話により、理解を深めたり、体験からの学びを定着させたりする。
「食を通じて、子供に新たな興味を持ってもらいたい。クッキーやケーキの形が、建築デザインに近い考え方で作られていることを知り、食からデザインに興味を広げたり、クッキーづくりを通じて、熱加減の調整をもとに、化学への興味につながることを期待している」という。
費用は、3カ月で3万9600円(税込)。Scratch Home School入学金、教材貸し出し費、授業中の材料費、学びの記録アプリ利用料、施設利用料が含まれている。
年間で10~20組の参加を想定しており、「このカリキュラムが、教育として認められるかどうかという実証からはじめ、事業化につなげていきたい」としている。
事業計画については未定としているが、教育ビジネスとしての収益計上だけでなく、IoT家電やサービスに反映することでの事業機会の創出も狙っていく。
家のなかで、親子で学べるSTEAM教育を作ることがゴール
今回の「Scratch Home School~パナソニックの学校~」を開校したきっかけは、今回のプロジェクトで中心的役割を担っている高田氏が、2016年から3年間、MITメディアラボのLifelong Kindergartenグループに客員研究員として在籍し、正解の無い問題に対する思考モデルの研究を行ったことがはじまりとなっている。
「メディアラボは、プログラミング教育を研究しているわけではなく、Scratchをプログラミングツールと位置づけ、これを活用して、創造性を伸ばす『クリエイティブラーニング』を研究している。そのため、Scratch以外にも積み木なども使用している」と高田主幹技師。
「MITメディアラボのミッチェル・レズニック教授から、いまのプログラミングやSTEAM教育は、数学や物理に偏ったものになっているが、IoT家電により、調理と結びつけることで化学や生物の領域にも範囲を広げることができ、家が新たな学びの場になると指摘された。それをもとに、2019年から、くらしとSTEAM教育を掛け合わせた新しい領域の学びの研究を開始した。家のなかで、親子で学べるSTEAM教育を作ることをゴールに取り組んでいる」と語る。
すでに、新潟市立光晴中学校では、このカリキュラムを授業に採用しているほか、複数の学校での効果も実証しており、授業満足度は98%、次年度採択率は82%という高い評価を得ている。
「インターネットが登場する前後では、人に求められる能力が大きく変わっている。かつては、知識をもとに、答えがある問題を、速く説くことが子供の教育の中心だった。だが、いまは、知識はウェブ上にあり、知識を持つ人ともすぐにつながることができる。答えがない問題を主体的に説くことが、必要とされる教育となっている。こうした社会背景を考えると、家のなかに創造性教育の場を作ることが必要になる。そこで、カリキュラムを作り、学校での実証実験や学会での議論を通じて、こうした教育の有用性を検証してきた。検証の成果をもとに、今回の有償提供につながっている」と説明した。
また、高田主幹技師は、「子供たちが遊ぶ『砂場』に例えれば、家のなかに創造性を育む新しい『砂場』を作りたい」と比喩。「砂場で遊ぶためのルールや、なにを作るかは子供が決めるように、子供の主体的な探求そのものを支援、評価する。また、パナソニックグループが開発するIoT家電を利用することで、砂場を広げ、STEAM教育の課題である数学や物理への学びの偏りを無くし、化学、生物、アートにも学びの領域を拡張する。そして、住環境における学びをゴールに設定し、保護者が学びに参加し、家族で遊び、学ぶことができる砂場を家のなかに作りたい」と述べた。
評価指標についても研究テーマのひとつに設定し、検証していくことになる。ここでは、創造的な学びのプロセスを評価する仕組みを構築する考えも示した。「探求したいものが見つかること、クリエイティブラーニングのプロセスを回せることを、参加した子供たちのゴールにし、そこを成果として評価していく」と述べた。